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我ながら現金なものだ・・・岬を見つめながら柚月はため息をついた。


(何でこいつは・・・)

情けない柚月も受け入れてくれるのだろうか・・・などとやることをやってから思っても仕方のないことかもしれない。
自分にどんな思惑があろうと、岬は自分を選んでくれているのだ。
自分がどこまでヘタレであろうとも・・・いや、実はヘタレな柚月が好きなのか?嬉しいような悲しいような・・・独り悶々としていると・・・。




「人のこと見て何してんですか?」



前にも似たようなシチュエーションがあったことを思い出す。
だが、今回は唇を盗まなかったおかげか、殺気はこもっていない。


「あー・・・お前って俺のどこが好きなんだ?」

言い訳の言葉が特に思いつかなかったので、質問を返す。質問の答えになっていないことは承知していたが。

「ん・・・ヘタレてるとこですかね」

即答され、柚月はちょっと凹んだ。岬にとって常に格好いい存在でありたかったのに。

「そんな顔、俺にしか見せてくれないですから」

と言われ、一気に彼のテンションも浮上する。まったく現金なものだ。

「完璧なようで結構見栄を張ってるとこも、実は結構過保護で独占欲強くて、エロイいところも、実は敏感なところも、俺がよがってるのを見て本当は『ちょっとくらい俺に抱かれたいな』と思いつつも、やっぱり痛いのは嫌だとビビっているところも・・・」

「余り褒められているような気がしないのは気のせいか?」

「ばれましたか。でも・・・そんな先輩が俺は好きなんです。ですから・・・」

「ですから・・・?」

「大学行っても完璧な仮面をつけてくれると嬉しいかな?」

何故仮面なのか?と思ったが、それはヘタレなところを見せるなということらしい。
勿論柚月に否応はない。ただその一方で悪戯心が芽生えたことも事実。


「俺が向こうで愛想振りまいても良いってわけだな」

う・・・岬が固まった。それをいい事に柚月が畳み掛ける。

「つまり、多くの友人を作って仲良くしても・・・」

「そ・・・それは・・・」

意地悪げに柚月に見つめられ、岬は降参した。

「だめです。やっぱ先輩は近寄りがたい存在でいてください。他人に愛想良くするのは、ほどほどにしてください」

別に愛想良くすることはどうでもいい相手にだって出来る。
だが、自分自身をさらけ出すのは後にも先にも岬しかいない・・・そのくらいは柚月だって解っている。
もちろん、岬もそれを知っている上で言っているのだろう。だが、本当に心配なのは自分ではない。


「お前も程々にしておけよな」

柚月と岬、どちらが話しやすいか・・・100人に聞いたら90人が岬と答えるだろう。柚月と違って岬には話しかけやすい雰囲気がある。

「んなこと解ってます。だけど・・・俺って結構寂しがりですから」

「心配するな」

その言葉の真意は分かっている。寂しさをほかのもので紛らわせる暇など与えてやるつもりはない。
学校が離れていようとそんなことは柚月にはどうでもいいことなのだ。愛があればそんな壁はあってないようなもの・・・。


「俺のほうが・・・」

愛に飢えているのは柚月も一緒。だから、どんなことがあっても岬に会う時間を作ってやるつもりだ。

「ま、岬が俺の大学に来ればそれだけ一緒にいる時間も増えるんだがな」

それを聞いた岬が苦笑いした。彼の学力では少し厳しい様子。だが、それをどうにかしてしまうのが柚月だ。

「と、いうことで今度からは家庭教師も兼任させてもらうから」

岬の意向を聞かなかったが、どうせ反対はしない・・・そのくらいわかっている。



「ちなみに、性教育もオッケーだからな」



その言葉には予想通り『変態』と返ってきたが、黙殺した。このやり取りがいつもっぽくて心地が良い。
別に自分が卒業しても、急に何かが変わるわけでないことが実感できるから。不安を感じる必要がないことが分かるから。


「ったく、仕方ないですね。でも・・・俺の身体一つで先輩が側にいてくれるのなら安いものです」

そう言って柚月のセクハラ発言を受け入れてしまうのが岬。



「大丈夫です。何があっても俺は」



『貴方の側にいるから』



愛しい少年はそっと耳元で囁いた。その言葉さえあれば、いくらだって前へ進むことができるのだ・・・。



END

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