11話

その『仕方ない』とはいったい何を表わしているのだろうか?この関係をなかったことにするということなのだろうか?




「朋久さん・・・?」



だから洋介は不安になる。今までは当たり前のように側にいて、朋久が洋介から離れるということは想像したことはなかった。
だけど、もし彼が洋介を見限ったというのなら、決してそれはあり得ない話ではない。



(どーしたらいいんだろ)


洋介は朋久を引き留める術を知らない。幼馴染でありながらも全然彼のことを見ていなかった自分に気づく。だが、洋介の苦悩に気づいているのかどうか、朋久が続ける。言葉を紡ぐ彼の瞳は穏やかで優しげだ。

「ちゃんと自分の気持ちを伝えなかった僕が悪いんだから・・・君を責めるのも変な話か。
僕は洋介くんが好きだ。だから、僕と付き合ってほしい。
いっておくけど、『どこかに行くけど付き合って』とかいう類のものじゃないよ。
洋介くんが望む・・・かどうかは知らないけど、デートしてキスして・・・その後もしたいと思ってる。
だから、今度は真面目に答えてほしいんだ」


朋久の二度目の告白。一度目は洋介のほうで冗談と受け取ったせいで、朋久を傷つけることになった。
だから、今度は真剣に答えなければならない。今の自分の気持ちはどうなのかというと・・・。


「あ、別に今すぐ答えなくていいからね!」

だが、答える前に先制攻撃。拒否されることを恐れているのだろうか?それとも答える時間をくれたのだろうか?
そこのところは洋介には分らないが、朋久の気持ちに甘えて今答えなければ、この先ずっと変わらないことは洋介には分かっている。


「いいよ」

「洋介くん・・・」

答えたところ、朋久が脱力した。彼は甘い返事をしてほしかったのだろう。『俺も朋久さんが好き』とか、その手の言葉を。
もちろん洋介も朋久のことは好きだ。朋久が洋介のことを愛しているのは、彼にとっては嬉しいことだ。
だが、今の洋介の気持ちがLIKEであるかLOVEであるかはまだわからない。だから、ここで『愛してる』という言葉を使うことは、朋久をだますことになるだろう。


「仕方ないじゃない。俺、今まで誰とも付き合ったことないんだし」

だから、これが洋介の気持ち。付き合うのは朋久が初めてなのだ。それだけ洋介にとっては大きなことで・・・。

「だから、俺にとっての初めては朋久さんってこと・・・それじゃだめかな」

つまり、洋介のすべてを朋久に捧げるということ。もうそれはLOVEの領域なのでは?という気がしないでもないが、あえてそれは朋久には伝えない。
そんなことをしたら変に誤解して朋久が悲しむのは分かっているから。



「それじゃだめだ・・・って言えないよ、ったく。君は・・・あー、もーいい!」


突然とち狂ったように悶絶する朋久。穏やかで比較的紳士な彼にはあり得ない行動だったが、その顔には妙に赤くて。

(ひょっとして・・・照れてる?)

どうやら洋介の言葉が相当つぼに入ってしまったようで、ゆでダコのようになってしまった。

(なんだか・・・とんでもなくやばいかも)

赤くなっている朋久を見る洋介の心臓が、不自然なくらい脈打ち始める。つまり、人のことなどとやかく言えない状態にあるということだ。

「僕はちゃんと付き合ってと言ったからね!
今まではいろいろ大目に見てたけど、今度からはちゃんとお付き合いしてもらうから・・・ちなみに、今の『付き合う』は交際の『付き合う』だけじゃなくて、『どこか行くけど一緒に行こう』的な『付き合う』も含まれてるから」


どうも朋久は洋介の前科に対し、非常に根に持っているようだ。一般的にはウザいのかもしれないが、『朋久は淡白だ』と思っていた洋介にとってはその気持ちが嬉しい。
自分との約束が彼にとっても大事なものだったことがわかったから。



「わ、わかったよ。それなら今からどこか行く?どうせ朋久さんも暇なんだよね?」


「暇とはなんですか、暇とは。時間作ってと言ったのは洋介くんでしょうが」


そう文句は言いながらも、行く気は満々だ・・・が。


(行くって、どこ行けばいいんだろ)


今までに二人でお出かけする機会はほとんどなく・・・この恋は前途多難なようだ。



えんど



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