SECRET
ここは東方司令部から程近い小さな町の駅。すっかり夜も更けてすでに誰もいなくなった駅の待合室で、もうずいぶんと長い間エドは待ちつづけていた。
「おっせえなあ・・本当に迎えなんかくるのかよ。」
この日エドは、司令部からの仕事の命令をうけて、アルを置いて1人遠くの町まで出かけていた。しかしながら帰りの汽車を乗り間違えたうえにすでに乗り換えの汽車はなく、このように駅に1人取り残されるハメとなっていた。とりあえず報告の電話を司令部にしたところ、ロイに迎えをやるのでそのまま待つようにと指示されていたのだった。
それからどれだけ待ったか、遠くから車のヘッドライトが見えたかと思うと、駅に近づいてきた。ほっとしたエドは立ちあがってその車に近づくと、降りてきた運転手を見て驚いた。
「・・なんで大佐がわざわざおれのお迎えに来るんだよ。しかも1人かよ。」
運転していたのは軍服姿のロイだった。
「部下が皆出払っていてね。私の運転では不満かね。」
司令部に誰もいないなどありえないだろ・・とエドは思ったが、この寒空にこのまま宿らしい建物もなにもない所で夜明かしすることを思えば、連れて帰ってもらえるのはずいぶんとありがたかった。
「別にいいけどさあ、勝手に司令部の車を使ってヤバいんじゃねえの?」
「君をここで野宿させるというのも、私としてはなにかと心配だからね。」
ロイはエドに近づくと、その頭を撫でた。
「仕事サボる口実なんだろ?・・そういえば今日は大佐の嫌いな夜勤だったよな。」
「さあ・・ね。」
そう言ってにっと笑ったロイはエドの荷物を持つと、それを車に積みこんだ。
「軍にバレてもしらねえぞ。」
「2人だけの秘密だ。」
それを聞いてあきれたままのエドだったが、車のドアを開けると後部座席に乗りこんだ。その様子を見たロイは、不満げに言った。
「助手席に乗らないのか?」
「こっちの方が安全そうだろ。おれ、大佐が車運転してんの見たことねえし。」
エドはそう言って後ろの席で横になってうんと背伸びをした。
「いいからとっとと出発しろよ、運転手さんよお。」
エドと2人きりの深夜ドライブを楽しみたかったロイとしては、かなり不満げな様子だったが運転席に乗り込むと車を発車させた。
車はやがて街を出て、近くに民家や建物もない暗い夜道をずっと走っていった。運転しながらエドにいろいろと話しかけていたロイだったが、エドがあくびばかりしててきとうな返事しか返してこないので、そのうちに話しかけるのを止めてしまった。
エドはロイが話すのをやめると、やがてうとうととしはじめてきた。その様子をじっとバックミラーで見ていたロイは、しばらくすると車を道の脇に止めてエンジンを切った。
「・・あれ・・もう着いた・・?」
ロイが車から降りた音に気がついたエドは、目をこすりながら起きあがって辺りを見まわした。
「・・ここはどこだ・・?」
エドがぼんやりとしていると、突如後部のドアが開き、中にロイが乗りこんできた。
「どうしたんだよ大佐。車が故障でもしたのか・・?」
「さあ、そうかもな。」
そう言ってロイはわずかな月明かりのなかで軍服の上着のボタンを外し、手袋を置いた。
「じゃあ、がんばって修理しろよな。」
エドがそう言って大きなあくびをすると、突然ロイに肩をつかまれ引き寄せられた。
「な・・なんだ?」
そう言うエドの口は塞がれて、あっという間にロイに組み伏されてしまった。狭い車内で身動きできなくなったエドは、首を振って抵抗した。
「てめえ・・いきなりなにすんだよ!」
「・・君が少し冷たすぎるからね。せっかく私がここまで迎えに来たというのに。」
そう言ってロイはエドの腰のベルトを乱暴に外し始めた。
「少しくらい楽しませてもらってもいいだろう。」
「軍の車の中だろ!この変態野郎!」
「・・・だからいいんじゃないか?」
