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恋するって大変






好きと言うのは簡単。キスするのも簡単。身体を重ねて快楽を貪るのも簡単。
 だけど好きというその気持ちを信じてもらうのは難しい。

一番重要なことなのになんで、こんなに難しいのだろう。好きって言っても疑われるし、
 キスしてもまだ疑うし。SEXしてもあれだけ好きなことをさせてやってもまだ不安に
 なるって言うし。俺にこれ以上どうしろって言うんだよ。

言っても言っても伝わらないんだったら言葉じゃダメってことだ。言葉以外に伝える方法
 なんて知らない。態度で示したって疑われるんじゃそばにいる意味だってない。
 つないだ手の暖かさや握った強さまで疑われたんじゃ怖くておちおち手も握れやしないよ。

どうしたら伝わる?

好きだよ、好きだよ、誰よりも好きだよ。

好きだよ、好きだよ、好きなんだって自覚するたびにもっと好きになれるくらい好きだよ。












とけかかったアイスを結局最後まで食べずにゴミ箱の中に入れてしまった。

「もったいねぇ」

それを見て結人が大袈裟に声を上げた。

夏休みもそろそろ中盤。残りはあと少しとなった平日の遊園地。人手は普通の休日と変わらない
 くらいの混み具合。でもカップルや家族連れに混じって俺たちくらいの年代のグループを多く
 見掛けるあたりが『ああやっぱり夏休みなんだな』って思わせる。

「お前さ、こういう場に来てんだからもちっと楽しい顔しろよ」

結人が遠慮なく脇腹を小突いた。ベンチに浅く腰掛けてうす曇りの空を仰いでいた俺は結人に
 一瞥くれて、伸ばしていた脚を戻しながら「無理」と、短く簡潔に答えた。

「いい加減にしろよなお前、いくらお前が誘ったとは言えここに来た俺の立場はどうなんだよ」
「お前の立場? そんなのあるのかよ。いやだったら断ればよかったじゃねえか」

機嫌よろしくない俺はもうずっとぶすくれた顔をしている。結人と乗り物に乗ってもカートに乗っても
 物を食っていても、気分なんか晴れやしなかった。にこりともしない俺に「少しは笑え」とか
 「いい加減にしろよ」とか結人がなにを言っても不貞腐れた態度を崩さなくて、これまでは根気よく
 付き合っていた結人にもそろそろ限界が来ているみたいだった。これまでなら俺が答えたらあとは
 「あ、そ」とろくに相手にもしなかったのが今の態度には結人の顔もぶすくれた。

「……ごめん」

結人のそんな顔を見たら自分のあまりにもガキ臭い態度に居た堪れなくなった。どこまでも自己中な俺。
 ごめんと小さな声でもう一度結人に詫びた。

「ここで謝んなかったらお前のことぶっ飛ばせたんだけどな」

物騒な、けれど本音だと思うセリフを吐いて、結人は空を仰ぎ見た。顔の前で手をかざして「一馬みた
 いな天気だよな」楽しげな顔に似合わない嫌味なことを口にした。

「……やなこと言うなよ」
「なんで、ほんとのことだろ。朝からずっと仏頂面しやがってさ」
「……仕方ねえじゃん……だって、……」
「だって? そうやって面白くねえ顔してんだったら直接本人に会って文句の一つや二つ言ってやりゃあ
 いいんだよ。そうやってお前が遠慮なんかすっからあいつが悩むんだろ」
「俺が悪いのかよ」
「そうは言ってねえよ。言いたいことがあんだったらはっきり言ってやれって言ってんの」

それができたらこんなところで不貞腐れてなんかいないよ。言えないから一人こっそりぐれてんじゃんか。
 ……なんて言っても始まらないか。

あーあ。なんでこんな難しいことだらけなんだろ。数学の問題集やってるよりも難しいや。

「電話貸してやろうか?」
「けっこう」

難しい顔してたもんだから勝手に誤解してやがんの。冗談だろ、全然まだそん気分になんかなってない
 っての。

「お前がそうやって不貞腐れてる間ずっとあいつも悶々と過ごすことになるんだぜ? 可哀相だとは
 思わんの?」
「可哀相なのは俺の方だっ」
「そうか? あいつはなんでお前の機嫌が悪くなったかもわかってないんだぜ? 理由もわからなくて
 いきなり不機嫌面されたり避けられたりしたら普通は顔色伺うもんだろ? 至極当然な行動に出た
 あいつを『お前の考えてることがわからない、お前と付き合ってける自信がなくなった』なんて
 言って責めて落ち込ませたのは誰だ? さすがの俺も今回ばかりは英士に同情したね」
「だってそれはあいつが、……」
「あいつが?」

結人は俺を責めるけれど俺にだってそうせざるを得なかった事情がある。理由のない単なる我侭とは
 明らかに違う止むを得ない事情ってやつだ。まだ結人には言ってないから一方的に俺が悪くされてる
 けど事情を知れば結人だって英士の肩ばかりは持てなくなるはず。

