その最終回

先生とは話しにくくなるかと思ったけど、どうやらそれは思い過ごしだったようだ。
僕たちによく話しかけてくる。だけど・・・困ったことに、口から出てくるのは冷やかしの言葉ばかりだ。
僕たちはそのたびに赤くならなければならなかった。
恋人だと意識すると恥ずかしい。





だけど、約束を破って先生を振ってしまったのだから、それで先生の気が晴れるなら安いものだろう。






まわりから冷かされるものの、僕たちの関係は、気恥ずかしさが加わったほかはあまりいつもと変わりがなかった。
いつも通り僕はべったりと夏目にくっついている。今日もいつも通り一緒に帰っている。
それを人にデートと言われたが・・・
(ただの冷やかしである)





僕らはいつもいろいろと危険なので、夏目の家に寄っている。
だけど、夕飯時には僕の家に帰るようにしている。母さんが出した条件なのだ。
付き合うことを認める代わりに、夕飯は夏目も一緒にとるというのが。
その条件を出してから、母さんは早く帰るようになった。家にいると夏目とべったりしようとするのだ。
夏目を気に入ってくれるのは嬉しいが、僕としては複雑なのだ。今になってやっと夏目の言ったことが分かった僕だった。
と言うわけで、誰にも邪魔されないように夏目の家にいくことにしている。
といっても、特別に恋人らしいことをするわけでもない。
別に急がなくていいから、自分たちの速度でやっていこうと夏目が言ってくれたのだ。
僕は恋人として何かしなければいけないと焦っていたから、それに気付いてくれたのかもしれない。
だから、ただ話したり、いつものようにぎゅっと抱きしめてもらっているだけだ。
現に、今も夏目は僕に抱きついてる。それは嬉しいのだが、どうも最近夏目のスキンシップが激しくなってきたようだ。
自分の服の中に僕の指を入れようとすることもあった。ちょっと恥ずかしい。でも、かわいいからいいや。
ふとあることを思い出したので、聞いてみた。


「頼みたいことがあるんだけど・・・」

「何?俺ができることなら・・・」

「僕、下がいい」

下というのは、勿論受のことである。確かに夏目に愛撫するのは好きだけど、入れるより入れられたい。
僕にはそっちのほうがしっくりくる気がする。夏目は即答した。


「やだ」

「なんで〜」

それは本当に不思議だった。夏目は一応攻だろう。僕に入れることくらいどうってことないと思うけど。



「だって、俺は歩の嫁だから♪」



そんな音符をつけていわないでちょうだい、夏目さん。なんか怖い。
ひょっとして、母さんに嫁扱いされたことをいまだに根に持っているのか?


「それに・・・今まで歩にあんなことやこんなことをされて、いろいろと感じやすくされてきたから・・・いまさら入れることなんてできないんだ・・・だから・・・」

少し赤くなった顔で言う。そりゃ僕も聞いてて恥ずかしい。その上、爆弾発言を放った。






「抱・い・て」





いつのまにか夏目はワイシャツをはだけて鎖骨を見せている。さらに・・・

「歩を俺にちょうだい・・・。
いじめてめちゃくちゃにして・・・
体の熱を冷ましてほしい・・・
ずっと我慢してきたんだから・・・
お願い・・・俺の中に・・・来て」


しかも物欲しそうな顔をしている。


実に色っぽい。


とろんとした顔をしている。
そんな顔をして誘うなって。
押し倒したくなっちゃうじゃないか。
僕は何も言えなかった。
僕の野望が音を立てて崩れだしたからだ・・・夏目に抱いてもらうという・・・。
それをどんな風にとったのか、夏目が爆笑する。
その瞬間、僕は悟ってしまった。これから絶対夏目には頭が上がらなくなるだろうことを・・・(もともと上がらなかったけれど)。
夏目奥さんにずっと尻にしかれるのだろう。認めてしまったものの、悔しいので口をふさいで黙らす。
でも、こんな日常がとても楽しい。一度は完璧に失ったものだから。
口に出すのはさすがに恥ずかしいので、心の中で夏目に言う。
ありがとう・・・僕はとても幸せだ。再び君と一緒のときを過ごすことができるから。




夏目のほうは気付いたのか、僕のほうにかつてないほどかっこよく、きれいで、かわいい微笑を向けた・・・。






おわり