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友達、やめてもいい?






朝から、仏頂面した英士と顔つきあわせていて、いい加減俺の気分は滅入ってきている。

英士が俺のとこに来たのは朝の十時ちょっと過ぎ。玄関を開けるとそこは雪国、じゃなくて仏頂面した
 英士が立っていた。

いやな予感はしたんだよ。こいつがこういう顔してる時には係わり合いをもちたくないんだ。過去の
 嬉しくもない経験で『厄介ごとが転がり込んできた』と、ぴんときたね。

案の定ヤツの下らない話を聞かされる羽目になっちまった。

追い返したい。今すぐ『出てけ』って蹴っ飛ばして放り出したいくらいだ。なんで俺ばっかりがこんな
 目に合うんだよ。

「ちょっと結人、話聞いてんの?」
「聞きたくもねえのに聞かされてんじゃんかよ」
「ちょっと、なに、その態度。お前の親友が死ぬほど悩んでるんだよ? もうちょっと親身になって
 聞けないの?」

親友ね。なんかもうやめたいんですけど。元々赤の他人だけどさ、まるっきりの面識のない他人という
 関係になりたいよ。

「ちょっと結人」

ああ、うんざり。ていうかうざっ。

「あのさ英士、お前今年に入って何回目だと思ってる?」
「なにがさ?」
「お前らの下らない痴話喧嘩のした回数だっ! 数えてみろっ。わからねえってんなら俺が教えてやって
 もいいぞっ」

両の手の指を使ってグーパーグーパーを繰り返してやった。ちなみに十三回目だ。うわぁ今気付いた、
 不吉な数字じゃんよ。もとい、ほんと、懲りねえヤツらだぜ。

「おら英士、答えてみろ。何回目だよ」
「そんなのいちいち数えてるわけないでしょ」

頭きた。なんだその尊大な態度は。もちっと俺に迷惑かけてるんだってこと自覚しやがれってんだ。

「十三回目だ!」

「あそう。何回目だっていいじゃない。それともなに? 何回目だったらなんか特典あげようとかって
 結人の中では考えてるの?」
「まじ腹立つ。お前もう帰れっ。とっとと帰ってくれっ」
「なに怒ってるんだよ。俺は相談に来てるだけだろ」

ぷちん。なんかそんな音が聞こえた。空耳か? いーや。もうまじ我慢も限界だぜ。

「なにが相談だ。下らねえ愚痴じゃねえか。んなもん毎回毎回聞かされる俺の身にもなりやがれって
 んだっ」
「愚痴じやない。悩みだよ」

溜息。溜息。溜息。溜息。誰かこいつをつまみ出して。

「だってひどいと思わない結人?」

ひどいのはお前だ。お前のその悩みとやらに俺は毎回毎回悩まされるんだよ。

「ねえ結人、結人からさ、それとなく一馬に聞いてくれないかな」
「……なにを」

頼むから俺を巻き込まないで。ていうかどうせろくなことじゃないんだ、そんなものは自分で聞けっ。

「あいつさ、本当に俺のこと好きなのかな。なんか自信持てなくなったよ」
「ばかばかしい」
「なんで!」

ばすんっと力一杯ベッドを叩かれて上に居た俺と英士の身体がスプリングに揺られた。
 やめて、布団叩くの。埃が舞うでしょが。

「どこをどうとったらあいつがお前を好きじゃないなんて思えるんだよ」
「お前やっぱり人の話聞いてなかったね。いい、もう一回言うからちゃんと今度は聞いてなよ?」

……こいつってどうしてこうもご立派に俺様な人なんだろ。なんで俺こんなヤツと友達になっちゃった
 んだろ。戻れんだったら出会う直前に戻って『そいつだけはやめて』って俺に忠告してあげるのに。

「自分のどこが好きなのか教えてくれなんて今頃になって言うんだよ? そんなのあいつと付き合う前に
ちゃんと言ってるってのに。それでその時と同じ答え言ってあげたら女にはまったく興味ねえの?
なんて信じられないこと聞くんだよ?」
「なんでそんなことであの疑問に繋がるんだよ。全然繋がりがねえじゃんか」

英士って利口に見えて結構バカなのかも。ていうか俺には理解不能。こいつの思考回路、嗜好傾向が
 最近まったく見事に立派なほどわかりません。もはやこいつには日本語すら通じないんじゃないかと
 思うこと多々。はっきり言って不気味な生き物にしか見えない。

「どこをとったらだって? お前かなり鈍感だね。いい? 俺たちは付き合ってんだよ?
 カップルなんだよ? キスだってエッチだってしちゃってる正真正銘本物の恋人同士なんだよ?
 なのにいまさらどこが好きなのかなんて聞くんだよ? 自分の恋人に向かって女に興味ないの?
 なんて真顔で質問しちゃうんだよ? ねえ、それって不自然でしょ? おかしな話だと思うでしょ?」
「お前には恥じらいってもんがねえのか!」

なんで人様の性生活まで聞かされないかんの! せっかくの日曜日になにが楽しくてホモっぷり自慢され
 なあかんの! いゃぁ! やめてっ! エッチってエッチって不潔だわよあんた達! ていうか想像させ
 んなぁぁぁぁぁ!