けれど。それを言うのは裸で結人の前に立つのと同じくらいの勇気を必要とする。俺の精神に直結する
 非常にデリケートな問題なんだ。これを話したらもうこの先隠すものなんてなにもないだろうと
 断言できるくらい極めてプライベート過ぎる問題でもある。いくら結人にでもほいほいと語れる内容
 ではなく、しばらく俺は考え込んでしまった。

「英士がどうしたって? 俺には言えないようなことされたのか?」
「されたっていうかさ、……」
「お付き合い解消すんの?」
「……」

英士と、世間で言うところの男女の恋人同士がするような付き合いを始めて約一年。よくもったと思う。
 だって俺は女ともろくに付き合ったこともないのにいきなり同性のしかも長く親友というポジション
 にいたヤツとそういう関係になっちまって、試行錯誤にも似た毎日がドキドキハラハラの新鮮でかつ
 ショッキングなことだらけでさ、ただもうおろおろするばかりですべて英士ペースで進められてきた。

キス一つろくにできなくて英士に一から教わっちまったし。唇と唇をくっつけるだけでOKだなんて
 可愛い想像はもろくも崩されたし。まさかさ、あんな舌を使ってあんな長く深くするもんがあるとは
 思いもしなくて最初英士の舌に触った時なんて絶叫に近い泣きが入っちまったし。

SEXなんて人事、俺には遠い未来の出来事だと思ってたのにあんな体位こんな体位、
 あんなところでやこんなところで体験しちまうしさ。

友達ではしないようなことをたくさんこの一年でしてきた。ほんと色んなことを教わったよ。

だけど俺たちはどこかしっくりいってなくて。……俺はちゃんと恋人としての役割を果たしてきたつも
 りだったけど英士は俺になにか不安を感じるらしく、不安気に俺のことを見ていたりする時があった。
 まるで今の状況を信じていないみたいな、一歩も二歩も引いて俺の出方を覗うよな目で見られるたび
 に英士がなんでそんな目をするのか考えるんだけどわからなくて。
 でも気持ちのいいものではないからだんだん俺まで自分たちの関係に不安を感じるようになっちまっ
 てついには英士の俺を好きだという気持ちそのものに疑問を抱くようになっちまった。結局俺まで
 覗うようにして英士を見るようになっちまってさ、疑問と不安と戦いながらの心休まらない恋愛して
 んなあって何度も思ったよ。

俺は単純な人間だからさ、複雑なことには滅法弱い。精神的にすごい負の力が加わるんだよね。
 悩みなんかあったらそれが綺麗に片付くまではまったく落ち着けなくてさ、顔には出るし態度にも
 もろ出るしで周りにはヘンだってことがすーぐにわかってしまう。英士も俺が不安になってきている
 ことにすぐ気付いてさ、『どうしたの?』『なにを悩んでるの?』『俺に話せることだったら話して
 みなよ。力になるよ?』なんて言ってくるし。……お前のことで悩んでるのに言えるかっての。
 そしたらあいつ、俺が隠し事してると思い込んで今度は気を使ってまったくこれっぽっちも聞いて
 こなくなるしさ。……すげえむかついたよ。なんでそんなに気を使われんだろって考えたら無性に
 腹も立ってくるしさ、答えが出せないことにも苛立ったし、そういうことが積もり積ってとうとう
 我慢なんかできなくなって英士の顔を見ただけでもうむかむかしてきてしょうがなくなってさ、
 ……ガキ臭い仕打ちだとは思ったけど一ヶ月前から一緒にいる時に不貞腐れた態度っていうかぶすく
 れた顔ばっか見せてたらあいつ、俺に触れてこなくなりやがった。

だからなんでそういう不安な目で俺のこと見るんだよっ。

俺に言いたいことあんだったらはっきり言ってくんねえとわかんねんだよ。聡い性格じゃないからさ
 ぜんぜんわかんねんだよ。俺のそういう性格知ってるくせにああいう態度とるんだもんよ。
 俺だってキレルっての。

「一馬さ、そうやって百面相してればお前の気は晴れるのか?」
「……晴れねえからずっとこんな顔してんじゃねえか。こういう状況で嫌味なんか言うなよ、
 こっちはマジで悩んでんだからさ」
「だったらその悩みってやつを俺に話してみな。第三者の目から見て至極平等な審判下してやっからさ」
「よく言うよ。お前さっき英士に同情したって言ったじゃねえか。お前の中での悪者はもう俺って決ま
 ってんだろ」
「そりゃ仕方ねえって。だって俺はまだ英士の言い分しか聞かされてねえもん。でもここでお前の話
 聞いたらどっちにどう転ぶかわかんねえよ? ほらだから話してみ?」
「……」

