留学・アメリカのスポーツ事情

ここでは、トレーナーになるために留学して
見聞きしたアメリカ事情を紹介します。
長文なので暇なときにでも読んでみて下さいね。
僕が、留学していたのは、ずいぶん昔のことなので
これから留学する人は最新情報を集めて下さいね。

この文章は1998年に書いたものです。岩崎

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アスレティック・トレーナーへの道

・アスレティック・トレーナーとは?

 アスレティック・トレーナーとは、スポーツの現場で医師の活動を助け、選手の健康管理や受傷者の競技復帰を担当する専門家です。現在では、スポーツ傷害の予防が最も注目されている役割の一つで、怪我をしないための体力づくりのノウハウや、テーピングなどの傷害予防に役立つ高度な技術が要求されています。

 もともと今世紀の初頭、アメリカの象徴的スポーツであるアメリカン・フットボールの急速な普及とレベルアップに伴って事故や傷害が増えました。そうした現場では、選手の応急処置等を行える人材がどうしても必要となり、全米各地で自然発生的に生まれたのが、アスレティック・トレーナーだったのです。

 1950年には、職業トレーナーの集まりである全米アスレティック・トレーナーズ協会(NATA)が設立されました。その後、資格認定のための試験制度も確立され現在では7,000人を越える公認アスレティック・トレーナーが、アメリカ国内はもちろん国際舞台でも活躍しています。

 日本では、主にマッサージや鍼灸の有資格者が、スポーツの現場で『トレーナー』としてさまざまな治療活動をしています。アメリカのアスレティック・トレーナーは、整形外科のドクターと連携し、スポーツ外傷の予防、救急処置、そして怪我の再発防止措置などを担当しています。またアスレティック・トレーナーは、選手の健康管理・コンディショニング作りに関して選手と監督や選手とドクターの間でパイプ役となっています。重なる部分もありますが、基本的に日本のトレーナーとアメリカのアスレティック・トレーナーの仕事内容は異なっています。

・トレーナーの役割

 前出の全米アスレティック・トレーナーズ協会が提案しているアスレティック・トレーナーの役割は以下の6つの領域に分けられます。
1)スポーツ傷害の予防
2)スポーツ傷害の評価
3)スポーツ傷害の治療・管理
4)アスレティック・リハビリテーション
5)スポーツ選手への教育とカウンセリング
6)トレーニング・ルームの管理・運営
 アスレティック・トレーナーを目指す学生達は、これら6つの役割を正確に理解し確実に実践するためにクラスで教育を受け、現場で実践経験を積んでいます。具体的な履修教科は後の項で説明することにして、ここでは上記の役割を解説します。

1)スポーツ傷害の予防
 トレーナーの仕事の中でもっとも重視されているのが先にも述べたスポーツ傷害の予防です。怪我を未然に防ぐためには、傷害発生のメカニズムをはじめ、スポーツの特異性や環境因子にも熟知していなければなりません。それは、A).捻挫や骨折に代表される外傷、B).使い過ぎ(オーバー・ユース)症候群と分類される肩や膝などの障害、C).環境障害と呼ばれる熱中症や凍傷など様々な問題が発生しかねないからです。

2)スポーツ傷害の評価
 どんなに優れたスポーツ傷害予防のためのプログラムを組んでいても、事故はいつ発生するかわかりません。極論から言えば、怪我の予防また再発防止が完璧にできるなら、救急処置や治療に関する知識や技術は要りません。しかし、現実には事故は起き、アスレティック・トレーナーの真価はその時の判断や対処によって問われます。実際、資格試験の中でもっともウエイトがおかれているのが、傷害の評価とその処置法です。

3)スポーツ傷害の治療・管理
 アスレティック・トレーナーは、スポーツの現場で医師の指示に従って治療活動を行っています。アメリカの大学の典型的なトレーニング・ルームには、テーピングのエリアの他に、応急手当のエリア、電気療法のエリア、水治療のエリア、リハビリのエリアがあり、それぞれアスレティック・トレーナーによって管理されていますが、診察については原則的には隣接されたドクターズ・オフィスで行われます。

