Cymbidium

当たり前のように時は過ぎ、当たり前のように、年は明ける。
でも、当たり前でないことが、一つある・・・それは、俺たちの関係。
兄弟でありながら、恋人同士でもある、俺と最愛の弟・・・。
何故こうなったのかは、今でも解らない。強いて言うのなら、偶然が積み重なった奇跡なのかもしれない。
それは、まるで蘭の花のようだ。どんなに寒い冬でも、心込めれば綺麗な花を咲かせるシンビジュームみたいな・・・。

「光輝兄・・・正月早々何考え事してるの?」

一人考え事をしていた俺に、瞬が割り込んでくる。
自分を放っておかれたとでも思っているのだろうか、少しすね気味だ。ただ、そうするのも無理はないな・・・苦笑しながら俺は弁解する。

「何、俺の大切な人のことだよ」

さすがにお前のことだというのは恥ずかしかったので・・・わざとぼやかしてみる。実はこれは瞬の反応を見たかったというのもあるのだが・・・想像通り彼はむっとする。

「光輝兄、やっぱり浮気してたんだ」

存在しない相手に焼餅を焼く瞬が可愛い・・・そう言ったらぶっ殺されるのは明らかなので、口には出さない。
俺を信じていないわけではないけれど、瞬には瞬の不安があることは知っている。俺がいつ彼を捨てるか・・・それに他ならない。
もともと俺は男を好きになるわけではないから、簡単に瞬の心は軽くはならないのだろう。『やっぱり』という言葉に本音が隠されている。

「するわけないだろう?」

『お前がいるのに』心の中でつぶやいた。今は瞬以外とは付き合おうとは思わない。
それは何でだろうと常に自問しているのだが、理由は解らない。ただ、結論から言うと『瞬だから』なのかもしれない。
彼には性別を超えてもいいと思えるような何かがある。ホモではない俺が言うのだから、それは間違いはない。
だが、幸か不幸かまだその壁は崩れていない。彼は『いい子』でいようとするから・・・。
彼の努力は嬉しい反面、痛々しい。俺に嫌われないために、俺にとって都合のいい『弟』でいようとする。
瞬にとってそれが一番いいと思っているんだろう。でも俺は・・・ありのままのお前が大切なんだよ。
べつに、いい子でいなくてもいい、飾らない瞬を見ていたいんだ。だから・・・もう少し心を開いてくれてもいいんじゃないかと思うときがある。

でも、そんな瞬も瞬なんだよな・・・。

苦笑しながら俺は言葉を捜す。彼の心に鎧がなくてもいいように、少しでも壁を取り除けるように・・・。

「お前がいるのに・・・」

でも、この気持ちを伝えるには、この言葉しか思いつかなかった。どんなに飾っても、彼の鍵を開くことは出来ないから。
だけど・・・真面目に言ったつもりだったんだけど、瞬は何故か部屋の隅に逃げ、怯えた様子さえ見せる。

「おいおい・・・そこで何やってるんだ・・・」

「だって、らしくない!」

瞬の言い分を聞くと、こういうことになる。いつも俺はそんなことを言わないから、俺が俺に見えないらしい・・・。
俺の言葉で不安にさせている・・・かなり痛い言葉だ。瞬の目には、そう映っているらしい。仕方ないな・・・更に逃げようとする瞬を部屋の隅っこに追い詰め、俺はぎゅっと抱きしめる。しばらくはもがいたけれど、やがて大人しくなった。

「こっちのほうが光輝兄らしい・・・」

安心したのか、胸に顔をうずめる瞬。優しく髪を梳いてやると、しがみつく力を強する。俺の浮気疑惑は晴れたけど、それはそれで、心臓の音が聞こえやしないかと、心配で仕方がない。
今触れているところが、熱くて熱くて・・・俺の理性はいつまで保っていられるのだろうか。人の気持ちを知らないで瞬は平気で抱きつくから・・・。

このつぼみが咲くのを止めるのは、かなり至難の業のようだ。腕の中の少年のことを想い、俺は一つため息をついた。




あけましておめでとうございます。昨年は何かと環境が変わり、うまくやっていけるのかと内心心配でしたが、何とか年を越せました。
これも皆様のおかげ・・・ささやかではありますが、年賀状代わりにSSを書きましたので、良ければ受け取ってやってください。
毎年この季節に見かけるシンビジウムの花言葉は「飾らない心」「素朴」などです。いつも想いを口にしない光輝兄にしては、珍しく饒舌(?)です。
まだまだ未熟な私ですが、今年もよろしくしてやっていただけると嬉しいです。


秋山氏(2006/01/01)