うー……だからすげ、恥かしいんだって。いくら結人にでも言いづらい内容なんだよ。

「仕方ねえなぁ、よし、俺から質問してくからそれに答えろ。いいないくぞ」
「えっ、ちょっ、待ってよ……」

いきなり過ぎるっての。

「だーめ。これ以上待てないっての。いい加減げろしちまえ。いくぞ」
「結、……」
「英士のこともう好きじゃなくなった?」

心の整理もつかないうちからいきなり直球で投げられて俺は口をぱくぱくさせた。しばし結人と
 見つめあって『どうなんだよ』と再度聞かれてたらりと冷や汗を流した。一瞬『抱え込んでいても
 らちはあかねえ、ここはもう結人に洗いざらい悩みぶちまけてすっきりさせちまえ』という考えも
 浮かんだ。たしかにこのまま一人で気を揉んでいてもらちはあかない。俺ではもう持て余してるのが
 実情だ。そういった現状を考えれば、思い余ってここで結人に相談して気を楽にした方が俺のために
 はいいし、現状打破につながる意見がもしかしたら聞けるかもしれない。

「……茶化さないって誓うか?」
「この期に及んでそんなことするかよ。俺を信じろ」

信じてばかみたことなら何十回となくあるけどね。でもま、今回ばかりは俺の方も楽になりたいって
 気持ちが強くあるからいいよ、信じてやるよ。

「まだ好きだよ」
「じゃなんの自信をなくしたんだよ。好きだから付き合うんだろ? 付き合うのにほかになにが必要なん
 だよ」
「なにかを必要としてんのは英士の方だよ。俺は不満なんかないってのにあいつの方はなにかが不満
 なんだよ」
「ばか言ってんなよ、英士が不満なんか持ってるわけねえだろ。あいつはお前にくそ暑いくらい惚れ
 まくっててお前をゲッチューできて死んでもいいくらい幸せだ、なんてほざいた男だぞ」
「じゃあ付き合ってから俺に不満を感じるようになったんだろ」
「かーずま。なにをそんなに依怙地になってんだよ」

不貞腐れて深くベンチの背に凭れ掛かった俺の態度に、結人はお手上げだねと言わんばかりに、
 大袈裟に肩をすくめた。

「なんであいつが不満持ってるって思うんだ? 一馬の前でそういう態度とってたんだ?」
「……なんか言いたそうな顔してよく俺のこと見てた」
「言いたそうだけど言わないから不満があるって思ったんだ?」

頷いた。

「ばっかじゃねえの」
「なんでだよ!」

呆れた顔して俺を見る結人に俺は立ち上がって食ってかかった。なんでばかなんて言われなくちゃいけ
 ないんだ。

「ばかってどういう意味だよ!」
「座れよ。大声出して目立ってんぞ」

言われて辺りに目を配った。たしかにこっちを見てる人がちらほら。立ち止まってじっとこっちを覗っ
 ている人もいる。

「俺がなんでばかなんだよ」

座り直して普通の声でもう一度尋ねた。

「だってそうだろ。お前、完璧に勘違いしてんだもんよ」
「なんで勘違いしてるなんてお前がわかるんだよ」
「だって俺、英士の口からお前に対する不満なんてひとっつも聞いたことがないもんよ」
「そんなの英士が黙ってるだけかもしれないじゃないか。だいたいなんだよ、英士はなんでもかんでも
 お前に話してるのかよ」
「おう、のろけなんてしょっちゅう聞かされてたぜ。そんなあいつに不満なんかあるかっての」
「のろけってなにお前に話してたんだよ」
「聞かない方がいいよ。すげえ強烈なもんばっかだからさ」

にやりと笑った結人から俺は目を逸らした。だってとすげえ嫌な予感がしたんだもんよ。まじでとんで
 もないこと口にしてくれそうでさ、一瞬背中がぞわっとした。

「そ、聞かない方がいいよん。知ったら英士の首絞めたくなるかもよ」

……いったいなにを喋ったんだろう。すげえ気になるんだけどでも結人のあの様子から察するにたしか
 に聞いたら卒倒しそうないやーな予感がしてやっぱ聞けない。

「英士ってさ、そんなお喋りなヤツだったんだ?」
「のろけ好きなんだよ」

あの英士がのろけるってなんか、イメージ湧かない。愛だの恋だの恋愛にうつつ抜かす英士なんて
 想像できないよ。第一そんなに好かれていたなんて初耳だ。言われてもピンとこない。ずっと俺ばっ
 かりが振り回されてるってそう感じてたから今更そんなこと言われても想像なんかつかないよ。

「その顔はさてはお前英士の好きだって言ってた言葉、本気にしてなかったな」
「……信じてなかったわけじゃない……けどあいつはいつも冷静だったから……」
「外面はな。でもあいつお前にメロメロだよ?」
「……あいつのさ、なんか言いたげな目が俺には不安そうに見えてさ、すげえ気になってたんだ。
 なんでそういう目で見るんだろって。言いたいことあるんだったら言って欲しかったのに言って
 くんないでいつまでも不安そうに見るからさ、俺の方もなんか不安になってきちゃってさ……
 それでこの間つい言っちまったんだよ。本心なんかじゃなかったけどあいつが本気にしちゃってさ、
 なんかそれ以来ぎくしゃくしちゃったんだ……」
「恋愛ってそういうもんじゃねえの?」
「え……?」
「ばーか。恋愛はラブラブなことばっかの楽しいもんじゃねんだよ。むしろ苦しかったり辛かったり
 泣きたいことの方が多いんだぜ」
「……」

意外だ。結人の口からそんな達観したセリフが出てくるなんて。

「なぁに目をでっかくして俺のこと見てんだよ」
「え、いや、だって結人が結人らしくないこと言うから」
「お前失礼なヤツだな。これだからお子様は困るんだよ」
「……」

たしかに達観してるっぽい結人と比べたら俺なんかガキに見えるだろうよ。ていうか、人を好きになっ
 たら誰でもそうなるのか? 本当に? 俺だけじゃないんだ?

