PURE-WHITE


瞬を色で表わすならば『白』と言えるだろう。

一滴の穢れもない、誰にも汚すことのできない、純白。そして・・・誰よりも可憐な存在。
そこに存在すれば誰もの目を引くであろう彼は、俺の世界で一番大切な弟。
『世界で一番大切な弟』という表現は世の中に数多あるかもしれないけれど、俺たちはそんなブラコンの域を超えてお付き合いしている。
もっとも、俺自身は男を好きになったことなどなかったし、今でも男には興味などない。

あくまでも、瞬だから特別なのだ。

そりゃ、彼自身可愛いし、健気だし・・・と、モテる要素は腐るほどあるが、それでも同じ男。
何で瞬なんだ?という疑問はなかったわけではないけれど、結局何度考えても結論は『瞬だから』に至ることの繰り返しだった。
それに、あそこまでひたむきに、それこそ命がけで愛されれば俺だって魅かれないはずがない。
最初は同情もあったかもしれないが、今となっては後戻りできないところまで来ていることも確か。

とはいえ、一方で俺の気持ちがただ単に『大好きとか』とか『愛しい』とか、そんな単純なものだけではないことも事実。

何と言えばいいのか・・・時々瞬を汚したくなる・・・そんなことも思うようになったんだ。

彼という白いカンバスを俺の色に染め上げたい・・・言ってしまうのであれば、独占欲というものか。
それは恋人としては当然の欲求なのかもしれない。
だけど、困ったことに肝心の瞬は俺の事を『(ちょっとエロイけど)とても優しいお兄さん』と美化している部分が大きいので、俺自身どこまで踏み込めばいいのかと悩ましいのが現状。
そんなものは気にしなくてもいいんだろう。一応血のつながった兄弟であるわけで、遠慮する必要はないんだろうけれど、不思議なもので、瞬が『俺にとっていい弟でいたい』と思う気持ち、今ならよく解るんだ。

瞬自体は俺との関係に関して自分を抑えることが多い。
まだ、男同士でなお且つ兄弟であることに対して後ろめたい気持ちがあるのだろう。
付き合い始めてすぐの時はもっと遠慮しないで自分を見せてほしいとか、もっと我儘を言ってほしいとか思ったものだけど、次第に『好きな人の前ではいい子でいたい』という気持ちも分かるようになったんだ。
だって、好きな人に嫌われるのは、とても辛く、怖いことだから・・・。

でも、そんな想いをずっと彼にはさせてきたんだよな。
俺が好きだからこそ、俺に嫌われないように頑張ってきた。
今は兄弟という関係を越えているわけだから遠慮は必要ないんだけど、人間はそんなに急に変わることなどできるはずがなく、そんな瞬の気持ちは、付き合うようになってからもあまり変わっていないのかもしれない。

でも、彼が変われないなら俺が変わればいいんだと思う。俺が瞬の手を取って・・・って、違うな。
俺自身が瞬を引っ張っていきたいんだ。そして、瞬のことを俺だけで満たしたいんだ。
瞬が俺以外の人間に笑いかけているのを見ると、何だか腹が立つ。
どんな時でも俺のことしか考えられないようにしてやりたい・・・最近はそう思うようになった。

彼は無自覚だけど、ホントにモテるから、俺は見ていていつもハラハラするんだ。
彼が俺を好きだという気持ちを疑うつもりは全くないけれど、それでも瞬を見つめる視線に熱いものが混ざってることもあって、『やっぱり女の子の方がいいのか』とか『同年代の子には敵わないかも』とか凹むこともある。『自分の腕の中にずっと抱きとめておきたい』と思うのはまだいいけれど、『他の人間に笑いかけるくらいなら、ずっと暗い所に閉じ込めてしまいたい』とすら思うこともある。
瞬は俺の事を優しいお兄さんだと思っているようだけど、俺がこんなことを思っていると知ったら、どう思うだろうか?
鬱陶しい男だと思うだろうか?それとも、そこまで自分を想ってくれて嬉しいと思うだろうか?
俺は自信過剰な男ではないけれど、それでも・・・瞬はどんな俺でも好いてくれるという期待してしまう。



だけど・・・まぁ、今まで瞬を傷つけてきた分、トコトン優しくしてやりたいというのも俺の本音で、だから複雑なのだ。

(ホントに・・・無垢だよな・・・)

隣で寝ている少年のあどけない寝顔をじっと見て見る。
普段は大人っぽいと言われる彼も、寝ているときは年相応になる。

(これじゃ・・・悪さできないな・・・)

俺から苦笑が漏れる。彼といるとどうも毒気が消えてしまうようだ。
独りではドロドロしたことを考えていても、瞬が側にいるとそれが消えてなくなってしまうのは・・・それだけ瞬の心が純粋で無垢だからなのだろう。

(ったく・・・仕方ない)

そんな少年に俺が敵うはずもない。
そうだな・・・もう少しは優しい『兄』として彼を守っていくのもいいのかもしれないな。
俺は可愛い弟にそっと唇を落とした。



もちろん、『愛してる』と告げるのも忘れずに・・・。



END





あとがき

新年、明けましておめでとうございます。
昨年後半は私の私生活の都合で中々小説のアップができませんでした。申し訳ないです。
今年一発目のアップは『Forget〜』シリーズから引っ張り、SSにしました。
光輝兄の独白っぽくなってる話です。
1月の花言葉を調べてみたら、スミレだのコチョウランだの色々出てきたので、『白』をテーマに書きました。
もちろんオチはありません。

昨年はナニかと暗い話題が多かったですが、今年は明るい一年となるよう・・・。



秋山氏(2012/1/1)


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