雨さえ降らなければ…
平日。でも夏休み。だから人出が多い。平日。でも夏休み。だから新宿アルタ前なんかで待ち合わせを している。平日。でも夏休み。だから隣に英士がいる。平日。でも夏休み。だからってわけでもない けど結人が来るのを待っている。 「遅いっ!」 「そうだね」 すでに20分も遅れている結人に怒りの拳を握った俺の隣で、のんびりとした口調でたいして気にした 風もない顔で英士が相槌を打つ。あまりにも気にしてない風なので、そんな態度の英士にも俺はムッ とした。 「もう20分も待ってんだぜ、なのにあいつは電話一本もよこさないでさ、英士は腹立たないのかよ」 「結人の遅刻なんていつものことでしょ。いちいち腹立ててなんかいられないよ」 「そうだけど、でも今日ここで待ち合わせ指定したのはあいつなんだぜ、 せめて自分で決めた約束くらいは守って欲しかったよ」 「今までにも何時にどこどこでって言われてあいつが時間通りに来たことなんてあった? ないでしょ?」 「それは、……」 たしかにその通りで待ち合わせに時間通りに来たことなんてないヤツだった。でもだけどやっぱり 『仕方ないなあ』なんて簡単に許せやしない。だって貴重な(いや、べつにほかになにか用事があった とかってわけじゃないけど)時間割いて暑い中出て来たんだぞ。その俺たちを待たせるなんて許せねえ よ。 「結人になんかおごらせねえと気、済まねえよ。英士もがつんっと言ってやれよな」 「そうだね。なんなら高野でもいいよ。あそこのパフェすごく美味しいから」 「え、英士そんなの食うの?」 「俺じゃないよ。一馬に勧めてるんだよ。俺は冷たいものが飲めればそれで充分」 「高野かあ、そっかあ。なんか聞いただけでよだれ出てきそうだよ。でもあそこすげえ高いじゃんか、 結人が承諾するとは思えないよ」 俺の頭の中にはチョコたっぷりかぶったパフェが美味しく浮かんでいた。高野にチョコパフェがあるか どうかは知らないけどパフェといやあ、やっぱチョコパだよ。……ああ、美味そう……マジでチョコ パが食べたくなってきた。 「一馬、よだれたらすなよ」 「えっ、……」 英士に笑われながら、慌てて口元をぬぐった。 「うそ、マジで俺よだれなんかたらしてた?」 「嘘だよ」 「おまっ、おどかすなよ、マジかと思ってびっくりしただろ」 からかわれただけだと知って顔が急に熱く感じ始めた。 「少しは気もまぎれたろ? さて、じゃあそろそろ結人の携帯に入れてみようか」 携帯を取り出した英士が電波の入りやすいところを探して場所を移動し始める。 「これであいつまだ家になんかいたらぶっとばす」 英士にからかわれてたしかに少しは気もまぎれたようだった。遅刻魔結人の名を口にしててもそんな 腹も立たなかった。どっちかというと、パフェのことを気にしている。頭から絵が離れてくれないの だ。食べたいなあ、なんてすっかり心奪われながら英士のあとをくっついて行くと、地下へと通じる 階段の手前で「もし来るといけないから一馬は待っててくれる?」とさっきまでいた場所に戻るよう 言われた。 あぁー、早く来い結人。高野なんて贅沢は言わねえからどっかでパフェおごれぇー。 元の場所に戻ってまたヒトゴミの中で結人の来るのを待つ。頭の中は結人のことではなくてパフェだら け。一度美味そうとか食べたいとか思っちゃうとなかなか頭からそれが離れなくなるんだよなぁ。 食い意地がはってんのかな? でも結人に比べたら全然マシな方だろう。あいつは食いたいとなったら すぐにでも店に突進してくもんな。たとえ今の俺みたく待ち合わせの最中だったとしても『携帯に 連絡入れれば問題ナッシングよ。てことで待ち合わせ場所、変更!』とかなんとか言ってとっとと 移動しそうだ。……ったく、あいつはなんであんなわがままなんだろ。 「一馬」 「あ、英士。どうだった?」 「あとで好きなだけぶっとばしていいよ」 「マジかよ!? なにやってんだよあいつ! あ、わかった! さては寝坊だな!」 「当たり。携帯が鳴って起きたみたいだよ」 「信じらんねえっ! で、来るの? あいつ」 まさかすっぽかすつもりじゃないだろうな。そんな俺の悪い予感ピタリ当たってしまった。 「埋め合わせは必ずするから今日はごめん。だから今日はかわりに俺に一馬の機嫌取ってくれって。 そう、言われた。どうする?」 「あのやろっ……」 握った拳がぷるぷると震えた。埋め合わせはするだあ!? あったりまえだつうの! 「怒ってもしょうがないでしょ。このあとどうするのか、それを考えよう」 どこまでも大人な態度の英士。その英士に脹れてみたところでしょうがないけれど、でもやっぱり怒り で目つきだって悪くなってしまう。 「パフェ、食べに行く?」 