HOT-HOT-HOT

(うー・・・暑い・・・)

実家の庭木に水をやりながら、体力がつきかけている俺。
本当は真昼に水をやれば同時に涼める・・・と思ったんだけど、どうやら炎天下の中で水やりするのはよろしくないらしく、しぶしぶと夕方にやらされている。それでも夕方はまだ暑く、ただ水をやるならまだしも、庭全体にまくのはさすがに気力も体力も限界だった。
だから、とっとと終わらせてエアコンのついてる部屋に戻りたい・・・。

「おー、元気にやってるじゃないか・・・」

声のした方をみると、パタパタと団扇を仰ぎながら、本当・・・に他人事のごとく光輝兄が俺の応援をしている。

「元気じゃないよ。こんなに暑いのはいくらなんでも犯罪・・・」

別に俺は暑いのが嫌いなわけではないけれど、今年の暑さは本当に嫌だ。熱気が身体にまとわりついてくる。

「そうか?涼しそうに見えるけど・・・」

羨ましいな・・・と光輝兄がやっぱり他人事のようにつぶやく。でも、その顔は決してそうは思っていない。
なんとなくむかついたので、俺はちょっと仕返しを考えてみた。

「だったら代わる?光輝兄きっと涼しくなるよ?」

「いやいや。大切な弟のためにそれは辞退しておくよ」

あわてて首を振る光輝兄。
『大切な弟』という言葉にごまかされかけたけど、結局のところは、水遣りなどしたくないという答えなのだ。
まぁ、それは仕方ないといえば仕方ない。こんな暑い中に外で作業なんかしたくない、それは俺だって同じだ。
ただ・・・少しくらい代わろうかと言ってくれたっていいじゃないか。ぶつぶつ愚痴を言いながら、俺はホースの向きを変えた・・・けど・・・。

「お、おい・・・お前ってやつは・・・」

俺は瞬時に凍りついた。気がつけばホースの先に光輝兄がいる。それはつまり・・・言うまでもないけど、彼にかけてしまったということだ。

「ご、ごめん!やるつもりは・・・」

なかったといったところで信じてはくれないだろう。弁解するにはタイミングが悪すぎる。
だけど、文句は言いつつも光輝兄もそこまでは怒っていないようだ。

「涼しいのは一瞬だけだな。時間がたつとべたついて困る・・・」

そうは言っているけど、本当に困っているのは俺であることに気づいた。
俺が水をかけてしまったせいで、しかもそんなときに限って白いTシャツを着ているせいで、光輝兄の肌が透けているのである。
なんというか、とんでもなくセクシーで、俺は目をそむけるしかない。正視したら、俺は確実にやばい。恐ろしいことを口走りそうだ。



「ん?どうした・・・?」



怪訝そうにしていた光輝兄だったけど、俺の赤すぎる・・・日に焼けたとごまかすことの出来ないほどの顔を見て気づいたようだ。

「瞬ってえっちだな」

「な!」

動揺している俺から一気に彼はホースをひったくる。

「やっておくから、瞬は涼んでろ。ここで襲われても困る」

そこまで言われてから気づいた。光輝兄は最初から俺と交代するつもりで外に出ていたのだ。
わざわざおちょくらないでも最初から言ってくれていいのに・・・。
でも、そんなところも光輝兄の優しさなので・・・やっぱり俺はそんな彼も好きだ・・・なんて思っていたところに。

「ったく、暑苦しい・・・」

唸りながら光輝兄はシャツを脱いでしまった。惜しげもなく、見るものを惑わすような身体が露となる。
がっちりしているわけではないけれど、決して無駄ではない、理想的な身体つき。
本人は何も意識をしていないだろうけど、意識をしまくっている俺にとっては・・・。

「やっぱ俺がやっとくから、光輝兄はそれ着て!」

今度は瞬時に俺の意図に気づいたようだ。

「別に俺の身体なんか見慣れてるだろう?」

「それはそれ!」

俺に迫力負けして、しぶしぶと光輝兄はシャツを着る。べたついて不愉快らしいけれど、考えて見たら全部見せるより・・・いやらしくないか?
何故俺はそれに気づかなかったんだ!耳元でささやかれたら、俺は絶対陥落する。いや、陥落していけないわけではないけど!

「結局・・・俺はどうすればいいんだ・・・?」

途方にくれる光輝兄。だけど、俺に答えが見つけられるはずがない。
だけど、まぁ・・・とりあえずは・・・俺は光輝兄に抱きつく。
結局こういうオチになってしまうんだなとは思いつつも、自分の気持ちに逆らうことは出来なかった。

「ったく、暑いんだけどな・・・」

それでも引き剥がすつもりはない光輝兄。彼は彼でこの状況を楽しんで・・・いてくれればうれしい。

「まぁ、もっと暑いことをしてもいいんだけどな」

その言葉に俺が一気に凍りついたのは、言うまでもないことだった。





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暑中見舞いもうしあげます。
世間は夏です。そんなわけで挨拶代わりにオチのないSSを書いてしまいました。日常のひとコマってことで・・・(笑)
まぁ、連載中の本編と色は違いますが、その辺は気にしないでやってください。
と、いうわけで、このSSを皆様にささげさせていただきます。煮るなり焼くなり・・・。

秋山氏(2005/08/7)