秋雨狂想曲

「・・・雨だな・・・」

「・・・そうだなぁ・・・」

女心と・・・と言うように、校舎から出ると、いつの間にか雨が降ってきた。
夏の勢い良く、しかし短い間降る雨とは違い、秋の雨はしとしとと、長く降るから不思議なものである。
俺、水谷樹と、独特の魅力の持ち主である緋村皐月は、あろうことか傘を忘れてしまっていた。
しかも、この分だと中々止むことはないだろう。俺が傘を持っていれば、二人で差して帰ることが出来たんだけど・・・いつもは持っているくせに、こんなときに限って持っていない自分を恨む俺。

「・・・パクるか」

そんな緋村は俺の親友かつ恋人なのだ。まぁ、その考え自体には賛成だけど、どんな些細なものであっても、
恋人が窃盗犯であるのは困る。かと言って、俺が窃盗犯になるつもりは毛頭ない・・・後で返すのが面倒くさいからに他ならない。だからしかたなく濡れて帰ることを選んだ。

「傘パクったところで捕まるはずないだろう」

もしそれで捕まれば、拘置所はいっぱいになる。パクっても家が傘であふれてしまう。
そんな「常識人」な俺に彼はぶつくさと文句を言ったが、やっぱり返すのが面倒だったらしい。大人しくそれに従った。

「しかし・・・よく降るよな・・・」

周りが慌しく走る中、俺たちはのんびりと歩いていた。別に濡れたいわけではない。
人の早さでは走ろうが歩こうが、大差はない。下手に走れば、こけるのがオチだ。
かと言って、チャリ通できるほど、家は遠くない。まぁ、学校から近いから濡れたところで問題はないだろう。

「まぁな。秋だから・・・」

いつもとは違い、けだるそうに濡れた髪をかきあげる緋村。残念ながらそれに色気は感じられない。
彼は雨が嫌いらしい。普通誰もがそうなのだが、緋村は特にテンションが下がる。
いつもの能天気な彼も好きだが、こんなときの彼も好きかも知れない。

「・・・上がってくか?」

そんな彼を見かねて俺は提案した。幸い俺の家は学校に近いし、昼なら親父もお袋もいない。
つまり、誰にも彼にも気兼ねする必要はない。二人だけで愛の時間(?)を過ごすことが出来るのだ。

「おぉ!連れ込みですかい?」

そう答えるだけの気力はあったのか、彼はにやりと笑う。
まぁ、否定しても面白みがないので、俺は苦笑しながら「まぁな」と言った・・・。





そういうわけで俺は水谷の家に入らせてもらう。
初めてのことではないが、毎回落ち着いたインテリアに感心してしまう。
恋愛に幻想を抱くのが大好きな水谷のことだから、ファンシー系で攻めるのかと思ったけれど、そんなことは全くないらしい。彼の部屋も、見かけはハンサムな彼にあった、質素なものとなっている。

「・・・どうした?」

彼は部屋を見回している俺を不審に思ったらしい。何と答えようかと彼のほうを向いたところで、俺は凍りついた。

「・・・いや」

思わずどぎまぎしてしまった。もともとモテる男だったけど、水谷はこんなにセクシーだったか?
濡れたワイシャツの下から素肌の色が・・・なんというか、官能的って感じ。
うわー抱きしめてぇ。抱きしめられてぇ。あーもう、くそっ!
つい俺は発作的に抱きついてしまった。「苦笑するけど許してやる」という顔を見たかったんだけど、彼は純粋に困っていた。

「・・・どうせなら抱きつく前に言ってほしかったんだけど・・・」

恐らく彼は段取りを考えていたのだろう。俺が「抱きしめて」と言ったら、彼はゆっくりと俺を抱きしめる。その逆もまた然り。そうだ、彼はそういう奴だ。もともとノリで付き合っているくせに、どういう生活環境なのか、段取りを考えたくなる。
でもまぁ・・・そういうところも好きなんだけどな。
・・・なんて思っていたところ、彼はいきなり俺のシャツのボタンをはずす。
つまりは、俺の玉のようなお肌が露わとなってしまったのだ。せっかくだからいやーん、恥ずかしい!貞操の危機!
とでも言っておこうかと思ったけれど、考え事をしているみたいなのでやめた。

「うーん・・・いいもの見させてもらいました。だけど、やっぱり脱がすと色気がなくなるな」

恋人相手に何を言うか!それが第三者の意見だろうが、生憎と俺も水谷の考えには賛成だ。
とりあえず俺も彼のを脱がしてみて、それを確認する。ほどほどに鍛えられた身体を見るのは楽しいけど。

「その通り。全部脱がせてはいけないのだよ。一部だけ見せといて、そこから妄想するのが楽しいんだろう」

「だよなぁ、緋村の細い指が俺を暴いていき、俺は彼が中に来るのを待つ・・・しかし彼はひたすら弄んだ挙句・・・」

「おや、今日は受モードかい?こういうのもいいんじゃないか?水谷は恥ずかしがる緋村を無視して、じっと彼を眺める。悶絶する寸前の緋村は小声で『脱がせて』と懇願・・・だが、彼はそうせず、シャツの上から・・・」

「緋村よ・・・お前がそうすると思うか?」

「残念ながらそれはないなぁ。お前こそ大人しく待っているとは思えない」

「そんな前に頂いちゃいますとも」

「同感。てゆーか、互いのちらりに乾杯!」

あははと俺が笑い、つられて水谷も爆笑する。結局俺たちはちらりが好きな、健全高校生なのである。
ともあれ、たまには雨に感謝してやろう。こんなセクシーな水谷を見れたのだ。
そして、水谷はスケスケの俺を見ることが出来たのだ。喜んでいるに違いない。彼も何だかにやけている。
そんな夏から秋に変わる秋雨の日、俺と水谷は互いに危ない笑みを浮かべたのだった・・・。



めでたしめでたし



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