「えっ?」 「高野でもいいし、どこか別のとこでもいいし。食べたいんでしょ?」 「そりゃ食べたいけど、でも英士はいいの?」 パフェの言葉で頭の中から結人のことなんか綺麗にふっ飛んでしまった。げんきんなヤツだなと自分でも 思いつつも、パフェが食べたくてもうすっかり食べに行く気になっている。そんな俺の気持ちが英士 には伝わっているのか、 「機嫌取ってくれって頼まれたしね。それにレシートはあとで結人に出せばいいんだし。あともう一つ。 一馬、パフェのことが頭から離れなくなってるでしょ。食べさせなかったら今日帰るまで上の空なん だろうなって思って。パフェの話を振ったのは俺だし、責任もあるしね」 ずばり当てられてしまって、そんな露骨に顔に出てたかなと意地汚かった自分に、途端赤面した。 「俺ものど渇いてるし。行こうか」 「あ、ちょっ、英士」 紀伊国屋方面に向かった英士を慌てて止めた。まさか本当にあの高い高野に行くつもりなのか? だったら俺別にそこでなくても……と、言おうとした矢先、勘のすこぶるいい英士はピンと来たのか 先手を打つのだった。 「言ったでしょ、レシートは結人に渡すって」 「でも俺、今日そんな金持ってきてない。あそこに入ったら映画に行く金なんかなくなっちゃうよ」 「俺が出すよ。余分に持って来てるから」 「……」 「俺に出してもらうのはイヤ?」 立ち止まって黙ってたらそういう風に誤解されてしまった。慌てて「そういうわけじゃない」と否定し て首を横に振った。そう、そんなことはない。ただやっぱり悪いなあって気が引けてしまったのだ。 「じゃあ行こう」 「……いいのか?」 「いいから言ったんだよ? 気にしないで。さ、行こう」 ああ、やっぱり俺って食い意地がはってる。いい、なんて言われてパフェを思い浮かべちゃったよ。 これじゃ結人のこと言えないよ。 結局。 英士のあとを追って高野に向かってしまった。
「げっ。雨?」 たまたま高野で外を真正面に見ることの出来る席に案内されていたため、人の流れを眺めていたら突然 カサを差した人が現れ出した。それは最初少なくて目立っていたのにやがてガラス越しからでもはっ きりとわかる雨になると走り出したりする人の中に混じってカサを差し始める人が多くなり、あっと いう間にカサを差している人間の方が多くなってしまった。 「ああ、天気予報で午後から崩れるって言ってたね。珍しく当たったか」 「ウソ、そんなこと言ってたのか? 俺カサなんて持ってきてねえよ。んだよ、みんな用意いいんだな」 「俺も持ってきてないよ?」 「あ、そうだな。えー、じゃあどうすりゃいいんだ?」 「本当だったらこの時間映画を見ているはずだったからね。終わる頃にはやんでいるかなと思って持って こなかったんだけど、まさか本当に降られるとは思わなかったな」 「くそっ。これも結人のせいかよ」 「そうだね」 忌々しく舌打ちする俺の前で優雅にコーヒーなんかすする英士の態度に俺は脹れた。 「なんで英士ってそんな結人に甘いんだよ」 「え?」 びっくりしたような顔をする英士に言ってやる。 「だってそうじゃんか。結人がなにやってもお前って『しょうがないね』とか『結人ってこうこうでし ょ』とかさ、あんま怒んねえじゃん。遅刻してきても仕方ないねで終わらせるし、わがまま言ってい てもたいてい聞いてやってるし」 「一馬……」 「なに笑ってんだよっ」 愚痴ってる最中まじまじと俺のこと見ていたかと思うと不意に肩を震わせて笑いを堪え始めた英士に、 俺は当然ムッとなった。ここは笑うような場面か!? 違うだろっ、俺は真面目にだな……くそっ。 いい加減笑いやめ、いつまで笑ってんだよ。 「英士」 「ああ、悪い……けど、可笑しくて……」 「なにがそんなに可笑しんだよっ。俺、そんな可笑しなこと言ったりしたか!?」 「……気付いてないの?」 「なにがっ」 「一馬、嫉妬してるんだ?」 「は?」 嫉妬? なにそれ。なんで俺がそんなものしなきゃいけねんだよ? 楽しげに俺の顔を見つめながら、あいかわらず笑いを隠せない英士に、俺は首を傾げた。 「お前、なに突然ヘンなこと口にしてんだ?」 「まだ気付かないの?」 「だからなにに」 「お前さ、俺が結人に甘いのに嫉妬してるんだ?」 「はぁ?」 なにをわけのわからんことを言ってるんだお前は。 「そういう風に聞こえたよ?」 「そういうって……」 あまりに英士が楽しげなので自分がなにを言ったのか、ここでちょっと思い出してみようと思った。 たしか、……あんまり結人には怒らないって言って、それから……わがままもきいてばかりいるとか って言ったんだっけ? あとはなんて言ってたかな……。んー……これのどこが嫉妬してる風に聞こ えるんだよ? 