「なぁ、恭弥」
スクデーリアのミルクの用意をするために台所に立っている雲雀に、ディーノはひとつ質問をしてみた。
「恭弥、リアと並中、どっちが大事?」
3ヶ月のスクデーリアは、ディーノの腕の中ですよすよと眠っている。ディーノは自分がそばにいるときは、できる限りスクデーリアを抱いていた。
ディーノは、自分の命を投げ捨ててでも、スクデーリアを守り抜くと決めている。しかし、雲雀に対してそう思うかと問われると、たぶん違うと思うのだ。雲雀は、守る相手というよりも、背中を預けられる相手だった。そして、ファミリーの5000の部下は、その雲雀と一緒に守っていくものだと思っている。
それなら、雲雀の大事なものの順番は、どうなのか? ふと、そんな疑問が頭を過ぎったというわけだ。
「リアに決まってるよ。変なこと訊かないで」
きっぱりと即答した雲雀は、煮沸消毒した哺乳瓶をお湯から取り出す。ディーノを振り返りもしないところからすると、答の内容は基本中の基本らしい。
「じゃあさ、オレと並中は、どっちが大事?」
「並中」
手を止めることもなくすっぱりと言い切った雲雀に、ディーノはちょっと遠くを見る目つきになる。
そう言うとは、思ってたけどさぁ…。もうちょっと、考えるフリくらいしてくれてもいーんじゃねーかと……。
いまのディーノの表情にモノローグをつけるとしたら、そんな感じだろうか。
雲雀はやれやれという表情でディーノを見ると、ふたたび手許に目を落とし、粉ミルクの分量を量りながら答えた。
「だから、あなたは心配しなくていいんだよ」
それは、スクデーリアは自分が何をおいても守り抜くから心配するな、という意味であり、ディーノのことは心配していないから、いつでも、ディーノがいいと思うようにしたらいい、という意味でもある。
頼もしい雲雀の言葉を反芻して、じんわりと幸せに浸るディーノに、雲雀はずいっと哺乳瓶を差し出した。
「余計なこと考えてないでよ。だから、あなたはへなちょこだって言うんだ」
スクデーリアにミルクを飲ませる役を譲ってくれたのだと気付いたディーノは、嬉しそうに微笑んで哺乳瓶を受け取った。