13話

片想いの少年を永久に喪い、泣きじゃくる・・・年性別関係なく、大抵の人間であれば行うであろう行為。
神崎という男もそれをしたうちの一人だったが、彼はそこで終わるような男ではなかった。
自分に傷を負いながらも、同様に傷ついた少年の存在を忘れていなかった。
そこは彼の長所であり、また短所であるといえよう。



「森川・・・だったな?」



独り外で声を抑えて泣いている少年に声をかけた。
なぜそんなところに?と思ったが、『身内』ではない彼の遠慮といったところか。



「はい・・・」



律儀に頭を下げようとした森川を神崎は制した。



「貴之の側にいてくれて、ありがとう。あいつも、最後まで一緒にいてくれて、喜んでると思う」



深々と彼は頭を下げた。
表だって害を与えるような真似はしなかったとはいえ、自分の大好きだった相手を奪われたということで、森川には敵意を抱きまくっていたはずだが、彼には彼で思うところがあるようだ。

「そんな、俺・・・神崎さんから貴之奪ったのに・・・何もできなくて・・・ごめんなさい!」

俺らが高校に行っている間に貴之くんは息を引き取ったので、側にいてやれなかったことを自分で責めているようだ。
俺には言葉をかけてやることはできなかった。恋人を失った痛みなど、失ったことのない人間に理解できるはずがない。
理解できるのは、神崎くらいだろう。

「前の日会ったのに、その時なんか咳してたから『気をつけて』って言ったのに・・・もっと俺がしっかりしてれば・・・」
尚も自分を責め続ける森川を、神崎は優しく包み込むようにして抱きしめる。 「俺が言うのもどうかと思うけど、そこまで気に病むことはない。森川は悔しいかもしれない。『もっと〜しておけばよかった』と思っているかもしれない。俺も同じだよ。俺だって貴之にしてやりたいことがたくさんあった。ホントはな・・・今だから言うけどさ、俺は貴之の一番でありたかったんだ」 呟かれた神崎の気持ちに、森川が貴之くんに対するものとは違った意味で哀しげな表情となった。彼も貴之くんの気持ちを知っていた存在だった。 「けど、それでも、貴之は幸せだったと思うよ。個人的には腹立たしいが、少なくとも貴之は独りじゃなかったからな。多分、人生の最期に森川という恋人ができて、決して孤独ではなかった。幸せだったと思うよ・・・」 その神崎の言葉には森川だけではなく、俺も何とも言えぬ気持ちとなった。貴之くんが本当に好きだったのは、一番好きだったのは、神崎なのだから。でも・・・そうだな。早すぎる死ではあったけれど、彼を心から愛する存在がいたのだ。それがせめてもの救いかもしれない。 (でもな、神崎、森川・・・お前らも幸せにならないといけないんだからな) あくまでも、これは終わりではない。始まりだ。今は辛いかもしれないけれど、前を向いて歩くことが、この世を去った貴之くんに対する餞なのだ。




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