ピンと張った糸のように空気が冴えるこの季節。
ディーノは、雲雀が相変わらずワイシャツに学ランを羽織っただけの服装なことに、遅まきながら気がついた。
「恭弥。寒くねーのか、その格好?」
「あなたはその格好で寒いの?」
質問に質問で答えた雲雀に、そりゃオレは恭弥よりずっと年上だよ。と思いながら、いいや。とディーノは答える。
「このコート、裏地もしっかりしてて、暖かいんだぜ」
「そ。よかったね。僕も平気だからこの格好してるんだよ」
雲雀の言葉が素っ気ないのは、いつものことだから気にはしない。けれど、ディーノはやはりどうしても雲雀が寒くないとは思えなくて、雲雀の手を取った。
肉の薄い、ほっそりした手は、ディーノが思っていたよりもずっと冷たかった。
「冷てーじゃん」
「手とか耳が冷えてるのは当然でしょ」
「や、ダメだろそれは」
ディーノはやや強引に、雲雀の手を包むように握る。振り払われそうになるのを押さえ込んで、そのままコートのポケットに手を入れると、あまりにベタな展開に雲雀は呆気に取られた。
「信じられない」
「だって、恭弥。しもやけになったら、トンファー握れなくなっちまうぞ」
「片手だけ温めたって、変わらないよ」
「それもそうか」
んー、それじゃどうしよう。と、ディーノは少し考える。
「よし。これなら全身暖まるんじゃね?」
そう言って、ディーノは雲雀の背後に回り、コートの前身頃を引っ張って雲雀を包んだ。
「…!!」
あまりの恥ずかしさに絶句した雲雀は、背後から抱きしめるディーノの腕に腕を封じられて、身動きできない。
「一度やってみたかったんだよな、これ」
冬の定番、彼氏のコートの前に彼女を入れる図だ。身長差のおかげで、雲雀の顔の位置がカンガルーの親子状態になっている。
「歩けない」
「や、そーだけど…」
「恥ずかしい」
「そーかぁ?」
「どっか行け、バカ馬!!」
雲雀の搾り出すような抗議にのほほんと答えたディーノは、雲雀の怒声と共に足の甲が砕けるかと思うほど力いっぱい踏みつけられた。
「痛ぇ!!」
「次やったら、それじゃ済まないから」
その隙に緩んだ腕から抜け出した雲雀は、ぷんっとそっぽを向く。
コートの中が暖かくて心地よかったのは、雲雀だけの秘密。