お星様にお願い!?(後編)


南はルックス自体は申し分ない。
若手俳優にいてもおかしくないような顔立ちで、黙っていても女の子も寄ってくる・・・が、
いくら見た目がよくても中身は・・・という典型的なタイプらしく、付き合っても長続きしない。
さすがに南もそれを自覚して大学からは努力してはいるのだが、中々うまく行かないのが実情で、
そんな南の気持ちや努力を解ってくれたのは、どんな女の子でもなく、森川だけだった。

それに比べて森川は選ぶことのできる立場だ。
同年代の男に比べて若干童顔ではあるが、それなりに整っている。
また、人付き合いの苦手な南とは違い、明るく気さくで、何よりも面倒見がよく、何も言わなくても彼を慕い周りから人が集まってくる。
もし自分が女の子だったら、確実に付き合って下さい・・・どころか、抱いてくださいとすらお願いする。
色恋に関して鈍い南でさえそう思うのだ。モテない理由がない。

「って、お前こそ、俺なんかで・・・」

と弱気になっても仕方のないことだろう。南には森川を傷つけた前科がある。
それに、自分でお願いしておいて何だが、森川にはもっとふさわしい人間がいるはずなのに。
例えば、神崎のような・・・自分で思って凹んだ。あの自分を見透かすような男には勝てる気がしない。

(本当に俺も変わったよな・・・)

以前なら、別に独りであることに恐怖を抱くことなどなかった。
独りであることが当たり前であれば、それに物足りないと思うことはないのだから・・・それが前の南だった。
だが、今は違う。森川が側にいてくれるようになって、大切な人と共にあることの悦びを知り、彼を失う恐怖も知ってしまった。今更独りには・・・なりたくない。



「はぁ・・・」



森川が盛大にため息をつき、南はビクつくのを隠せなかった。
自分はみっともないだろうか?女々しいだろうか?
そして・・・そんな自分はイヤだろうか。
あぁ、確かこれまでの女の子も、そんなところが嫌だったのか。

「南ねぇ・・・ひょっとして、俺は男なら誰だっていい奴だと思ってる?」

『そんなことはない!』南は即答する。
首肯すれば確実に森川に殺されそうだが、そんな男じゃないことくらい彼にも分かっている。だからこそ複雑なのだ。
今まで南に近づいてきた女は、彼の顔が目的だった。
だからこそ、離れるのも早かった。そういうのであれば、まだ分かるのだ。

「南は・・・そりゃイケメンだけど、モテるのは知ってるけど、俺、どっちかというと可愛い系が好きだし・・・」

ぐさっ!南に痛恨の一撃。南は再起不能寸前のダメージを受ける。
この際森川に愛されるような可愛い系になりたい!と思ったかどうか・・・それは南しか知らない。
確かに言われてみればそうだ。彼が直前に付き合った神崎もカッコイイし、認めるのは極めて腹立たしいが、性格を抜かせば完璧に近い。
しかし、彼はイレギュラーかもしれない。
本来森川は世話好きな男で、可愛い子や母性本能?がくすぐられるような子を見ると放っておけないタイプだ。
そういえば・・・南が知っている限りで森川と付き合っていたのは、神崎の他に桐生貴之という神崎の従弟がいたが、考えてみたら彼は森川のドストライクゾーンだった。

「しかも、南は見た目によらず甘えたで、自分じゃ何もできないから手がかかるし・・・俺、母親じゃないのに」

と、容赦がないが、精神的にだけでなく、実生活でも森川に依存しまくっている南には反論することができない。

「でも、俺が側にいてやらなきゃ・・・って思うんだよね。
お前といたら苦労するのは目に見えてるのに・・・俺、マゾなのかな・・・」

いや、それはない・・・心の中で反論する。
普段自分らをからかうドSな先輩達がいるので目立たないが、実は森川はSだ・・・彼の尻に敷かれている南は断言する。

「やっぱ・・・南だからなんだろうな。
悔しいけど、お前がいないと調子狂うのも事実だし。
ったく、感謝しろよ?お前と一緒にいたいというモノ好きは俺以外にいないと思うよ・・・」

と何故か困ったようにつぶやかれ、南は一気に浮上した。
多分先ほどの問いの答えも一緒だ。別に男だからというわけじゃない。森川だからこそ、特別なのだ。
彼ならどんな自分でも受け入れてくれる。厄介だと思っていようと、見捨てずに側にいてくれる。魅かれないはずがない。

「あ、お前、今嬉しいと思っただろ」

容赦なく心の中身を指摘され、自分が火照るのを感じた。
嬉しくないはずがない。大好きな人に『お前だから云々』と言われ、嬉しくない男など世の中にいるはずがない。
いたら教えてほしいものだ。

「ん・・・」

でも、それしか言えない。舞い上がっている自分の心を表すには、口下手すぎる。
だが、森川はそんな南の気持ちを察してくれたようで、笑みが心底嬉しそうなものとへ変わる。

(こいつ、こんなに・・・)

見なれたはずなのに、キレイというか、カッコイイというか。心臓が高鳴るのが止まらない。
この動悸というか、トキメキは一体何なんだろう?



(まさか、これって・・・)



独りの人間のことを考えただけで、浮いたり沈んだり、頭がぐるぐるしてしまったり・・・その気持ちの正体に気付いた途端、沸点を越えた。
その気持ちは今まで付き合ってきた女の子に感じていたものなんかとは、全然違う。
こんな気持ちは初めてだ。よもや人生で初めて本気で好きになったのが、親友になるとは・・・。

「ちょ、南!」

自分のキャパを大いに越えて突っ伏した南を心配する声が聞こえるようだが、彼の耳には入らない。



(まさか20で初恋・・・あり得ねぇ・・・)



自分でも衝撃なのに、このことを森川に言ったらどんな反応をするだろうか?
喜んでくれるだろうか?それとも『見た目によらず・・・』と笑うだろうか?

(・・・恥ずかしいから言えないけどな)

今なら悶絶死する自信がある・・・というか、すでにそうしかけている。
でも、いずれは声に出して言いたいと思うのも事実だ。
思っているだけではダメであることは、先日嫌というほど思い知った。
でも、まだそうするには勇気が足りないのも事実で、もしそれができるのであれば、神様だろうとお星様だろうと、なんだってお願いしてやる。

「おーい、南ー」

と、何やら森川がつついているような気がする。おまけに何だか髪を引っ張って・・・あまり恋人同士というには色気はなかったが、
そんな付き合い方はいままでになく、それはそれで新鮮だった。
今のところ彼らの間にセクシュアルなことはないが、それでも満ち溢れている自分を感じる。
これも南にとって初めての気持ち。
こんな日が続けばいいな・・・そんなことを祈りながらほのぼのとした幸せをかみしめていた南だった。



The End



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