「好きな人ができてさ、想いが伝わると不安て出てくんだよ。好きなんだけどなんか不安になるの、
 わかる?」
「……ん、わかるよ」
「恋愛してるヤツがみんながそうだとは言わないけどさ、俺や俺の周りの人間や友達とかは本気で人を
 好きになったらみんながったがったなくらい不安にまみれてたよ? 幸せなんだけど不安になっちま
 うのよなんでだかね」

うん……わかるよその気持ち……。そうか俺だけじゃなかったんだ……英士もだったんだ。
 まだそんなピンとこないけど想像するだけならさっきよりは違和感なくできる。
 ……ちょっと待て、てことは俺、完全思い込みで英士のこと責めたってことになるんじゃ?
 ……やっべえ……謝んなきゃ……。

「そろそろ電話したくなったろ」

蒼くなる俺に結人が全てを悟ったような顔で後押しするようなセリフを吐いた。お前なんでそんなに
 俺のことがわかるんだ? そんなに勘良かったっけか?

「結人聞いていい?」
「いいけど難しいことは聞くなよ?」
「……なんでそんな俺のことがわかんの? もしかして英士からなんか相談とか受けてたのか?」
「ぶー、ハズレ。落ち込んでるのは知ってるよ? だってあいつ一馬に自信ないって言われた、どうしよ
 うって言われたその足で俺んとこ来て地にめり込んでたもんよ。それにお前らのことなんて相談なん
 かされなくたってバレバレだっつうの。一馬は顔にも態度にも感情がもろ出るタイプだし一馬に限っ
 て言えば英士も似たようなもんだしさ。顔見たら一発でわかるっての」

きっぱり断言されて俺は頭を抱えて唸った。それってつまり言ってないこともみんな感づかれて知られ
 てるってことだろ? ……すげえ恥かしいよ。いったいどんなことにピンときてたんだろ……?
 昨日ヤッただろとか、さっきキスしてただろとか、そういうのも顔見られただけでばれてたってこと
 か……? ……ぎゃーっっっ、それは恥かしいって!嘘だろぉぉぉぉ……。

「俺、お前の顔まともに見らんねえ……どうしてくれんだよ……」

まさに裸で俺は結人の前を歩いていたようなものだ。いまさらだが、一体どんな顔して今後、結人と
 顔を合わせたらいいのか。ばれまくりだと知った以上、結人はどうだか知らないが俺は結人に会うの
 が怖い。きっともうなんにもなかったフリなんかできやしない。結人に会った途端自分から墓穴掘り
 そうで……マジで本当に結人に会うのが怖い。

「大丈夫だって、安心しなって。誰にも言わないからさ」
「当たり前だっ! バカっ! そんなの人に話してみろ、お前とは絶交だからな! 二度と口きいてやら
 ねえからな!」
「バカズマ、お前ってほんと可愛いよな」
「気色悪ぃこと言ってんじゃねぇぇぇぇ!」

腹を抱えて涙流して大笑いする結人に真っ赤になりながら怒鳴ったらまた大笑いされた。
 そんな大笑いすることか!? 第一俺は怒ったのになんでそれで笑う!?

「ほら、一馬」

仁王立ちする俺に自分の携帯を放って「掛けろよ」と、目を擦りながら結人が言った。睨むようにして
 持ちながら躊躇う。だってなんて言って掛けたらいいのかわからない。

「思い込みしてただけだってわかったんだろ、早く掛けてやれよ。思い込みでつい言っただけで本心
 なんかじゃないからって正直に言って素直に謝ってこい」
「……頭ではわかってもそう簡単に動くことなんてできねえよ……」
「ったくしょうがねえなぁ。ほら貸せ」
「あっ……」

携帯を握り締めて俯く俺の手から携帯を取り上げて、結人の手がすっかり覚えている番号を押していく。
 緊張して立ち尽くす俺の目の前に携帯が戻ってきて、俺は一歩あとずさった。

「ほっとくとお前、あいつから別れ話切り出されっかもよ」
「えっ、なんで!?」
「言ったろあいつはお前にメロメロって。大好きなお前の負担になる前に自分から言い出すくらい
 するって。好きでもお前を悩ますくらいだったら別れることを選ぶぜあの男は」

脅されて動揺してるってのに「いいの?」なんて答えを求められて、俺は突き付けられていた携帯に
 手を伸ばした。でもすぐになんて掛けられなかった。指が白くなるほどきつく握り締めて、ちらりと
 結人の顔を覗う。

「……な、なんて言えばいいんだ?」
「もしもし英士? 俺」

聞いた俺がバカでした。

――よしっ!