4)アスレティック・リハビリテーション
 病院でのドクターによる処置や、理学療法士によるリハビリテーションが終わってチームに戻って来た選手は、競技に復帰できるようになるまで、トレーニング・ルームでアスレティック・リハビリテーションを続けることになります。アスレティック・リハビリテーションは、初期段階では、病院の理学療法士との連携が不可欠ですが、回復が進んでかなり動けるようになってきたら、ストレングス・コーチへの申し送りが必要になってきます。スポーツ選手のリハビリテーションの最終目標は、患部及び総合的体力を受傷前よりも強くすることにあります。

5)スポーツ選手への教育とカウンセリング
 一番大事なスポーツ傷害の予防は、選手への教育が伴って始めて効果を発揮します。選手に怪我のメカニズムや人間の体について教育する事により、選手は怪我とその発生原因について理解を深めます。選手がなぜ怪我をするのか真剣に考えるようになり、その結果、選手は、筋力や柔軟性を向上し、フォームの改善をして、スポーツによる怪我の予防に真面目に取り組むことができるようになります。アスレティック・トレーナーが行う選手に対する教育とカウンセリングは、その内容が広範囲に及ぶことが多く、カウンセリング技術だけでなく何事に対しても見聞を広めておく必要があります。


6)トレーニング・ルームの管理・運営
 トレーニング・ルームで行われる日々の活動は、アスレティック・トレーナーによってすべて記録され管理されます。そこには、選手に対して行ったテーピングや治療はもちろん、その日に怪我をした選手のカルテやアスレティック・デパートメントへの報告書も含まれます。また備品の管理や消耗品の注文なども大事な仕事で、予算や決算などいわゆるトレーニング・ルーム内の行政管理も重要な役割の一つです。

・アスレティック・トレーナーのカリキュラム
 留学生としてカリキュラムに入った場合も、履修すべき教科と単位数は決まっています。この分野に限らず、何かの資格を取得したい留学生は、全教科で平均以上の成績を修めて卒業することに加えて、現場での実習や技術の習得がカリキュラムの中に組まれています。

 ここでは、大学と大学院に分けて説明します。まず、大学では以下の教科を履修します。
1)心肺蘇生法・救急法
2)基礎健康と環境科学 I
3)生物学
4)人体解剖学
5)生理学、運動生理学
6)バイオメカニックス、モーター・ラーニング
7)基礎トレーナー学
8)栄養学、スポーツ栄養学
9)心理学、スポーツ心理学
10)スポーツ傷害の予防法
11)スポーツ傷害の評価方法
12)スポーツ傷害リハビリテーション
13)スポーツ傷害治療法

 この他に、化学、物理学、統計学などや、留学生の場合は一般の学生以上に英語を履修するように薦められる場合もあります。大学によっては、留学生のための特別な英語のクラスを設けているところもあります。

 更にトレーニング・ルームでの現場実習は、毎日最低4時間行います。実習時間は、週に20時間を越えることも少なくありません。実習では、実際に大学スポーツの現場に出てアスレティック・トレーナーの活動を見学するところから始まり、テーピングや治療の実践、最終的には練習や試合への帯同まで行われます。

 大学院になると、これらの科目をさらに細分化して勉強します。
1)応用(上級)人体解剖学
2)運動生理学実験
3)応用バイオメカニックス
4)スポーツ栄養学
5)スポーツ心理学
6)統計学
7)経営学または体育行政管理
8)スポーツ傷害の予防
9)スポーツ傷害の評価
10)スポーツ傷害の治療
11)卒業論文(修士論文)
12)現場実習