「ちょっと結人、人の話の途中で寝ないでくれる? お前失礼過ぎるよその態度」

……誰かこの人本当に捨ててきて。も、やだ。

「ちょっと結人」

触んな。ホモ菌がうつる。

「痛いなぁ、なに、その態度」

触れていた手を思いっきりはたいてやったら睨みやがった。

その態度? どの態度がどうだって言うんだっ。お前のその大迷惑な態度と比べたら俺の態度なんて
 至極常識の範疇のものだ。このうすらとんかちホモップルめ!

「英士、バカだと思ってたけどお前ほんとにバカだ。いいか、よく聞け。そして聞いたら帰れ。
 いいか、お前の悩みなんてのはな、下らない勘違いでしかない。いいか、あのとろくて鈍くて流され
 やすくて女の経験なんかなくていきなり男と付き合っちまう人生踏み外し街道まっしぐら中の一馬で
 も、好きでもないヤツと寝たりはしないぞ。好きだからお前と付き合ってんだ。俺が思うに一馬は
 きっと不安なんだよ。生まれて初めてのお付き合いだ。やることなすこと全てが初めてなんだぜ。
 戸惑ってんだよ。絶対そう。俺も始めて付き合った子にはそうだった。お前だってそうだったろ?
 よく思い出してみろよ。初めてづくしは目からうろこ状態だし感動もあればショックだってことも
 ある。あれだ、あいつは今マリッジブルーの花嫁のような気持ちになってんだよ。だからそんなこと
 聞いたんだよ。不安で確かめたくなったんだよ。大丈夫、あいつは間違いなくお前のことが好きだ。
 見てりゃそんなんわかる」

言ってて自分でなに言ってんだって思っちゃったよ。なんかもう支離滅裂? でもだいたい当たってると
 思うぜ? あいつがこいつを好きなのは確かだし。だってほんとに見ててわかんだもんよ。

 「……そうなのかな」
 「そう」

力強く頷いて答えてやる。こういう時は言った本人が自信に満ちてなきゃ説得力ねえからな。
 とりあえずあれだ、うまく乗せられてこれで納得してくれりゃあいいんだよ。

「……ほんとにそう思う?」
「思う。俺を信じろ。俺はお前らの親友なんだぜ? お前らのことなんてなんでもわかっちまうって。
 長い付き合いじゃないか。その俺が言うんだから間違いないって。なんだったら今から一馬に電話し
 て二人でどっか出掛けろよ。あいつきっと喜ぶぜ? ここんとこいろいろあって久し振りだろ?
 デートすんのってさ」

とっとと片付けたい俺は自分の携帯を貸してやった。それも手早く一馬の番号を押してやって。

ああ、なんて俺って面倒見がいいんだろ。

「ありがと」
「どういたまして」

こうして英士は一馬を誘い出して、来た時とは別人二十八号満面の笑顔で帰っていった。

……疲れた。も、今日一日なんにもしたくないです。

俺はきっと友達運がめちゃくそないんだと思う。

……あいつの下らない相談は十三回目だけど俺があいつらの友達やめたいと思ったのはもう何十回と
 ある。

頻繁過ぎて数えちゃいないけど今日も思った。

……なあ、俺、お前らの友達やめてもいい……?

来週の日曜日は平和に過ごせたらいいな……。
 


ああ、なんて約やかな願い。








 

 

 






END

 


 

郭真の郭&結人でした。
2001.08.19に出した無料配布本をリサイクルしてきました。
珍しく健全、とってもほのぼの(?)……でしょ?

冬コミに出したコピー本がちと、きちーだったから清清しいです、気分が。
クリスマスネタに縛りネタをプラス。濃いい郭真でした。
それと比べたらこれはリサイクルと言え、中学生らしいテンポに(思いっ切り勘違いなり)自分でも
びっくりさ。

さ、次は若真かな?いやあ、最近はまってたりして。郭真よりエッチが似合うと知ってかなり萌え!

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