君と過ごす聖なる夜

高校教師倉科息吹氏は、非常に不機嫌な年末を送っていた。冬休み、クリスマス、お正月を控えてこれでもかというほど明るい教え子たちとは、実に正反対である。彼は普段は不機嫌であってもそれを隠す。すなわち今回はそれほど不機嫌の度合いが高いのである。そしてその理由は・・・。

 

「僕たち冬休み旅行に行くから、年末年始は会えないんだ。ってことで、よろしく。お土産買ってくるね・・・」

すべては歩のこの一言が発端となった。歩というのは、倉科の教え子、夏樹歩である。彼は黒木歩という少年の生まれ変わりで、倉科が人生かけて愛し続けた相手である。一応過去形になっているのは、彼は親友夏目と付き合っていて、倉科は振られてしまったからである。しかし、実際は完璧に過去形にできない部分もあって、恋とも友情とも区別つかない感情で想いつづけていることも事実である。

クリスマスは倉科にとってあまりいい思い出がない。倉科の人生史上で5本の指に入るといっても過言ではない心の傷を受けてしまったのである。歩に誘われ、押し倒したところ、全身で拒否された。そんなことがあったため、クリスマスは倉科にとって楽しいイベントではない。その上、歩が彼の恋人とあたかも新婚旅行であるかのように冬休みに旅しに行ってしまうのだ。不機嫌になるなというのが無理な話というものである・・・。

 

「倉科先生は冬休みはどうするんですか?」

職員室にて同僚に聞かれる。これで何人目か・・・と心の中でため息をつくが、これもまた仕方のないことである。倉科息吹は、実にモテる。モテる男の冬休みは、知りたくなるのが人情というものである。

「えぇ・・・一人でさびしく過ごすことにしますよ・・・」

「そういえば・・・外山とは過ごさないのですか・・・」

あぁ・・・。倉科は可愛くなくて可愛い恋人の存在を思い出す。外山晶は倉科の恋人である。いつも不機嫌そうな顔をしている彼は倉科嫌いと、ここ清風高校ではある意味貴重な存在だった。しかし、そんな彼も今は倉科という存在に骨抜きとなっている。もっとも、それを完全には認めたくないところもあって、倉科の前ではやっぱり不機嫌な顔となってしまうのだが・・・。

「まぁ、誘ったところで断られるのがオチですからね・・・」

外山晶という人間は、デートという単語を嫌がる。晶には晶の事情があり、彼とデートをするのが嫌いなわけではないのだが、倉科はそれを知らない。したがって、二人で出かけるようなときには、倉科は特別というか厳重に注意をし、あからさまなデートにならないようにする。しかし、クリスマスは明らかに恋人同士が喜びそうなイベントである。晶は猛反発するだろうことは、倉科にも想像がついている。だから、一緒にすごせないのだ。倉科は誘ったときの反応を考えて、深くため息をついた・・・。

 

「う〜ん・・・寂しいクリスマスだなぁ・・・」

外山翼は盛大に、しかし楽しそうに肩をすくめる。その原因は目の前で生気が抜けてもぬけの殻となった弟の晶である。

「そんなにショックならあの人を誘えばよかったのに・・・」

晶がショックを受けている理由は分かっている。せっかくのクリスマスなのに、過ごすのは目の前にいる兄貴であるという事実に他ならない。夏目少年は恋人と共に旅行をするとのことである。それなら恋人と一夜を過ごせばいいのだが、素直でない晶はそれを言い出すことができなかった。もしそれを言えば自分がからかわれることを恐れているんだろう。翼はそんな晶の気持ちは分からなくもない。しかしその一方で、もっと自分を出してもいいのでは、と思っている。大嫌いであった存在が正反対の存在となってしまったため、どうしたらいいのかが分からないのだろう。しかし、相手が理解してくれるのを待っているだけではいけない。まぁ、今日くらいは力を貸してやろう。彼は電話を手に取ろうとした・・・。

 

「一発ぐらい殴られるんだろうな・・・」

一人苦笑しながら彼は目的地に向かってハンドルを回す。街路樹の公孫樹は春に備えて眠りについていて、道路は寂しくなっている。名残惜しそうに一枚二枚が細い腕にしがみついているのが、更にそれを感じさせる。しかし、その一方では青々と茂った樹に電飾の花が色とりどりに咲いている光景も見えてくる。そして、その光る花々を楽しそうに見つめている親子・友達・恋人・・・ここ数日そんな光景もよく見る。懐かしいな。昔は歩と飾り付けをしたっけ・・・ほんのりとしょっぱいが、それでもケーキなんかより甘い思い出が倉科の胸を満たしていくのを感じる。

