白秋ダイナソーズ選手カード(マルコ夢と言うか)
「なァ」
「何かなさん」
「率直な感想を言ってもいいかな」
「何の?」
「プロフィールの」
「ああ、カードの? 買ってたんだ」
「うん、死ねばいいのに」
「何が!?」
「あーやだもうやだ。何が『得意科目:ほぼ全て。特に数学』だよ。ふざけんなっちゅう話だよ」
「いや、それ俺の口癖……え、何? 何がそんなに気に食わないわけ?」
「死ね!」
「血涙も流さんばかり!」
「そんな目で俺を見るな! おおおおおおお俺だって、人生に一度ぐらいは『苦手な科目はありません』とか『数式解くの楽しくない?』とか『ヴァレンタインデーのチョコってみんなどうやって消費してる?』とかなァァァッ!」
「あの……顔を仰け反らせてぶるぶる震えるのは怖いって言うか気持ち悪いからやめた方がいいんじゃねえかと思うよ。どんどんカードと関係ねえし」
「どうせそうなんだろーッ! ヴァレンタインデーはよォーッ!」
「いや、俺殆ど断ってるから」
「うんちょっと俺今本気でお前のことが憎い」
「さん首苦しいギブギブギブ。別にかっこつけて断ってるわけじゃねえくて、そんなにチョコが好きじゃねえだけで」
「断る理由なんかどうでもいいんだよド畜生がッ!」
「よく解んねえよ!?」
「……うっ……
うっううううう……
俺はッ……格差社会に負けそうだッ……!」
「えーと……
意外に繊細っちゅうか……コーラ飲む?」
あのカードどこで買えますか。
子猫と(如月夢)
「あ。」
「……先輩?」
「ラギくん。これは違うんだよ」
「猫じゃないんですか?」
「いや、猫だけど」
「しかも二匹」
「うん二匹……いや、うん、そう。……ごめん」
「謝る理由がよく解りませんけど、帰ったんじゃなかったんですか?」
「帰り道で……こっち見てて……でもうちマンションだから」
「解りやすいですね……」
「うん……
それで、アメフト部で誰か飼える人いねっかなって。でも練習の邪魔になるといけないから」
「部室の前で座り込んで待ってたと言うわけですか」
「そう! そう言うわけ。――もしかしてラギくん、飼える?」
「僕アレルギーで、毛のある動物は駄目なんです」
「そっかあ……」
「すいません、お役に立てなくて」
「いや、アレルギーじゃ仕方ねえよ。俺もエビ食えないし。
んー誰がいいかな。――あ、そうだ! 峨王はどうかな! 意外に動物好きじゃないかな」
「さあ――どうでしょうね」
「想像してみるんだよラギくん! 峨王が猫を前にして、どんな反応をするか!」
「そ、想像?
……とりあえず、てのひらに乗るサイズですね」
「乗るなあ。つまんで持ち上げたりできるかもな」
「ええ。それで目の前に持って来てみて……」
「頭からガブッと?」
「いや、なりません」
「そうか……丸呑みか」
「なりませんよ! 神妙な顔で納得しないで下さい。
僕はこう……もっと、猫と美しく触れ合う峨王くんを思い描いて……」
「キャラじゃねえじゃん」
「意外に動物好きかもって言ったのは先輩です。……もしかして食べる方の『好き』だったんですか? 峨王くんに食べさせて処理させるつもりで……」
「いや、さすがにそれは可哀相かなあ……
ただ、やっぱり峨王は豪快な方が似合うかなあと思って」
「豪快を飛び越えてます。美しくないです」
「そうかな?
