身も蓋もないメリー・クリスマス

「だから・・・何だって?」

これは期末テストが終わった、ある二学期の放課後の話である。
そう突っ込みを入れられた俺、水谷樹は仕方なく同じことを繰り返す。
こいつは聞こえていてわざと聞いているんではないか?そう思えてくる。

「クリスマス、空いてるか・・・?と聞いたんだ」

その問いにこの親友であり、恋人である緋村皐月が、呆れ果てたように答える。

「空いてるけど・・・俺ら仏教徒には関係ないイヴェントじゃないか。大体なァ、何でキリストさんの誕生日など祝わなきゃいけないんだよ」

変な歴史のせいで混同してしまったが、基本的に日本人は仏教徒ではない・・・って、そんなことはどうでもいい。
どうやら緋村にとってクリスマスなど、どうでもいいイベントであるらしい。
普通は恋人同士ならそういう日は見逃さないはずなんだけど・・・。

付き合うようになって分かったんだけど、緋村はそういうところは妙に現実的だ。
ノリは結構いいんだけど、時々こうやって実も蓋もないことをのたまうことがある。
まぁ、付き合っているとは言えども、俺も彼もかなり悪ノリが入っているから、親友の延長線といったほうがふさわしく、、仕方ないといえば仕方ないのだが・・・。

「だけどなぁ・・・好きな奴とイブでデートというのも・・・」



そうしたいと思うのは、俺だけなのだろうか・・・。



「まさかお前・・・そんなこと・・・本当にお前って・・・アレだな」





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世間はすっかりクリスマス一色だ。どこもかしこも派手なイルミネーションで、実に目がちかちかする。
どうして日本人は大昔の外国人の誕生日をお祝いしなければならんのだろう。
大切なものは自分達の近く、他にあるだろう。
だけど、水谷の奴も、そのアメリカンというか、ヨーロピアンな風習に毒されてしまっているらしい。
まぁ、それはそれで理解できなくはない。というか、クリスマスに浮かれない水谷というのも想像できない。

彼はそういう男なのだ・・・。

水谷は、実にモテる。俺と同じく女に不自由することはないはずなんだけど、有望な人生、何をどう間違ったのか、男同士の癖に付き合ってはいる。
その場のノリで付き合っている時点で間違いと言われれば、返す言葉もない。
何はともあれもともとホモと噂されていた俺達。そのため、何にも抵抗はなかったわけだけど・・・彼にはもう一つの面がある。

恋愛に幻想を抱いているのだ。

「恋愛は妄想だ」という人も世の中にはいるけれど、彼のは度を過ぎている。将来の夢は、ほんわかで可愛い奥さんと白い一軒家に住み、大型犬を飼う・・・そんなベタベタ過ぎる生活設計をを地で行ってもおかしくない奴だ。
まぁ、そんな彼も末期ではあるが、普段のハンサムさとのギャップに可愛いと思う俺は・・・人のことを言う資格はない。もちろん、それは解っていますとも。
しかしだなぁ、クリスマスに野郎二人でデート・・・絵にならんぞ・・・とまで思ったところで、考え直す。
やはり行き着く先はホテルだろうか。ラブホに着いた俺たちは、一晩かけて互いの身体を貪りあうか、その気にならなければ重箱の隅をつつく。ラブホを研究するのも面白い。
まさにいろいろな意味で背徳だが、お祝いをする日に神に背くのも悪くはない。悪くはないんだけどな・・・。
もっと大切なものがあるような気もするんだが・・・。
「お前さん、本当にクリスマスって大事なのかい?」





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緋村に問いかけられ、俺は考え直す。確かに、クリスマスっていうと仰々しいイベントではあるけれど、12月になるまで、すっかり忘れ去っていた。
どうやら俺はすっかり周りの空気に毒されていた。本当に大切なものは、他にもあることに気づく。
俺たち・・・いや、俺と緋村はそんな実在しているのかいないのか分からない人の誕生日を祝っても仕方がない。
本当に大切なのは・・・俺と、お前が生まれた日を祝うことだろう?なぁ、緋村。

「そのとおり。あと、俺たちが恋人同士になった日もな」

茶目っ気たっぷりに付け加える。マニュアルにそったものでなく、俺たちは俺たちの恋愛を貫いていけばいいのだ・・・と、いつもならここで結論となるだろう。しかし、やっぱり腑に落ちないことがあった。俺はそれを言おうとしたんだけど、緋村のほうも同じような気持ちだったようだ。

「だけど、俺も考えてみたわけだよ。確かに、俺たちが祝うべきなのは愛する者の誕生日なわけであって、イエスさんの誕生日ではない。だけど・・・」

ここで俺らは目を見合わせて、にやりと、神すらも恐れない笑みを浮かべる。


「利用できるものを利用しないのは、俺達には似合わない」


本当に大切なのはこれだ。世の中は利用した者勝ちだという言葉がある(大嘘)。
目の前に存在する事実を無視してはならない。何だかんだ言って、しっかりと誕生日は祝うべきなのですよ。
身も蓋もないクリスマス論議はこのような結論に陥ったのだった。



めでたしめでたし



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このSS(?)はこちらからもリンクさせていただいている、相楽さまのバースデイ祝いとして書かせていただきました。
クリスマスということもあって、この悪ノリ大好きな二人をお遣いに出させていただきます。一応テーマは・・・「誕生日」・・・。
身も蓋もない話ではありますが、こういうのがあってもいいんではないか・・・そう思います・・・。
そんなわけで、このSSを捧げさせていただきます(このSSは相楽さまのみお持ち帰り可となっております)。

相楽さま、誕生日おめでとうございます。今年一年がよきものとなるようお祈り申し上げます・・・。



秋山氏(2004/12/23)