切ないくらい愛しい 「どうしたの、帰らなかったの?」 「英士を待ってた」 「なに、ずいぶん嬉しくさせてくれるようなこと言ってくれるじゃない。どうしたの?」 「……さっきはごめん」 項垂れて、消え入りそうな声で謝る彼に、最初から怒ってなどいない英士は薄く微笑んだ。 「気にしてない。もしかして謝るだけの為にわざわざ残ってくれたの?」 「……このあと用事あるからって先帰った結人が帰り際に英士に謝った方がいいって、さっきのアレは 人に言われたからと言って自分の意にそっていなければ、決して素直に従う性格でないことは 性格ではそうそう簡単に治せるものではないがそれでも一馬は、そうしてしまうのは自分の悪い癖だと しかしそういう彼だからこそ、素直にごめんなさいと言わなかったとしても、本当に悪いと反省したから 「結人に言われたから残ってくれてたの?」 「ち、違うよ!」 傷ついた顔を見せられて、やり過ぎたことを英士は悟る。1、2歩あとずさって背中がロッカーに行き 泣かしてしまっただろうか。 ちくりと痛む胸に手を当て、一馬には聞こえないよう注意を払って舌打ちをする。彼がどんな思いで 「――ごめん」 項垂れる彼の肩に手をかけて抱き寄せ、胸の中に抱きしめる。おとなしくなすがままになっている彼 「悪いと思ってなければ謝ったりなんかしないこと、ちゃんと知ってるよ。ごめん、ちょっと意地悪 「なんでお前が謝るんだよ、そうじゃないだろっ」 震える声が、怒りによるものだとは思えない。どうやら本当に泣かせてしまったようだ。 「ごめん。だってお前を傷つけた。せっかく謝ってくれたのにその気持ちにケチをつけちゃったから」 「……」 「ごめんね」 鼻をすすった彼の背中を優しく撫でて謝る。 「……英士」 「なに?」 なにかを尋ねたがっている声。それがわかったから彼の髪にそっと触れ先を促した。 少しの間をあけて彼は聞いてきた。 「もう怒ってない?」 「怒ってないよ。ていうか最初から怒ってなんかいなかったよ?」 「俺、ひどいこと言ったのに?」 「一馬と最初に約束してたのに守れなくなったんだから仕方ないよ」 「でも家の事情だろ? 英士が悪いわけじゃない……」 「でも誘ったのは俺だよ? 一馬も楽しみにしてくれてたのに守れなくなってごめんね」 顔を上げぬまま首を振る彼の髪が首筋を撫で、ほのかにシャンプーの匂いが香り立つ。清潔な香りは彼の まずいなぁ……。衝動に走りそうになる勢いが抱いた背中に回している手の平のすぐそこまでやってきて 「――この埋め合わせは必ずするから」 不信感を与えぬよう気を配ってさりげなく彼を引き離し、着替えをするからと背を向ける。 着替えを取り出すため開けたロッカーの扉がガシャンと煩く喚いたのは気のせいだろうか。 けれども気になって手がつかない。手にしたシャツを持ったまま身体が固まったままだ。 「俺のことなんかほんとはどうでもいいと思ってるだろって、……あれ、本気で言ったんじゃないから」 不意に一馬が言った。 弾かれたように英士は振り返っていた。 「……一馬」 泣きたいのを堪えているかのように見えるその表情に英士の視線は貼りつき目が離せなくなる。 「わかってる。わかってるからそんな――お前が傷ついたりなんかしないでよ一馬」 思わず抱きしめてしまった英士も一馬の気持ちが感染したのか、泣きたくなってきた。一馬の性格が 時間をおいてほとどりが冷めてからもう一度あやまればいいくらにしか思っていなかったことが悔やまれ、 「……俺、いつも考えなしに言っちゃうからさ、自分でも気をつけているつもりなんだけど…… これまでに言ってしまった言葉の数々を思い出し反省でもしたのだろう、表面上は淡々としているように 「一馬だけが悪いんじゃないでしょ。