綱吉の部屋でディーノと並んで座って、雲雀は自分の現在の状況に激しく疑問を感じていた。
ほんの十数分前の出来事だったはずなのに、なぜ自分はディーノたちと綱吉の部屋で映画なぞ見ることになったのだろうか。
部屋では、部屋の主である綱吉とリボーンと獄寺と山本が並んで床に座り、おやつを広げている。その後ろのベッドに、ディーノと雲雀が並んで座っていた。群れと一緒に映画鑑賞など、普段の雲雀なら絶対にしないが、経緯をさっぱり思い出せない。
仏頂面で混乱している雲雀にはお構いなしで、綱吉はDVDプレーヤーを起動し、テレビのスイッチを入れる。
始まったのは、ずいぶん前に話題になったアメリカのホラー映画だった。
「……なんで、これ?」
「スモーキン・ボムが観たかったらしーぜ」
「そう……」
ディーノと話すあいだにも、雲雀の顔から血の気が引いていく。誰にも言ったことはなかったが、雲雀はホラーやオカルトが苦手だった。
自分の表情を見られる位置にいるのがディーノ1人でよかった。こんな有様、他の誰にも見せられない。かと言って、いまさら部屋を出るのも、暗に白状するようでできなかった。
脅かしどころのたびに綱吉は「ひぃ!」と叫び、獄寺や山本も「うわ!」とリアクションする。しかし、そんなところも面白がっているのは、ポテトチップスをつまむ手が止まらないことでわかる。
ディーノはあまりこういう映画で怖がったりしない性質のようで、特に叫ぶでもなくテレビ画面を見ていた。
ふと、雲雀の反応がまったくないことに気付いて、ディーノは隣に座る恋人の顔を覗き込む。
雲雀は必死で悲鳴を堪えていた。あまりの怖さに、目をそらすこともできないのだろう。視線は画面に釘付けで、組んだ脚がかすかに震えていた。
ディーノは声をかけようとして、止める。ここで雲雀に話しかければ、綱吉たちの注意を引いてしまう。彼らに怖がっていることを知られたくはないだろう。
少し考えて、ディーノはそっと雲雀の手を握った。一瞬びくりとした雲雀は、しかし、ディーノだとわかると肩の力を抜いた。
ディーノはベッドに上がり、雲雀を後ろから包むように座り直す。腕を回して抱き込むと、雲雀の手がぎゅっとディーノの袖を掴んだ。
「あれ、ディーノさん?」
座る位置を変えたディーノに気付いて、綱吉が振り返る。ディーノは苦笑して、雲雀を抱く腕に力を込めた。
「いやぁ。こーゆー映画、普段は観ねーもんだから、ちょっと……」
「え…。じゃあ、声かけて悪いことしちゃいましたか」
「いやいや。オレはこーしてれば平気だから、気にしねーでくれ」
ほら、字幕見逃しちまうぞ、と言われて、綱吉はまた意識をテレビに戻す。雲雀が物問いたげな視線をむけているのに気付いて、ディーノはウィンクして人差し指を口の前に立てた。
ディーノに弱点を一つ知られてしまった雲雀は、決まりが悪そうに顔を背けたが、雲雀を堂々と抱きしめている口実を得たディーノは、上機嫌で映画を観続けた。