二月、雪が降ったその日もベッドは軋んだ 薄くもないし肉厚でもないし、やっぱりこれといった特徴なんかないのだけれど優しい言葉と、 めだつほどつりあがってもいないし、べつに垂れ目ってわけでもないし、やっぱそこも特徴ないのだけ ……こうして考えてみるとキライなとこってないのかも。たまにむかついた時とかケンカした時とか 「……か、一馬?」 いつの間にやら身を乗り出してじいっと見つめていた俺に、俺もちょっと驚いたけれど英士のやつは なんだよ英士、お前なんてしょっちゅう俺にべたべたくっついてきたり迫ってきたりするじゃないか、 「な、なに? ど、どうしたの? 俺の顔になにかついてる……?」 ついてるよ。目とか鼻とか口とか。……ガキ臭い返しだから口には出さないけどさ。 「べつに。ちょっとお前の顔見てるだけ。用があるってわけじゃないから気にせずそのまま続けて 「……そ、それはちょっとムリ……。そんな近寄られて気にするなって……難しいよ。あの、ほんとは 「ない」 「だったらなんで急にそんな俺の顔に興味持ったのさ……?」 「なんとなく。なに? 顔見られるのってイヤ?」 またわずかに近づいた俺から逃れるように近づいた分上体を反らせた反応に、俺はちょっとムッとした。 英士ってほんと、整った顔してるよな。こんな間近で見てもむさ苦しくないし、欠点だと思えるとこも 「一馬、……ちよっ、一馬、なに、なんなのさ、あの、手、手……」 「うるさい、黙ってろ」 手がなんだってんだ。お前だってよくこうするじゃないか。しかもお前なんてあっちこっち撫でるじゃ 「か、一馬……?」 「黙ってろっつったろ」 「無茶言わないでよ……、さっき黙って本読んでろって言ったじゃない、……こんな体勢取られたら 「言った時にお前読まなかったじゃないか。今頃そんなこと言っても遅いよ。俺から逃げようとしてん 「逃げるだなて……」 「うろたえてる。それに俺が近寄ったらその分うしろに逃げた」 「だってそれは……」 こんなにうろたえた英士を見たのは初めてかもしれない。いつも優位に立たれているせいか、立場が 「ストップ!! ……一馬、ちよっ、とどまってっ……」 「やだ」 「やだじゃなくって、……」 大きくみじろぐ英士の膝の上に、生まれて初めて俺は自分から乗りあがった。あの最中に英士にいざな 「……か、か、かずっ……」 「落ち着けよ」 「こんなことされて落ち着けるわけないでしょっ。どうしたの一馬、……なんかおかしいよっ。いつも 「落ち着いてるよ。全然平静だよ。おかしいってどこがおかしいんだよ。いつもの俺じゃないって、 「だってお前、今自分がなにしたかわかってる? さっきから自分がしてること、ちゃんと頭で理解し 「わかってるよ。俺が触れてんのはお前の顔で、今俺がいるのはお前の膝の上。お前のリクエストに 「……いや、言わない……。お、落ち着いては、いるみたいだ、ね……。あの、でも……やっぱり 「だからどういうのだったら俺らしいって言うんだよ?」 「だからそういう攻め気なとこ、とか……その、……一馬からこういうことされるのは刺激的でその、 「英士、なに言ってんだかよくわかんねえよ。俺に言う前にまず自分が落ち着いたら?」 「いや、だからまずお前が少し離れてくれないと……」 「なんで? お前、よくこうやって俺に迫って来るじゃん。俺からだとなんでそんな腰、引かせちゃ 「……」 ……黙っちゃったよ。なんかこれってずるくない? 言いたくないっていうポーズだろ、これって。 「なあ、英士……」 ……やろっ……! 指に触ったとたん俺の手を払いのけやがった。どういう意味だよ、これって。 「あ、……ごめんっ……! その、びっくりして、……あの、ほんとごめん……」 「ふーん。俺に触られるそんなにイヤなんだ。お前、ほんとは俺のこと嫌いなんだろ」 「そんなことあるわけないだろ……! ヘンに解釈しないでよ一馬……。俺がお前を嫌いだなんて 「疑いたくなるね、その言葉。あんなことされたらさ」 「だからびっくりしたんだって……!」 「じゃ、触らして」 「どこを!?」 