深呼吸してから覚悟を決めて番号を押した。

……気持ち悪いほどドキドキしてきた……。

「……」

思わず深呼吸――したその矢先、繋がった。

ぎゃーーーーーっ!

思わず心ん中で絶叫した。

「え、英士……?」
「一馬? なんで結人の携帯にお前が出るの?」
「あ、いや、ちょっとその、……か、借りてんだよ……」
「そばにいるの?」
「えっ、あぁ結人? うん、いる。ていうか今遊園地に来てて、その、きゅ、休憩中?」
「……ふぅん」

あれ? なんか機嫌悪い?

「英士?」

急に黙った英士に俺は首を傾げた。なんか様子がヘンだよと、結人に伝えようと結人の方を振り返った
 ら、「ばっかだなぁ……」と目も当てられないと言いたげに目を片手で覆っていた。

え? 俺、なんかまずいこと言った?

「貸せ」
「あ、ちょっ、……」

俺の手から携帯を取り上げて、

「あ、英士? これから一馬そっちに行くから。じゃ、あとよろしく」

勝手に話を進めてさっさと携帯を切ってしまった。

「お前なに勝手なことしてんだよっ」
「あ? お前がとろいから代わりに伝えてやったんだろ。ほら、さっさと行けよ」

しっしと、犬やネコじゃあるまいに手で追い払われる真似されて、途方に暮れた。

「なにとろとろしてんだよ。さっさと行けよ。あいつ待ってるぞ」
「……い、いきなり謝ってもわかるかなあいつ……」
「順を追って話しゃいいだろ。そんなことより一馬、お前俺と二人きりで出掛けたこと英士にご丁寧に
 その場で報告すんなよ。ほんっとに繊細な男心のわからねえにぶちんだなあ。しかもここはこんな
 デートスポットだ。あいつ、そっちのことよりこっちのことで機嫌悪いぞ。会ったらしっかりご機嫌
 とってこいよ、いいな。でないと俺が余計なとばっちり食うことになんだからさ」
「なに言ってんだお前!?」

びっくり仰天。いや、意味はよぉくわかったよ。けど英士はそういうキャラじゃないっての。……あ、
 でもそういう思い込みで俺英士のこと傷つけたばっかだっけ。てことは、英士でもそういうこと
 あったりするんだ……? いやダメだ、想像できないよ。とりあえず会って様子見ないことには
 俺もどうしたらいいかわかんねえや。

「あ、じゃあ、結人、ごめん、ちょっとこれで帰るよ。結人はどうする?」
「せっかく来たんだし、俺はまだ少し遊んでくよ」
「そっか……」
「さあて、なに乗るかな」
「あ、ありがとな結人」

ベンチから立ち上がって観覧車を見上げた結人に、礼を言った。結人に話せて結局俺は助けてもらった
 のだ。誤解してたことにも気付かせてもらったし、フォローまで入れてもらってしまった。

「礼なら今度なんかおごれ。じゃあな」

にこりと、鮮やかな笑顔を振りまいてスキップしながら遠ざかって行く背に、「ありがと」と
 小さくもう一度礼を述べた。

――さあて、俺も行かなくちゃ。会っていろいろと話さなきゃ。でもうまくきちんと伝えられるかな?
 賑やかな園内を去る足は自然と大股になり、出口を抜けると走り出さずにはいられなくて、駅へと
 向かう途中からは全力で駆けていた。










「早かったね」
「え、そう?」
「もしかして一馬走って来たの? すごい汗だよ?」

英士の家に辿り着いて。英士に出迎えられて二階の英士の部屋へと通される。汗だくで冷房の効いた
 電車に乗ってもまたすぐに乗り換えたり、英士の住む駅を降りてからはまた走って来たので、
 汗の乾いている暇もなかった。背中までぐっしょりのシャツを見て、英士が着替えなよと、服を貸し
 てくれた。それに着替えている最中に英士は下に下りて俺のために冷たいお茶を用意してくれ、
 氷が涼しげグラスに俺はたまらず喉を鳴らした。

「どうぞ」
「ん、ありがと」

受け取ったグラスの冷たさがまた、火照っていた指にひどく心地良い。カランと、グラスの中で鳴く
 氷の音も涼しげで、耳たぶがぽっぽぽっぽと火照っている耳にはひどく心地良く響いた。

「おかわりいる?」
「うん」

英士が下に行っている間に俺はベッドの上にダイブし、綺麗にメイキングされてたシーツの上に遠慮
 なく体温の上がっている身体をうつぶせに横たわらした。

「なにやってんの」
「んー、だってここが一番風が来る。すげ気持ちいいよ」
「飲まないの?」
「飲むけど今はいい。机の上にでも置いといて」

クーラーの効いた部屋が気持ち良いと言うよりも丁度良く冷やされた部屋の温度が気持ち良いと言える
 くらい、シーツの冷たさや枕の涼しさ、そして寒くなく丁度良い設定にされているらしい涼風の当た
 る絶妙な角度の良さがもう、心地良くて心地良くて。

