特別休暇

その日の夜、エドとロイはふたたび街で会う約束をした。

「おっせえなあ!おれ、もう帰るぞ。」

ロイが決めた待ち合わせ場所の店の電話で、エドがそう怒鳴った。

「すまないな、やっと今仕事が片付いたところだ。すぐ行くから待ってろ。」

電話の向こうで慌てた声のロイがそう言った。

「あと10分しか待たねえからな!」


エドは不機嫌にそう言うと、電話の受話器をガチャンと切った。そして自分のテーブルへと戻って椅子に座り、手持ちぶさたに辺りを見まわした。落ちついた雰囲気の店の中では、この時間では酒を飲んで談笑している大人が周囲に大勢おり、まだ子供のエドはそこではかなり場違いだった。

「なにもこんな店にしなくてもいいだろ・・でもこの時間じゃあ、ほかに開いてる店はねえだろうけど。」

エドが1人でそうつぶやいていると、それからまもなく、息を切らしてロイが店の中に飛び込んできた。店内を見まわしてエドの姿を見つけると、ホッとした様子でそばへ歩いてきて席に座った。


「待たせたな、鋼の。すまなかった。」

「大佐、遅せえぞ。」

そっぽを向いたままのエドはそう答えた。

「君が帰ってしまってないか心配したぞ。ここで怒らせたら明日からの私の休暇が台無しになるところだった。」

「ふーん・・休暇ねえ。」

「こんなまとまった休みをとるのは久しぶりだ。・・君と一緒に過ごせるようにね。」

それを聞かないふりをしたエドは、店のメニューを指でつつきながら言った。

「いいけどさあ、おれ腹減ってるんだけど。」

「君はすぐにそう言うな。」

ロイはくくっと笑うと、ウェイターを呼んで適当にいくつかの料理を注文した。

「ここのメニュー見たけどさあ、おれの口に合いそうなのねえぞ。」

「君もそろそろ大人の味覚に慣れてもいいだろう。」

「まあ、食えればなんでもいいけど。」

そう文句を言いつつも、運ばれてくる料理を残さず平らげるエドを眺めながら、ロイは酒の杯を重ねた。そんなロイの様子を見て、エドはまだ口を動かしながら言った。


「なんで大佐はさっきから酒ばっか飲んでんだよ。」

「君を前にしての酒は、たまらなく美味いからな。」

「・・大人ってよくわかんねえな。」

エドはそう言いながらふと周りをみると、近くの席の女性たちの視線がロイ1人に釘づけになっていることに気がついた。ロイはというと、上機嫌で少し酔いが入った様子ながらも、射ぬくような目でエドだけを見つめていた。そのまなざしにまともに目を合わせられないエドは、顔をそむけたまま飲み物を口に運んだ。





やがて2人は店を出ると、月明かりの照らす夜の街を歩き始めた。ずいぶんと機嫌良く、鼻歌混じりのロイの様子を見て、エドはあきれた。

「おい大佐、酔っ払ってんのかよ。」

「あのくらいの量の酒で私は酔ったりしない。」

大佐はにっと笑うとそう言った。

「おれ、酔っ払いの大人は嫌えなんだよ。」

「私が倒れたら、君は介抱してくれないのか?」

「酔いざましに川へ突き落としてやるよ。」

「あいかわらず君は手厳しいな。」

そんな会話をしながら、二人はロイの自宅へと帰ってきた。

「今日は泊っていけるんだろう?」

エドは返事をしないまま玄関をくぐると、居間へと入っていった。





ロイは部屋の明りをつけると、手袋を外し上着を脱いで壁にかけた。エドは部屋のソファーに座ると、うんと足をのばして大きなあくびをした。やがてロイは入れたてのお茶を運んでくると、サイドテーブルに置いた。