「なにびびってんだよ。やっぱり触られるのイヤなんじゃないかよ」 「ち、違うって! そういう意味で聞いたんじゃないよ……! 唐突過ぎる申し出だったんで驚いた 「唐突でなければいいんだな。よし、……英士、手、触らせて」 「手……?」 「そう、手」 「手って……俺のこの手……?」 「そう、お前のその手」 不思議なものでも見るような目で自分の左手を眺める英士に、「その手」を指さして俺はもう一度 「……なんで?」 「触りたいから」 「だからなんで急に……」 「ごちゃごちゃうるさい。俺のことが嫌いじゃないって言うんなら触らせろ。触らせるの、触らせな どうやら嫌いじゃないと言ったあの言葉は、真実らしい。 「……左手で、いいの……」 差し出された左手の指先を軽く握って、俺は英士の問い掛けに答えた。 「うん。どっちでもいいんだ。お前の手だったら」 「……そ、そう……」 実際に触れて再認識。やっぱり俺、こいつの手って好き。 形のいい爪のその先を指先でなぞって……一本、また一本と触れ終わった指先を一本づつ掌の中に そんな風にして指をかまうのに夢中になっていた俺は、このかんじっとしていた英士がどんな顔をし だから掌の中の指先が汗ばんできたことに気づいたとき、「なんで?」という思いの方が先にきてし ほんのりと顔を赤らめていた英士。目が合った瞬間弾かれるようにして目を逸らせた。困っている 「気は……済んだ?」 赤らむ英士なんてそうめったに拝めるものじゃない。困っているのか照れているのかそんなのどっち それと追加したい。好きなものもうひとつ。英士。この手も好きだけど持ち主がやっぱり一番好きだ。 「……一馬……?」 「うん」 「いや、うん、でなくてね、……あの、……そんなにじっと見つめないでくれる……? あっ、その あいた方の手を口元に当てて「困ったな」とこぼす英士のその手をそこから離して、指の先に軽い 「っ……! か、かず、かず、……ま……!」 「そんなにびっくりするなよ。お前だってよくするじゃん。たまには俺からしたっていいだろ。イヤ 「イヤだなんて、……そんなことはないけど……どうしたの? ほんとにいつもの一馬じゃないよ…… 「ないよ。ただお前に触りたいだけ。いつもはこんなことないんだけどなんでか今日は触りたいんだ。 「わかんないって……自分のことじゃないか……」 「うん。そうなんだけどね……」 こうやって会話してる間も俺は手を離さなかった。汗ばんでるんだけど全然イヤじゃなかった。他の 「英士の手って気持ちいいよね。触られるのもいいけど、こうやって自分から触ってるだけでも気持 俺のこの発言に、英士はなにも言わなかったけれど握っていた指先がぴくんっと撥ねる反応を返した。 不思議だ。なにも言わなくてもその反応だけで英士が喜んでいるのがわかった。 「なあ英士、俺にそうされたら嬉しい?」 「……そりゃあ……嬉しい、よ……」 「そっか。ふーん……こうやって触ってるとお前の気持ちがよくわかるかも。これからはちょくちょ 俺の言った言葉に英士が今度はと言うかとうとう、はっきりと顔を赤くした。すごいや。めったに しばし拝見していると、 「いやぁ、もうまいっちゃったよ……て、なにやってんだよ、お前ら」 部屋のドアが開いて結人の声がした。 「結人! いいとこに来た、ちょっと助けてよ」 「なんだよ英士! 助けてってどういう意味だよっ」 「えっ? どういうこと? 辛抱きかなくて英士が襲ってんじゃないの?」 詰め寄った俺をちらりと見た英士。だけどすぐにその視線は背後の結人へと移っていった。 「おい、英士」 「……これのどこを見たら俺が襲ってるように見えるんだよ。俺が一馬に迫られてるんだよ。なんか まだ言うかこいつ! 「俺はヘンじゃない!」 「えー、なになに、一馬がお前を襲ってんの? 珍しいこともあるもんだ。だーから雪なんか降って 「ちょっと待った! お前人の話ちゃんと聞けよ! 助けてくれって言っただろ!」 「おい、俺の方を見ろよ英士!」 「燃えてるじゃん一馬。ほーんと珍しいこともあるもんだ」 「おい英士っ!」 