「本当に・・・僕でいいの・・・?和真さんは恭祐兄が・・・」



『うるさい、いい加減しつこい』それだけ言って、和真は裕也を抱きしめる。
裕也もその気持ちが伝わったようで、やっと心から身を任せる。
やっと二人の間の「復讐」という名の呪いが解けたんだな。やれやれ・・・。






でも・・・やっぱり寂しいよ。





俺の好きだった二人はこうも結びついて幸せなのに、俺一人死んじまって・・・残念ながらこの世の住人ではないから、こうやって見ていることしかできない。
それなのに・・・ダブルで失恋は・・・さすがに痛いわ・・・。




そんな俺の気持ちを代弁するかのごとく、突然空は曇り、
ぽつりぽつりと雨が降ってくる。
こんな時にも泣くまいとする俺の代わりに・・・
目に見えぬ何かが同情してくれたのか、空が泣いてくれていた。
俺も素直になりたかった。
泣くことが出来れば、どんなに楽だっただろう?




「雨・・・か・・・。恭祐・・・泣いてるのか・・・」



はるか虚空、俺の存在や、空間すらも越えた何かを見つめ、和真がつぶやく。
どーせ俺は泣いてるよ。仕方ないじゃいか。こう見えても俺はナイーブなのだ。




「・・・恨まれて当然か。お前はこんなにも俺の気持ちに応えてくれようとしたのに・・・肝心の俺が・・・ごめんな・・・でも、裕也はお前の分まで幸せにするから・・・だから・・・許してくれ・・・」

謝ることは想像できたのに、俺自身それを望んでいたはずなのに、どうもしっくりこない。
何が足りないのだろう。


「そっか・・・僕、恭祐兄から和真さんを・・・奪っちゃったんだね。
恭祐兄、ごめん・・・それと、僕を好きでいてくれてありがとう。
僕・・・兄さんのこと・・・ずっと忘れない・・・。兄さんが愛した分まで和真さんを・・・」


うん。これこれ。俺の望みはこれなんだよね。
死人としては過去に縛られるのも困るし、前を向いて歩いてほしいけど、ちょっと位死んだ奴のことを覚えておいて欲しいのよね。
仕方ない・・・本当は悔しいけれど・・・二人のこと・・・認めてやるか。





「偶然」俺の日記帳からひらひらと写真が舞い落ちる。
俺が強引に和真と裕也の二人を撮ったものなのだ。
遊び半分で撮って、遊び半分で仕掛けておいたものがこんなとこで役立つとは思わなかった。






『幸せに・・・なれよ・・・』





写真の裏に、そう書いた。そろそろ消え去るべき俺様からの、最期のプレゼント・・・。
仕掛けたのはノリだけど、この文字を書いたとき、胸が引き裂かれるかと思った。
それだけの覚悟だったのだ。これを書かなければ、俺はあの世の住人にはならなかったのかもしれない。
なのに、こいつときたら!破って捨てやがった!


「こういう他人行儀なのは、らしくない。本当に・・・気に入らないな・・・。いつものお前なら、こう言うだろ?



『俺の可愛い弟に手を出すなんて、許さない!こうなったら俺様が割り込んでやる!』





いや、俺は言わないぜ?だけど、裕也までも納得。

「ははは・・・確かに恭祐兄ならこう言うね。



『俺がこの手でたらしこんだ和真をさらってくとはいい度胸だな!和真は俺のものだ!弟でも容赦しないから覚悟しろ?ふは・・・ふははは』





俺ってそんなキャラに思われてたの?こう見えてとっても優しいお兄様なんだけどなぁ。
そんな認識をされていた俺は、相当ショック。それこそ・・・二人が結びついたこと以上に。




「恭祐・・・お前は死んじまってるからわからねぇだろうな・・・残された俺たちがどれだけ辛いか・・・傷を舐めあっているときでも、頭の中にどうしてもお前の顔が・・・離れてくれないんだよ。
だから、絶対恭祐のことなんか忘れてやらないからな。
お前のことだから、『俺のことは忘れて・・・』って言うだろうけど・・・そんなこと、してやるもんか」




「その・・・多分そうしてもらえると恭祐兄も喜ぶと思う・・・僕も側にいるし・・・」



「裕也・・・ありがとな・・・」



あらあら、せっかく俺は綺麗に逝きたかったのに、どうやら当分成仏できないらしい。
仕方ないか。俺は天の上、もしくは地獄の底から二人を見守ることにしよう。
あの日に最終回を迎えたはずの日記は、加筆修正の運命をたどることになったのだった。



めでたしめでたし。



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