じゃあ、マルコはどうかな。ラギくん、想像想像」
「……マルコくんはまあ、普通に抱き上げて……」
「グシャッ」
「一々変な擬音で茶々を入れないで下さいよ。大体何ですか今の音」
「握り潰した、的な……?」
「猫を両手に抱えながら恐しいことを……もしかして先輩、猫嫌いですか?」
「嫌いだったら飼い主探しなんかしないよ。何て言うか……ノリよ。ほら、握力ありそうじゃん。マルコ」
「……」
「何だよその目はァ」
「頬を膨らませられても」
「えー。……あ、そうだ。それはそれとして、名前付けない?」
「またえらく話が飛びますね……」
「こっちがキサでこっちがラギ」
「いやいやいや」
「ヒロとロミのがよかったか?」
「……何で僕から引用するんですか?」
「折角だからアメフト部から付けようと思って。じゃあガオーとヒロミ。ライトハーンドレフトハーンド」
「どう言う風に育てたいのか見当がつきません。名字と名前だし」
「じゃあマルコとマルコで、こっちがレイジマルコ、こっちがマリアマルコ」
「オスメスなんですか?」
「いや、多分どっちもオス」
「……何にしても、氷室先輩がいい顔しませんよ」
「ラギくんは文句ばかり言うなあ」
「そもそも、そう言うのってもらう人が付けるべきなんじゃないですか?」
「あ……そっか。じゃあ駄目か」
「でも待ってみて、もらい手が見つかったら一緒に付けるって手もあるだろうし」
「そうかあ。よし、じゃあ、そうしよう!」
ここで飽きたと言うか、先を考えてたんですけど、ギャグが薄れたので切ります。
さよならを言う前に(進夢)
「ずっとお前に言っていなかったことがある」
などとまっすぐにこちらを見据えて進清十郎が言うのを聞いて、が真っ先に感じたのはこの無愛想なクラスメイトと別れを惜しむ寂しさよりも、ちょっとした恐怖だった。
進と言う男はとにかく飾ると言うことをしない直球の人であり、この時も殊更に深刻ぶったりおどけてみせたり(想像もつかない!)しなかったから、進がそもそも持つ凄味や威圧感がそのまま吹きつけて来るように思われてちょっと身構えてしまっていた。一体何を言われるのだろうと、意味もなく不安になる。は半ば硬直し、ぎこちなく進を見返した。
「……何かな?」
「恐らく、これで会うのは最後になるだろう。言おうか言うまいか悩んでいたが、やはり言っておくべきだと思って」
最後、と言う言葉の響きに何故かとんでもない不吉さを感じる。
「――だから、何が?」
進は答えずに、こちらに手を差し出した。
丁寧に二つ折りにされた紙が一枚、その手に握られている。
(……何だ?)
咄嗟に浮かんだのは、ラブレターかと言うふざけた発想であり、即座に打ち消された。反射的に口に出すのも抑え込む。冗談めかして問いかけたとしても、進には恐らく質問の意図が伝わらない。多分首を振って否定するだけで、その辺り進は面白みがない。
……もっとも言うのを堪えたのはそれだけが理由ではない。例えば進が柄にもない冗談のつもりで――そんなことがあり得ないとは解っているのだが――万が一、頷いて見せた場合、既に緊張に耐えられなくなっている自分の心臓が、ショックのあまりに止まってしまう可能性があった。想像するだけで果てなく心臓に悪い。って言うかあり得ねーよ。
「……これは、何かな?」
長い沈黙の後、は紙を受け取って問いかける。
それに対する進の返答は、ある意味での想像を絶した。
「お前の食生活の改善案だ」
「…………ん?」
首を傾げざるを得ない。
恐らく人生始まって以来の怪訝な顔をしながら、は進を見返した。
「以前から思っていたが、お前の摂取している栄養は偏りが過ぎる。
昼飯だけならばとまだいいが、お前の体調を見ていると全体的にやはり一部の栄養が不足しているのだろう。差し出がましいとは思ったが、正直目に余った。
よく読むといい。これで今出ている体調不良はなくなるはずだ」
「そりゃ……わざわざありがとう」
「礼には及ばない。向こうに行っても達者でな」
「……ん」
は軽く紙を掲げて見せると、ちょっと笑う。
この男なりの別れの贈り物なのだろう。らしいと言えばらしい。心配されるほどに自分が不摂生なのかと思うと、情けなくもあるが。
「ありがたく読ませてもらうよ。サンキューな」
「ああ、それじゃあな」
進の、最後の別れの言葉は短かった。
向けられた背に、結果はメールで送ると言おうとして、そう言えば進が携帯を持っていないことを思い出す。
(面倒臭ェなァ)
思いながらも、は紙をまじまじと見ながら笑みを浮かべていた。進がかけた労力に見合う対価を、こちらも払ってやらねばなるまい。
(年賀状が、あったよな)
久々に、手紙を書くのもいいかも知れない。
はよし、と小さく呟いて、紙をポケットにしまった。
進は桜庭と一緒に部活行きました。
王城から白秋に転校とかスゲエドリー夢してるので正直なところ死にたくなりますが人生は笑っちゃうほど楽しいです。
ピーピング・トム(マルコ夢と言うか)
「ううー、いい湯だったー」
「さん、ふらついてるふらついてる」
「あああー、サウナに二十分は入ってたからな。身体もそりゃ燃え立つってもんだオエエエ」
「弱ァーッ!
