――兄さん、カールが死にましたよ。

 そうか。

 ――兄さん、カールが死んだんですよ。僕が連れてきた、あのかわいそうなカールが……

 ああ。

 ――兄さん。

 ……報告はそれだけか?

 ――僕が殺したんですよ。本当は僕が殺したのではありません。ありませんが僕が殺したも同然です。僕は小夜がカールを殺そうとしたのを止めなかったし、カールが小夜を殺そうとしたのも止めませんでした。関わらないことで行く末を見届けようとしたのかも知れません。でも小夜が自分もろともカールを突き刺したのを見た瞬間、僕は動いていた。カールの腕を斬り飛ばしました。

 ソロモン、お前は自分の役目を果たしただけだ。

 ――カールは結晶化した眼で僕のことを見ました。僕の名前を呼んだんです。カールが……兄さん、カールはひとりきりでした。最後までひとりきりでした。

 カールはディーヴァの愛を求めた。報われるはずのない愛を求めた時点で、奴が孤独であるのは当然だった。

 ――でも僕を見た彼は裏切られたような眼をしていました。カールは僕に裏切られたと思ったんだ。僕は彼を裏切ったんです。彼はディーヴァから得られなかった愛を小夜へ求めた。……しかし消極的には他方からも愛を求めていたのかも知れません。例えばそう、身近な、兄弟と言う存在から。でもそこからも愛は得られなかった。

 当然だ。我々はただ、ディーヴァへこの身を捧げるだけなのだから。

 ――それではカールは道を外れたシュヴァリエだったのでしょうか?

 一方面から見るならば、そうだ。

 ――他方から見るなら?

 カールはシュヴァリエとしての己れの本能によって小夜を殺そうとした。愛と言う感情がそこに介在していたとしても小夜を殺すと言うその行為だけは変わることがなかった。

 ――それでもカールは殺されなければならなかった。僕の手によって、何故です?

 一つの見方によって道を外れたのであればそれで理由は事足りる。そしてカールには結局小夜は殺せなかった。もう、カールは用済みだった。無駄なものを手元に置き続ける程、私は寛容ではないのだよ。

 ――兄さん。

 何だね、ソロモン。

 ――もしかしたら気づいていなかったのは僕だったのかも知れないんです。もしかしたらカールはずっと僕らを見ていたのかも知れなかったんです。僕はカールの訴えに気が付かなかったのかも。ただのばかばかしいすれ違いだったのかも知れないんです。兄さん、カールは本当に死んだんでしょうか?

 お前はその死を見届けたのだろう?

 ――あんな、他愛ない、赤い結晶に成ってしまうことが死だなんて僕には……認め難いことです。カールは僕の弟だったんです。それに。

 それに?

 ――何も感じませんでした。何も。今も。カールの死は僕の何をも突いては来ないんです。哀しかったのは、カールの死そのものではなかった。何も感じないことが僕にはおそろしく怖くて、哀しかったんです。ねえ、兄さん、カールはだから、もしかしたら死んでいないのかも知れない。

 ……

 ――兄さん、カールは死んでいないのかも知れない。ねえ、だってあんな死に方はないでしょう。僕がカールを殺すなんて、ないでしょう。そんなことがあるはずがないんです。あっていいはずがないんです。でもそうなるべくしてなったのだと、何処かで、僕の中の何処かでは思っているんです。兄さん、僕は。兄さん。僕はどうすればいいんでしょう、兄さん。兄さんが下さった理由では、僕には足りなかった。カールを殺すことには足りなかった。

 ……

 ――兄さん、僕は、カールを殺したんですよ。




 本当は37話から40話までソロモンと兄さんは会ってないと思うんですが…パラレル。もしくはソロモンの妄想で(痛) ソロモンの台詞が支離滅裂なのは仕様です。もはやデフォ装備。


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