A dream, reality, or a vision



「ん・・・」



不思議な重みを感じ、俺は目を覚ます。



(光輝・・・兄?)



その重さの正体は、愛しい人の腕だった。どうやら俺は彼の腕の中で眠ってしまったらしい。
そんな幸せに目をこするが、その温かさは幻ではない様子。俺は身動きせずにそのまま彼の腕の中におさまることにする。

考えてみたら俺は幸せ者だ。このように好きな人の腕の中に存在することが出来る。
男女なら当たり前のように出来る行為でも、男同士でそんなに気軽に出来るはずがない。
いや、そのケがなければお遊びで出来るんだろうけど・・・自分で考えておきながら、ため息をつく俺。


「・・・何ため息ついてるんだ?」

そんな俺のため息が聞こえたのか、それともただの偶然か。悩みの種が目を覚ます。俺がため息をつくくらい光輝兄がもてるってこと、本人は自覚しているのだろうか。

「って、何寝ぼけてるの?」

気がつけば俺は光輝兄に押し倒されている。本来なら喜ぶべきことなんだろうけど、光輝兄の真意が解らない。それだけ突然のことだった。

「あーわるい・・・」

申し訳なさそうに手をどける彼。謝るくらいなら最初から寝ぼけないでほしい・・・と思うのは、俺のわがままだろうか。

「別に、いいよ、光輝兄は悪くない」

それでも俺はこう言ってしまうのだ。光輝兄には絶対嫌われたくないから。

「そうだな、悪いのは瞬なんだよな」

超絶ブラコンの俺なら普段は一気に凍りつくその言葉。だけど、そう感じなかったのは、どうしてだろうか。
本当に寝ぼけているのは俺なのだろうか?言葉を失った俺に、彼はくしゃっと髪をかき回す。乱暴に見えてその動きには優しさが感じられる。


「まったく・・・これだから瞬は・・・」

最初にため息をついたのは俺だったけど、今度は光輝兄のほうがため息をつく。俺、ため息つかれることをしたんだろうか?



「そろそろ責任取ってくれると嬉しいんだけど・・・」



「へ?」

光輝兄から出たその言葉。ちょっと拗ねながら言われたものに俺は耳を疑う。それは『悪いことをしたんだから責任を取れ』とは全く違う・・・。

「えー・・・心のじゅ」

身の危険を感じ、俺は起き上がろうとする。だけど、一度手を離したはずの光輝兄がそれを許してくれない。

「その言葉はもう聞いたよ」

あっさりと逃げ道はふさがれる。

「えっと・・・その・・・」

冷や汗を書きながら固まる俺に苦笑し、顔をゆっくり近づける。その端正な顔立ちは、毎日見ているくせに決して慣れることがない。
心臓の鼓動が止まらない俺を無視して彼は額に口付ける。


「な、な・・・!!」

「いーかげん慣れろよな・・・」

これだから光輝兄は・・・。キス一つであたふたする俺に比べ、光輝兄は妙に手馴れている。もちろん、これがくだらない焼餅だってことは分かってる。
だけど、俺は光輝兄としかキスをしたことがないわけで、つまり、男は・・・というか、相手は彼以外に知らない。


「ま、時間をかけて慣らしていくのもありか・・・」

そんな言葉に引きつった笑いを隠せない俺。焼餅が一気に吹き飛んでしまう・・・とんでもなくきわどいことを言われているような気がするのは、決して気のせいではないだろう。
そんな動揺が伝わったのかどうか・・・彼はあっさりと俺を解放する。ほっとする反面、ちょっと残念でもある。


「そんな顔するな、俺だって健全な青年なんだから・・・」

そんな光輝兄の頬はほんのりと紅くなっていて。不思議と幸せがこみ上げてくる。ひょっとして夢なんじゃないか・・・自分のほっぺをつねってみると・・・。





それは夢だった。やる気満々な光輝兄から逃れられて安心と言えば安心だけど、やっぱり残念でもある。
もうちょっと彼の腕の中にいたかった・・・ため息をつくと・・・
「何ため息ついてるんだ?」
気がつくと俺は光輝兄の腕の中にいて、光輝兄は俺を見ている。
しかもそれから・・・ひょっとしたら正夢になるかもしれない。そろそろ覚悟を決めないと・・・背筋が凍った俺だった。



明けましておめでとうございます。昨年は公私共に良くも悪くも変化の多い一年でした。今年はいい意味で変化のある一年にしていきたいものです。
今年の年賀状的SSは、鷺沼家の二人に出てもらいました。ちょっとありふれたオチを使ってみました(笑)。
相変わらずラブラブ(??)な二人ですが、変わらずきれいな関係だったりします(笑)。最近長編は書いていませんが、ちまちま彼らのことも書いていければと思います。
そんなわけで、今年もよろしくお願い致します。

秋山氏(2008/01/01)