第11夜

途中で放り出す・・・仁科はそう思っているのだろうか。残念ながら真鍋はそこまで―放り出すような人間を相手にするほどやさしくはない。


「俺はそんな人間じゃないぞ。それに・・・そんなことしたら、夢見が悪い。
だけど、何でもしてやれるわけじゃないからな。お前じゃないとできないことだってある」


仁科の不安はそこにあったらしい。今まで彼が手にすることのなかったであろう優しさだから、すがりつくのが怖いのかもしれない。
『失うことに対する恐怖』それは仁科も嫌というほど味わっているから、そう思うのも無理はない。
だが、真鍋にしてやれることは、真鍋を独りで歩けるよう支えてやることだけだ。




「・・・ありがと。おかげで安心した。んじゃ、真鍋さん・・・友達からでよろしくお願いします」



ぎゅっと力を込める仁科を、優しく抱きしめてやる。
これではまるで恋人同士だ・・・そう思ったが、恥ずかしさもあり、それには触れないでおいた。
だが男同士というのもなかなか悪くはない・・・そう思うのは、もともと真鍋にその素質があったからなのだろうか。
それとも、腕の中の少年が仁科だからなのだろうか。それはまだ認めたくはなかった。できることなら、兄みたいな存在として、仁科のそばに付いてやりたかった。




「あぁ・・・よろしく・・・って・・・ん・・・んん?」



いきなり口を封じられた。しかも、同じ口で、だ。つまり・・・キスというやつなのだが、それがなんともたどたどしい。
仁科が遊んでいないということが分かり、一安心する真鍋。とはいえ、不意打ちで奪われたのも癪だったため、仕返しをすることにする。


「ん・・・ふ・・・」

離そうとした仁科の口に、真鍋のそれをつける。仁科にそれを拒む素振りはなかったため、かなり調子に乗ってむさぼっていく真鍋。艶やかな仁科の唇は、同じ男と言えども全く抵抗はなかった。



「真鍋・・・さん・・・キス上手すぎ・・・俺、非常にやばいかも」



そうは言うが、本当にやばいのは、真鍋のほうかもしれない。男と口付けを交わすのならまだしも、それを心地よいと思ってしまったのだから・・・。

「・・・どうやばいんだ?」

「えっち・・・してほしい・・・って言いたくなりそう」

「って、言ってるようなものじゃないか」

「まぁね。俺もあまり自分がゲイって思ってたわけじゃないから男としたいって思うことはあまりなかったけど・・・真鍋さんは別格」

「それは嬉しいことだな」

とは言っていたものの、真鍋は素直に喜んではいなかった。仁科が自分に性欲を持つのは構わない。
そう思っている時点で危険水域に達していると言われてしまえば返す言葉もないが、それは彼にとって些細なことでしかなかった。
本当に大切なことは、今セックスすることが本当に彼にとってよいことであるか、だ。


「そう言いながら、あまり嬉しくなさそうなんだけど・・・」

「まぁ、複雑なことは確かだな。本当に今して後悔しないか?」

「それは・・・」

「お前が今フリーで誰も好きなやつがいないというのなら、成り行きでしたって構わないと思ってる。要は入れる穴が前になるか後ろになるかの違いなんだろう。
だが、仁科には好きなやつがいるんだろう?」






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