The fragment of love
柄にもなくこんなものを作ってしまった・・・後悔するつもりはないけれど、冷静になると、恥ずかしいものがある。
世間はバレンタイン一色なので、つい作ってしまった、このチョコ。弟に渡すのは、何だか照れくさい。
(まさかこんなもの、つくるとは・・・な)
一年前の今頃はもらうことしか考えていなくて、つくる方にまわるなど、思いもよらなかった。
それが悪戦苦闘しながらも弟のために作るなんて、俺も随分とち狂ったものだ。
出来はそこまでよろしくはないけれど、愛はたっぷり詰まっている・・・まぁ、そういうことにしておこう。
「光輝兄・・・ただいま・・・」
ちょうど作り終えたころに瞬が帰ってきたようだ。
それなりに整っていて魅力的な彼のことだから、たくさんチョコをもらえるはずなのだが、持って帰ったのを見たことはない。
やっぱり・・・俺が原因なのだろうか。俺が好きだから彼はチョコをもらわないのだろうか。
もし事実なら、それほど嬉しいことはない。
「あぁ、ちょうど良かった。一つ食うか?」
呆気にとられている瞬の口に、チョコのかけらを一つ突っ込む。彼はしばらくもごもごさせてから飲み込み、聞いてきた。
ものすごく・・・険悪な顔をして。
そんな顔もいいなと思う俺。ただ、それを言うほど俺もおろかではない。
「光輝兄?それ、誰にもらったの?」
どうも、俺が他の人にもらったのをあげたと思い込んだらしい。
つまり、ヤキモチだ。
残念ながら、今年は一つももらっていない。
くれようとする奇特な人もいたにはいたけれど、一応断っておいた。本当に欲しい人からもらいたい。
「誰って・・・俺からのプレゼントなんだけどな・・・」
「え?」
聞き返しやがった。繰り返すのは恥ずかしいんだけどな・・・。
「だから、俺からの本命チョコだ!」
「う・・・うそ・・・」
「何が悲しくてこんな時期にわざわざチョコを作るんだよ・・・」
と、『お願いだから信じてくれ』的に言うと、やっと彼は信じてくれた・・・のはいいんだけど・・・。
「お、おい、な、何故に泣く!?」
何故か瞬はぽろぽろと涙を流していた。
一点の曇りもない雫は純粋に美しかったけれど、そこまで泣くことなのだろうか。それとも、俺何か悪いことを・・・。
「だって・・・光輝兄が・・・作ってくれるなんて・・・そんなことがあるなんて・・・思ってなかったから・・・」
嬉しくて泣いたようだ。今まで悲しい思いばかりさせてきたので、ほっとする。
「たかだかチョコだろう?」
「でも、光輝兄が作ったなら特別なんだよっ!」
と、勢い良く抱きつくので、慌てて抱き返してやった。
俺は瞬の髪をやわらかく梳く。癖のない髪は、触り心地がいい。
「どうしてそんなことで泣くかな・・・」
「そんなの・・・えーっと・・・光輝兄だから・・・」
「ほらほら、なくな」
涙を拭いてやり、チョコをもうひとかけら突っ込んでやる。
黙った隙に軽く弟に口付けると、ほんのりと甘い香りがした。
「はは、中々いい出来だな」
「〜〜〜!!」
真っ赤になっている瞬が、可愛くて仕方ない。
そんな俺って結構末期・・・と思ったのは、秘密の話である。
「・・・ありがと」
小声でそう呟いた。
「好き・・・」
「あぁ・・・」
「大好き・・・」
「分かってる」
「光輝兄は・・・?」
「秘密」
軽く笑ってごまかしたけれど、気づいてしまったようだ。本当に嬉しそうに微笑む。
(犯罪だな、これは・・・)
チョコはおろか、魂すらも融けてしまいそうな、極上の笑顔。
バレンタインとはいうけれど、チョコよりもはるかにいい贈り物じゃないか・・・そう思った俺は、やはり末期症状なのだろう。
苦笑しながら俺はぎゅっと最愛の弟を抱きしめた。
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