「あのころは何にも知らなかったんだよな・・・」

俺も歩も。純粋に幸せな毎日だった。あの日以来彼以外誰も好きになることができなかった。恋するつもりもなかった。それは「歩」に会うため?果たしてそれだけだろうか。本当は過去に浸っていたいだけの部分もあったことは否定しない。「黒木歩」は、倉科が想うことを捨てない限り、永遠の存在なのである・・・。

いつまでも待つ、その裏では諦めも入っていた。奇跡は二度起きるはずがない。しかし、その奇跡は起きた。教え子として彼に会ったのだ。彼は自分のことを覚えていた。好きだといって付き合ってくれた。

しかし、その代償はとてつもなく大きかった。確かに倉科は歩と再会した。しかし、歩はすでに人のものとなっていた。倉科は歩と夏目が付き合うことに反対しなかった。否、できなかった。倉科はずっと歩のことを優先し続けてきた。だから、常に歩の幸せを望んでしまう・・・。恋人に憎しみを抱いてもいいだろう。しかし、それもできなかった。彼はそうするにはあまりにも「大人」すぎたのであった。

 

「やっぱりイブだから・・・か」

自分に心の隙間があるように感じるのは。あの日のことが未だに忘れられない・・・彼は一人苦笑する。既に過去になったことだと思っていたが、クリスマスになるとその傷はうずいて、倉科を食い荒らそうとするらしい。

しかし、その一方でその傷がそこまで痛くないことも知っている。彼の存在だ。自分が久しぶり・・・いや、例外的に恋することができた男の・・・。

今日はその彼に会いに行く。もともと決めていたわけではない。今日の朝までは一人で過ごすつもりだった。しかし、晶の顔を思い出した。不機嫌でいつも噛み付いてくるけど、心のきれい(かもしれない)な少年。彼をからかうのは面白かった。予想以上の反応をするのは楽しかった。それはいつ恋に変わったのだろう。彼を抱きしめたときに恋をしてしまったのかもしれない・・・。

「ったく、これじゃ小学生のデートだ・・・」

そんなベタ過ぎることをすれば、晶は確実に怒る。きっと「帰れ!俺はあんたとなんかいたくない!」と言う・・・倉科は苦笑しつつも、彼を迎えにいく。

 

ぴんぽーん・・・とチャイムを鳴らすとすぐに何か走る音が聞こえる。ドアが開くと出てきたのは外山兄翼だった。彼は愛情狂として有名である。

「あ、先生、来ちゃったんだ」

「来ちゃまずかったのか?」

「いや?今から呼び出そうかと思ったとこ。あがっていいぜ。向こうにあいつがいるから」

案内されて奥に進むと、晶が枯れ果てていた。心はそこにはなかった。

「おーい、晶ぁ・・・今からデートするぞ」

殴られることは覚悟していた。

「・・・俺は行きたくない。帰れ」

言葉自体は予想通りの反応だった。しかし、それには覇気が全くなかった。だから、諦めて帰ろうとしたら・・・腕をつかまれた。

「・・・やっぱ行く・・・」

「行きたいなら最初から言え」という翼のぼやきは二人とも聞かない振りをした・・・。

 

「悪いな。本当だったらフランス料理あたりで行きたかったんだが、当日だとどうも空いていなくてな。ファミレスなんてお約束の場所だけど、まぁ、勘弁してくれ」

いやなはずがない・・・。晶は小さく首を振る。倉科には気を使わせてばかりだ。うれしい気持ちと一緒に、申し訳ないという気持ちが同居していた。倉科が本気を出せば、フランス料理店の予約など、すでに取れているはずである。しかしそうしなかったのは、気後れしてしまって料理を楽しめないということがないように配慮したのだろう。だけど、そんなことを聞いたら絶対笑ってはぐらかし、自意識過剰だと言って晶をからかう。それが倉科の暖かさなのだ。

「ん、どうした?不味いか?」

「ううん、美味いよ。でも、本当に俺が相手でいいの?あんたならほかに過ごす相手がいるんじゃないか?」

その言葉に倉科はため息をつき、天を仰ぐ。

「あのなぁ・・・俺の恋人はお前。だから今目の前にいるのもお前」

「あ、そう。で、このあとどーすんの?」

「ホテルがいいか?それとも実家にするか?」

そんなの実家に決まってる。そりゃ、倉科なら高級ホテルの予約くらいとってありそうで、一度くらいは高校生には無縁なホテルに泊まってみたい。しかし、一泊数万しそうなホテルより、彼にとっては好きな人の実家のほうが数万倍以上もの価値がある。だから晶はその旨を話した。