そう言って笑ったロイを見て、それがどんなことをしても自分を手に入れようとする彼の表情だと気がついたエドは、抵抗を止めて言った。
「・・汚れてもしらねえぞ・・」
「それは困るな。気をつけよう。」
ロイはニヤッと笑うと、エドの服をたくし上げて白い肌を貪り始めた。観念したエドはロイにされるがままになっていたが、やがて痺れるような感覚に襲われていった。いつもより手荒なロイの行為にエドも興奮し、ロイの動きに合わせて甘い声をあげた。
窓ガラスの白く曇った車の外には、二人のいつになく激しい息遣いだけがわずかに漏れていた。
その夜中、エドはアルの待つ宿へと送ってもらった。
「大佐はこれから仕事か・・あれをやった後によく平気な顔して仕事できるよな・・おれなんか・・アルに顔合わすのもなんか気マズイのに。」
そうつぶやきながらエドは自分達の部屋のドアを開けた。明りのついたままの部屋で、すでにアルはベッドで眠っているようだった。ほっとしたエドは寝間着に着替えると、明りを消して静かにベッドに入った。
「平気でいられないのは、おれがガキだからか・・ロイは大人だしな。」
なかなか寝つけないまま、エドはなんども寝返りをうった。
「アルも・・気がついてるんだろうなあ。いつも何も聞いてこないし。」
二人の深い関係を周囲に秘密にしておくことが、まだ幼さの残るエドには心苦しいことだった。
翌日、エドは司令部へと、仕事の報告書を提出するために出かけた。ロイはこの日は夜勤明けで休みをとっているようだった。
エドが施設のなかを歩き回っていると、詰め所にたむろしている隊員達が口々になにかうわさをしているのが聞こえてきた。
「あのさあ、なにかあったのか?」
気になったエドは、その中の顔見知りの隊員に話しかけた。
「それが昨日の夜、大佐が夜に司令部を抜け出してから帰ってきた後なんだけどさ。」
一瞬ぎくっとしたエドだったが、隊員はそのままエドに話しつづけた。
彼の話では、そのとき大佐の軍服の袖の金具に、誰のものかわからないが長い金髪がからまったままになっていて、それに皆が気がついてるのに、そのことを大佐に言う勇気のある者は1人もいなかったということだった。大佐にしてはずいぶんと迂闊なことだな、と彼は話した。
それを聞いたエドは用事を早々と済ませると、ロイの家へと急いだ。玄関に駆け上がってドアをたたくと、しばらくしてから寝起きの顔のロイが出てきた。
「鋼の。どうしたんだ?報告書はちゃんと届けたのか。」
「どうしたもねえだろ。司令部ですっげえうわさになってたぞ。大佐の相手は誰か、ってな。」
「とりあえず上がれ。」
頭をかきながら、ロイはエドを家に入れた。
エドから話を聞いたロイは、今朝仕事から戻って脱ぎ捨てたままの軍服の袖口を見てくくっと笑った。
「笑い事じゃねえだろ。」
「私としたことが大失態だな。」
ロイは絡まったままの金色の髪を解くと、エドにの前に差し出して言った。
「君に返す。」
「いらねえよ!こんなの捨てろよ。」
そう怒鳴ったエドは、まだくっくと笑っている大佐を見てあきれた。
「明日の部下たちの顔が見ものだな。」
「意外と大佐も抜けたところがあるんだな。大人のくせに。」
エドにそう言われて、しばらく考え込んでいたロイはにっこりと笑って言った。
「君の事になると、私はどうも冷静さを失うようだ。」
「・・大佐・・」
いつものロイとは違う一面を見たように思ったエドは、赤面しながら言った。
「しっかりしてくれよな、大佐。司令部中に知れ渡ったら、おれ、顔を上げてあるけねえよ。」
「すまなかった。今後気をつけよう。」
「そうしてくれよな。」
2人は顔を見合わせて笑った。
二人だけの秘め事がいつまで周囲に隠しとおせるかわからないが、エドはずっと心の中にあった重荷が、ようやくふっと軽くなったように感じた。(END)
大佐が送り狼ならぬ、お迎え狼になっちゃってます〜♪
(05年5月)