英士の耳、ちょっとどっかおかしいんじゃないか? 「気付かないんだったらいいよ。そろそろ出よう」 やっと笑うのをやめて英士の手がすっと伝票に伸びた。 「あ、英士」 「ん?」 「えっと、ほんとにいいの?」 俺が食べたのは、パフェでなくてフルーツたっぷりのったクレープワッフルだった。たしか千円もした はずだ。でも英士はアイスコーヒーで俺よりも安い。金を払う人間より高いものを頼んでいたのかと、 今頃になって気付き慌てて申し訳なく思う俺はやっぱり食い意地がはっているのだろう。すでに胃の 中に入ってしまってから我に返るなんて、恥かしいけどメニューを眺めていた時と食べていた時は ほんとに目の前の豪華なクレープワッフルに夢中で遠慮なんて言葉すっかり頭から抜け落ちていたと しか思えない。 「俺、遠慮するの忘れてたみたいで……ごめん」 「だから気にすることじゃないって最初に言ってあったと思うんだけど」 「そうだけど、でもやっぱ……お前はアイスコーヒーだけなのにさ……」 「二口ほどもらったけど?」 「いや、でもあとは全部俺が食べちゃったわけだし……ご、ごめんな」 申し訳なくて俯いてしまった頭を伝票で軽く叩かれ、顔を上げた俺は「美味しかったでしょ?」と聞か れ、素直に頷いた。 「じゃあ気分良くここを出よう。何回も言っているけどどうせこれはこのあと結人のとこに行くんだから」 そう言ってレジに向かいだした英士のあとを追って、俺も精算の場に付き合った。……う、やっぱ高。 「さて、このあとどうする?」 店を出て、雨に濡れないよう端に寄って英士と二人で考え込む。当初の予定通りやっぱり映画を見に行く のが一番いいのかなあ。それともどっかほかに寄りたいとこあればそっち行ってもいいし。 「英士、どっか行きたいとこってあるか?」 「べつにこれといってないけど。一馬あるの? なら付き合うよ?」 「俺もないよ。ただ英士があるんだったら俺も付き合おうかなって思ってて」 「映画、見る?」 「え、でも上映時間とかお前わかるの?」 「この時間だと……ああ、だめだね、途中だ」 腕の時計に目を走らせて英士は答えた。すごい。こいつの頭にはちゃんと一日の上映時間がインプット されてんだ……。俺なんて自分の見る時間に合わせてしか覚えてこないというのに。 「なに?」 「えっ?」 「ぼおっと人の顔見て、なにかついてる?」 「あ、いや、なんていうかさ、お前ってすごいなって思って」 「なにそれ」 「いや、だって上映時間みんな把握してきてんだろ?」 「ああ、そういう意味。たいしたことじゃないよ。それよりどうするの一馬」 「え、どうするってふられても……べつに行きたいとこがあるわけでもないしなぁ……」 「うち来る?」 「え?」 「友達に借りたDVDがあるんだ。明日見ようと思ってたんだけど今からうちで一緒に見ない?」 「んー、そうだなぁ……たしかにこのまま帰るのは早いし……行くとこもないしなぁ。うん、行くよ」 「じゃその地下から行こう。濡れないですむ」 雨脚の強くなる地上に別れを告げて地下に潜った。湿気でむわっとしている。足元も滑りやすくなって いた。 「英士んちの駅に着く頃にはやんでるといいな」 「そうだね。せめて小降りにはなっていて欲しいね」 「あ、なあ、途中の売店でなにか買うから寄って」 「お菓子とかならうちにあるよ」 「んー、でもなにもかもごちそうになるのは悪いからさ」 「なに、まだ気にしてるの?」 「や、そういうわけじゃなくて、……あ、あそこ、ちょっと行ってくる」 なにか言われそうなのを振り切って売店に走った。チョコとかアメとかポッキーとか適当に見繕って 数多くの品物を買った。それでも一つ一つの値段が安いからたいした金額にはならない。飲み物も あった方がいいかなとも思ったけどさすがにそんなものまで買って戻ったら英士に悪い気がしたの でそれはやめた。 「んー、ちょっと買い過ぎたかな?」 袋を眺めつつ英士がなんて言うか想像してみた。 またそんなに買って、うちにも色々とあるんだよ? なんて呆れんだろうなぁ。 そしてその俺の想像はドンピシャリ、当たってしまった。あーあ、言われちゃったよ。 「いんだよ、俺が食べるんだから。ほら、行こう」 券売機はかなりの人でごった返していた。あれに並ぶのかと思うと、ちょっと、いやかなりうんざり した。