「よかった・・・。実はホテルの予約、取れなかったんだよな」

気遣いではなく、事実。苦笑しながら話した倉科の顔にはそう書かれていた・・・。

 

まぁ、そんなこんなで料理ではなく彼氏をテイクアウトしてしまった倉科。どうせなら高級ホテルの予約を取っておけばよかったと思う。それを知れば可愛い恋人が「お前俺をこんな高いとこに泊まらせるのか!」と激怒するだろうが、倉科は愛する人のためなら金の糸目はつけない。しかしその一方で実家に呼んだら晶は喜ぶんじゃないかなぁ・・・と言う考えもあったため、もたもたしているうちにどこにも予約が取れなかったのが真実であるが、すんなりと実家を選んでくれたのでよかった。心の中でほっと一息しながらドアノブを開けると、家が暗い。この分だと倉科一家はどこか出かけてしまっていると仮定するのが正しいだろう。少し寂しいが、二人きりでクリスマスを過ごすのもいいだろう。

「このケーキ、いくら?」

立派そうなケーキを見て、晶の目が丸くなる。ちまっとしたサイズであるが、二人で食するには十分なサイズである。

「あぁ、これは手作りだ」

「へぇ・・・手作り・・・手作り・・・え!これ、あんた作ったの!?」

軽く流しそうになって慌てふためく。料理を作るのが結構好きだというのは聞いたことはあるが、実際に作ったものを見るのはこれが初めてである。

「あぁ、愛するお前のために・・・というわけじゃないが。こんなもの作る機会は今しかないからな」

本音を言おうとしてしまい、照れ笑いを浮かべる。ケーキを作るのが楽しいということもあったが、これを見せたら晶は驚くだろうなぁという期待も大いにあった。

「毒でも入ってないだろうな・・・」

俺ってそんなに信用ないか?疑り深い恋人には、呆れるしかない。じっくり観察し、においをかいでやっと安心できたのか、晶は一口入れる。

「ん・・・美味い・・・あんたって何でもできるんだな」

恋人の新しい一面を見せ付けられてコンプレックスを刺激されてしまった晶は、ふて腐れている。

「いや、何でもできるわけじゃないさ。俺だってできないことが腐るほどある」

そのうちの一つが、どうやって晶と交わろうか。簡単なようで、難しい。

「晶・・・お前と・・・したい・・・いいか?」

かちんこちんになりながら倉科はそれを口に出した。いつもの倉科とは大違いで、出てくる言葉も途切れ途切れである。大好きな相手を前に、非常に緊張しているのであった・・・。

「ん・・・いいぜ。でも・・・やさしくしろよな」

合意だった。普段だったら恥ずかしさのあまり激怒して暴れまくるであろう晶も、今日ばかりは全く抵抗するつもりはなかった・・・。

 

身にまとっているものを全てはがされ、晶は横たわった。自分の心臓自体が勝手に命をもって暴れまくるように鼓動する。それは緊張なんてものをはるかに超えていた。原因は言うまでもない。自分を組み敷いている男である。30代とは思えぬ若々しさを誇る男は、目にいつもと違う光を湛えていた。いつもの瞳が暖まるような光を宿していると形容するのであれば、今のそれは見つめる相手を焼き殺すことができそうな熱さを持っているものと表せるものだった。これが倉科息吹・・・晶は戦慄し、これからするであろうセックスに恐怖を覚える。夏目に組み敷かれてもこんな気持ちは抱かなかった。倉科だから恐い。

そんな感情を抱いている間に、倉科の舌が晶の胸についている小さな突起に舌を這わす。

「ん・・・」

晶の全身に鳥肌が立つ。嫌悪、快感・・・どっちでもない。純粋な恐怖。晶は高校生である。これが前菜であることくらい知識として知っている。メインディッシュは後から来ることくらい知っている。知っているから恐かった。彼に身を任せることは嫌じゃないと理性では判断していても、自分が食い尽くされることに対する恐怖は理性を粉々にするには十分だった。

「や・・・やめろ・・・!」

渾身の力を振り絞り、倉科を突き飛ばす。そして本能的に最低限の衣服を身につけ、恐るべき速さで逃げ出した・・・。目の前に現れた恐怖という名の雲を取り払いたかった・・・。

 