ああもう、こんなとこで座り込むんじゃねえっちゅう話だよ! 酔っ払いかあんたは! 立った立った!」
「……なあマルコよ、ひーちゃんてまだ風呂に入ってると思うか?」
「あ?――マリアなら、多分まだいるんじゃねえの? 後から入ったみてえだし」
「そうかそうか。
……ところでマルコ、知ってるか? この銭湯のセキュリティって、結構甘いんだよ」
「却下」
「何故だ!? お前ならきっと! 同意してくれると思っていたのに!」
「す・る・わ・け・ねぇー! 言っておくけど、窃視はあんたが考えているよりは重罪だっちゅう話! ほんとに!」
「リスクに怯えて怖じ怖じしてたら涅槃には行けないんだよ! 夢にまで見た極楽浄土ッ! 桃源郷! 麗しきユートピア! 誘惑のラビリンスだよ! 俺は湯気の向こうに揺らぐ白くしなやかな彼女の肢体をこの目で! この目で!」
「
黙れ犯罪者! とにかく駄目! 駄目なの! 大人しく待ってろ! ここで!」
「無理だ! 俺は行く! 夢と希望がいっぱい詰まった男の子のフロンティアにッ!」
「や・め・ろ・って! そもそもそんないいもんじゃねえっちゅう話だよ!」
「きぃぃーッ! なんかその忠告の仕方ムカつく! 超ムカつく! 知ってんのか! お前知ってんのか! クソッ! お前に何が解るってんだァーッ!」
「あーもう……!」
「……何をやっているの」
「あ!」
「ああ、マリア……よかった、もう上がってたのか」
「銭湯の前で何を騒いでいるのと聞いているんだけど」
「いや、何でもねえさ。ただ、さんがね……」
「マルコ! お前それそんな殺生な……」
「何があったの、くん」
「いや何でもない! ほんと何でもない!」
「何があったの、くん」
「……
…………そっ」
「そ?」
「そんな目で俺を見ないでくれェェェーッ!」
「あーらら……」
「……全速で走り去ったわね」
「走り去ったな。……ま、すぐに戻ってくるだろ。のぼせてるし、体力ねえし」
「それで、何があったの」
「あああ……若気の至りっつーか必然的お約束っつーか……大したことじゃねえさ」
「そう。
……先に上がったのね」
「俺たちの方が先に入ったし、そんなもんだろ。――何か変?」
「いつもは私が先に上がっていたから。少しだけ、おかしくて」
「そう……だな。そうかもな」
「ええ」
「……」
「……あの人」
「――ん?」
「くん。
感じやすい人なのかしら。咎めたつもりはなかったんだけど」
「……あ。ああ、あれはそう言うのとは違うかなー?」
「そう……?」
「そうそう。
……後ろめたさが爆発すれば、誰だってあんな風になるっちゅう話だよ」
「え?」
「おっと。こりゃあ失言だったかな……」
調べてみたら、むしろ思ったより軽かった。窃視罪って懲役無いのか…もっとも社会的には死ぬと思いますが。
そして氷室さん二年生だったのか……! あのクールビューティーをマリア呼ばわりしてタメ口とはほんとマルコめ!(07/11/18/修正)
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