……ミーンミンミンンミン……じーわじーわじーわ。
 色々な虫の鳴き声をバックに、相対する少年(と亀)が二人(と一匹)――
 お互いの目は殺気に満ち、亀はニヒルな笑いを浮かべてことを静観している。
 さては亀が黒幕か。
 そうお思いの方もおっしゃられるだろうが、二足歩行の世にも珍しい亀は笑ってるだけで、きっと何も考えていないだろう。
 というか、この二人は喧嘩しているだけなので、黒幕もへったくれもないのだが。
「マギ――」
 やがて、黒髪の老け顔少年の方が呟く。
 若干九歳――だが、はっきり言ってかなりの老け顔である。全然全くちっとも九歳に見えない。
 九歳に見える人がいたらそれはきっと目が変なのだ。
 それはともかく、老け顔少年はマギ、という銀髪の少年を睨みつける――ちなみにマギは七歳である。
 大人気ないぞ。老け顔少年。
「……ッ!」
「スキありぃぃぃぃぃッ!」
「ぐはぁッ!?」
 ――なにやら、こちらのナレーターに気を取られたらしい。
 一瞬殺気を向ける方向を変えた老け顔少年は、マギのキックの一撃で吹っ飛んだ。
「ふっ。油断したなリオ!」
 アレだけ言われれば誰だって反論したくもなるだろう。
 ともあれ、首筋の辺りを蹴られたあと、なにやらぴくぴく痙攣している老け顔少年――リオを見下ろして、マギは腕を組んで勝ち誇った。
 だが、リオは死んだわけではない!
 一瞬だけだが死んだ親父のジャネイロさんを見たリオは、奇跡的に立ち上がり、ついでにマギの顔面にストレート・パンチが超ヒット!
 見事に鼻っ柱に食らい、綺麗にに飛ぶマギ。宙を飛び、青空が視界一杯に広がった。いい天気である。太陽がまぶしい。自分の鼻血もさわやかに飛んでいる。
 そしてポチこと亀は、その情景をほのぼのとした表情で見つめていた。
「ポチッ!」
 だがしかし。
 ポチはただの亀ではなかったのである。
 ――ただの亀だったら二足歩行はできないが。
 ともかく、彼はマギの叫びに呼応して、大きく足を羽ばたかせ、宙に飛んだマギをキャッチする!
「ちッ! 卑怯だぞマギッ!」
 舌打ちしつつ言うリオ。
 それもそーだ。
 亀であるポチがそう思ったのかどうかは定かではないが、ポチは三分飛んでいないのにも関わらずマギをどさりっ、と地面に落とし、自分はすたすたと水辺の方に去ってゆく。
 ちょっと哀れみの視線でマギを見るリオ。だがマギすぐ復活。激しい攻防が再開された。
 相手の拳を受け流し、蹴りを叩き込むが、それも腕に防がれる。受け流された拳が肘鉄の要領で叩きこまれ、マギは頭の頂上に痛みと衝撃を受けた。
「殺スッ!」
 額に血管浮かばせまくり、鼻の下から血を滴らせたまま、マギが浮遊足環フローティング・ワンを操り空へ舞う! 思わず上を向くリオ。そこに降るマギの足の裏。
 ――どがっ。
 なにやら鈍い音がした。仰向けに倒れるリオに背を向けて、マギはふわりと地面に着地する。
「マギィィィィィィィィィッ!」
 悲鳴。悲痛である。よほど痛かったのか。
 ――だが、この叫び、実はリオのものではない。
 大声で叫びつつ、片手に空のペットボトルのようなものを持った老人が全速力で走ってくる。
 そう、我らがエロ兵士コマンダー、伝説の職業『龍法師』の称号をもつ老人、その名もじっちゃん!
 じっちゃんが名前かい。
 ともあれ、法師は『めんつゆ』と書かれた紙が張られた、空のペットボトル醤油入れを握りつぶしつつ、
「そうめん茹でとったのにつゆが切れとるッ! すぐ買ってきてくれ!」
「よし解った来いポチッ!」
 マギは叫ぶ――が。
 ポチ。来ないよポチ。俺のポチ。

 ……………………………

「って、しまったぁぁぁ! そう言えばポチはさっき俺見捨ててどっか行っちまってたあぁぁぁぁッ!?」
 叫ぶマギに、法師はなぜか頷くと、
「むぅ! 仕方あるまい! 走って買ってくるんじゃッ!」
「了解ッ!」
 そもそも、マギが法師のパシリする必要はどこにもないのだが。
 そこはそれ、育ててもらった恩と言うか、とりあえず天国でジャネイロさんと朗らかに笑いつつ話しているリオの生還を待つのがめんどくさかったからだろう。
「じゃ、行ってくるぜじっちゃんッ!」
「うむ、早めに帰ってこいッ! めんが伸びたら元も子もない!」
 そんなわけで、マギは走って村へと向かう。
 法師様のめんつゆを買いに。


 そんな馬鹿な日常。
 だが。
 とにかく、『悪魔の子』とののしられようが、マギはマイペースに生きているようだった。


 そのマギは、村のとある店の前で佇み、毒づいていた。
「……って、店閉まってんじゃねーかよ! ――しゃーねーな、リオ起こして分けてもらうか……あ?」
 閉まった木製の扉。そこにはこう書いてあった。

 『相互リンクにつき、誠に勝手ながら休ませて頂きます』

「なんじゃそりゃぁぁぁぁぁッ!」
 そんなわけで、村の中にマギの馬鹿でかい叫び声が響き渡ったのだった――


 ちなみにそのころ。
 日本のとある市で、リボンをパタパタ動かす女の子の妖怪の噂が流れたとか、神の島解放戦線でルイと劉とブラッドで、ヨシュアの陰口たたいて怒られたとかいうのは――
 まぁ、もしかしたら気のせいなのかもしれない。




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