人様のベッドだと言うのに遠慮なんかしてなくて、独占したい気分満々だ。

「汗かいた身体に直接風当てるのは良くないんだよ」
「んー……わかってんだけどさ、……」

スプリングが小さく軋んで身体が揺れる。髪を指で梳く英士の指の動きがなんだか気持ち良くて、
 瞼が落ちてきそうになった。

「寝ちゃダメだよ?」

くすくすと、優しい穏やかな笑いとともに下りてくるその声も優しくて。ああ、マジほんと眠っちゃい
 そうだ……。

「機嫌、直ったんだ?」

機嫌? なんのことだ? ――っあ! 思い出した! そうだよ! こんなとこで悠長にのほほんと寝そべっ
 てる場合じゃないじゃんよ!

がばっと起き上がって。

「英士っ!」
「うん?」
「あの、ご、ごめんな……?」
「なにが?」
「なにがって、あれだよ……俺、お前のこと色々誤解しててその、ひどいこと言っちゃったじゃん?
 あれ、本気じゃないからな?」

にっこり。――え? にっこり? 英士、許してくれんの? え? あれ? あれれ? え?

「……え、し?」
「なに?」
「えと、あの……なんでこんな近くに顔があんの? ていうか、お前、なにしてんの?」 

目の錯覚?ううん、違う。英士の顔がいつの間にか近寄って来ていて、その、鼻と鼻がそろそろ
 くっつきそうなんだけど? あと、……えっと、せっかく着替えたシャツの裾をまくってるんですけ
 ど? しかもだんだんと上に上に上がってきてすでにもう臍から下が丸見えになってるんですけど?
 あの、腹、冷えるからヤメテ?

「え、え、英士、……」
「うん」
「いや、うんでなくってさ、……」

不埒な手をひっぺ返そうとする手に抵抗してぐっと迫ってくる英士。ぺろりと、
 鼻の頭を舐められたぁぁぁぁぁぁ!

「タンマ、タンマ英士!」

腕を突っぱねて遠ざけようとするんだけど英士も必死で、

「ちょっと待って」
「待ったら続けてもいいの?」
「ばか言ってんなよ」
「なに言ってるの、そんなとこで寝転がってたお前がうかつなだけでしょ」
「俺が寝てたらお前は必ず襲うのか!?」
「襲いたい気持ちでいっぱいだけど普段はちゃんと抑えてるよ? 今まで寝てて襲われたことなんて
 ないでしょ?」
「屁理屈言ってんじゃねえよ、どけっ」
「やだ。ねえ、一馬、きっちり一ヶ月お前に触れてないんだよ? すっかり一馬不足でもうダメ」
「ダメってのは俺のセリフだぁ! そんなつもりでここに来たんじゃない! どけっ」

攻めて守ってそりゃあおのおの自分の主張を相手に突きつけて頑張った。すでに俺は押し倒されてて
 上に乗っかられた状態なんだけど、手足をばたつかせて激しく抵抗をしていたのでまだなにもされ
 てはいない。不利な体勢なのは決定的なんだけど、だからって「どうぞ」とは許せない。俺は謝る
 つもりで来たのであってこんなことするために来たんじゃあない。それに今はまだ昼間。
 太陽も傾いてないこんな明るいとこでヤルなんて冗談じゃない。絶対に嫌っ!
 
「ねえ一馬」

ふんっと、鼻息荒い俺に比べて、英士は額に汗を浮かべていてもその振る舞いはとても優雅だった。

「仲直りしに来たわけだよね?」

シーツの上に括りつけられた手首を摩る声は甘く、そしてどこか危険な色が混じっている。だけど
 そんな格好をさせられて「仲直りしに来たの?」なんて言われても素直に頷きたくはない。
 謝るのは英士、お前だ! 不埒過ぎるぞ、ケダモノめっ! その手を放せってんだバカ!

「あのさ、今はどんな顔して見せても俺を煽るだけだよ?」
「ふざけたこと言ってねえで俺の上からどけっ!」
「一通りのことが済んだらね」

物騒な、けれど大真面目な口ぶりにいよいよ俺は慌てた。やばい、やばい、やばいって! マジこの
 体勢はピンチ過ぎるって!

