私は思考し続けている。それは私が私を保つためにしなければならないこと……私の中に流れ込んでくる私の認めたくないものを意識しないために無駄な抗いを重ねることだ。
 卑怯だとか臆病だとか、そんな言葉が今の私には似合う。だけど私はそうしないわけには行かない。そうせざるを得ない。言葉は空虚で、私の唇から零れて行きはするけれども私を一時奮い立たせるそれだけのものに過ぎない。ひどい時にはその役にも立たない。

『小夜』

 私の中にふと蘇るのは、あの翼手、シュヴァリエ、――『ファントム』の、声だ。私の名前を繰り返し呼ぶ彼の声だ。あの時に還ろうとあの時を思い出せと乞い叫ぶあの声だ。
 彼は私を真っ直ぐに見詰める。彼自身のために私を揺り起こそうとする。私を――その、奥に在る〈小夜〉、私ではない小夜を、私の中に在るのだろう小夜を追い求めている。
 それはあまりにも一途に。
 それが私には堪らなく恐い。

 ――どうしてそんなにも、貴方は私を!

 聞いてもきっと答えは返ってこない。返って来てもそれは私には解らない言葉、私にとって意味不明の、あるいは意味を成さない、言葉だろう。だから私は彼に私のままで立ち向かうしかない。私は――
 私でいるために、彼に立ち向かわなければならない。
 私は帰らなければならないからだ。あの沖縄へカイやリクと一緒に! 帰らなければならない。なにもかも元通りにしなければならない。そのために私は何よりもまず、ファントムを、
 殺さなければならない。

 彼は邪魔だ。
 彼は不要だ。
 今の音無小夜に、彼はその存在自体が害なのだ。

 だから、早く現れろ、ファントム。
 貴方が望む決着を、私が望む形でつけてやる。
 貴方の思い通りにはさせない。
 私は、私のままで沖縄に帰る。
 貴方の小夜は、もう何処にもいない。
 次に会った時には、それを思い知らせてやる――




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