15話

破局したはずの森川と神崎が何故かキスをかわそうとしている。
無理やりというならまだしも、『神崎の気が済めば安いものだ』と森川に拒絶の意はなく、どちらも妙に乗り気だった。
しかしながら、意識しているのかどうかすぐ唇が合わさるわけではなく、変な緊迫感が漂うこととなる。



「俺、こいつのダチ辞めたくなってきた・・・」



そんな緊張を破ったのが、清原の言葉だった。
すっかりあきれ果てたというか、疲れ果てた顔でつぶやき、その場を立ち去った。
今までの甘い空気が一転し、神崎が青ざめ、狼狽する。



「え・・・おい!ちょっと待て!悪かったから俺を捨てるな!」



森川とのキスをやめ、大慌てで神崎は行ってしまった。
それを嬉しそうに見送る南に対して、森川は少し寂しそうである。



「全く・・・別れたなら潔く諦めろっての。・・・どうした?」



「神崎さんもあんな顔をするんだなと思って・・・」

何が言いたいのだろう、南は首をかしげた。

「あぁ、あの人、なんだかんだで前から欲しいものは諦めてきたんだ・・・。自分の気持ちを抑えてね」

森川が桐生と付き合ったときもそうだった。
口では色々敵意を示していた神崎も、本格的に邪魔をした記憶はない。

「だけど、俺、あの人が慌てて追いかけたのってはじめて見たんだ。俺と別れるといってもすぐに諦めたくせに。
きっと神崎さんにとっての一番は清原さんなんだろうと思うと、何かちょっと寂しいかも・・・ま、あの人自身それに気づいているかどうかは分からないけどさ」

「それって焼餅というんでは・・・」

どんよりとした表情で南が言う。
ひたすら悩んだことにより恋愛レベルが1上昇したため、やきもちがどんなものかがわかったようだ。

「うん・・・そうかも。なんかこう二人の仲をぶち壊したくなるような・・・横から掻っ攫いたくなるような、そんな感じが・・・」

当然のことながら南は固まる。せっかく苦労して横恋慕したというのに、これでは何のために醜態をさらしたのかわからないではないか。

「ま、半分冗談だけど。
そこまで心配なら、もっと立派な男になることだな。
あ・・・だけど個人的には馬鹿であほで情けなくて、俺のことでここまでくよくよするおまえのほうが好きなんだけどな」

誉めているんだかけなしているんだか。
森川は恋愛感情は別として、純粋にそういう南が好きだといっている。
南はそういうところをコンプレックスに思っているため、複雑な心境である。
だが、森川が認めてくれるのなら、それでもいいと思ってしまう。
清原もそういうところを認めてくれたし、悔しいけれどあの神崎もそういうところは否定していないようだし・・・。

そこでふと考えてみる。
自分は森川に対してどういう感情を抱いているのだろうか。
ほかの人と結びついて苦しかったのは確かだが、それが恋であるかどうかはまだわからない。
今までそういうのを省いた付き合いをした分、恋とはなんだかが分からない。



「キスしてくれないか・・・?」



いつも望まれればやってきたキス、これを森川にされるということはどういうことなのだろうか。されればきっと答えが見つかるかもしれない。

「嫌。絶対嫌だ」

神崎とキスが出来なかったせいで、森川は相当ご機嫌が悪い。
頼むから・・・と半泣きして南がお願いすると、仕方ないな、と言って軽く口にキスをする。
すると、南が見る見るうちに真っ赤になってしまった。

「どうした?」

不思議に思って尋ねてみる。

「やべ・・・俺、腰砕けそ・・・」

へなへなとその場に崩れ落ちる。南は即陥落してしまったようだ。
恋する乙女のごとくはにかみながら言う彼に、その顔は反則だと思ってみる。
今まで見た顔で最高の色気を発するものというか・・・何だかとてもカワイイのだ。
これでは南を手放すことなんて出来なくなってしまう。森川のほうも顔が赤くなってしまった。
今はまだ南に対する感情は好意のままだけれども、いずれそれ以上になる・・・根拠はないが、不思議とそういう確信を持った森川だった。



END



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