王様ゲームで一波乱?


・・・何だこれは。廊下の壁に貼られた一枚の写真に俺水谷樹は戦慄を覚える。
「何だって・・・どう見てもこの前やったアレの写真だろう」
隣でうちわを持ちながら不本意そうに返事するのは、この写真のもう一人の当事者である恋人兼親友殿の緋村皐月。
不機嫌なのは、その写真が理由でなく、今日が暑いからに他ならない。それは俺も同様で、暑くてイライラしている日にこんな面倒な問題を起こさないでほしい・・・というのが本音。別にこの写真自体に文句を言うつもりはない。

「まさかここまで広まっているとはな・・・」

ため息をつきながら俺は写真をはずす。その写真というのが実に厄介なもので、俺たちがキスしている「ように見える」写真なのだ。いくらで出回っているのだろう?そして、誰がぼろもうけしているだろう?

俺らの知らないところで大笑いしている容疑者を締め上げたくなった。

「よく見れば唇と唇の間にある黒い物体が見えるのにな・・・。しかも、俺らには収入がない」
くすりと彼は笑う。そのとおり、これはなんも怪しい写真ではなく、王様ゲームで罰ゲームとして、王道中の王道をやらされた。そのときのものだ。

「でも・・・どうせならキスしたほうがよかったかもな」
半分以上本気で言ってみた。同じ噂されるのなら、キスをしておいたほうがよかったと思う。
そんな俺に彼は、本気か冗談かの区別のつかない口調で返してきた。
「そしたらそれこそホモと噂されるぞ?俺は別にいいけどな」

そうは言いながらも、実際に俺らはホモと噂されている。人が言うには、いつもべったり、スキンシップをしているから・・・らしい。勿論、俺たちは恋人として付き合ってはいるのだが、あくまでも親友の延長線ということで・・・


以前と全く変わっていない


のだ。つまりは、


色気なぞ微塵もあるはずがないし、当然生まれるはずがあるわけない


のである。
だから、噂の原因を言うと、俺も彼も人の身体に触れるのが好きだからであって、断じてホモが理由だからではない!なぜなら、もともと俺も緋村もノンケだからだ。恋人になる前から予測がついていて、それが理由で噂していたのなら、それは超能力者か、よっぽどの暇人ということになる。

「まぁ・・・俺も構わないけど・・・あからさまに言われるのはな・・・」

ため息をつく。今まではそういうことは絶対ないという前提で噂されていた。しかし今度は・・・頭が痛くなりそうだ。
「だったら見せつけてやればいいじゃないの。俺様たちが最凶のカップルだということをな」
参ったことに、彼のほうは非情に乗り気でいらっしゃった。でも・・・考えてみたらそうだ。
「せっかく付き合ってるんだもんな。こそこそするのは面白くないな・・・」
と思いつつも、あることに気づく。
「でも・・・それはそれで恥ずかしいが・・・」

彼の言いたいことが分かってしまい、つい俺は苦笑してしまう。もともと俺たちは非常識な始まりをしたから、今更常識を考えても仕方がないのだ。でも・・・水谷はどうも納得がいかないらしい。まぁ、それは仕方ないか。もともと水谷は結構恋愛に幻想を抱いているから。
「あ、俺と噂になるのが・・・嫌なんだ」
もっとも、それ自体は嫌じゃないみたいなので、ちょっと傷つきました的表情にしてみる。そんな俺を見てしまったのか、水谷はやっと開き直った。
「秘密にするなら堂々と(?)付き合ってやる」
何を言っているのかは不明だが、どうやら恋人同士になったことは正式発表しないらしい。譲歩して言っているみたいなので、柔らかな笑みを見せてみる。彼はこんな俺が好きらしい。
「秘密の恋か・・・いいねぇ。でも、スキンシップが・・・」
俺たちの不思議な態度で周りを躍らせるのも面白い。でも、そうなるとスキンシップの回数が減りそうだ。
あ〜あ、と大げさにため息をつき、世にも不幸ですといった顔を見せてみた。そんな俺に彼はちょっと困ったぞという顔をする。俺はそんなときの彼が好きなのだ。見ていて実に飽きない。
「スキンシップも許してやる。その代わり・・・お前受けろよな」
その言葉に大して意味を持たせているわけではないことくらい知っているので、そんな彼に即答。
「そんくらい、解ってますよ。俺はお前さんの愛の奴隷だもの・・・。俺の尻は黄金の桃尻だからな」
「それは奇遇だな。俺のナニは世界にまたとない・・・」
同時に吹き出した。
「カップリング、決定か。つまりは・・・水谷×緋村ってことかい?」
「まぁ、言ってみただけで、俺自身は別に緋村×水谷でもいいんだけどな」
俺自身はあまり上下は気にしていない。そりゃ、下はそれなりに痛いらしいけど・・・でも、水谷がくれるのなら、その痛みも快感となるだろう・・・という考えではある。が。
「やっていないからそういうことが言えるんだよな」
すかさずツッコミを入れ、俺たちは大爆笑。結局上下の結論は持ち越しとなった。

「あー・・・そういえば、あの写真、どうするよ」
先に思い出したのは、俺のほうだった。俺は今更どう噂されてもかまわないんだけど、水谷という男は不思議な男だ。勝手にナンパしておいたくせに、妙に常識人なところがある。今でも悩んでいたら、それはそれでかわいそうだと思い、一応聞いてやる。
「人目に曝されるのは、別にどうでもよくなったよ・・・」
疲れたように笑った。どうやらやっと腹をくくったらしい。哀れな男だと思いつつ、心の中では謝ってやった。でも・・・それ自体はもともとどうでもよくて、適当に理由をつけてごねていただけらしい。最後まで嫌だったのは、噂されることではなかったみたいである。
「噂をされるのが嫌なら、わざわざスキンシップなどしているはずがないさ。でも、これだけは譲るわけにはいかないんだ・・・」
「じゃぁ、俺からも条件を言わせてもらうぜ。俺ばっかり譲歩するのも嫌だからな」


「やっぱり写真は金を取ろう。で、売り上げは俺たちで山分けだ」


ただで見世物になるの面白くない。これが俺たちの結論なのです。素晴らしいものを見たら、ちゃんと対価を払いましょう。俺と彼はにやりと凶悪な笑みを浮かべたのだった・・・。


じ・えんど



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