HONEY LOVE



「僕と付き合って」

ある日突然、何の脈絡も無く、一つ上の幼馴染の小松崎隼人に告白してしまった僕桜井充は、のんびりとその返事を待っている。



「え・・・っと・・・」



その肝心の隼人は、何というか・・・呆気にとられている。まぁ、同じ男に告白されるんだ。無理は無いけれどね。
ちなみに、そんな彼は女とは無縁だ。見た目は背も高くてスマートだし、男らしくていいんだけど、それと引き換えに愛想というものをどこかに置き去ったらしい。付き合おうにも女の子は戸惑ってしまう・・・とのこと。

まぁ、そんな年頃の男にしては寂しくてしょうがない彼の側にいてあげたのが、この僕だって訳だ。
家が隣同士ということもあって、古い付き合いだ。それに、向こうの親にはしっかりと頼まれていたし、かく言うこの僕自身がずっと側にいたかったから・・・。


何でこうなったのかな・・・と考えてみたけれど、気がつけば隼人のことが好きになっていたとしか言いようが無い。
こんな無愛想で、あんまり優しくないのに、気がつけば隼人のことで頭がいっぱいだった。だから今までひたすらアタックしてきたのに・・・この人は全然気がつかなかった。
だから僕のほうにも我慢の限界が来たわけで。あらゆるリスクを覚悟して告白したのに。それなのに・・・。


「いい加減返事したらどう?」

何か言ってくれればいいのに、ずっと返事をしないから、いくら能天気と言われる僕だって不安になってしまう。

「いや・・・だからな・・・」

『どうしたものか』と悩んでいるのが、答えなくてもよくわかる。この鉄面皮から言葉を読み出せるのが、僕の得意技なんだけど・・・彼の本心ばかりはまだわからない。

「その・・・」

「あの・・・男なら男らしく言ってくれないと、僕の立場ってものが・・・」

それでも僕はしばらく待つ。何かどうでもいいやと思いかけたころ、隼人は口を開く。





「つき合うったって・・・何が変わるんだ・・・?」





「へ?」





色気のないことを言う隼人に文句を言おうかと思ったけれど、確かに・・・つき合うといったって、何も変わらない・・・哀しいことに何も変わっていないのが事実だ。
その件に関しては奥手な彼が僕に手を出すことはあるはずもないし。
僕の気持ちを否定しなかったけれど、受け入れてもらえたのかどうかも不明で・・・。
まぁ、これ以上の贅沢はいけないか。いつも通りやっていれば何とかなるだろう・・・と思う僕は、なんてプラス思考なんだろう。



「隼人〜デートしよ?」


と、上級生のクラスに遊びに行くのもいつも通り。僕を見て隼人のクラスメートが騒ぎ出すのも変わらず。
そして、わずかに彼がいやそうな顔をするのもいつも通り・・・なはずなんだけど、顔面にひびが入ったのは気のせいだろうか?


「待ってろ。支度する」

と、思ったけれど、そのひびはすぐに修復されていつもの隼人に戻る。結局はいつも通りの展開だった・・・。





「待たせたな」

いつもは準備が終わるまで教室に居座るけれど、げんなりした隼人がかわいそうだったので、僕は校門で待つことにする。
こういうのもデートらしくていいね。いつもと大して変わらないくせに、待ち合わせっていうだけでわくわくする。
これからもたまにはそうしてみよう・・・と思っていたところ、自分の仕事を済ませて隼人が来たようだ。
クラスメートに散々からかわれたようでむすーっとしているけれど、急いで来てくれたのがよくわかる。無神経なようで、実は繊細なところもあるんだよね、この人は。そんなところも僕は好きなんだ。


「ううん・・・待ってるのも好きだから」

正直に言うと、隼人の動きが一気に固まる。ん?ひょっとして・・・照れてる?

「別に・・・そんなに喜ぶことでは無いだろう」

面倒くさそうに言うけれど、これは彼の照れ隠し・・・なんだと思う。でも、実際どれだけ僕が喜んでいるかは気づいてないのだろう。

「本当に・・・鈍いんだから。ま、そんな隼人も好きなんだけどね」

もうちょっと刺激しても許されるかな・・・苦笑いしながら言うと、一気に隼人の顔が沸騰する。

「え?え?ちょっとそれは反則でしょう?」

誰が見ても解るような赤面振り。そんな隼人なんて見たのは初めてだから、僕だって一気に沸騰してしまう。



「反則でもなんでもいい。さっさと行くぞ!」



強引に僕の手を握ってすたすた歩いていく。
隼人、気づいてるのかな?自分から手を取ってくれたの、今が初めてなんだよ?いつも僕が強引に引きずってるからって・・・混乱しすぎて気づいてないようだ。
ま、それでこそ隼人なんだよね。僕は慌てて追いつき、隣に並ぶ。耳が真っ赤で、少しは意識してくれているようだ。それだけで僕の心は浮き足立ってしまう。
可愛いと言ったら殺されるかな・・・そんなことを思いながら僕は何か言葉を捜す。


「ところで・・・どこ行くの?」

「・・・え?」

一気に固まる隼人。どうやら行き先は全く考えていなかった様子で・・・。

「仕方ないな・・・。今日は許してあげるけど、恋人なんだからたまにはエスコートしてよね」

今度は逆に僕のほうが隼人を引っ張り、歩いていく。こちらから誘っておいたものの、行き先が思いつかなかったのは実は僕も同じ。隼人と一緒ならどこに行っても楽しい・・・それしかなくて。
ただ二人で一緒にいたかったから・・・それを言ってみると隼人は・・・撃沈したのだった。





END


いつもお世話になっているアサさまへの誕生日祝いとして書かせていただきました。無愛想攻×無邪気受(ほのぼの)です。
久しぶりの新キャラで四苦八苦はしましたが、楽しく書くことができました。方向性がとんでもないことになっているのはご愛嬌です。
またこの子達の話を書ければ・・・などと、こっそり思っております。
アサさま、お誕生日おめでとうございます。今年一年がよいものとなるよう、こっそりとお祈り申し上げます。


秋山氏