「……やまなかったな」 「そうだね」 駅に着いて、ホームに降り立つなり俺は溜息をついた。英士はその隣で「さて」なんて言ってなんか 考え込んでいる。 「売店でビニール傘買う? 一本あれば二人で入ってけるし」 「もったいないよ」 「じゃあ濡れて行く?」 ちらりと、英士が横目で俺を見た。……マジ? 「本気で考えてる?」 「あれ、わかった?」 「……うそ、マジ?」 「本気も本気。いや?」 「うぅー……」 冗談のつもりだったんだけど……。でもどうやら英士は本気みたいだ。本気でこの雨に濡れて行こうと 考えているようだ。いや、べつに小雨になっているからいいんだけどさ、雨に濡れるくらいどうって ことはないんだけどさ、でもまじですか? って気分になるよやっぱ、500円出せばビニール傘買え ることを考えるとさ。 「お風呂と着替えは貸してあげるから」 ぽんっと背中を軽く叩かれて押し出され、俺は仕方ないなあと、腹をくくって雨の中に飛び出した。 バシャバシャと雨水を撥ねながら走るせいで、ジーンズの裾があっという間にドロだらけになる。 季節的に生暖かい雨で、寒くはないし冷たくもないから嫌悪感みたいなものは起きない。でも顔に 雨が叩きつけられるのはやっぱりちょっと気になる。目に入って、痛いわけじゃないけど細目にも なるし顔の向きも避けるつもりがあるからか、自然ななめになるしでかなりうざく感じてしまう。 英士はと前を行く背を眺めていれば、手を前にかざして目に入るのをうまくブロックしているらしい。 なるほど。そういう手があったか。さっそく真似してみた。おっ。おおっ。いいカンジじゃん? 目には入らないしちゃんと前も見て走れるし、視界はばっちりだ。 英士の家は駅からだいたい徒歩10分くらいのところにある。商店街を抜けて大きなマンションの駐車 場に行き当たると今度は右に曲がりそのまままっすぐ行ってレンガ造りの家の手前で左に曲がればす ぐだ。 「走ったから早く着いたな」 「そうだね」 門の鍵を開けた英士に続いて敷地内へとお邪魔する。英士の母親は最近ガーデニングに凝ってるとかで 門から玄関まで続くアプローチや庭には綺麗に手入れされた花々が咲き乱れている。夏でも咲く花は かなりの種類があるらしく、鮮やかな色の大小様々な花々が雨の中、色鮮やかに咲いている。 「あれ、家、誰もいないのか?」 英士が鍵を出して開けたのを見て俺は尋ねた。英士のお母さんは働いている人ではない。今まで遊びに 来て家にいなかったのは数えるほどで、出掛けていても近くに買い物に行っているとか近所に遊びに 行っているとかで長い時間家を空けているのを見たことがない。 「母さんは今日友達と会うとかで箱根まで出掛けていて帰りは遅いって言ってた」 「へえ。あ、じゃあやっぱ外で食うもの買ってきて良かったじゃんか」 「なに言ってるの、俺でもお菓子とジュースくらいは用意してやれるよ。あ、一馬、そのままバスルー ムに向かってくれる? 着替えは俺の出しておくから」 玄関に入った途端、英士はバスルームのある方向を指差して、一人さっさと家の中に入っていった。 「えー、でも俺濡れてるからこのまま上がったら廊下が濡れちゃうよ?」 「もうすでに俺が上がってるから一緒だよ。ほら、早く上がって」 バスへと続くドアを開けて、タオルやらなにやら取り出して顔を覗かせた英士が、いつまでも上がれな いでいる俺に向かって「ほら、一馬」と手招きを始める。 「……お、お邪魔します」 濡れてぐっしょりの靴を脱いで上がると、廊下にそりゃあ見事な足跡がついた。ぺたぺたと歩いて英士 のもとまで来るとバスタオルと着替えが手渡され、バスルームに照明がともった。 「じゃ俺は上に行っているから」 「あ、ちょ、英士」 行きかけた背を呼び止めて「英士はどうするんだ?」と至極当然の質問を投げた。 「ああ、俺ならあとでいいよ」 「なに言ってんだよ、だったら俺があとでいい。ほら、英士先に入っちゃえ」 「俺は着替えるだけで充分。髪もすぐ乾くし。ほら、早く入ってきな」 いくら俺でもさすがにこれは気が引けて頷けなかった。手にしていたタオルをなかば押し付けるように して英士の手に渡し、「着替えだけ貸してくれたらいいよ」そう言うととっとと二階へ上がって行こ うとした。その身体の肩を素早く英士に掴まれ、あれよという間に俺の身体は引き戻されてしまう。 「濡れて行こうと言い出したのは俺だよ。だから一馬は気にしないでバスを使っていいんだよ」 ……タオルがまた俺の手に戻ってきてしまった。 困ったな。どうすりゃいんだ? ――あっ! 名案が浮かんだよ、今。 「英士、一緒に入ろう!」 「は?」 「お前んちの風呂もバスルームも広いし、二人くらい余裕で入れるって」 俺、ご機嫌。だって名案が浮かんだんだもんよ。これなら文句はないだろと、英士の顔を見るとヤツは 顔色を失くして呆然と俺を注視している。なーんだよ。まだなんか文句あるのかよ。 「なんだよ英士、なに黙ってんだよ。ほら、入るぞ」 「ま、待って一馬っ」 掴んでいた俺の指をやんわりと外して、英士が困った風な顔で溜息をついた。 