俺がそう言わせてしまうことをしているんだよ。今日だってそうだ。 どんな言葉を掛けても今の彼には届かないだろうとは思う。思い悩んでいる時は自分に非があるように 「……もう気にしないでよ一馬。一馬がどういう人間かは充分理解してるつもりだ。本意でないこと 「英士って……マゾ……?」 「なにそれ」 軽口が叩けるようになれば安心だ。 「一馬は瞬間的に爆発しちゃうだけで言葉自体に毒なんてないからね、大丈夫、そんな簡単に傷つきは 「……あるよ」 「ひどいことって言うのはね結人みたいなセリフのことを言うんだよ。わかった?」 「……なんとなく」 掠れた言葉を呟く一馬の自分から合わせてきた目に落ち着きの色を見て、英士も安堵の微笑みを浮かべる。 「……もしかして俺、うまく言いくるめられたのか?」 たまに一馬は鋭いところを見せるから怖い。常にだまされてくれるなら安心して一馬の機嫌を取れる言葉 「そういうつもりはないよ。なに、そんな風にとれた?」 「そういうんじゃなくて、……」 「なくて?」 言葉を言いにくそうに飲み込んで無意識のうちに何度か髪を掻きあげる仕種を見せる一馬にその先を 「……なんか、うまくかわされた気がする……」 「いいじゃない、かわされときなよ。だって仲直りしたいんだろ? 「そんなわけないだろ、……ごめんな英士……」 きつい目で睨んだかと思うと急にしおらしくなって謝りだす一馬に、さすがに英士は苦笑を隠せない。 「あ、なあ英士」 抱きしめていたい際限のない気持ちを抑えて彼から離れ、ようやく着替えにかかった英士の背後に 振り返ると自分の顔を映す一馬の視線とぶつかり首のうしろが攣れると同時に鼓動が飛び上がった。 「――なに?」 「あのさ、……」 一馬の目に映る自分の顔がだんだん大きくなり近づいてきているらしいと気付いたときにはもう目の前に ロッカーを背にしているため体重を掛けて抱きついてくる一馬を難なく抱きとめてようやく英士の方から 「――どうしたの? 一馬にしては積極的じゃない。なにかヘンなものでも食べた?」 濡れて赤く艶かしく色づく唇の輪郭をなぞりながら聞くと「なんだよそれ」と潤んだ目で睨まれ、 「さっきなにか言いかけてたよね、なに?」 「……たいしたことじゃないよ。たださ、……悪いと思ったからその、……なんていうか、……あっ! 「ごめん」 彼らしくない大人な方法で謝ってくるとは思ってなくてびっくりしたが、顔を赤くする一馬と 「一馬さ、周りをよく見て行動しなよね」 「なにがだ?」 「あんなキスされて俺がなにもしないと思う?」 「思わない」 驚いた。つまり一馬はその気になってくれているらしい。 「どうしたの? らしくなく素直だね」 「文句あるんだったらいい、放せよ」 自分一人がからまわっていると勘違いしたのか、気まずく表情を曇らせた。反射的に腰に回していた手に 「文句なんてないよ。あるわけがない。いいの?」 「この状態でそういうこと聞くなよ。英士らしくもない、なに野暮なこと聞いてんだよ……」 最後の方の言葉を英士の唇に吹きかけて一馬の唇が重なる。啄ばむようなキスを繰り返して、 「英、士……」 角度を変えながら重ね合わせた唇から零れ落ちてくる息は熱く、甘えるようなトーンは甘く英士の耳に ぎゆっとしがみついてくる彼の制服の前ボタンを手早く外して手を忍ばせ、わき腹に手のひらを当てて 胸の突起を指の腹で転がす英士の耳をくすぐるのは熱に濡れた声。英士と、何度もその声に呼ばれて、 前をはだけさせてつんと立ち上がった胸の突起を口の中に入れる。