××さんのご父母様

前略

私はインターネットでうつ病に関するホームページを作り運営している、元うつ病患者の仁科綾と申します。
僭越ながら、私のうつ病の経験からどうしてもご父母様にお伝えしたいことがあり、差し出がましいことをと思われてしまうかもしれませんが、こうして筆を取った次第です。

貴方の娘さんは現在ストレス性の病気にかかっておられます
この病気は周囲が理解しなかったり、またご本人の症状の悪化によっては、死を招く重大な病気です
実際に私は何人もこの病気で亡くなった方を知っています
貴方の娘さんにも、常に死という危険に瀕しています

貴方の娘さんはストレスにより脳という「臓器」が障害を起こしている状態にあります。脳は長期に渡るストレスによって、脳内の機能障害を起こします
それによって極度の落ち込み、絶望感や「私はもういらない人間なんだ」という妄想にとらわれる脳内物質が異常分泌され、常に死にたいと思うようになってしまいます
これは脳内での異常な脳内物質の分泌によることであり、いわば病気の症状です
なので貴方の娘さんの意思ではありません
一回このような脳内構造の異常が起こりますと、どんどんそれにより脳内の仕組みが破壊されていき、正常な判断ができなくなります。ストレスが継続している場合はその加速は免れません
それによりストレス性精神病患者は、脳内の異常な判断により自殺したいという思いにとらわれるようになります
ただ、貴方の娘さんはまだ健康な自我も存在しており、病気の症状とあいまって「死にたい、けど怖くて死ねない」という気持ちにあると思います
この「死にたいけど怖くて死ねない」というのは『死にたい』というのが脳内異常による脳からの命令であり、『でも怖くて死ねない』というのが、貴方の娘さんに残っている健康な自我による脳の異常命令に対する気持ちであると私は思います
実際私も闘病期は同じ気持ちにとらわれていましたが、回復後に自己考察して、こう解釈いたしました
ただ一番怖いのが、その健康な自我が失われた瞬間であると思います
異常状態になった脳は本能のままに、自分を死へ向かわせようと…自殺しようとします
その健康な自我がなんらかの理由により失われた瞬間…自殺しようとした瞬間に、周りに止める人間がいなかった場合は、自殺が遂げられてしまい、帰らぬ人となります

私事の例で失礼しますが、私はうつ病の最中、解離状態というまた更に重度の精神異常状態に人間関係のトラブルがきっかけでなりまして、健康な自我が存在しない時期がありました
私の周囲の人間は家族・友達共に病気に理解があったので、この重症状態の時は常に私の側には誰かがいる状態であったため、私が幾度となく繰り返した自殺行為は全て未遂に終わり、今こうして病気も回復して生きていることができています
しかし、突然交通量の多い道路に飛び出そうとしたり、電車のホームで電車がくる直前に飛び降りようとしたり、真冬の川に飛び込もうとしたりということを繰り返していたため、もしその場に止めてくれる誰かがいなかったら、今私は生きていないと確証を持って言うことができます
ただ、それも重症になってきますと、意図的に自殺企図をはかり誰にも止められない状況の中で自殺することもあります
実際それで、私がインターネットで知り合った患者さん数人を亡くしています

このような重症状態になくても、常に娘さんは苦しみと闘っています
脳内異常分泌物により、常に苦しく無気力になり、何もできない自分を責め続けています
そんな脳からの命令に背き、生きていることがもうすでに並々ならぬ努力によりなされています
そんな状態で貴方の娘さんは生きているのです
そしてそんな苦しみに必死に耐えながらも、異常脳内分泌物による脳からの異常命令から、自傷行為をしたり、手首をカッターで切ったり、睡眠が満足にとれなくなったり、食が細くなっていったりすることがあります
これは全て病気の症状です
ただ、健康な人であっても満足に睡眠がとれない、常に体が飢餓状態にあると、正常な判断ができなくなってきますよね
そうして身体的にも苦しめられてくるため、どんどん正常な判断をする健康な自我が失われていきます
じわじわと、異常状態になっている脳が体全体を疲弊させ、死へ向かわせようとしていきます
これがストレス性精神病といわれる、病気の正体です

