Finalrunde〜Vergissmeinnicht〜


「・・・つまり、光輝兄は彼のところに行けと?」

さすがにそれには腹が立ち、拗ねた顔を隠さずに迫ると、兄は本当に困ったという顔をした。

「・・・お前がそれを望むのなら、だ。俺の気持ちは・・・察してくれ」

自分の気持ちを言うようなことはしなかったけれど、あえて言わなかったことくらい、知っている。
照れくさいからとか、そういうのじゃない。俺のことを本気で考えてくれているからこそ言えない。
それに、俺は鳩山先生のとこに来たときの兄の気持ちが本物だと信じている。
だから俺は首を縦に振ると、やっと兄は安心した。


「ほんとに・・・お前も物好きだよな。普通、手ひどく振ったやつを二回も好きになんかならないぞ?俺がお前だったら、お願いされても付き合わない」

「光輝兄こそ物好きだと思うけど。普通、実の弟を好きになんかならない」

こういう結果になって嬉しいけれど、考えてみたら、もともとそんな素質がない兄だ。
どこをどうやったら俺みたいな男に人生を狂わされることになるのだろう?






「うん。俺もそう思う。やっぱりきっかけはあの花だったんじゃないかな。
もしお前が本当の意味どおりに言ったら、
俺はその・・・本当にお前には悪いと思うんだけど、
ここで言うべきじゃないとはわかってるんだけど、
瞬のことを弟以上に見なかったと思う。





忘れてくれと言ったから忘れられなくなったのかもしれないな・・・







「まさか光輝兄・・・」

「なんか枯らしちゃいけないような気がしてさ。実はお前の知らない間に水やってた」





忘れてほしいから贈った花。
忘れたいからデートしたあの日。
本当に記憶ごと失ってしまうことになるとは思わなかったけれど、
そのおかげで兄と恋人同士になれた。
出来れば二度と記憶喪失にはなりたくないけれど、
なってしまっても問題はないのではないかと思えてくる・・・。






すっかり忘れ去ってしまい、どうでもよくなった話だけど、記憶操作はしないことにした。
本当は秘密にしようとしていたんだけど、そのように至った経緯を聞かれ、仕方なく兄にそれを話したところ、
「また俺を忘れる気か」とこっぴどくしかられ、その後「そんな哀しいこと言うな」と抱きしめてきた。
勿論、今は俺自身こんなことを忘れるなんてもったいないと思う。でも・・・






俺たちの場所に、仲間が増えた。
今度はピンクのワスレナグサ。
季節柄もう売っていないだろうと思ったけど、
兄が店で見つけて買ってきた。
だから今は二つ寄り添うように咲いている。


仲がよさそうで、うらやましい・・・そう言うと兄は困った顔をする。
俺たちは仲が悪いのか?と聞いてくるので、じゃぁ仲がいいの?と聞き返すことになる。
そうすると俺たちはともに首をかしげ、馬鹿らしいくらい真剣に悩む。そんな日々が続いている。それはそれで幸せ・・・なのかもしれない。




それは兄からのプレゼントだった。
何も言わずに手渡され、俺はぎょっとした。
ひょっとして、俺とのことは過ちだったの?そう聞きそうになった。
でも、何故か照れくさそうな彼の顔を見て、兄のメッセージを理解し、胸が幸せで満たされるのを感じる。
俺は何も言えずにぎゅっと抱きついた・・・。





“Forget-me-not”