がたんと、ロッカーが喚く。 「やっ、だっ……えっ、し、……痛い、……」 そんなに強くは噛んでいない。愛撫に敏感になり弱い刺激でも痛いと感じるのだろう。 下肢に手を伸ばしてそこが硬くなっていることを確認して前をくつろげてやる。布越しにやわやわと 「っああ、……あ、あ、……」 いやだと言いたげに振られる首の筋に吸い付き、朱印を刻む。手のひらにじかに一馬を包み上下に扱いて 「っんんっ……」 頭を抱え込むようにして前屈みになる一馬のくぐもった声を頭のてっぺんで聞きながら英士は舌を巧みに 「え、しっ……」 もういいからと、切れ切れの吐息とともに引き離そうとする手が英士の髪を乱暴に毟った。英士はそれを 「えい、しっ……や、だって……え、しっ……」 抗議は続き、背中を叩かれるが綺麗に無視して英士は先端に舌の先を差し込んだ。 「っんっ……!」 息を詰めた一馬はついに口内に射精した。弾かれたように飛び散る液を英士は残さず胃の中に入れた。 ようやく顔を上げて口元を拭う英士に「ばか英士」と、一馬は悔しそうに涙目になり、その手を払い 「俺の言うこともたまにはきけよっ」 「きける話なら聞くよ?」 唇に触れている指を掴んで引き寄せ唇を爪の先に落すとびくっと、弾かれたように一馬の指先が震えた。 「……英士」 髪に触れてきた一馬の声には焦燥感にも似た詰まりが混じっていた。指先への愛撫がちりちりと身体の もつれるように床に転がって抱き合った。 「腰、あげてくれる?」 一馬は素直に協力してくれた。下着ごと、あがった腰から引き摺り下ろし膝に手を差し入れて足首まで 英士は、裸になった内太腿に手を吸い付かせて一馬の肌の柔らかさを楽しんだ。膝を立てさせて膝の裏を 「一馬」 そのきつく閉じられた瞼の上からキスをする。英士の胸もまた愛おしさで、焦がれてしまいそうなのだ。 「っえ、し……」 ぎゆっとしがみついて息を詰めて一馬は心細そうな声で英士を呼ぶ。 当然前は縮こまり先ほどまでの硬さは完全に失ってしまっている。 窄みに指を入れて丁寧に内壁を掻き回して異物感に慣らしながら、そして彼が悦く感じるであろう 「……っん……」 ぴくりと、一馬の内太腿が震えた。 「ここ?」 「っん……あ、……」 いやだと何度も首が振られた。どうやら見つけることができたらしい。少しの間そこを弄り解したあと 「やっだっ、……英士っ、や、だぁ、……」 ばたつかせて抵抗する一馬の足首を掴んで内壁を舌で掻き回すとくちゅくちゅと、淫靡な濡れた音が 「一馬、……」 「いやだって、……それはいやだっ、……」 「なんで? 気持ちいいでしょ?」 よくないよと、首が振られる。そんなわけはないと英士は思う。実際前は起立し蜜を零して腹の上を 「でも慣らしておかないと痛いのは一馬だよ? イヤでしょ?」 「でもいやなのはいやだ」 「困らせないでよ一馬。痛かったらお前当分もうしないって言うだろ? そうなったら俺が困るんだよ。 「お前こそ俺を困らせんなよっ、……指、抜い、てっ……」 仕方がない。一度駄々をこねたら一馬の言い分は甘やかしても脅しても引っ込むことがない。 「じゃあ、ここまでってこと?」 仕方なく指は抜いたけど一馬の上にはまだ、乗ったままだ。少し剣が入っていたのはそれもまた仕方が ほっと安堵したように息をついた一馬が瞬間だけど憎らしく感じた。 「そんなこと言ってないだろ」 「じゃあどうするの」 「……続けてよ……手でして……一回いけたらいれていいから……」 思わずまじまじと一馬の顔を凝視してしまった。なんとも腰にくることを言ってくれたものである。 