しかし現在の医学でわかっているのはここまでであり、その脳内異常分泌物を完全に抑制する薬、及び脳内の異常を完全回復する薬はまだ開発されていません
なので、怪我をした傷が自己治癒能力で癒えるように、この脳内分泌物異常を引き起こしているこの病気も、自然な自己治癒力に任せるしかないのが現状です
そのため、とても長い期間の治療が必要になってくるのです
精神安定剤、抗うつ剤、抗不安剤などは、その自然治癒力を発揮させるために、実際の症状(絶望感、無気力、自傷行為衝動、自殺衝動)を和らげるために、合法的に麻薬を摂取しているのと変わりません
脳内で分泌される、いわゆる脳内麻薬と呼ばれる、人が楽しい気持ちになったり嬉しい気持ちになる脳内分泌物が分泌されていると、自己治癒力が向上しますし、その脳内麻薬自体に脳内異常を回復させる作用があるといわれています。
なので、ストレス性精神病患者の一番の薬は、周囲が理解してやり、本人の好きなことを好きなようにやっていいのだと言い聞かせ、本人の好きにさせてあげることなのだと思います
自分の好きなことをやっている時というのは、一番脳内麻薬が出ていると思います
それゆえ、一番の薬であると私は考えています
実際私は重度の精神異常状態にまで達し、主治医からこれ以上酷くなったら入院しかないと宣告されていた時期もあったにも関わらず、2年半という短期間で回復し、現在普通の生活を送れるようになりました。
これはひとえに周囲に理解があり、「私はなにもできない役立たずだ。いらない人間だ」という妄想にかられていた私の話を真摯に聞いてくれ、その上で「学校になんか行かなくていい。家で好きなことをしていていい。ネットもしたいだけしていればいい。無理に外に行かなくていい。とにかく好きにしていなさい」と必死に説得されたことに、早期回復の理由があったと思います
いくら脳内異常により絶望感や極度の落ち込み状態にあっても、周囲がそうやって何度も説得し、頭をなで背中をなで、ぎゅーって抱きしめてくれた上で「あんたはいい子だ。よく頑張った。もう頑張らなくていいよ。無理しないでいいよ」と言ってくれれば、「そうなのかな?学校行ってない親不孝者の私なのに、学校行かなくて好きなことしていいの?」と思えるようになるものです
そうして背徳感や罪悪感のない状態で好きなことをしていることによって、回復が異様に早かったのではないかなと思っています
この病気は患者本人の回復したいという気持ちと、周囲の理解による支援によってしか回復しないのではないかと思っています

娘さんが亡くなって後悔してからでは遅いのです
「あの時理解してあげていれば…」という親御さん、友達などの周囲の方たちの嘆きの声もたくさん聞いています
お子さんの死によって、親御さん自身もうつ病になってしまった方もいらっしゃいました
「娘が死んで初めて娘の辛さがわかるなんて…」と嘆いておられました…

繰り返しますが、最悪の事態になってからでは遅いのです

今娘さんは、今の自分の状態や気持ちを表現することすらままらない状態にあると思います
そのため、僭越ながら元うつ病患者であり経験者である私がこうして娘さんの状態をお伝えした次第です
娘さんはインターネットに幾多あるホームページをさまよいながら、私のホームページに訪れてくださり、私のホームページを見て共感し、「私も仁科さんのように治りたい!元気になりたい」と必死に生きておられます
是非とも、是非ともそのことをご理解ください
理解しにくい病気ではあると思いますが、理解しようと娘さんの言葉を真摯に聞いてあげてください

私の経験をホームページに掲載してありますので、是非参考になさってみてください
「みんなで分かち合えばもっと楽になれるよ」
http://www5d.biglobe.ne.jp/~beloved/

また、心療内科の先生が運営されているこちらのホームページでは、医学的な見地からの記述が多く、とても参考になると思うので、是非訪れてみてください
こちらの「身体表現性うつ病」というところに記載されている内容は、ほぼうつ病に関する記述と共通しているので凄く参考になると思います
「心身症のお話」
http://www.biwa.ne.jp/~susumu55/


差し出がましいことを申してしまって大変失礼いたしました
でも娘さんのことを思い、どうしてもお伝えしたく、こうして書かせて頂きました

私は少しでも多くの方が、あの地獄の苦しみから一日も早く楽になれることを願っています

最後まで読んでくださりありがとうございました。
乱筆乱文失礼いたしました

敬具


「みんなで分かち合えばもっと楽になれるよ」管理人
元うつ病患者
仁科綾

メールアドレス・myuu1@anet.ne.jp