「英士のばか! 最低だぞ! 汚ねえよ! やだやだやだやだ!」

泣けてきそうだ。目の奥がなんか熱いよ。

「好きだよ一馬」

甘い甘い囁き。耳をくすぐる息吹と唇。いやだと怒鳴りながらも甘い声が漏れてしまい、慌てて
 唇を噛み締めた。

「仲直りするのに手っ取り早い方法があるの知ってる?」

まさかこれがそうだなんて言うなよ。

「お前の言葉に、たしかに俺は傷つけられた。でも一馬を許すよ。だから一馬、お前も俺を許してよ」
「……きたねっ……ぞっ……」
「うん。ずるくてごめんね。ひどくしてごめんね。でも好きだから。愛してるから、この気持ちを
 許してよ、ね?」

英士はずるい。こんな風に許しを請われたら拒絶なんかできやしない。俺だって英士のことが好きな
 んだ、好きで好きで、触れてもらえなくてずっと寂しかったんだからな。だけどそんなすぐに割り切
 れなくて、強引だったからムキになったんじゃないか。俺だって、好きだ……。

英士はずるい。謝りに来たのは俺なのにいつの間にか英士が俺に許しを請うてるし。許すもなにもない、
 お互いに許されなきゃこうして触れ合うこともできないんじゃ許すしかないじゃないか。
 
「……もういいよ。……俺だって好きなんだからな、そんな片思いしてるみたいな顔して言ってんじゃ
 ねえよ、ばか英士……」

「一馬、好きだよ」
「わかってるよ、俺の気持ちもちゃんとお前に伝わってる? お前を好きな俺の気持ち、お前ちゃんと
 信じてるか?」
「信じてるよ。信じたい。すごく嬉しいよ一馬……」
「俺、ちゃんとお前のこと好きだからな、お前と同じくらい俺も好きでいるからな、……」
「うん、……」

英士の指が髪をまさぐって、額やこめかみのラインをゆっくりとした手つきで撫でていく。

さっきまでの態度とは打って変わっておとなしくうっとりとその愛撫を受けていると、熱くやけつく
 ような衝動が起きた股間に、そっと英士の手が重なった。

「ん、……」

一ヶ月お預けを食っていたのは俺も同じだ。軽く触れただけで感じてしまう。舌もまだ絡めていない
 浅いキスだけで、撫でてくれているような指の動きだけで、今日は充分過ぎるほど敏感に身体が
 反応してしまえる。

「英、士……」

愛撫はもういいからと、自分で腰を突き上げて初めてねだった。

「英士、英、士ぃ……」

音を立てるほど激しく舌を絡めあい、英士の首に腕を回してもっとと欲しがってみせる。けれども舌の
 先を不意に吸われると、頭の中が真っ白になった。ガクリ、と身体から力も抜けていく。

「一馬……」

快感にとろんとなっている隙にあっという間に裸にされ、英士の身体が間に割って入って来たかと
 思うと膝で大きく足を割られ、立ち上がったものに手が掛かった。袋ごとやわやわと揉まれ、
 そして鎖骨や首筋を噛まれたり舐められたりしゃぶられたりして、たまらず声を上げた。

「あ、ああっ……英、士、あ、ああっ……」

あっけなくイッてしまいそうな予感はあったが、本当に早かった。ほんの何度か扱かれただけで精を
 英士の手に放ってしまい、目も眩むような浮遊感が呼吸のまだ整わない身体を優しく包んでいる。
 
「気持ち良くなってるとこ悪いんだけど、……」

申し訳なさそうな声を出した英士はその手を後ろのすぼみに持って行き、丹念に時間を掛けて指だけで
 そこをほぐしてくれた。

「このままの体勢がいい?」

英士は俺が上になる体位が一番好きだと言う。俺にぎゅっと抱きつかれるし顔もよく見えるからだと
 いう至極エッチな理由で。でも俺は実のところ上になるのはあまり好きではない。奥まで深く挿り、
 苦しくて痛くて丸見えで恥かしいから。俺が好きなのはこういう普通の体位。英士の重みが伝わる
 この体勢が実は好きだ。

ベッドが軋むたびに英士が実感できるようで心は満たされてゆき、英士への愛しさが募る。全身を使っ
 てこの愛しい気持ちを伝えたくて、足を抱えた英士の首に腕を回すときつく抱きついてぴたりと
 身体を密着させた。

その俺の頭の上でごそごそと英士がシーツの下を探っている。

「英士、英士、……」

待てなくて英士の首筋に噛み付いてねだる俺に、英士の手が忙しくチューブの蓋を回した。

「そんなにせかさないで? お前を傷つけるなんてこと俺にはできないよ?」

愛しい。愛しいよ英士。お前のくれる興奮と愉悦が俺を駆り立てるんだ。

興奮しますます立ち上がるものを、もどかしくて自分の手で始末しようとした。それに気付いた英士に
 「ダメだよ」と手首を掴まれて頭の上でシーツに縫いつけられる。

「英士、英士、も、だめっ、ねえ、英っ……ん……」

浅ましく駄々をこねる俺の唇を塞ぎ、クリームのたっぷり乗った指を、英士はひくつく奥に突き立てた。

「っああっ……あ、んんっ……英士、あ、ああっ……」

「すごい感じてるね、……いい?」

いい、死んじゃいそうなほど、すごくいい……。理性なんか身体中にともった淫靡の炎にとかされ、
 もうどこを探したってありはしない。

喘いで上下する胸の突起を摘まれ、首を仰け反らして反応した。

まるでいやだと否定するかのように意思に関係なく首が横に振れてしまう。

やめないで、やめないで英士……!