「……ごめん、配慮が足りなかったね」 「いいよ。気にすんなよ……それよりさ、英士……」 続きをしよ? 伸びてきた腕がするりとしなやかな仕種でもって首に巻きついてくる。 ああ、なんて愛しいのだろう。愛しても愛しても愛し足りない。なんて際限がないのだろう。 「……英、士……」 「もっと呼んで? お願いだから一馬、もっと俺を呼んで……?」 「っん……っふ……」 手の刺激で形を変えていく牡に自身のものも押し当て、互いの腹に擦り合わせて英士と一馬は 「あと少し我慢して?」 一緒にいきたくて英士は手の動きを止めた。途端にずるいぞと、恨めし気に潤んだ目が英士を非難した。 「英、士っ……」 熱い吐息を撒き散らす一馬の唇を塞いでようやく英士の手は動き出す。英士、英士と繰り返す一馬の 自分の放ったものと指に絡まった一馬のものとをブレンドさせて英士は一馬の後方に指を差し込んだ。 「……いれるよ?」 うっすらと汗の滲む額に貼り付いていた前髪を掻きあげてやって目を覗き込んで尋ねると、 「っつ……」 きつい。拒まれているかのようなきつさに出迎えられ、思わず英士は舌打ちをした。 「一馬、深呼吸してくれる?」 涙の滲む眦を指でさすって協力を仰いだ。こくんと頷いた一馬は一生懸命息を整えて吸って吐いてを 情けない話になるがこの状態でも英士は出てしまいそうだった。だから出来るだけ早く一馬の中に 「……え、し……ど、しよっ……俺、このままだけどなんか、も、ダメそ、……」 不意に一馬がそんなことを言った。だめとは? 痛くてこれ以上は無理ということなのか? 「……あと少しだから」 「ちがっ……そのダメじゃなくてっ、……」 「……まさか、だよね?」 一馬の言いたいことがわかって一応確認するつもりで尋ねるとくしゃりと顔が歪んでつつっと眦から涙が 「……あのさ、俺もそうなんだけど……少し協力してくれる?」 「なに、すればいい、んだ……?」 「荒っぽいやり方だけど強引に入っていい?」 「……痛い、よね……やっぱ……」 「……多分ね。でもこのままでいるよりいいと思うんだけどそれは俺だけ?」 「……途中でダメだったらごめんな……」 身体を強張らせた一馬の脚を抱え、一気に身体を進めた。短く悲鳴が上がるが咄嗟に英士の肩に そのまま腰をグラインドさせて揺さぶられ出した一馬は、抑えた口元から途切れ途切れに喘ぐ声を やはりというか、長くはもたなかった。 「っ……も、出るっ……」 ぶるりと腰の辺りから震えが上がってきて、背骨に沿ってのろりのろりと痺れが伝わってくる。 一馬は両の腕で目元を隠して荒い息をついていた。呼び掛けるとのろのろとその手がどかされ疲れきった 「……いけた?」 「うん、……英士より少し早かったかも……」 「……痛みはひどい?」 「そんなでもない……でも疲れた……眠いよ……」 「だめだよこんなとこで寝ちゃ。風邪引くよ?」 「……英士……だめ、そやって髪いじんなよ、……気持ちよくて……ますます眠くなる……」 とろんと落ちてくる瞼に、仕方ないねと英士は苦笑する。 「……10分、5分でいいかんらさ、ちょっと寝かして……」 言い終えるやいなや一馬の瞼はすっかりと閉じられ、そのあと呼んでも揺すっても返事は返って 「……だからさ、一馬……まわりの状況をよく見て俺を煽ってよね?」 一馬の寝顔にそっとキスをして英士もその場に寝転がって、窓から覗く夜の空を見つめた。 ほんとうに、いつになったら帰れるのか……。やっぱり状況は考えるべきだよね……。 コール音を聞きながら溜息をつく英士の身体は、それでも心地のいい疲労感に包まれていた。
郭真です。どこから見ても郭真です。 |