 大学院生は、教室で授業を受けているより、むしろフルタイムで現場実習をしています。実習時間は週に50時間を越えることもあります。大学院生の実習では、基本的な技術が既に修得されているという前提で、当初から比較的怪我の少ないスポーツをひとりで任されたり、アメリカン・フットボールなど花形スポーツのフィールドで傷害の評価や応急処置などに参加したりします。大学の近くの高校での実習をする際は、ひとりで全てを仕切らなければなりません。大学院レベルのアスレティック・トレーナーは学生以上に机上での勉強に加えて、現場での経験からスポーツ傷害について学んでいます。
 大学院生には、有給の研究員の制度があります。これは、ひとりで現場を受け持つことができると評価された大学院生に与えられるスカラシップで、グラジュエート・アシスタントと呼ばれています。一般の学部のティーチング・アシスタント同様、学費が免除になり、若干の給与も出るのでアメリカの学部の学生はこのポジションを狙って頑張っています。

・日本での将来性
 アメリカでは、プロ、大学スポーツだけでなく、州によっては高校にも法律(条例)でアスレティック・トレーナーを設置しなければならず、アメリカ社会全体がその重要性を認識しています。
 日本のスポーツ界では、依然として多くの鍼灸の有資格者がトレーナーとして活動しています。アメリカで資格を取得してきたアスレティック・トレーナーは、J・リーグの発足とともに若干数が増えました。しかし、日本の全てのスポーツを合わせてもまだ40名足らずの留学経験者がプロスポーツ・チームや実業団のチームで活動しているのが現状です。
 日本でも1990年代に入って、日本体育協会のトレーナー制度が始まり、アスレティック・トレーナーの必要性は一部のエリート・スポーツにとどまらず、広くスポーツ界に広がろうとしています。こらからさらにアスレティック・トレーナーの存在と役割が認知され、ニーズが高まってくることが期待されます。

・協会と資格制度、そしてトレーナーになる方法
 全米アスレティック・トレーナーズ協会は、1950年に設立され、資格認定試験を始めたのは1969年になってからです。これはアスレティック・トレーナーの知識水準の統一をし、正しい情報の伝播を目的に始まりました。この資格試験を受け合格すれば公認アスレティック・トレーナーと名乗れます。
 アスレティック・トレーナーとなるための受験資格の取得には、二通りあります。一つは、NATAの公認カリキュラムを持つ大学で勉強する方法です。認定校を卒業すると受験資格を得る事ができます。認定校は現在、大学で80校、大学院で12校あります。
 NATAの公認校に入学する事は、大学が認めればできます。しかし、アスレティック・トレーナーのプログラムに入るには、プログラム・ディレクターの承認が必要です。これは留学生にとって、大学が個別に実施するテストがあり簡単なことではありません。
 二つ目は、インターンシップとよばれているものです。大学スポーツで活動している公認アスレティック・トレーナーのもとで、2年以上1500時間以上の現場実習をし、NATAの要求する科目1)心肺蘇生法・救急法 2)基礎健康と環境科学I 3)生物学 4)人体解剖学 5)生理学、運動生理学 6)バイオメカニックス、モーター・ラーニング 7)基礎トレーナー学を大学で履修すると受験資格が得られます。ただしこの制度は、2004年を目標に廃止の検討と準備が進められています。
 さて、上記のいずれの方法でも受験資格は得られるのですが、試験の合否は別問題です。アメリカ人でも合格率は低く、カリキュラム出身者の方が分がよいと言われています。試験に関する詳細は直接NATAの方に問い合わせて下さい。

・関連団体

NATA National Athletic Trainer's Association
(全米アスレティック・トレーナーズ協会)

JATO Japan Athletic Trainers' Organization
(日本アスレティック・トレーナーズ機構)

ACSM American College of Sports Medicine
(アメリカ・スポーツ医学会)

APTA American Physical Therapy Association, Sports Physical Therapy Section
(アメリカ理学療法士協会)


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