「一馬っ……」
「っふぁ……ああっ、……ん、んんっ、……」

容赦のない快感の波に飲まれ、俺はあられもなく嬌声を上げた。英士に鋭く何度も貫かれ、喘ぐ。

自由になる上半身をくねらせ、背をしならせ、汗でしっとり濡れた英士の背に爪を立てて英士を急かす。

もっと激しく、もっと強く、もっと深く揺さぶって。

「一馬、一馬っ……」

無防備に晒した体のラインを愛しげに英士はなぞった。細かく痙攣する足をぎゅっと閉めて英士を
 挟んで抱きしめ、お互い感じるいい所を刺激され、俺も英士も声を低く切なく漏らした。

いい、すごくいいよ。こんなの初めてだ。……どうしよ英士、なんだかすげえ怖い……。

淫靡な炎がゆらゆら、ゆらゆら揺れて俺を激しくどうしようまないくらいに乱す。英士もそんな俺に
 駆り立てられて、動きはますます激しいものになっていった。










「……ん」

ふと瞼を開けると薄暗い部屋の中で英士に抱かれてベッドの中にいた。

どうやらあのあと意識を飛ばしてずっと寝こけていたらしい。英士はと、覗き込んで顔を覗うと
 気持ち良さげにぐっすりと眠っている。

身体がべとべとしていないところやちゃんとタオルケットにくるまっているところを見ると、
 あのあと英士に後始末をされ、そして抱っこされて眠っていたらしい。

「……」

ちょっと身体を動かしただけなのに、全身にぎしぎしと軋むみたいな鈍い痛みが走った。
 それにひどくだるくもある。

……ちくしょおお、無茶しやがって。腰はだるいしけつは痛いし、太腿とか二の腕がなんか筋肉痛みた
 いに張ってるぞ。

「ん……一馬……?」

二の腕の筋肉を触ろうとして手を動かしたら英士を起こしてしまったらしい。寝ぼけた目が俺を
 見つめ、腰に回っていた腕が身体を引き寄せようとする。

「……身体、大丈夫?」
「大丈夫じゃねえよ、あっちこっち痛ぇよ」
「……ごめんね、でも一馬が俺を煽ったんだよ?」
「……お前のせいだなんて言ってねえだろっ」

思わず思い出して赤面。タオルケットを頭から被って中で身体を丸めた。

痛ぇ! ……くそぉ、だからってやり過ぎだ!

「ごめんね」

タオルケットの上から頭を撫でられて、もぞもぞと顔を出した俺に「ごめんね」と、英士はもう一度
 謝った。

「あやまんなよバカ」

謝ってなんか欲しくない。痛いのは英士のせいだけじゃない。俺だって貪ったのだ。二人して餓えて
 たのだ、痛みを伴うのは仕方のないことだ。

なのに英士は自分だけを悪者にしようとする。

「俺も英士が欲しかった、だから何回も謝んな。そんなに謝るんだったらもうしねえぞ、いいのか」

「それは困る」

真顔で即答。正直だけどなんか英士らしいようならしくないような態度に、笑えた。そう言えば、
 英士は俺にメロメロなんだって結人が言ってたっけ。

「なに笑ってるの?」
「いや、お前ってマジで俺にメロメロなんだなって思ってさ」
「なに、ようやく気付いてくれたの?」

からかうつもりが真顔で肯定され、そのストレートさがあまりにも恥かしくって顔が燃えた。

結人がヘンなこと言うから見ろ、英士がぶっ壊れちゃったじやないかっ。

そう、恨むらくは結人だ。

責任を全て結人にかぶせてしまえとばかりに心の中で俺は何度も「結人のバカ」を繰り返した。

「一馬、こっちを向いてよ」

するりと、細くて長い指が頬にかかり、撫でられた。

首だけ向けて振り向くと、いきなりキスをされてしまった。

……でも英士の舌技は巧みで俺なんかあっという間に腰砕けにされてしまう。

気付けばちゃっかりと俺を下に敷いて上に乗っかられているし。

「……まさかと思うけど英士?」
「一馬さ、なんで今日結人と二人きりで遊園地になんか行ったの?」
「え?」
「結人と二人でいるなんて聞いた時は背筋に悪寒が走ったよ。だからね、慰めて?」

にこりと、優雅な微笑が返され、すっかりと暮れた部屋に俺の絶望に満ちた絶叫が響き渡った。

 

 




 







 

 

 




END

 


 

郭真です。バカップル全開の郭真です。
夜が明けました。8月20日の朝です。一馬ぁぁぁぁ、おめでと!!
よそ様のサイトではラブラブな誕生日ネタでお祝いしてあげてると言うのに
私はこんなバカップル演じさせて見ました。

のんのん。
誕生日つうことで、英士に一馬を食してもらいました。
ああ、ビバ郭真。
一応こんなのでも有島的にはおめでとうと言ってるつもり。

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