WHISTLE!のページへ戻る


ねがい






恋に恋しているこの気持ちが少しでも長く続きますように。

なんてね。祈って成就するなら、あいつが俺のものになりますようにって、
 それこそ毎日祈り続けるっての。

それこそ契約書を持って来たのが悪魔だったとしても、即サイン・押印するね。

叶えるかわりに俺が持っているもので一番大切なものを渡せと言われたら、
 そうだね、叶ったあかつきの愛しいあいつの魂を差し出すね。

一瞬でいいんだ。

永遠であれなんて望まない。

真実、あいつが俺のものになってくれたら、
 一秒後には夢から覚めてしまってもかまわないんだ。

……叶ったらいいね。叶うはずがないと知っているから、願うんだろうね……。
















見慣れた天井。枕から香る匂い、ここ1、2年はずっとこの香り。いつもいつも肌触り抜群の
 シーツ。色や素材が変わってもこの肌触りの良さは変わらない。

そして見飽きてしまったあいつの背中。

たまには余韻にひたってくれよ。しばらくは抱きしめてくれてもいいんじゃない?

仮にも抱き合ったんだぜ? 俺の中でイったじゃないか。気持ち良かっただろ?
 サービスだってしてやったんじゃんか。
 口でしろって言うから口ん中に入れてお前好みに合わせて丹念にしつこくしゃぶってやったろ?
 最後はちゃんと口ん中にも出さしてもやったんじゃんか。
 それにあれだよ、ゴムは嫌いだって言うからあとで大変なのにナマでもやらしてやっただろ。
 それなのにだ。ばっちり奉仕してやった俺に対してお前は労わりの言葉一つだってくれやしない。

ちぇっ。

そりゃ愛してなんかいないから仕方ないことなんだろうけど、
 頭ではわかっていても気持ちはそんなに簡単に割り切れるもんじゃないんだよ。
 無理な望みだと知ってるから理解してくれなんて言わないけどさ、少しは俺のことも見て欲しいよ。

ねえ、俺は単なる処理機?

「結人、下行ってなにか持ってくるけどなにがいい?」

突然振り返るなよバカ、びっくりしただろ。

「……俺が取りに行くよ。勝手に探していいんだろ? お前はポカリでいい?」

「いいよ。悪いな」

……嘘つき。悪いなんて思ってねえくせに。

ほんとに悪いって思うんだったら、けつの痛い、腰のだるいこの俺に行かせるなよ。
 お前が散々無茶して俺は眠りたいほど疲れてんだよ。
 これがもしあいつだったら……よそう。意味のない比較だ。

……むかつく……。すげえムカツクよ。

ジーンズだけを穿いて上半身はまだ裸の背中に、俺は舌を出した。
 見慣れた背中、見飽きた背中、なのにそんな背中にすら愛を感じるなんて滑稽だ。
 英士の大バカヤロォ。

心の中で捨て台詞を残して俺は部屋を出た。






部屋に戻ると英士はベッドの上にいて、壁に背を預けて読みかけだった雑誌をめくっていた。

「英士」

投げたペットボトルを難なくキャッチした英士。なんてことはないそんなシーンにすら愛を覚える。
 切ないってこういう気分なのかな。泣きたいのに愛しい、不満はあるのに自分からは壊せない、
 要求したいことはあるのに言葉を飲み込んで耐えてしまう、
 言いたいことは山とあるのに結局は黙って不満のないフリをしてしまう、
 したいことはあるのに行動に出れないこういう時のこういう気分を切ないって言うんだろうな……。

「なに突っ立ってるの」

……見惚れてたんだよ、バカ。

「べつに」

「飲みたいもの、ちゃんと見つかった?」

「ああ。ジョージアの缶コーヒー、奥に転がってた」

「あれ、そんなのあった?」

「……あったよ」

お前は酷い男だよ。俺がいまいる位置がどの辺かわかっちまうじゃんか。所詮その程度なんだな。
 俺がこのコーヒー好きなのお前だって知ってるよね。
 だからお前が飲むわけじゃないこのメーカーのコーヒーがお前んちの冷蔵庫にあったんだよね。
 でもお前はすっかり忘れていた。
 ……まるで「気に掛けてもらえない」俺の分身を見つけた気分だよ。