胸倉を掴んで叫ぶ俺を無視して、 「のんきに構えてる場合じゃないって。見ろよ、いつもと全然違うだろ。ちよっとこいつを俺から 「それはちょっともったいないんじゃないの?」 「バカ言ってないで早く助けろよ」 「んー、ちょっと考えちゃうなぁ。お前はともかく一馬にあとで恨まれそうじゃんよ」 「結人っ!」 結人とごちゃごちゃ会話をし続けてずっと俺を無視し続けた英士。いまだに目は俺にではなく結人に 「おい結人っ! お前あとから来といて割り込んでくんじゃねえよ。いい加減もう黙れ」 「ちょっと一馬!」 「おおっびっくり。こんな乗り気な一馬は初めて見たぜ。こりゃあしばらく見物していたいかも」 「英士、英士も英士だ。俺を無視して結人なんかと話し込むんじゃねえよ」 「一馬! もうお前は少し黙ってて」 「なっ……! っん……!」 胸倉を掴む手が振り払われ、咄嗟のことでなすすべもなくあっという間に口を塞がれた。息の漏れる クソ英士っ! この手を離しやがれ! 「……お前たち二人、忘れてない? 今日は俺の家に泊まってビデオ鑑賞なんてものをする約束にな 「っ……っ……」 「いや、わりぃわりぃ。そこまで頭まわんなかったわ」 「……ったく。ほんとにマイペースなやつだね……。まあでもすっぽかさなかっただけマシか……。 「……あのさ」 「なに?」 「ヘンって言うかさ、一馬のやつ気が大きくなってるだけなんじゃねえの?」 「え? どういうこと?」 「英士さ、こいつに酒、飲ませなかった?」 「酒? そんなもの一滴だって飲ませてないよ」 「じゃあ、アルコールの入ったものなんか食わせなかった? ケーキとか」 「ケーキ……? ああ、うん……なら食べたけど……」 「それに酒、使ってない? こいつ、酒にはめちゃ弱いじゃん。舐めただけで顔赤くなるし。洋酒か 「……まさかあれだけで? おみやげにもらったパウンドケーキが残ってて……確かに少し入ってる 「……モノを見てないからはっきりとは言えないけどさ、最近のって結構入ってるらしいぜ。大人向 「……じゃあ、今までの行動は単に酔ってたってこと……?」 「そ。ヘンなんじゃなくて単に酔ってるってだけ。顔には出てないけどちーとばかし気が大きくなっ 「……そっか。はは、なんだ、そういうことだったんだ……」 「らしくねぇなあ。すぐ気づかなかったのかよ?」 「悪かったね……。気づけなかったよ」 「べつに悪いとは言ってねえだろ。でもお前の慌てっぷりが想像できて楽しいけどね」 「そんなもの想像するなよ。悪趣味だぞ」 「どうよ? 一馬から迫られた感想は。鼻の下、だらしなく伸ばしてたんじゃねえの?」 「……ほっといてくれ」 「罪作りな男だねぇ一馬も」 「一馬に他意はないだろ、そういう言い方はよせよ……」 「けどホントのことだろ」 「……」 「ところでさ。いい加減その手離してやんないとマジで一馬のやつ窒息死しちゃうよ?」 「えっ! あっ! ご、ごめん! だ、大丈夫!? 一馬?」 「……っじゃ、ないっ……」 「じゃ、マジで俺はこれで帰るから。あとは仲良くやってくれよ」 「えっ!? ちょっ……! 待ってって! 結人! なに言ってんのさ」 「だってほら、お前はこれからまだまだ一馬のことかまってやらなきゃいけないだろ? そんなとこ 「ばかなこと言ってんじゃないよ。それに雪が降ってるんだったらなおさら帰すわけにはいかないだ 「いまだったらまだ電車動いてると思うから心配すんなって。じゃあな」 「ちょっ、結人!」 「あ、そうだ。風邪、ひかすなよ?」 「結人ってば!」 ……人の口を塞いで、長い間ぐたぐたと結人と語り合ってないがしろにしてくれた挙句、またちょっ いつまでも結人結人言ってんじゃねえっ。 これじゃ邪魔者は俺の方みたいじゃねえかっ。 「っい! ……っつ……。なにするのさ、一馬……」 「バカ英士。俺も帰る」 「えっ、ちょっ、一馬っ……!」 英士の膝の上に乗っかったままだった俺を捕まえるのは、英士にとっては容易なことだった。最初に 「離せよ!」 「落ち着いて、一馬」 「うるさい。帰るんだから離せ」 「だめ。