「さて、明日からどうする。2人で近くに旅行でもどうだ。」

ロイはエドの隣に座ってそう言った。

「おれさあ、今日長旅から帰ってきたばかりなんだぜ。かったるいし行きたくねえよ。」

「海の見える静かな町はどうだ。2人きりで過ごせるぞ。」

「ヒマで退屈しそうだよな。」

「ではここでのんびりするのはどうだ。」

「もっと退屈する。」



なかなかエドのおめがねにかなう計画は立てられそうにないと思ったロイは、腕をくんであれこれと考え始めた。その間にエドは立ちあがってテーブルに置かれた紅茶を手に取り、添えられた焼菓子を口に運んだ。しばらくすると、エドは自分に対してさきほどの鋭い視線が向けられているということに気がついた。動揺したエドがカップをテーブルに置くと、その後ろからロイが抱きしめてきた。そしてエドの身体を自分のほうに向けると、唇を重ね合わせた。昼間とは違って、きつく舌を絡め合わせた長く激しいキスに、エドは身を震わせた。

「酒臭え・・」

「君は甘い香りがする。」

唇を離すと、そう言って眉をしかめるエドに、ロイは微笑んだ。

「・・君を今すぐにベッドに運んでもいいかね?」

「おれがNOと言ったところで、初めから聞く耳もたねえんだろ。」

そう言い放つエドに、ロイは彼の前髪を撫でながら言った。

「よくご存知で。久しぶりの逢瀬で、つれない態度は勘弁してもらいたい。」


そう言うと、ロイはエドの身体を軽々と抱き上げると、寝室へと運んだ。月明りの差し込むベッドへエドの身体を降ろすと、そのままロイは彼の身体に覆い被さり身動きできないように抱きしめた。


「く・・息できね・・ェ・・」

ロイの身体の重みで胸を圧迫され、エドが苦痛の声をあげると、ロイはわずかに身体を離し彼の眼を見つめた。肩で息をしながら、エドは彼を睨んだ。

「重てェぞ・・ちっとは手加減しろよな。」

「ああ、すまなかった。」

2人の体格の差を時折忘れてしまうことのあるロイは、不機嫌になってしまったエドにそう言って 頭を撫でた。そしてロイがエドの髪留めを外すと、さらさらとした金色の髪がシーツに広がった。

「やっと君をこの腕に抱ける・・会いたかったぞエドワード・・」

幾度もキスをしながら、ロイはじわじわとエドの服を剥ぎ取り丹念にその身体に舌を這わせた。ロイは、熱い息遣いの中ですでに反応しているエド自身を握りこむと、強く扱いた。

「くっ・・はあ・・は・・あ・・」

この時を待ちわびていたエドは身体を反り返らせると、あっけなくロイの手の中で果てた。そしてゆっくりと手を拭いたロイは自らも軍服を脱ぎ捨てると、まだ不満足そうなエドの身体を抱き起こして背中を撫でた。



「おれにもやらせろよ。」

その時ふいにエドがそう言ってきた。ロイはそれを聞いてにっと笑うと、エドの頭を掴んで自らへと導いた。エドはためらうことなくそれをくわえ込むと、ゆっくりと舐め始めた。エドのまだ幼い唇と舌の柔らかい感触に、ロイはくっと声をあげた。それを聞いたエドは、ロイの表情をちらりと盗み見しがら唇を使って強く扱き始めた。しだいに身体が汗ばみ息が荒くなってくると、ロイはとっさにエドの頭を引き離そうとしたが、エドはしがみついてそれを拒んだ。

