Memory〜Page 2.5

「あぁ、麗しの温泉旅行・・・なのに・・・どーしておまけがついてくるのよ!!」

そう、季節は春爛漫、建前は新婚旅行、本音は進学祝として僕は瀬谷瑞樹少年を旅行に誘ったつもりだったんだけど、ほかの連中は抜け駆けするな、当の本人はせっかく旅行するんだから家族一緒がいいと言い張ってしまったせいで、まぁ、大所帯の旅行になってしまったね。あ、せっかくだから自己紹介しておこう。僕は紅林博美。女みたいな名前で、まぁ、諸事情によって見た目もそれらしくしているから女に見えるけど、本当は男。いつもは結構オネエになってたけど、瑞樹が来てからは男に戻る回数も多くなってきたかな。瑞樹については僕も男として見たいからね。

僕は麻生の家の家政婦みたいなことをしている。「みたい」と言うのは、僕は給料をもらって生活しているわけじゃないからなんだ。僕自身一応は好きでこの家にいるし、副業でやっているのがかなりの儲けなんで、今は別に生活に困っているわけではない。まぁ、時々は小遣いと称した給料を押し付けられるけど、それは貯金に回している。それを知れば証券会社の人に「国の活性化のために投資しなさい」とか言われて、上がるのかどうかも分からない株式を勧められそうだけどね。まぁ、証券投資は自分の金で行うとして、大好きだった先輩からいただいたお金は、大切に老後のために取っておくのです。

そうそう、多分三つの名字が出てきたことに疑問を持った人もいるだろうね。まぁ、もともと他人の僕のが違うのはともかくとして、なぜ瑞樹が麻生の名字ではないのかというとね、瑞樹の実の父、麻生達樹先輩と実母、瀬谷律子さんの間にできたことは事実なんだけど、結婚する前に二人が別れた結果、瑞樹が麻生姓じゃなくなったんだよ。律子さんが亡くなって先輩に引き取られても、律子さんを気遣ってか、というか、改姓すると色々と支障もきたすので、瑞樹は瀬谷姓のままであるみたいだ。あ、すっかり忘れていた。今は温泉に漬かっていたんだった。ちょっとうるさい声が僕を現実に引き戻した。

「そんなの、二人だけで行かせたら瑞樹のやつが泣いて帰ってくるからに決まってるだろ!」

生意気な口調で明らかに僕を挑発しているのが麻生三男、大地。この子は僕のオネエ的部分が嫌いでしょっちゅう僕を見ると喧嘩を売ってくるけど、そんなところが可愛くてたまらない。しかも最近は僕が瑞樹といる時間が多いから、そっちの部分でも襲撃する理由があるらしい。さっきも脱衣所で僕を盗み見た挙句、しょんぼりとして露天風呂に行ってしまった。今回はどうやら僕の不戦勝らしいけど、いったい何を競おうとしたんだろうね。

「まぁまぁ、せっかくの温泉です。ゆったりとしましょう」

穏やかに仲裁してきたのが、麻生家長男、泉。見た目どおり頭のいい子で、表面は穏やかだけど、麻生家の中ではこの子が一番食えない。結構裏で何かたくらんでいるかもしれない。勿論そう聞くと、どうでしょうねぇと答えるだろうけど。

「そうだ。あんな馬鹿はほうっておいて、俺と楽しもう?あんた、俺の肌好きだろ?」

ちなみにこの男、睨むと恐そうだけど実はとっても優しい子は、次男和也。年は泉と同じだけど、理由があって(引き取られたのが泉より後)麻生家の次男。ちょっとダークなハンサムで、身体も結構締まっていて僕的には麻生三兄弟の中では一番気に入っているんだけど、この子はどうも瑞樹のことを気に入って僕に接近しているみたいだね。まぁ、泉よりは本心が読みやすい。

そんな和也は結構下ネタが好きな様子で、僕とのやり取りにはそういう話題が多い。でも、全然下品な物言いはしない。彼が言うとどんな言葉でも様になっている気がする。まぁ、彼の特権だね。

「あら、3P?面白そうね、って・・・そうはいかないわよ!」

「ははは、私も和也が喘ぎまくる図は想像して鳥肌が立ちますねぇ」

「おいおい・・・俺は受けるつもりなんかないぞ?」

とりあえずこの場は諦めて、もっとも和也も本気では言っていないんだけど、邪魔者は端に去ってくれた。これでのんびりと楽しめる・・・。



「本当にいい湯だ。桜もきれいだし・・・」

ここは創業者の趣味なのか、風呂の周りは桜で埋め尽くされている・・・ということはないんだけど、近くに植えているであろう桜の木からお客が来て、一枚、また一枚と気が向いたときに花びらは落ちてくる。もし風呂のすぐ近くに植えていたら、ここは花びらで埋め尽くされて、眺めるのならともかく、風呂として利用するのなら風情のかけらもなかっただろう。この計算されて、決して花びらで埋め尽くされず、なおかつ花見も楽しめる風呂を造った古人のセンスというものに驚きを隠せない。

「そうだね・・・母さんにも見せてあげたかったな」

「律子さんもきっと天国から見ているよ・・・」

この子が瑞樹。僕が溺愛して止まない少年だ。家では僕らは初対面となっているが、実際は僕は彼とは結構長い付き合いである。律子さんと一緒に彼を育てていたことがあるんだ。そう、今でもはっきりと覚えてるよ・・・。