「それはちょっと……」 「なんで」 「なんでって……」 困ったなと呟いて頭まで掻き始めるし。なんだよ。なにがちょっとなんだよ。はっきりしねえなあ、 はっきり言えよ。 「なにがそんなに困るんだよ。お前んちの広いだろ。問題ないじゃないか」 「……そういう問題じゃないんだよ」 「じゃ、なにが問題なんだよ。わかんねえなあ、はっきり言えよ」 「……お前と二人でっていうのが大問題。一馬はそんな問題ないみたいだけど俺にはあるから、 だから一緒には入れない」 「は? なんだよそれ」 「まだわからない? ……それもまた一馬らしいとは思うけど、鈍過ぎるよお前?」 「だからなにがだよ」 「つまりね……」 英士に急に引っ張られたかと思ったら俺は英士の胸の中に抱きしめられていて、呆気に取られている 自分に気付くとほぼ同時にキスをされた。 深くて息もろくにさせてはもらえないキスに胸を何度も叩いて逃れようと試みるものの、かえって抱き しめてくる腕の力が強くなり、そして口内を貪るようなキスをされて頭が次第にぼおっとしてきた。 「……っ士、」 なんとか息を継ぐ隙間を与えられた瞬間、俺は忙しく喘いだ。キスだけでとろとろと身体がとかされ、 自分の足で立つこともできなくてぐったりと英士にもたれかかっている。その俺の身体を包み込む ようにして抱きながら英士が耳のすぐそばで囁いた。 「わかった? 裸の一馬といてなにもしないでいられる自信なんてないよ。それでもいいの?」 「……」 首を振る俺の髪を指で梳きながら、 「ね? 問題あるだろ?」 小さく笑うと俺をバスルームまで案内し、 「場所はすごくそそられるんだけど嫌われたくはないからね。じゃ、俺は上に行っているから」 子供にするみたいなキスを額に落して、そして優雅に微笑んで出て行った。 シャワーのコックを勢い良く捻った。頭から温い湯をかぶり、中途半端に煽られた体の火照りを鎮め ようとしてるんだけどあのキスの感触がまだはっきりと口内に残っていて思うように鎮めることが できない。抱きしめられていた感触も身体のあちこちに残っている。思い出そうとしなくても思い出 されてしまい、シャワーに叩かれるたび全性感帯が刺激されて体が熱くなった。 「……っそっ!」 バスルームのタイルにあたっても仕方ないのはわかっている。でもきっとこの身体に巣食う焦燥感は 俺にしかわからない。 「勝手なことしといてなに勝手なこと言ってんだよっ。どうしてくれんだよ中途半端に煽られたこの 身体! じりじりしてしょうがねえじゃねえかよ、ばか英士!」 シャワーに打たれて吐き出しても息が喘ぐだけで解決には向かわない。体の奥で淫靡な炎が燃えている のがわかる。ちりちりと骨を焦がし肉を溶かし最後はプライドまでを粉々に砕いてしまう業火にいつ までこの理性を保っていられるか。 「……」 英士――。 角度を変えて欲しいだけ与えてくれる鋭いキス。柔らかい舌。甘い蜜。夢中で英士を感じようと俺は 貪欲に英士の指を手を声を背を想像した。 「……英、士……」 欲望に濡れ、張り詰めて固く勃ち上がった自分のものに俺は手を伸ばした。いつも英士はここをどんな 風に愛撫してくれていたか。指の動き、その指が作り出すリズム。俺は夢中で掴み、撫で、擦り上げ た。 覚えている。身体で頭で英士の重みを、愛撫する手順のなにもかもを覚えている。 「……っん……っふぅ……」 タイルの壁に背をつき、シャワーに打たれながら俺は喘いだ。今触れているのは英士の手。胸の飾りを 痛いほどかまうこの手も英士の手。口内で濡れた柔らかな舌は英士のもの。 「っんん、……ん、……っふ……」 英士の口が俺の乳首を銜える。そこからじりじりと焦がれて全身に疼きが広がっていく。俺は英士に しがみつき、そしてねだる……。 もっと、と。 腰を突き上げて英士の腹の下で俺のものは悶える。たまらない快感。仰け反り、声を上げて抱きつく。 いきたい。もうだめだ。なのに英士はすぐにはくれなくて。 「……英、士、……」 耐えられない、もうだめだ。 「んっ、……ああっ……」 指が何度も抜き差しされ、甘い苦痛に腰が揺れてつま先がシーツを蹴る。その指よりも質感たっぷりの 英士に貫かれ、遠慮なく突き上げられ、俺の身体は激しく揺さぶられる。 「あぁ、あっ……え、しっ……え、し、……」 腰のあたりでどんっという鈍い衝撃が起こった。頭の中が真っ白になる。ぶるりと、全身に身悶えるよ うな震えが走った。タイルの上に崩れ込むようにして座り込む。 「……」 なにやってるんだろ……。 急に素面に戻って自分の浅ましい行為に顔が熱くなるのを覚える。