どこまで続いていくモノか。
轍
空は明るく青く、続く道の先は緑の山か。
蝉の声が聞こえる薄茶に乾いた砂道。
小高い丘の上、茶の両端には緑の草が低く生い、丘の下には続く田が空色を映す。
人ひとり、彼の他には見当たらない。
砂の道にはその跡だけが山の方へと続いていた。
彼はその横に座り込む。
膝を折り、腰を降ろす。
砂にくっきりと浮かぶ車輪の跡。彼はそれを指で山の方へなぞった。
撫でた分だけ車輪は消えて、指の跡に変わって行く。
立ち上がって、服についた砂を払い、彼はそうして一歩足を踏み出した。
砂につく跡を綱渡りのように踏み締めて。両手でバランスを取って。
落ちないように、踏み外さないように。
彼が彼に課したルール。破っても構わない彼が決めたルール。
しかし彼はその車輪の跡に忠実に沿って歩いて行く。
別に気まぐれに丘を滑り降りて泥水に落ちても構わないのだ。別の道を行くのもいい。
しかし彼は知っていた。此の車輪の跡だけが彼に正しい道を教えてくれているのだと。
他の道を行ってはならない。此れだけを辿っていかなければならない。
踏み外さないように。落ちてしまわないように。
笑みが浮かぶ。跡から目を離さないように下を向いたまま、彼は口の端を吊り上げた。
此の先はどこまであるのかは彼には解らなかったが、不安に思うことなど何一つ無い。むしろ楽しいぐらいだった。
彼が決めたルールを彼が守る。此れは子供のゲームだ。石畳の色のついた部分だけ避けていくような。
彼はふと立ち止まり視線を先に向けた。
山へと道は続いている。あそこへつくまでには日は暮れるだろうか。
振り返ることはしない。今まで通って来た道の遠さに押し潰されそうになるだけだ。
頬を涙が伝ったような気がしたが、彼はあくまで笑っていた。
また歩き始める。車輪を辿る。どこまで続くものか。どこまで自分は辿っていけるのか。
山まで車輪の跡は続いている。山を越えた後もそれは続いて行くのか。
空は晴れている。砂は乾いている。
これならば雨は降らないだろう。跡が消える心配は無い。
さて、どこまで続いていくモノか。
もはや詩だし。ノゾミ博士のイメージで。リアカーみたいな手押し車の車輪?
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