「痛・・・一瞬花畑が見えたぞ・・・」

後頭部を擦りながら倉科は起き上がる。晶に突き飛ばされて壁に頭をぶつけ、しばらく意識を失っていた。そのとき花畑が見えた・・・気がした。

「ったく・・・俺を殺す気か。クリスマスイブに痴情のもつれにより高校教諭死亡。容疑者は恋人であった教え子の男子高校生・・・というのは笑えないぞ・・・」

虚しい笑いを浮かべながらさっきまでやっていたことを思い出し、大きくため息をつく。晶に力いっぱい拒絶されたことを思い出した。

「やっぱクリスマスイブにはろくなことがないな・・・」

昨年の似たような展開を思い出し、やっぱりため息をつく。癒えて痛くなくなったはずの傷が瘡蓋を突き破り、倉科の心の中で縦横無尽に暴れ、蝕んでいく。やはり俺は人を好きになってはいけない、そんな失望、絶望その他もろもろの負の感情が倉科の心を支配していくのはいとも簡単だった。誰も好きにならなければ、何も傷つかない。失うこともない・・・。

でもその一方では晶をどうしても失いたくないと思っている。本当に欲しいものは、どんなに傷ついても追いかけなくてはいけない。追いかけなければ手に入らないものだってある。

「歩・・・あの時俺が逃げ出さなければ・・・お前は俺を受け入れてくれたのか・・・?」

自問する。でも、それは過去のことだ。今追いかけるべきは、晶である。彼はコートを一枚余分に着て、晶を探しに行く・・・。

 

どうして逃げてしまったのか。晶は自分を責め続ける。あの時逃げるべきではなかった。もう倉科は自分に失望しているだろう。

「なのに、未練ありまくりだな・・・俺・・・」

今いるここは、かつて倉科につれてきてもらった所。ここで晶は自分の気持ちを伝えた。あの夜も星がきれいだったが、それほど記憶にない。目の前には、それらよりもはるかに輝いていた存在があったから・・・。

晶はどうして倉科がモテるか分かった。みんな倉科「先生」を見ているから。だから平気であの人に抱かれたいと言える。しかし、その彼らの中の何人が「倉科息吹」を見たのだろう。倉科息吹を目の当たりにすれば、絶対そんなことは言えなくなる。彼の本気は身体を焼き尽くすのには充分だろう。彼、「倉科先生」という鎧の下には、激情が眠っているのである。

(・・・あいつなら受け止められるんだろうな)

なんて思っていたら、後ろから何かコートみたいなものがかけられる。誰がと言うまでもなかった。

「ったく、こんなところで何してんだ」

「あんたから逃げたんだよ」

「なのに俺が連れてきたところにいるのか?」

「いちいち上げ足を取るんじゃねーよ。ホントあんたってムカつく野郎だな!」

そこまで言って晶の顔が蒼白になった。そんなことを言えばますます倉科は自分に失望する。言った後に必ずといっても後悔するのは、晶の悪い癖である。

「それだけの元気があるならよかった・・・」

倉科は安心していた。しかし、それが晶の罪悪感を増大させる。倉科は自分を気遣って怒っているのを隠している、と。自然と晶に一つの考えが浮かび上がった・・・。

「俺たち、おしまいにしよう・・・」

これ以上一緒にいたところで、倉科を傷つけることにしかならない。それなら、好きでいる間に別れたほうがいい。倉科の好みとは正反対である上、セックスもできないのであれば、もう彼の隣にいる資格はない。

「嘘・・・。冗談だよな。冗談だといってくれ!」

今まで見たことのない形相で倉科が聞いてくる。晶はそこまで必死な倉科を見ただけで充分だった。倉科は自分を好きでいてくれたのだ。

「冗談じゃないよ。今まで、本当にありがとう・・・先生、愛してるよ・・・」

全ての想いを込めて倉科を抱きしめる。倉科は引きとめようとしたが、その想いを知り、やめた。

「そうか・・・俺はお前を苦しめていたんだな。ごめん・・・本当にごめん・・・。俺の気持ちばかり押し付けてお前の気持ちに気づいてやれなかった・・・。

俺はいい気になっていたんだな。あの日お前に告白されて、好かれてるんだと思った。でも、あれから時間は経ってるんだ。俺に飽きても仕方ないな・・・」

寂しそうな笑顔だった。全てを諦めるような切ない笑顔だった。夏樹歩に向けられた視線と同質のものだった。それを見て晶は・・・キレた。

「あ?俺をなめてんじゃねーよ?その程度の気持ちであんたが好きだと言えると思った?本気じゃないと言えねーよ!ったく、あんたは自覚無いようだけど、滅茶苦茶もてるから悩んだんだぜ?それを・・・俺の気持ちが軽いように思いやがって・・・!」

