Forget-me-not 番外編0〜タイトル未設定〜

「うー・・・暑い・・・」

真夏の昼下がり、俺は部屋で突っ伏していた。理由は簡単。エアコンが故障しているから・・・。
どこか出ようにも、ここ最近の体温に匹敵する猛暑では無茶というものだ・・・。

「光輝兄・・・エアコン買ってよ」

「ここはアパート」

即答された。

「じゃ、せめて扇風機・・・」

「給料日前」

やっぱり即答される。

「家帰る。光輝兄、送って・・・」

本当は光輝兄と離れたくなかったんだけど、今回ばかりは暑くて死にそうだった・・・。実家のエアコンが懐かしい。





「・・・暑さなんて忘れさせてやるよ」

暑さで目が据わっている兄がそこにいて、俺は押し倒される。

「俺・・・初めてだから・・・優しく・・・して・・・」

と言いながら、光輝兄のアレをズボンの上から触れてみるんだけど・・・



「・・・・・・・」

「・・・・・・・」



「今日も暑いよね」


「本当に・・・馬鹿らしいくらい暑い・・・」





そんなわけで、俺は平謝りする兄を引きずってデートすることにした。肌が焼けそうに熱い・・・。
車を使うという手もあるにはあるんだけど・・・やっぱり乗るのが恐い。
親が運転するのは問題ないんだけど、光輝兄の隣に座ろうとすると、どうしても身体が動かなくなる。
あ、別に光輝兄の運転が下手というわけじゃないんだ。ただ・・・俺には消すことのできないトラウマだし・・・。



左目の見えない光輝兄に運転させるわけにはいかないんだ・・・。





(暑い・・・暑すぎる)

最高気温37℃の中を、好き好んで歩く奴がどこにいるのだろうか。俺の愛車はしっかりとあるのに・・・。

アルバイトと親からの借金で買った黒のセダンは事故で大破したけれど、それは現実的な話によって代わりの車が来た。
まぁ、俺は少なくとも瞬を乗せているときに関しては安全に気をつけているので、落ち度などあるはずがない。
悪いのは酔払い運転をしたあのトラックだ、というわけで、下世話な話・・・ということだ。
とはいえ、あの日から運転をすることはなかった。片目が・・・というのもあるけれど、乗せたい奴が乗りたがらないから、運転する気などおきるはずがない・・・。



でも・・・理由は解っている。



事故のトラウマだ。



俺と乗ると、事故に遭う、そう思い込んでいる。その証拠に、親が運転するのなら平気で乗ることが出来る。



(馬鹿だな・・・俺はお前を護ってやるって言ったんだぞ?)



俺の視線に気づいたのか、瞬が首をかしげる。

「俺の顔、何かついてる?」

「いや、実は瞬って結構可愛いんだと思ってな」

「な!」




恥ずかしさのあまり、真っ赤になってしまう瞬を置いて、俺はすたすたと歩いていく・・・。