PASSION

以前から気になっていたのだが、瞬はそこまで色っぽい少年だっただろうか?何度も考えてはいるのだが、その答えは出てこない。
いや、可愛いかどうかと問われれば、そりゃ当然俺の大切な弟だから『可愛い』と答えるが・・・って、そんな問題じゃない。俺は今深刻な問題に直面しているのだ。

「あの・・・光輝兄?俺の背中に何かついてる?」


俺の視線に気づいたのか、瞬が困惑を隠さずに問い掛けてきた。

「ん・・・いや・・・」

さすがに見惚れていたなどとは言えまい。いや、別に言っても構わないことではあるが、やっぱり恥ずかしくて口には出しにくい。
もともと瞬は整った容姿の持ち主だ。涼しげな容貌に、凛とした背筋。同年代の少年に比べれば大人っぽく見えないこともないが、持ち合わせた人懐こさが彼を年相応に見せる。
このまどろっこしい説明を一言で表すとしたら『清涼感あふれる少年』だったはずだが。




(・・・これは犯罪だな)



艶やかな肌。白磁のように滑らかそうで、つつつ・・・と触れたくなる。
本人は『なかなか焼けない』と嘆いているが、そこに決して病的な白さは存在しない。
だからといって、無理して日焼けして真っ黒・・・というわけでもなく、絶妙なバランスだ。
背骨も曲がった様子はなく、首から腰まで伸びたラインが美しい。そして、肩、二の腕、指先と決して無駄な部分が存在せず、その芸術的・・・というのはどう考えても俺の欲目だが、それを差し引いてもそのバランスのとれた肢体はお見事というしかない。


「その・・・光輝兄?」

「ん?どうした?」

「そんなに見ないで欲しいんだけど・・・」

「あぁ、悪い」

じっくり吟味されて恥らう瞬が可愛いといえば可愛いのだが・・・さすがにじっと見られたら着替えも出来ないか、俺は苦笑する。
しかし、いくらなんでも恋人の前で着替える、しかも玉のような肌をさらすとは警戒心がなさすぎだな。それとも、俺は絶対に瞬に手を出さないとでも思っているのだろうか?


(俺も・・・耐えてるんだけどな)

俺だって人間だ。目の前で恋人の身体を見せられて、何も思わないはずがない。そんなわけで俺の中に潜む悪魔は『いいかげん手を出しちまえ』とささやくのだが、瞬には気軽に手を出せないような何かが・・・というのは、俺の言い訳か。
彼に手を出さないのは、俺自身の気持ちが大きいのかもしれない。

俺は瞬のことを大切に想っている。俺の中では何者にも替えがたい存在だ。
だが、それが瞬の欲する気持ちであるかどうかは、正直わからない。最近はその辺の境界線があいまいになりつつあるが、それをあいまいなままにしているのは、俺自身。


「どうしたの、光輝兄」

黙り込んでしまった俺を心配している瞬。彼は本当に気の回る子で、俺のちょっとした表情の変化にも気づいてしまうことも多い。
その辺はもう少し鈍感でも・・・と思うのだが、その原因を作った張本人にはそれを言う資格がない。


「ん・・・あぁ、瞬の身体ってエロいな・・・と思って」

「な!」

途端に彼は真っ赤になった。どうも彼はこの手の話題に免疫がないようだ。本当に純粋無垢な少年で・・・俺が困る。そんな純粋な彼が何で俺みたいな奴を好きになったんだろうか。心の中では悶々としているのに。

「・・・そう言う光輝兄こそ、見た目によらずエロイよね」

『見た目によらず』ということは、彼は俺のことを『エロくなさそうな人間』とみているのかもしれない。要は彼の眼には分厚いフィルタがかかっているということだ。

「お前、目が悪いな」

俺は瞬が思うほど清涼な人間じゃない。煩悩だってあるし、情欲だってある。瞬に『愛してる』とすら言えないくせに、一方では『どう調理したらいいだろうか』などとふざけたことを考えている男なんだけどな。

「そーかな?光輝兄を好きになった俺の眼はそんなに悪くはないと思うけど・・・」

瞬の口からこういう言葉が出てきたということは、少しは前に進んでいるということなのか。俺自身はまだ結論(瞬に対する気持ち)は出ていないが、それでも彼に『好き』だと言われると嬉しいと思う自分がいて・・・どうやら俺も末期らしい。俺は立ち上がり、瞬に迫ってみる。

「え?え?」

最初は戸惑っていた瞬だったが・・・落ち着きを取り戻したらしい。



「光輝兄、何考えてるの?」



傍から見ると弟を押し倒そうとしているイケナイお兄さんなのだが、瞬の言いたいことはそういうことではないらしい。
彼が知りたいのは、この行為の裏にある俺の気持ち・・・つまり、俺が何をごまかそうとしているかということか。
どうやら彼は俺をただのエロいお兄さんにはしてくれないようだ。


「あぁ、俺もそろそろ覚悟を決めないといけないと思ってね」

これが俺の本音。それ以上は態度で示すことにしよう。この暑苦しい真夏の昼下がり、俺は瞬とのスキンシップに興じることにした・・・。



END



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あとがき(反転してください)
暑中見舞い申し上げます。
いや、更新が遅くて本当に申し訳ないです(汗)。
そんなわけで「Forget〜」シリーズを久々に書いてみました。光輝兄が瞬のことをどういう目で見てるか・・・そんな話です。
基本的に何かしらの花言葉を混ぜてるこのシリーズですが、今回はヒミツ。
暑中見舞い代りに、煮るなり焼くなり妄想するなり好きにしてやってくださいませ。

秋山氏(2009/7/24)