Final
全く・・・。嫌というほど瞬の考えてることが解り、苦笑すら出来なかった。
どうして彼はそんなにネガティブなのか。
いくらその原因が俺であるとはいえ、現実よりも夢であることを望もうとするのか。
俺が『弟以上の気持ちで愛してやりたい』と言ったのを、彼は忘れてしまったのだろうか?いや、忘れるはずがない。しっかりと覚えておいてくれないと困る。
それに、その夢を生み出しているのは瞬であるため、残念ながら夢の中の俺はそんなに気前がよくないと思うが。
「夢なら俺に触れないんだぞ?」
「え・・・?」
「ほら、こんなところも触り放題だ・・・」
ついでに修一郎くんの件もあり(結局俺は根に持っているのだ)、半分・・・いや、4分の3程度嫌がらせに俺の身体を触らせると、彼は真っ赤になって拗ねた。
「・・・夢の中で思いっきり光輝兄に抱いてもらって、あんなことやこんなことをしてもらうからいい。
ついでに光輝兄は耳元で『愛してる』って言って、俺はそれに泣きながらうなずいて・・・」
「・・・お前の夢の中の俺はそんな男なのか・・・?」
かなり暴走気味になっているけれど、自分の言っていることがどれだけ恥ずかしいことか解っているんだろうか?いや、解っているのならそんなことは言わないか。
もともと瞬は俺以上に「男同士なんてくそ食らえ」と思うようなタイプではない。
簡単に開き直れていたら、俺は彼に惹かれるようなことはなかったと思う。
その上、もともとそういうことを言う子じゃないから、恐らく相当ネジが壊れているんだろう。
俺はその18歳未満入場禁止の光景を想像してみた。
即撃沈した。
その場の勢いというのではなくて、本当の意味で俺たちが男同士の壁を越えるのは、まだまだ難しいのかもしれない。
一人の大切な人間として彼を見るのは抵抗ないけれど、やはり、『男』として見るのには時間がかかるのかもしれない・・・俺たちのペースで歩いていかなければならない、そう思ったところで、吹き出した。
『時間がかかる』そう思っている時点で俺は抜け出せないところまで来ているのかもしれない。
ゼロは何をかけても、ゼロでしかない。
可能性が絶対的に皆無であるのなら、時間など関係するはずがないのだから・・・。
恋に縛られなくなった俺は徹底的に開き直ってしまったらしい。
どんな事でも受け止めるような覚悟さえある。
「・・・光輝兄?」
とはいえ、まだこのことは秘密にしておこう。
瞬には悪いけれど、今はかなり幸せなので、当分はこの曖昧な生活をおくっていたい。
わざと無神経な言葉を選んだ。
「瞬はどんな子と結婚するのかな・・・と」
ちょっとへこむかと思ったけど、そこまでやわじゃないらしい。
俺に虐げられ(?) 、少しはたくましくなったようだ。
「じゃぁ光輝兄はどんな子と結婚するの?」
さすがに目の前の少年とは言えないか。一応・・・というか、女に間違えられるわけじゃないし、それなりに整っている、立派な男だからな。
「残念ながら予定はないよ・・・」
お前がいるんだからな。とは口に出さず、軽く頭を叩いてやった。
それに文句は言いながらも、あまり怒る気はなかったのか、軽く抱きついてきた・・・。
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「・・・ニヤニヤしてどうした・・・」
抱きついた俺を引き剥がし、気味悪いものを見たという顔で聞いてくる。
ちょっと失礼だろ、と思ったけど、あまり怒る気は無かった。
「ん。俺って幸せ者だな・・・と」
「そうか・・・俺は相当不幸だな。何処の誰かが牽制するせいで、最近女の子は寄ってこない。
ただでさえモテないのに・・・」
「だから俺が責任もって光輝兄を幸せにする・・・」
不正解と言った。一気に俺のテンションをつき落とされたような気がする。
少しは幸せに浸らせてくれてもいいんだけどな。そう沈み込んだ俺に、彼は耳元で囁く。
だからその言葉に強くうなずく。誰よりも誠実な彼は本当に嬉しそうに手を差し出し、喜んで俺はそれを握る。吾亦紅(ワレモコウ)が風に揺られていた・・・。
“I will become happy with you. ”
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