ふわふわと宙に浮かぶような浮遊感 は穏やかで心地良いけれど、手についた残滓を眺めてしまうと情けなくって泣きたくなってむなしく なる。 「……バカじゃねえの……」 嘲笑しようとしたけど唇がはりついて動かなかった。本当に泣きたくなってきた。 「英士……」 不思議とその名を口にすると身体から力が抜けていく。何かに縋りたかった。落ちていたシャワーヘッ ドを掴んで頭からシャワーを落す。 「一馬?」 ドアの向こうから突然した声に驚いて、俺はシャワーヘッドを下に落してしまった。 「な、なに?」 声がひっくり返った。心臓がばくばくと言っている。覗かれたらどうしよう。焦るのだけれど身体が 動かない。突っ立ったままガラスドアの向こうのシルエットに緊張の目を向けるのが精一杯だった。 「いや、ちょっと長いからどうしたのかと思って」 「あー、うん、ちょっと頭も洗ってて」 「そう? のぼせないうちに出ておいでね」 「あ、うん……もう少ししたら出るよ」 シルエットが薄れていくのを緊張したまま見送り、完全に出て行ってしまってから俺は肩から力を抜い た。……危なかった……。ほっと息をつきながらシャワーヘッドを拾う。シャンプー類のボトルの 並ぶ中から英士のシャンプーを見つけて手に取り、本当に頭を洗った。言ってしまった以上洗ってお かないとあとで辻褄が合わなくなったら困るのは俺だ。墓穴掘ったってなにしてたなんて言えないこ としてたんだ、あんなこと、白状することなんてできやしない。
「英士、ありがとな」 バスルームから戻って英士の部屋に入ると冷やりとした冷気が火照った身体を包む。 「喉渇いたでしょ。そこにあるの飲んでいいよ」 リンゴジュースの入ったグラスを英士はすでに机の上に用意していた。氷入りでグラスも中身もちょう どいいカンジに冷えていた。 「髪がまだ濡れてるよ、ちゃんと拭きな」 一気に飲み干してしまったグラスを元に戻す背後に英士が立った。手際よく拭かれて濡れたバスタオル まで英士に片付けてもらった。 「ほら、これでもう一度拭いて」 渇いたタオルを渡されるが面倒くさい顔をしていると、「結構温度下げているから濡れたままでいると 風邪引くよ」と、やんわりと注意を受けて手早くまた拭かれてしまった。 「はい、いいよ……」 英士が髪を触って、指で乾き具合を見ている。ほんとこいつって世話焼きだよな。でも色々と世話焼か れるのも髪を触られるのもそんなにイヤじゃないから俺もあえて拒んだりはしないけど。 「あー、まだ雨降ってんだ」 窓から見える外の様子に俺は注意を向け、そして寄って窓を開けた。生暖かい空気が触れ、身体を包ん でいた涼しさが一気に奪われてしまう。 「せっかくシャワー浴びたのになに湿りに行ってるのさ。閉めてこっちにおいで」 英士は手にDVDのケースを持ち、リモコンのスイッチを押してなにやら調整をしている。俺は窓を閉 めるとそばに寄ってその手元を覗いた。グリーンマイルだ。見たかったけど結局見に行けなくて、出 たら自分でDVDを買おうと思っていた。結局まだ買ってはいないのだけれど。 「一馬、見逃したって言ってたでしよ? 俺もなんだ。買おうと思ってたんだけどクラスのヤツが買っ たって言うからさ借してもらったんだ。まだ見てないんでしょ?」 「あ、うん。でもこれってたしかすげえ長いんだよな?」 「本編が188分だって。特典の方も75分もあるみたい」 「約3時間か。特典の方も見たいけど75分は長いよなぁ……」 「しばらく借りてるから別の日に見てもいいんじゃない?」 「あ、そうか」 「どうする? 日本語吹き替え? オリジナル?」 「んー、どっちがいいかなあ。結構吹き替えと字幕が違ってたりするからなあ、どっちが面白いかだな。 英士はどっちがいい?」 「吹き替えの方が楽ではあるよね」 「だよな。うん。じゃ、吹き替え」 設定を英士に任せてベッドの上にあがった俺はそのまま横になった。うーん……あいかわらず英士のベ ッドって気持ちいいなあ。このスプリングもマットレスの固さも俺好みですげえ俺は気に入ってる。 英士は戻ってくるとベッドの上にあがって俺のうしろ、壁に背中をつけるようにして座った。 「いい?」 「うん」 始まった。 始まって何分もしないうちに英士がうしろから俺を抱くようにして横になった。一瞬びくっとしたけど 抗う間もなく抱きかかえられて何も言えなくなった。いまさら何を言ってみたところで英士が俺を放 するとも思えなくて、言うべき言葉がない以上俺は黙るしかない。 英士の気が済むまで、英士の好きにさせておくかと、俺は放置することを決めた。 「……」 ところがだ。やっぱりというか、英士の手が不埒なことを仕掛け始めた。借りたシヤツのボタンを器用 に外して指をするりと肌の上に這わせたのだ。 