なんの為に今日、俺の家に来たの? まだなに一つ目的達成されてないんだよ?」 「知るか。結人が帰っちゃったんだからもう約束なんて果たされないんだよ」 「結人を邪険に扱ったのは誰?」 「俺が悪いのかよ。英士が結人結人って結人ばっかかまうのがいけないんだろ」 「……一馬、……やっぱり酔ってるんだね……」 赤い顔してなに言ってんだか。俺は酔ってなんかない! 「原因がわかっても……やっぱりあれだね……心臓に悪いよ……」 「なに言ってんだお前?」 「……なんでもない。……ね、帰るなんて言わないでよ」 こつんと、頭を肩に乗せてつぶやきながらぎゅっと強く抱きしめられる。 こんなことでほだされるもんかと、……肩を押したけど結局はぬくもりにほだされてしまい、すぐに 「そう言えば外、雪が降ってるって言ってた。見える?」 「雪?」 おとなしく抱きしめさせてやっていた男が顔を上げて、視線を移動させる。つられてあとを追うと、 いつから降りだしていたのか。つい先頃というような雰囲気ではなく、だいぶ前から降りだしていた 「……これ、積もるかな」 「どうだろうね。このまま雨にかわらなければ積もるかもね」 「……結人、ちゃんと帰れるのかな。電車、止まったりしてないかな」 「徐行運転になっているだろうけど、まだ大丈夫なんじゃない?」 英士は軽く言うけど俺は気になって気になって、なかなか外の光景から視線を外すことができない。 俺が結人を追い帰したんだろうか……? 「一馬、大丈夫だよ。携帯、入れてみる?」 気に病んだ俺にかけてきた言葉に、俺はいちもにもなく頷いた。ちゃんと電車に乗れていればいいけ 「でもその前に……」 「前に?」 「キス、させて」 「……なんだよ突然……」 いきなりな申し出にイヤだったわけじゃないけどその場ですぐには頷けなかった。するならするで 「だめ?」 だから、そうやって聞かれても困るのだ。だめじゃないけど、だめじゃないけど……だから、「だめ 「一馬?」 ……だから聞くなよ、いちいち……。 「……やっぱりコレまでは簡単にいかないか……」 残念そうに笑った英士。その顔になんだろ、胸が絞まった。 ……ああ、もう……。そんな顔するなよ。だからだめじゃないって、わかれよそれぐらい。 「じゃ、ちよっと携帯取ってくるから」 「待った、英士」 俺を解放してみじろいだ彼を呼び止めて、なに? と顔を向けた彼に俺はキスした。 「……」 「……いちいち聞かなくたって、したかったらすりゃいいだろ?」 「……だって、いきなりしたら一馬、怒るじゃない。その、怒らせたくなくて……」 「そ、それは……そうかもしんないんだけど……でも、……」 思い当たらなければするりとかわせたんだろうけど、思い当たるから言葉も詰まる。もしさっきのが 「でも?」 「……」 困り果てる俺に英士が意味ありげな笑みを向ける。……まるで心の内を見透かされてるみたいだ。 でも……。すべて見透かせるほど知り尽くされてるってことで、惚れたなんとかってやつなのか悪い つけあがるだろうから言葉にして言ってやったりはしないけど英士にされる意地悪は巧みにワナが張っ 「でも、なに?」 ほらな。キスさせてなんて言っときながらいつのまにか「キス、して」な展開になってきた。 「……お前、ずるくないか?」 「ずるい? なんで?」 しらばっくれてるのか、ほんとにわかってないのか、上手すぎてわかりゃしない。 「わかってないんだったらいい。でも俺からはしないからな」 「なにを?」 「よくないよ。気になるじゃない」 どーこが。その顔のどこが気にしている顔だよ。俺の考えてることなんてお見通し、さっさと白状し 「一馬?」 伸びてきた腕。頬を滑り落ちていく指。優しくてあったかくて……心地良すぎるよ……。 「一馬?」 ああ、もうっ……。 「……」 噛み付くようなキス。いまはこんなやつしかできない。でも期待には応えてやったんだ。文句は言わ ……ところがし終えた途端奴は言ってくれた。 「……ちょっと……もっと色気のあるキスはできなかったの?」 「いろっ……! してもらって文句言うなよっ……!」 