「口に出すぞ・・いいか・・」

それを待っていたかのようにエドは咥えたまま手で扱いた。

「くっ・・はあ・・・」

ロイがエドの口の中で到達すると、ようやくエドは満足そうに頭を離してすべてをぐっと飲みこんだ。

「エド・・ずいぶんと上手くなったな・・」

それを聞いてにやっと笑ったエドの唇に、ロイは軽くキスをして身体を抱き上げると膝の上に乗せた。



「練習でもしてきたのか。」

「さあ・・な。」

探りをいれるようなロイの言葉に、エドは特に気に留める様子もなくそう答えた。それに少しばかり気持ちを乱されたロイはさらに続けた。

「エドワード、君は私と離れている時は寂しくないのか?」

「・・別に。おれだっていろいろ忙しいしよ。」

やはりそっけないままの態度のエドに、ロイは彼の耳元で小さな声で言った。

「・・1人でヤることはないのか。」

それを聞くと、エドは急に赤くなってロイの身体を突き放した。

「し・・知らねえ!知るもんか!」

「・・ヤってるんだな。」

ロイの言葉にうつむいて黙り込んでしまったエドを,ロイは後ろから身動きできないように抱きしめて耳元で言った。

「どうやってるんだ?言ってみろ。指を使ってか?それとも・・」

「・・うるせえ・・絶対に教えねえぞ・・」

「誰のことを考えるんだ?」


ロイにそう言われてしばらく黙っていたエドが、ようやく口を開いた。

「・・大佐を・・・そうしねえと頭がおかしくなりそうなんだ・・いつも後でまたバカなことやっちまったって思うけどよ・・」

それを聞いてようやくほっとしたロイは、微笑んで後ろからエドの頬にキスをした。

「君は離れていてもいつも私に抱かれているのだな・・君の頭の中で・・」

「・・おかしいかよ。」

「いや、たまらなくうれしく思うぞ。私にとってはね。」

ロイはエドの身体を愛しげに撫でながらそう言った。

「大佐はどうなんだよ。大人なら平気なのかよ。だいたい大佐は・・もてるしな。」

エドは店で見かけた女性達の、ロイへ投げかける視線を思い出して嫉妬混じりにそう言った。

「私が欲しいのは君だけだ。私には寂しさを酒で紛らわすことしかできないがね。」

「・・そう・・だったのかよ・・」

エドは振り向いてロイを見た。

「君とこうしているときが私の至福の時なのだと、気づいてくれてもいいだろう?」

「ああ・・」

うなずいてやっと笑ったエドを、ロイは抱きよせて深くくちづけた。そしてその小さな身体をベッドへ横たわさせると、自らの身体を重ね合わせた。

「エドワード、君は私のものだ。誰にも渡さない。」

「ロイも、おれだけのものだよな。」

2人はそう言って笑うと、強く抱きしめ合った。



「君が1人でも困ることのないように、しっかりと私を君の身体に憶えこませてやろう。」

そう言ってロイの手や唇が、エドの身体の感じやすい部分を探しながらじわじわと愛撫していくと、とろけるような感覚にエドはたまらず甘い声を上げ始めた。甘美なその響きはますますロイを興奮させていった。

「かわいいエド・・君はどれだけ与えれば満足することを知るのだろうね。」

ロイはエドの声に酔わされながら、指のひとつひとつまで味わっていった。

そのうちにエドの手がしきりにロイの下腹部を探っていることに気づいたロイは、エドを抱き起こすと膝に向かい合わせに乗せた。エドはロイの首に右腕を回してキスをし、左手でロイ自身を扱きはじめた。

「これが欲しいのか?エド。」

エドがうなずくと、ロイは彼の腰を抱え上げると、自身をゆっくりと沈めていった。息を吐きながらそれを受け入れたエドは、ロイの首に腕を回して自ら腰を動かし始めた。

「ロイ・・すげえ気持ちいい・・よ・・」

「ああ・・最高だ、エド・・」

息の荒くなってきたロイはエドの腰を掴むと、さらに激しく揺すった。

「ああ・・はあ・・は・・あ・・」

すでに夢中になっているエドは、髪を振り乱して、動きに合わせさらに声を上げた。

「・・ロイ・・ロ・・イ・・」

やがてエドがうわ言のように名前を呼び始め、その時が近づいてきたのを知ると、ロイはエドの身体を膝から降ろし横たわらせた。そしてふたたび身体を沈めると、彼の身体を激しく突いた。

そして激しい時の後、2人は開放した。




その夜遅く、ベッドの中で2人は色々な話をしていたが、そのうちにエドは静かな寝息を立てはじめた。ロイはこの少年に出会ってから、日を追うごとに愛しさがつのってきていた。そして今腕の中で羽を休める少年がまた旅立っても、自分はずっと見守り続けていてやろうと思っていた。

ロイは安らかな寝顔をいつまでも飽くことなく見つめた。

・・・明日の朝は遅くまでこのままエドと眠っていよう。休暇の計画をたてるのはそれからでもいい。時間は十分にあるのだから・・・


ロイはエドの頬にそっとお休みのキスをした。

 

(END)