なあ、俺はお前の声を聞いたような気がするよ……。
 お前にそんなつもりはなかったんだろうけど、俺には確かに聞こえた……「その程度なんだ」と。
 
「英士」

「ん?」






目で追うページから顔も上げてはくれない。






こんなに思っても届かない。






それでもお前が好き。






「……結人?」

やっと俺を見た。なに? と目が次の言葉を促している。伝えたいことはいっぱいある。
 でもどれ一つとしてお前は叶えてはくれない。……わかっているのになんで望むんだろうね。
 人間てバカだよな。愚かだよな。諦めてしまえば楽にもなれるし別の道も開けるってのに
 辛いだけの想いにしがみついてさ。……いったいどこに辿りつきたいんだろうね。
 もう自分でもわからないよ……。

「なに、どうしたの?」

好きなんだ。俺を選んで。だめならせめて見てよ。

言えたらいいのに。……でも言ってしまったらこいつ、どう答えるんだろ?
 悪いけど無理だよ、……あっさり言ってくれそうだ。

愛もない俺とどうして肉体を結ぶの?

聞いたら答えてくれるかな。
 イヤならやめてもいいよ。俺はいっこうにかまわない、……問題ないとばかりに言われそうだ……。

だからだよ……。だからなにも言えないんだよ。お前が俺を捨てそうだから、だから、
 俺はなにも言えなくなるんだ……。

酷い男だな英士……。俺をこんなに惹きつけておいて愛の欠片もくれやしない。
 蜘蛛だって惹き付けた獲物はちゃんと食ってやるってのにお前はなにも与えてはくれないんだな。
 
「しよ」

うんざりしたように肩をすくめる男にもう一度「してよ」とベッドを軋ませながせら迫る。

「充分しただろ?」

冷たい言葉を吐く愛しい唇にそっとキス。
 身じろぎ一つしない憎らしい男の唇を何度も何度も啄ばむ。
 抱いて?
 合間合間にねだる言葉は泣けない俺の精一杯の言葉。

「好きだな、お前」

「SEX? 好きだよ。だって気持ちいいじゃん。お前は良くない?」

「ま、身体は満たされるけどね……」

心は?
 なんてね……。俺が可哀相すぎるから聞かないけど……。
 でも、言いたいことはわかるよ。あいつがいんだろ? ほんとはさ。
 欲しいのは俺じゃないよね? あいつだよね……。
 いいんだ。わかってるよ。

「……っん……英、士……」

肉体だけの繋がりでもいいよ。なにもないよりはいい。
 喘がせて。イかせて。お前の手で、舌で、お前の牡で。
 この身体にうんとたくさんお前を残していって。
 いつか一人になった時、寂しくないようにどうかこの身体にお前を残していって……。












祈って成就するなら、あいつが俺のものになりますようにって、
 毎日祈り続けるよ。

それこそ契約書を持って来たのが悪魔だったとしても、即サイン・押印するよ。

叶えるかわりに俺が持っているもので一番大切なものを渡せと言われたら、
 そうだね、叶ったあかつきの愛しいあいつと俺の二つの魂を差し出そう。

誰にも渡さない。
 永遠に俺だけのものであれと、切に切に願うよ。







 

 

 






END

 


 

結人→英士→一馬です。
ところがだ。一馬くん出てきません。でもいいんです。伝われば。
結人、英士ときて内容が片想いものときたら一馬しかいません。
断言。だって郭真だもん、私。

ねがい。
確か前ジャンルでも使ったタイトルだ。
同人やってたら使うっしょ。と、またまた断言。
いや、だって三人組だもん。

三角関係というか、結人→英士→一馬ってスタイル大好きっす。
郭真←しつこい
はっきりもう決まった想いの方向でただただ結人が片想いしてるのが好きです。
郭真だとなんか一途過ぎて嘘くさい気がしてくる時があって二人の世界は
重くてこんな話書けません。
ところがだ。
結人の片想いはあっさり書けるんですな。
一途は一途でもじめっとしてないから。
想いと身体は別物って……人によっては賛成出来ない話かもしれないけど、
書く私には「あるある、人間てそういう生き物だよねぇ」と納得できるものなのです。

さてさて。続きをやらずに別物に手を出した私はなにを考えてるんでしょ。

えへっ、なにも考えてまへん。

WHISTLE!のページへ戻る