「おい、英士」 俺は首を捻って睨んでやった。そんなことくらいで怯むようなタマでないことは承知しているが、DVD に集中してたところを邪魔された上に警告の一つも出さなければどんどんその手を進める気でいるの だから、しっかり不愉快なとこをアピールしておく必要がある。 「俺は見てるの、邪魔するな」 「気にしないで見てればいいよ」 「気になるに決まってるだろっ。この手どかせよ」 「集中力、足りないんじゃないの? それとも集中できないってことはそれあまり面白くない?」 「お前なぁっ」 あまりにも自分勝手な意見にさすがに腹が立ち、身体の向きをかえて真正面から見据えてびしっとその 態度を勝手過ぎると責めた。 「いい加減にしろ。俺はこれを見るためにここに来たんだ。それ以外に用はない、わかったか」 「わかってるよ。そう言って誘ったのはほかならないこの俺だからね。でも事態は刻一刻とかわるもの だよ?」 「俺はかわらない」 「一馬さ、……」 突然の真摯な目にどきりと心臓が跳ね上がる。急に英士の顔が至近距離にあったことを意識して自然と 俺の腰は引けた。しかも緊張のあまりごくりと喉まで鳴るし。 「な、なんだよっ」 「……したくないの?」 英士が俺の首筋に触った。するするとラインをなぞられて指が何本か鎖骨に落ちてきた。心地の良い なぞりだった。反則だ。俺は不感症なわけではないのだから、こういう触られ方をされたらイヤでは ないのだからその手を払いのけることなどできない。 「……したく、ない……」 下で一人さっさと済ませてきましたとは言えない。でもヤリたい気分ではないのだから答えとしては 間違っていない。 「そんな気分じゃない」 「そういう気分にさせてあげようか?」 やばい。流される。英士をこのまま自由にさせていたら気持ち良さに惚けているうちに気付いたら上に 乗っかられていましたなんてことになるだろう。まずいってそれは。 「英士、触るな」 「なんで。触るくらい問題ないでしょ」 「問題あるんだよ、落ち着いて見ていられないからダメだ」 「冷たいね。お前それでも俺の恋人なの?」 あからさまにわざとらしい溜息なんかついて、それでもまだ触ることをやめない英士に俺はかまわず 「それとこれとはべつ」とにべもなく放って手を掴んで引き離した。 英士には悪いけど今日ばかりはどんなに甘い遣り方でこられてもその気にはなれない。髪に触るぐらい ならいいけど。おとなしくしているって誓うなら抱きしめるくらいなら許してやってもいい。でも 俺を抱くのはダメだ。 自分でも信じられないけど、いつもだったら仕方ないという理由を使って流されるのを黙認できるのに 今日はそれすらもできない。多分、うしろめたいのだと思う。さっき他人んちのバスで自慰に走った ことやその時勝手に英士を想像してたこととか、英士がいるのに自分でしてしまったということとか、 色々、もろもろ、複雑に絡んで俺をこんなに頑なにしてしまっているんだと思う。 「今日はずいぶんと頑固だね」 素直に手を引いて穏やかに微笑む英士に胸が痛んだ。 「……ごめん」 謝ることではないと思うけど気付いた時にはもう口をついて出てしまったあとだった。 「なに謝ってるのさ」 「……ごめん」 「いいよ、なに泣きそうな顔してるの」 子供にするみたいに頭を撫でられ俺は不覚にもマジで泣きそうになった。慌てて「もう邪魔すんなよ」 と言葉で紛らわしてくるりと向きをかえて背を向けた。けれどそんなに簡単に気分の切り替えなど できるものではなく、目は画面に向かっているのに神経はほとんど背後の英士に向けられていた。 「あのさ一馬、お願いがあるんだけど。なにもしないから抱きしめてていい?」 俺はすぐには答えなかった。それくらいなら問題はまったくない。でも信じていいのかどうか、そこに 不安があった。 「一馬がイヤがるようなことは一切しない。お前の言葉に絶対従うって誓うから」 「……その誓いも破らないって誓えよ。そしたらそれくらいだったら許可してやるよ」 「誓うよ、その二つを誓う」 当然のことなんだけどスプリングが軋んで俺は緊張した。抱きしめられるということは背中に英士の 身体がぴったりくっつくということで、俺はますます画面の内容に上の空になった。 「お前さ、そこで画面見えているのか?」 「見えないけど聞こえてるから大丈夫」 「それじゃ内容が半分も理解できないんじゃないのか?」 沈黙が耐えられなくて話し掛けた俺の問い掛けに英士は至極当たり前の答えを返した。それにたいして 俺は自分のことは棚に上げてまた問い掛けた。……マジでほんとにこの体勢で黙って見ていろと言わ れても無理。英士の方が気になって画面になんか集中していられない。 