はぁ・・・はぁ・・・一方的にまくし立てた晶は肩で息をしていた。またキレちまったと思ったが、どうせ終わりになるなら最後に想いをぶちまけることくらい許されるだろう。

「だったら・・・何で別れる必要が?」

素朴な倉科のツッコミ。

「え?だってあんた俺を捨てたいんじゃないの?」

素朴なツッコミに対する回答。疑問形になってるが。

「お前を捨てるつもりならここまで追いかけないが・・・」

「ってことは、俺の勘違い・・・?」

つまり、やっぱり両想いだったってこと。

 

「夏樹ならあんたのこと、何も抵抗なく受け入れられるんだろうな・・・」

晶からさっき自分を拒んだ訳を聞いた。どうやら自分がいつもの倉科に見えなくて恐かったらしい。さすがに苦笑するしかなかった。優しくしたつもりなのに・・・どうやら力みすぎたらしい。しかし、倉科にとってそんなことはどうでもよかった。

「いや、あいつには二回拒まれてるさ。しかも、二回目は存在そのものを拒絶しやがった・・・」

 

は?晶にとって衝撃的事実だった。まさか歩が倉科を拒むとは思えなかった。全てをかけて愛していたのに、どうして倉科を拒むのだろうか・・・。

「どうやらアレをするときの俺は気持ち悪いらしい。触らないでとも言われたさ」

やっぱりしっくりこない。本当に気持ち悪ければ、倉科と歩が話すことはないはずである。しかし今は多少前よりもギクシャクしている部分はあるが、それでも凍りきっているわけではない。おそらく互いを思いやって必要以上に前に出られないのだろう。とすると・・・。

好きだから抱かれたくなかったのかもしれない。入れるほうならまだしも、入れられるほうはそれなりに覚悟が必要である。物理的な痛さだけではない。男に貫かれてよがっている自分を見られたくない。好きな相手だったらそういうのを見られても平気・・・そういう人が全てではないのだ。ひょっとしたら、俺も夏樹も一緒なのかもしれないな。そんなことを思いながら歩のフォローをしようかな・・・と思ってみる。

「あのさ、夏樹はあんたのことを気持ち悪いと思ったわけじゃないと思うぜ?多分好きすぎて恐かったのかもしれない。俺もあいつの気持ち、分かるような気がする。あんたに抱かれるのは嫌じゃないはずなのに、いざ触れられると身体が言うことを聞かないんだ・・・だからさ、夏樹のこと、嫌わないでやってくれよな」

 

そんな必死になって恋敵のことを庇わなくてもいいのに、それでもそうしてしまう彼を倉科は愛しく思う。倉科の視線に気づいた彼はそっぽを向く。

「あんた、おかしいと思ってんだろ?そのくらい俺だって知ってる」

いつもの不機嫌そうな顔だ。外山晶という人は本当に面白い。怒ったり照れたり泣きそうになったりと、いろいろな表情を見せるくせに、気づけばいつも不機嫌そうな顔に戻っている。晶は倉科に好かれようとできるだけ素直な自分になる努力をしようとしているが、別に倉科はそんなことはどうだっていいと思っている。どんな顔をしても晶は晶なのだ。全身で自分の気持ちをぶつけてくれるのだ。だから好きになったのかもな・・・。

「晶・・・愛してる・・・」

何の前触れもなく晶を抱きしめる。晶はそこから離れようともがいたが、力の差だけが理由でなくて抗うのをやめ、腰に手を回す。

「俺も・・・」

「やけに素直だな。嫌いだと言いそうなのに・・・」

「あんたに抱きしめられてる間だけは素直になることにする・・・」

(じゃぁそれ以外は素直にならないんだな)

とツッコむのはやめた。今は純粋に二人だけの時間を楽しもう。

 

そんな二人にプレゼントをするかのごとく、天空から白い天使が舞い降りては二人の身体に降り注ぎ、融けるのを繰り返す。まるで星が降っているみたいだ。二人は見つめあい、視線をずらし、再び合わせて苦笑する。ホワイトクリスマスも素敵なプレゼントだが、腕の中にいる恋人が最高のプレゼントだ。倉科は好きな人とこうしてイブを過ごせたことに至福を感じている。晶も同様だった。初めてのアレは叶わなかったが、それよりももっと大切なものをこの二人はもらったのであった・・・。