不思議の国のマフィア

 その日、雲雀はディーノと街へ出かけていた。並盛以外の街にはほとんど行ったことのないディーノに、案内を頼まれたのだ。

 もちろん、雲雀だって並盛がいちばんだと思っているので、それほどよその街には詳しくない。それでも、ディーノが行ってみたいと言っていた店の場所くらいは、知っていた。

「次、どこに行こうか?」

 用事を済ませて、カフェで軽く休んだ後、ふたりは気の向くままにそぞろ歩いていた。訊ねるディーノに、雲雀は素っ気なく返事を返す。

「別に。僕は並盛の方が落ち着くよ」

「そう言うなって。たまには違う街もいいじゃねーか。並盛だと、恭弥、手も繋がせてくんねーし」

 上機嫌のディーノは、そう言って、雲雀の気を引こうと次に行く場所を思案し始める。確かに、雲雀は知り合いの多い並盛では、腕を組むことはおろか手を繋ぐことさえ嫌がるので、並盛以外でデートをしたいディーノの希望はもっともだ。まして今日は、なだめすかして、女の子に見えなくもない服を着てもらっている。ディーノが早くに帰りたいはずがなかった。

「あれ?」

「なに?」

 歩く道をついディーノに任せてしまったのが間違いだったのだろう。あたりの様子に首を傾げてディーノが立ち止まるのと、雲雀が我に返ってディーノを見上げるのはほぼ同時だった。

「ごめん、恭弥。どこかで道間違えたみたいだ」

「そうみたいだね。ダメ馬だとはわかってたけど、道までわからなくなるなんて、どれだけダメなの」

 雲雀の言葉に容赦がないのは、ディーノの迷い込んだ場所が、世に名高いラブホテル街だったからだ。

「言っておくけど、入らないよ」

「えっ!?」

「当然でしょ。こんな場所、僕は嫌だよ」

 機先を制されて、ディーノは「入ってみようか」と言いかけた言葉を慌てて飲み込む。ディーノをじろりと見る雲雀の目は、それは冷たかった。

「………でも恭弥、嫌いじゃないじゃん。ぅぐっ」

 夜の誘いを断ったことがないことを突くと、トンファーがディーノのわき腹にめりこんだ。

「こういうところは、身体だけが目当てみたいで、嫌だ」

 つぶやいた雲雀は、さっと踵を返して、わき腹を押さえてうずくまるディーノを置き去りに歩き出す。

 雲雀の言葉を反芻したディーノは、その言葉の意味ににやける顔を隠しきれないまま、急いで雲雀の後を追いかけた。


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