Memory〜Page Three-6〜

「探したよ。ったく、何を勘違いしてるんだか・・・」

「だって、博美さん、父さんと母さんの子だから僕を・・・」

あ、なるほどね。瑞樹の言いたいことはわかった。この子は悩んでいるんだ。自分の必要価値がそこにしかないこと思い込み、苦しんで。確かにそれがあることは否定しないよ。でも、本当に大切なことは、そんなことじゃない。僕は一生の秘密にしようかと思ったことを話そうかと思う。

「本当はね、僕が瑞樹を引き取って育てようかと思ったんだよ」





え?怒ってたのも忘れて彼は驚きに目を見開いた。

「でも、僕と瑞樹は血のつながりが無い。こういうのはね、どうしても血縁が優先されるんだよ。だから僕はそれを利用されてもらった。実際には赤の他人だけど、結婚するつもりだった達樹先輩が引き取れば僕らは一緒に暮らせるからね。もともと親戚とは疎遠だった律子さんだ。達樹先輩が引き取ることに誰も異論はなかった。

瑞樹、僕は君が達樹先輩の子であることを感謝してるんだよ?もしあの人が子を作らなかったら、僕と君が出会うことは無かったんだから。でも、僕が君を好きなのは、二人の子だからじゃない。君だから・・・この手で育ててきた瑞樹だから・・・それは勘違いしないで」

途端、瑞樹がしがみついてきた。嬉しかったらしい。でも、それをされる僕としては、素直に喜べないんです。

「あのねぇ、そうしてくれるのは嬉しいけど、僕がそういう人間であることくらい、分かってるでしょうが」

「・・・博美さんならいい」

抱きつく力を緩めない。僕もつい抱きしめてしまった。でも、瑞樹にはもっと時間をあげたい。今はまだ彼も流されているだけだ。自分が納得するまで考えて、その答えを出してほしい。君の出した答えなら僕はどんな事でも受け入れるから。

「本当に・・・桜がきれいだ」

だから僕はあえてその話題から話を逸らせた。今は二人で桜を楽しみたい。

「そうだね。こうやって夜中に見るのもいいね。独占できるし・・・。今度二人っきりで行きたいね。親子水入らずで・・・」

「だから父親ってのはやめてくれないかなぁ。急に老けた感じがするんだよね。ま、あの子達が邪魔をするから、当分難しいんじゃないかな・・・って瑞樹くん寒いでしょ?」

桜が春を告げているとは言え、夜歩くには、まだまだ寒すぎる。肌を突くような寒さだ。身震いをしてくしゃみをしている瑞樹に一枚かけてあげる。

「・・・暖かい」

「そりゃ、僕が着てたからね」

「じゃなくて、博美さんのにおいがする・・・」

ちょっと待ちなさいよ。さっき身体はしっかりと洗ったはずよ。汗臭くなんか無いんだから。いや、言いたいことは分かるんだけど、何か複雑です。

「父さん・・・ありがと」

だから父さんじゃないって。でも、まぁ、いいか。ごめんね、達樹先輩。違う意味で認めたくないんだけど、瑞樹は可愛い僕の子なんだよね。

「気にしなくていいよ。もっと見ていたいけど、寒いから戻ろうか」

僕らは部屋に戻ることにした。瑞樹のほうから手が差し出されてきたので、僕も握り返した。最後に握ったときはもっと小さかったから、本当に大きくなったものだ。ちょっとジジくさい感傷を秘めつつ、こうして思い出の一ページは刻まれるのであった。