「じゃあ、もう一回」 「調子に乗んなバカ! ほらさっさと携帯入れっ……!」 よく考えればあんなもので満足するヤツではなかった。迂闊だった。こっぱずかしくなるような台詞 「……っん、……っ」 俺がしてやった合わせるだけのとは違う、喰らおうとするかのような舌の動き。酸素まで奪われそう 「……っし、……ちょっ、ま、って……」 酸素、酸素が欲しい……! 「……ちょっ、マジ、……待って……てっ」 言葉を無視して唇を押し付けてくる英士に軽くビンタを食らわす。これくらいのことしないと今のこ 「……がっつくなよ……逃げやしないから……少し待てって……先に携帯入れろよ。そっちのが 「動けなくなってるんだったら結人から連絡入ると思うけど。ないってことは今んとこ問題は起きて 「そうだとしても俺は気になるんだよ。ごちゃごちゃ言ってないでほら早く入れろよ」 「結人への罪悪感? でも一瞬忘れてなかった?」 早くしろと急かした俺は、だけど返り討ちにあって言葉に詰まった。どうして英士ってこんなに頭の だけど英士はすっかりやる気だ。この状況を見れば分が悪いのは俺だし。やられちゃうのは目に見え 「一馬? なに眉間に皺寄せてんの?」 「んー……なんでこんな展開になっちゃったんだろって……」 「そんなの、お前が俺を煽ったからだろ? 責任はちゃんと取らなきゃ」 「俺がいつ煽ったよ。英士が勝手にさかったんだろ。お前好きだもんな、やるの」 「失礼な。先にキスしてきたのは誰だよ。一馬からだよ? 忘れた? それにやたら俺にべたべた 「誘ってねえよ! 勝手な解釈してんじゃねえよばかっ。それに俺からったってあれはお前がして 「あーはいはい。俺が悪いんです。俺が一馬が欲しくて辛抱きかなかったんです。だからこういうこ 「なんだよその言い方。全然悪いなんて思ってない言い方だぞっ」 「うん、思ってない。でも一馬は悪くないんだろ? 俺はべつに経過なんて気にしないし、結果一馬 小賢しいヤツ……ていうか、恥かしいヤツ……。どうしてそういうことすらすらと口にして言えるか 「NOの返事がないってことは黙ってるけど一応了承してくれてるって思っていいの?」 「……好きに解釈しろよ……なに言ったって上手く言いくるめて結局はやるんだろうから……も、い どうせビデオ鑑賞会なんて中止だ。この雪の中レンタル屋に行く気はしないし、結人も居ない。ふた ま、真っ昼間からどうだこうだなんてこと気にしてんのなんて最初のうちだけだろうし。始めちゃえ 「だけど英士、せめてベッドの上に上がるまでは我慢しろよ。ここでやるとあとで背中が痛くて困る」 首筋に顔を埋め舌を這わす行為に身をすくめながら、これだけは譲れないという要求を告げて、 二つの身体を弾ませるスプリング。やがて軋みを生み、俺達は抱き合ったまま転げまわる。指が髪を えいし、えいし、いつも呼んでいる名前が今だけは違う響きを持ち、泣けてきそうなほど胸に深く突き 「……え、……しっ……」 痛くはないけど苦しい。泣けてきそうなほど愛しい。 「え、し……英士……え、……」 奪われた名前。与えられたのは深い口付け。俺は英士を英士は俺を、二人して貪った。噛み付いている 「……っん、……」 息継ぎをする合間を縫って、もっとしてと、ねだると小さな笑みをのせた唇が落ちてきた。 「えい、し……」 好き、大好き、好き、もっと、……きつく強く、抱きしめて……。 かずま。かずま……。 耳に熱い吐息。首筋を撫でていった細い髪。英士の残り香が鼻をくすぐりさらに胸を締め上げた。 えいし、えいし、えいし……。 ついぞ堪え切れなくて涙した俺。優しく髪を梳く指にあやされて、好きだと英士に告げてしまう。 「うん。俺も一馬のことが大好きだよ」 「うん、知ってる……」 英士の肩越しに見た窓の外。一面の灰色にゴミのような点が無数に散っている。その一つを追いながら
雪の日の郭真でした。 いけね、大脱線してるわさ。有島の嗜好なんてどうでもいいんです。 そう、郭真! 気を取り直して……。 かなり一馬が大人になったなあって思うんですが。 |