SWEET―EMOTION
「春だねぇ・・・」
「そうだなぁ・・・」
ぽかぽかと・・・眠くなるような心地のいい日差しの中、俺と瞬はのんびりと散歩している。
デートと言えば聞こえがいいのだが、実際のところは何もすることがないからふらついている・・・そんな表現が正しいとしか言いようがないほど、目的性を持っていない。
ただ単に貴重な日曜日、室内でゲームをするのも不健康だから、たまには日光に当たろう・・・それがきっかけに他ならない。
そんな徘徊と言われそうな出歩きに、瞬も嫌な顔をせずついて来てくれている。
「そろそろ蝶々が飛んでもおかしくないんじゃない?」
大きくなった桜のふくらみを見て、瞬が俺に問うてくる。確かにそうだ。先月までは身も凍るような寒さだったのが、今はそんな寒さの合間に、内側から温まるような陽気が差し込んでくる。
今はまだその気配はないけれど、来月中には白いつがいが羽ばたかせてもおかしくはないだろう。
(そういえば・・・)
もうそんな季節なんだよな・・・不思議な感傷に浸る俺。
この季節は特別な季節だ。別れもあれば、出会いもある。新しい始まりもある。
これから俺と瞬はどんな始まりをするのかな・・・と、独り考えてみたが、答えはこの散歩中には出ないだろう。
思考をやめ、隣の愛しい存在を見やる。俺が黙っている間、同じように黙考していた瞬。彼は何を考えているのだろう?
「光輝・・・兄?」
数秒間俺に見られて、やっと我に返ったようだ。不思議そうな声を上げる。
そう思うのも仕方ないか。ずっと黙っていた挙句、何も言わずに瞬を見ているのだから。不思議と思わないほうが不思議だ。
「いや・・・」
モンシロチョウを思い浮かべて、ある花が浮かんだ。純白のスイートピー。穢れを知らぬ白さは、瞬に似合うかもしれない。
本当に瞬は純粋な少年だとつくづく思う。彼ほどの男なら、いくらだって恋人は出来るはずなのに、俺だけを見ようとしている。そんな一途さにどれだけ俺は救われてきたのだろうか・・・。
「いや・・・?」
数えたらきりがないだろう。それほど俺にとって瞬の笑顔は当たり前のものとなっているらしい、心の中で苦笑する。
今まで泣かせてきたから、これからはずっと笑顔でいて欲しい・・・そんな気持ちでやってきたけれど、本当に瞬は幸せなのだろうか。俺が相手でいいのだろうか?
「瞬・・・お前、幸せか・・・?」
「はい?」
「俺といて・・・幸せか・・・?」
俺と言葉に一気に固まる瞬。不快な思いをさせてしまったか・・・自嘲していると瞬の顔が苦笑いに変わる。
「馬鹿だな、光輝兄・・・光輝兄といて幸せでないことなんてないよ」
『でもまぁ・・・』咳払いをして瞬は続ける。
「本当は光輝兄と同じこと、考えてた。俺は光輝兄が側にいてくれて幸せだけど、光輝兄はどうなのかなって・・・」
それは瞬の根底にある不安なのだろうか。もしそうなら、出来ることなら俺の手で取り除いてやりたい。
とは言え、俺はどうなのか・・・あまり意識したことはなかった。今のこの状況を言うのなら、幸せなんだと思う。ただ・・・
「もともと隣に瞬がいるのが当たり前になってたからな・・・」
感覚が麻痺しているのかもしれない。それとも・・・瞬の存在がそれだけ俺の中で大きくなっているのか?
どう答えればいいんだろうか・・・困って瞬を見ると、彼は固まっていた。茹蛸のような顔をして。
「どうした?」
「光輝兄・・・俺を焼き殺す気・・・?」
「はい?」
不穏な言葉に疑問を持つと、瞬はあきれたような顔をする。
「自覚してないな・・・」
ぶつぶつと呟く彼。俺自身が知らない俺を、瞬は知っているらしい。だけど、聞いても教えてくれないようだ。彼の口を開かせるため、俺は瞬に抱きついてみる。
「こ、光輝兄!」
「俺が何を自覚していないんだ?」
「それは・・・」
「それは・・・?」
何とか逃れようとして腕の中でもがく瞬。だが、早々に諦めてしまったようだ。大人しくなる。
「光輝兄がどれだけ魅力的かってこと」
俺が?それは納得できなかった。俺みたいな男は、どこにだっている。それに、弟一人すら幸せにしてやれない男のどこに魅力があるんだろうか。本当に魅力的なのは、瞬のほうではないか?
「やっぱり気づいてない」
そんな俺の気持ちが腕から伝わっていたようだ。苦笑する瞬。
「光輝兄は一言一言に破壊力があるから、言葉には気をつけてね」
それでやっと解った。『当たり前』という言葉に反応してしまったらしい。だが、別段問題はないだろう。事実なのだから。
「何か問題でもあるのか?」
「俺の心臓が持たない」
振り返った瞬は、真っ赤だった。そんな様が可愛い・・・と言ったら怒られそうなので、やめておく。
いたずらばかりしないで、たまには優しい兄でいようかと思う。とは言え、瞬は心臓が持たないのなら・・・。
「俺は理性が持たない」
この一言に尽きるだろう。どんな気持ちで瞬を抱きしめているのか・・・彼には理解できていないはずだ。
ただいたずらをしているとしか思っていまい。ったく、男に狂わせた責任はどう取ってくれるのだろう?
「こ、光輝兄の・・・エロジジイ」
真っ赤になって俺の腕の中から抜け出し、逃げ去っていく瞬。
いかけてほしいのか、急がなくても追いつく速度で走っているため、俺はのんびりとそれを追う。
今まで追ってきてくれた分、今度は俺が追うのも悪くはない。ちょっと走ると身体が熱くなり、春はすぐそこに来ている・・・それを実感する今日この頃だった。
END
相田もとこ様よりいただいたイラストのお礼にと書かせていただきました、瞬と光輝兄のしょうもないデートです。
春ということで、ちょっと始まりをイメージして書いてみました。ちなみに、ちらっとでてきた白いスイートピーの花言葉は・・・。
というか、これを書いたときはすでに桜、咲いてますね(苦笑)。
ヘタレな管理人で、本当にごめんなさい(汗)。こんなものでよければ受け取ってやっていただけるとうれしいです。
秋山氏(2006/04/)