雪の寒さを暖めて

今日は寒いと思っていたけど、気がつけば雪が降っていた。
急いでいたからとマフラーをしなかった俺、青海芳人は、身震いをしてくしゃみをする。雪が降ると知っていれば、もっと厚着をしてきたのに。
ったく、これじゃ風邪を引いてしまう、そんなことを思うけれども、俺はこの人肌が恋しくなる季節が嫌いではない。
嫌いじゃないけど・・・あまり寒いのは好きでもない。俺って贅沢者?そんなことを思っていたら、首に何か暖かいものがかけられた。
「おい、そんな格好をすると風邪引くぞ」
ふと後ろを見たら、幼馴染の狩野大樹がいた。俺にマフラーを渡すくらいだからどのくらい厚着をしているのかと思ったけど、別にコートを着ているわけでなく、俺とほとんど変わらなかった。
「そういうお前はどうなのさ?」
「俺はもともと北国生まれだから、こんくらいの寒さはちょうどいいくらいだ」
そういえばそうだ。狩野は俺が小学一年のときに引っ越してきたんだった。すらっとした長身で、甘いマスクの紳士、それが一般的な彼の評価。
「嘘付け。お前、手が冷えてるぞ」
寒さに震えている手を俺のそれで包んでやる。彼は気の利く男である反面、自分のことには頓着しない。クラスの皆もその事実に気づかない、本人も気づかない。知っているのは俺だけ。彼は器用すぎて、不器用。みんなの期待に応えようと努力をしすぎる。
「さんきゅ・・・」
何故か赤くなりながら彼は礼を言う。よく見ると、綺麗な指、綺麗に整えられた爪・・・なんというか、俺は今それに触ってるんだな。不思議な感慨と共に彼を見つめてみる。
「俺の顔、何かついてるか?」
狩野は戸惑いを隠さない。
「いや・・・よく見るといい男だな・・・と」
くすりと笑いながら俺は答える。男なんぞにそんな気持ちを抱くのは真っ平ごめん、というのが俺の気持ちだが、こいつだけは例外だった。
「俺が・・・いい男?」
なのにこいつは自分の魅力を分かってはいない。まぁ、そんなところも彼のいいところなんだよな。もしそれが得点を意図しての行動だったら、誰も彼をいい男だとは思わない、そう思う。
「お前のほうがいい男だよ・・・」
何故そうなのかは知らない。しかし、恥ずかしいことを言っているという自覚があるのか、顔を赤くしてそっぽを向く。
「そんなに俺がいい男なら、つきあったげるよ」
俺も恥ずかしいことを言っている自覚がある。男同士・・・まぁ、これはいい。それよりも、これはナンパなのだ。
「・・・俺でいいのか?・・・俺は男だ。胸、ないし・・・」
男同士なんだから、もう少し悩めよ。そうツッコミそうだったけれど、何故か彼は泣きそうになっていたのでやめた。普段のおっとりだけど堂々としている彼からは全く想像できない。でも、それはそれで愛しく感じた。
「構わないさ。俺は・・・貧乳のほうが好きだから」
ちょっと茶化して言ってやると、本当に嬉しそうな笑みを見せる。その顔があまりにもかっこよかったので、照れ隠しに手を握ってやると、ぎこちなくではあるが、握り返してくれた。

外は寒かった。でも、俺たちの心はほんのりとあたたかかった・・・。