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ぼーっとした感覚で目を開く岬。朝日がまぶしいが、気に障るほどでもない。
気に障るのは、隣に寝ていたはずの柚月がいなかったことである。


(ったく・・・人を置いて出かけやがって・・・)

目が覚めたら自分独り・・・それがどれだけ寂しいことなのか柚月はわかっているのだろうか?分かっているなら出かけないか・・・と突っ込みを入れても、空しいだけだ。



(というか・・・俺・・・やっちゃったんだな・・・)



何気なく昨夜の情事を思い出し、一人赤面する。我ながら相当エロいな・・・と感心せざるを得なかった。
一度果てて、まったりとした恋人モードに突入してしまい・・・やる気のかけらもなかった(であろう)柚月を無理やり押し倒し、自分からまたがったという・・・後から考えると悪夢に近い初体験をしてしまったのだ。
何で?と聞かれても、それだけ長く柚月と繋がっていたかったからとしか言いようがない。


「お、起きたか・・・」

ぼやけていたピントを合わせると、私服の柚月がいた。そういえば彼の私服は初めて見た・・・と他人事のように思ったが、それで一度実家に戻ったことを察する。

(それならずっとそばにいてくれればよかったのに・・・)

そんな不満があったのだが、それはそれで仕方ないと思い直す。柚月はあれから家に帰らなかったのだ。家族に心配をかけまいという彼自身の配慮なのかもしれない。
が、私服である柚月に首をかしげる。


「先輩・・・今何時ですか・・・?」

なぜ制服でなく、私服なのか・・・今日は休日ではないはずだ。

「今?そろそろ学校が始まる頃だが・・・」

あっさりと答える柚月。『え!!』驚きのあまり飛び起きようとする岬。だが同時に想像を絶する痛みが下半身を襲い、一気に沈み込む。

「ちょっと・・・先輩・・・学校は・・・!!!」

「だるいから休んだ」

「だるいからじゃないでしょうが!」

今からならまだ遅刻で許される、またもや起き上がろうとする岬だったが、苦痛に阻まれ、それはかなわなかった。



「っ・・・・!」



「ほら、そんなじゃ動けないだろ?」

どうやら、柚月がだるくて休んだのではなく、岬の身体を気にして休んだらしい。

「別に・・・気にしなくたっていいのに・・・」

柚月は生徒会長なのだ。こんなところで休んだらいろいろな方面に迷惑がかかる。それを自覚しているのだろうか・・・と思っても、仕方がないことに気づく。
柚月はそんなことを気にする人間ではないのだ。


「さすがに昨日は無理させたからなぁ・・・」

ニヤニヤしながら意地悪そうに岬を見つめてくる。しかし、岬も岬。おとなしく彼の術中にはまっているはずがなかった。

「仕方ないでしょう。気持ちよかったんだから・・・」

『な!!』瞬間柚月が沸騰する。まさか岬がそんなことを口にするとは思わなかったのだろう。かなり動揺した様子を見せる。それをいいことに岬は柚月を抱きしめて続ける。

「お・・・おーい・・・」

「先輩のテクニックに感謝かな。鍛え上げられたその・・・」

「だから、悪かったって」

「なんてね。でも、よかったのはホント。何か先輩すごく不安そうだったけど・・・俺、逃げなかったでしょ?」

「あぁ、そうだな。本当に感謝してる」

ぎゅっとしがみついてくる柚月。岬はそんな余裕のない彼が好きだった。

「ほんとは・・・信じられない部分もあったんだ。お前みたいに『九条柚月』を知った上で求めてくれた奴なんかいなかったから。
俺の金目当てなら、まだ対処の仕方もわかってるんだけど、お前はそうじゃない。
だから、どう進んだらいいのか・・・本当に手探りだったんだ。
どうやったら岬に嫌われないで済むか・・・実は結構びくびくしてた」


「馬鹿だな・・・先輩。もう少し自信を持ってもいいと思うよ。だって、この俺が抱かれてもいいと思ったんだよ?」

気に食わない部分もあるが・・・今まで柚月に抱かれた人たちは、別に九条の名前だけを見ていたわけではないだろう。
確かにきっかけはそうであるのかもしれない。見た目もよければ、家柄も良い。だが・・・これだけ素敵な男なのだ。家だけに惹かれるものなのだろうか?




(ほんと・・・鈍いな)



何で自分の魅力には頓着しないのだろうか・・・それが不思議で仕方がない。柚月自身があまり好きでないところが、一番の魅力なのに・・・。でも、いいのだ。今それを知っているのが自分だけいれば。

「ん・・・何がおかしい?」

「別に。ただ・・・先輩が好きだな・・・と思っただけですよ」

それだけ言ってぎゅっと抱きしめる力を強くする。

「お前、結構たらしだな」

苦笑いしながら柚月が腕の中でつぶやく。

「先輩には・・・負けますよ」

謙遜でもなんでもなかった。本当に柚月はすごいと思っている。出会いはあまりいいものではなかったのに、脅されもしたくせに、岬の心はすでに柚月に奪われている。
恋愛に勝敗をつけるのであれば、とっくに彼に負けているのだ。


「この俺を落としちゃったんだから・・・責任は取ってくれますよね」

「あぁ、当然だ。何でもとってやる!で・・・せっかくサボったんだ・・・もう一度・・・するか」

腕の中に納まっていた柚月が元気を取り戻したのか、岬を組み敷く。ふとそこを触ってみると・・・確かに元気であふれていた。

「ほんと先輩ってば絶倫なんだから。嫌だと言ったらどうするんですか?」

「お前がそれを言うか。疲れた人を無理やり犯したお前が・・・」

「逆レイプですか?なんだかんだ言って俺を貪ったくせに」

「男同士でも逆レイプって使うのか・・・ま、嫌ならやらないけど」

「冗談。いいですよ。今度は先輩の好きなままに・・・」

くすりと笑って同意する。時間が許す限り、全身で柚月を感じていたかった。自分だけを見てほしかった。
また足腰が立たなくなる・・・そう思ったが、そうなったときには柚月が責任を取ればいい。思いっきり甘えてしまおう・・・後々のことをしっかりと考えている岬。
朝っぱらからお盛んなことだ・・・名残の月が笑っているかどうか・・・幸せな本人には関係のないことだった。



THE END

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