「あ、暑くないの?」 「一馬暑いの? だったら温度下げようか?」 「いや、だからそういう意味で言ったんでなくて……」 「やっぱり俺にこうされるのイヤ?」 「そういうわけじゃないけど……なんかこれじゃDVDかけてる意味がないんじゃないかと思えて」 「俺はあとでも見られるから俺のことは気にしなくていい。一馬は見たいんでしょ? 邪魔しないら集中 して見てなよ」 いや、だから俺もそれは無理。いくら普段鈍いと言われている俺でもこんな状態で集中できるほど 無神経ではない。英士の体温とか、息遣いとか、抱きしめられている重みとか、過敏なほどに感じて いる。さすがにまだ身体に変化は起きていないけれど、この状態をずっと保っていられる自信はない。 英士になにかされなくても体温とか息遣いとか、そういうものがきっかけで急に突然いきなりって こともあるかもしれない。なにがきっかけになるかなんてわからない危うさが今の俺にはある。 けれど俺のそんな葛藤なんか英士にはわからないらしく、好きに抱きしめて英士だけが一人満足していて、 「一馬の髪、まだ湿ってるね。寒くない?」 なんて首の後ろがむずがゆくなるからやめて欲しいのに追い討ちをかけるように髪の毛を触ってくるし。 「……一馬の身体、気持ちいいくらいにあっかいね」 「そ、そう? ……あ、あのさ英士、気になるからあんまり髪触らないでくれる?」 「ああ、ごめん」 誓うと言ったせいかすんなりと英士は手を放した。髪を触られたりするのは心地良くて好きだけど、 その心地良さは流されるきっかけにもなる危険を孕んでいる。のんきにうっとりなんてしていられ ない。英士が素直に手を放したおかげで一応その危機は回避できたものの、べったりくっつかれた 身体の温かさが気になってドキドキ感の収まらない俺は相変わらず集中できないまま画面を見つめた。 俺も英士も喋らない静かな時間が続いた。集中できない画面を見続けていたせいか目が疲れていた。 滅多に頭痛なんか起こさないのにその頭が少し重く感じられる。
「英士?」 長く同じ体勢をとっていていい加減身体の方も凝ってきた。伸びの一つでもさせてもらおうと、英士に 一度放してもらおうと思い声を掛けたが返事が返ってこなかった。首だけ振り向かせると……なんて ことだヤツは眠っていた。それも熟睡しているらしい。俺が動いてもその動きにぴくりともしない。 「……マジ?」 呆気にとられながらもそれでもほっとした。これで心配することはなくなったわけだ。 仰向けになって天井を見上げながら頭の上にあるはずのリモコンを探った。見つかると音量を少し下げ た。途端にそれまで気にもならなかった雨の音が耳に聞こえてきた。まだ降っていたのかと窓に目を やると曇った空しか見えなかったけど音はたしかに聞こえている。 いつやむんだろうか。このまま夜まで降り続けるんだろうか。帰る頃には上がっていて欲しいなんて 考えながらふと、時間が気に懸かり丁度いい位置にあった英士の腕に目をやった。 5時にあと少しでなろうとしている。なんだかんだで一時間以上この体勢を続けていたわけだ。どうり で凝るはずだ。 英士を起こさないよう気に掛けながらそっと伸びをする。ついでに軽く首も回しておいた。 6時になったら帰ろうと思う。あと一時間もあればDVDはともかく英士の方は目を覚ますだろう。 なんだか冴えない一日だった。こんな予定ではなかったはず。予定でいけば映画を見て今頃は三人で マックかあるいはケンタに入っていたかもしれない。予定が狂ったのは間違いなく結人のせいだ。 それともう一つ。雨だ。雨なんかが降るからこんなことになったのだ。悪くはないけど……雨さえ降ら なければあんな後味の悪いことをすることもなかった。 ……いい機会なのに英士から逃れない俺も問題ありだけど、でも、……ああ、この雨さえ降らなければ。 恨めし気に、俺は雨の音に耳を澄ませた。
END
またまた郭真です。 とうとう一馬に一人エッチさせてしまいました。 こんなの一馬じゃない、思ったらダメダメです。彼がいくら凶悪に可愛くても中身は 男です。一人エッチくらいします。多分。きっと。いや、するよ普通。 一馬が潔癖症だって言うならまた話は別になりますが。 それにしても有島はなんでいつもこうもダラダラと長い話を書くんでしょ。 たまには短く簡潔に書けないものかね。無駄な分部、多いと自分でも思います。はい。 それにしても英士は大人だねえ。 普通わけもなく断られたら頭こない? いや、人にもよるかしら。 でもねえ、家に誘った時点でその気だったと思うから、不憫なお人ですよね。 うんうん、自分で書いておいてなんだが一馬大概にしとけよと、一人突っ込んでみたり。 |