漠然と、この兄弟に苦手意識を持っていた。
「カール」
 眼差しや名を呼ぶ声、その仕種―― 一つ一つは別に何と言うこともないのだ。だが、……どう言えばいいのか。
「カール」
「聞こえている」
 その、雰囲気。その男の纏う空気そのものを、カールは苦手としていた。いずれにしてもはっきりしたものではない。理由もない。ただ、それに呑まれている自分を感じるのが、堪らなく厭だった。この男の掌の上にいるような。ひどく心許ない心地がするのだ。
「何の用だ。……ソロモン」
「いいえ。ただ、ぼうっとしているようでしたから」
 肩を竦める兄弟の穏やかな笑顔を見つめ、カールは眉を寄せた。放っておいてくれ、と言う言葉が喉元まで込み上げてくる。吐き出すことはない。……ますますしつこく構ってくるか、全く意味を成さないか、そのどちらかになることが見えているからだ。
「……また、彼女のことを考えているんですか?」
「それを聞いて、お前に何か意味があるのか?」
 問いに問いで返すと、ソロモンは首を横に振った。穏やかな笑みは、崩れることはない。
「ただ――僕は貴方が心配なだけですよ、カール」
 ソロモンは言って、そっと手を伸ばしカールの肩に触れてくる。伝わって来る体温に何故か怖気を覚え、カールはソロモンの手を払った。
「触るな」
「――ああ」
 そうでしたね、と、眉尻を下げ、ソロモンはすまなそうに呟いた。
「貴方に触れていいのは、彼女だけでしたね」
 それは自分が言ったことだったか。
 カールは覚えていなかった。この距離を――自分が保っていたいと思う距離を侵して来るこの男と会話をするのも、こちらに向けられた視線を意識するのも何もかもが億劫だった。




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