La・La・La・Love はい? いきなしなんですか? 「なんで?」 ――日曜日。 久し振りにっつうか二週間ぶりの逢瀬の席で、大きな窓ガラスの向こうの人、人、人でいっぱいの渋谷の 『一馬ぁ、昨日のアレ、見た?』 『あーでも俺さ、ひげのおっさんの奥さん役のひと、あのひとが一番記憶に残ったかも。めちゃ不気味じ 『なに結人、そういうタイプの女に出会ったことでもあるの?』 『ないけどさ、ああいるいる、そういうひといるよって一馬は思わなかった?』 『思わなかったよ。気味わりぃとは思ったけど』 『ふーん。でもお前もぶっきぃとは思ったんだ。あのひとさ、ほかになんの映画に出てんのかね。あった 『そんなに気にいっいっちゃったんだ』 『気に入ったっていうかさ、気になるんだよ』 『俺はあの女の人がラスト近くに言ったセリフが頭からはなれない』 『え? そんな記憶に残るようなこと言ってたっけ? なんてセリフ?』 『さよなら』 『なんじゃそりゃ。なんてこたあないセリフじゃんよ。みんな普通に使ってるしよく耳にもするじゃん。 『んー……そうなんだけど、……そのセリフ聞いたときなんか頭にビビビッてきたんだよ』 『ビビビッて一馬……それもまたなんじゃそりゃってかんじだな』 『そんなに笑うなよ』 『だってお前ヘン。なんかずれてなくないか』 ……てあれ? 一馬の言ってたさよならってバイバイとも言うっけ? あれ? なにげにつながってる? 「俺さ、今までこんなこと思ったことないんだけど昨日のアレ観て思ったんだ。バイバイって言う響き ……はい? またなんかヘンなこと言い始めたよ一馬のやつ……。なんなんだなんなんだ。要領得ないぞ 「寂しいってどんな風にだよ……」 「なんか本当にさよならって言われてる気分になるっていうかさ……」 はい? 「一馬、いまなんか悩んでることでもあるのか?」 「悩み事? ないよ? なんで?」 「だってお前ヘン。さっきから言ってることが一馬らしくない」 「へんって失礼なやつだな。それに俺らしくないってなんだよ」 「だってほんとにヘンじゃん、急にそんなこと思っちゃうようなことでもあったっていうならともかく 「ヘンで悪かったな。でもほんとになにもないよ。思っちゃったものは思ったんだからいいじゃんか」 「悪い、なんて言ってないだろ。ヘンだって言ってんの」 「だから、ヘンで悪かったなって言ってんの」 「ばーかずま」 ムキになりだした一馬に、もはや氷しか入っていないオレンジジュースのはいってたグラスから 「なにすんだよ結人、つめてぇだろっ」 「ムキんなるなよ。収拾つかなくなんだろ」 「お前がヘンヘン言うからだろ」 だーから、ムキんなるなって言ってんだろ。ったく、この単純おばかずまめ。ヘンヘン言われる なーにが寂しい気分になっちゃうだ(お前は乙女か)。別れ際に言う言葉なんだからお別れ気分 ――ってちょっと待った。 ……俺をさしおいて誰に寂しさを感じたって? え、よくよく考えりゃ聞き捨てならねえセリフ 「一馬、お前、浮気してんじゃねえだろうな」 「はぁ!?」 「誰に寂しくさせられたんだよ」 「……結人、なに言ってんだ?」 「だから、お前を寂しくさせたのは誰だってきいてんの」 「ダレって、……べつに誰ってわけじゃ……」 「はぁ? 誰かに言われてそれで寂しくなったっていう話じゃねえのかよ?」 「誰がいつそんな話したよっ」 「したじゃんかさっき。バイバイ言われたら寂しくなるってお前言ったよ。さよなら言われたような 「ちょっと待て、結人」 「お前は隠し事が上手くないんだから下手にウソなんかつかないでここで白状しちまいな。誰なんだよ 「だから待てって」 「俺には聞く権利があると思うぞ一馬」 「人のはなしを聞けっ」 「……っ! ……」 やってくれたじゃないの……。これってさっきの仕返しか? だとしても俺の方が被害、でかくない 「……お前、加減しろよ……あーあ、あちこち濡れちゃったよ」 一馬が投げつけたおしぼりは膝の上。ストローは足元へ。投げたおしぼりがあたって背の高いグラスから 「……お前が暴走するから……」 あとさき考えずにやってしまったあとで、思いもしなかった結果目の当たりにしてから後悔しても遅いっ そのくせ素直に『ごめん』が言えなくて人のこと責めるのってずるくないかい? 「発端はお前の言葉じゃねえか。わけわかんねえこと言ったりするからだろ」 そう、ことの始まりは一馬のあのセリフだ。誤解されても仕方のない内容だと思うんだけど。それなのに 「わけわかんねえって、……俺はただ……」 「いいよもう。映画の内容から飛び出したハナシだ。さほど重要なものじゃあない。もういいよ。この これ以上続けられても困るだけだし。だってほんとにマジで何が言いたいんだかさっぱりわからねんだも 「怒った……?」 「笑っていられる心境じゃあないことだけはたしか」 「まわりくどい言い方すんなよ。はっきり言えばいいだろ」 「じゃあむかついたって言えば気は済むのかよ」 ひとがせっかく最悪な事態になる前に手を打ってやろうというのに無神経なやつ。一馬らしいって言えば ――むかつく。ほんっとむかつく。最後こうやって俺に罪悪感持たせちまうお前の態度、ほんっとぉぉぉ
「――はっきり言えって言ったくせに」
甘いな俺も。独り言に聞こえるように口にした言葉。ほんとはお前にはっきり言い返してやりたいけどそん 「出るぞ一馬」 仕方ないって思っちゃうんだから、ま、仕方がない。 「結人……」 席を離れた俺のあとを泣きそうな顔のまま追ってきた一馬。やがてそれは不安そうなものへとかわってい 「言ったろ、このハナシはこれで終わり。気分転換に外行くんだよ。適当にぶらつこうぜ」 ああ、ほんと、俺ってこいつに甘い。土壇場に来るといつもこうだ。どんなにむかついてたって腹立つこ 「結人」 「なに」 無視でもしてやりたい気分だけどその心とはうらはらに口は動いてしまう。ああ、ほんと俺ってばか。 「なに。途中でやめんなよ。なに」 呼んだくせしてだんまり。ああ、いらつく。お前人ばかにすんのもいい加減にしとけよな。 なんて侘しく心ん中で愚痴ってたら辿り着いちゃったよ、レジの前。しゃあねえなあ、ここは俺が出して 「あ、俺の分……」 「いいよ。俺がまとめて出す」 「でも」 「いいって言ってんだろ」 レジの前に来て私が出します、いえ私が、ああそんな悪いわよ、ここは私が、なに言ってるのいつもご馳 だからきつい口調で言ってやった。俺の機嫌が悪いと思い、逆らわないほうがいいと思わせるのが目的。
精算済ませて店を出た俺は先に出ていた一馬にお伺いをたてる。出たはいいが向かう先がない。 「結人、ないの?」 ちっ。まかせたのにお前もないのかよ。 「しょうがねえなあ、マジで適当にぶらつくか」 ま、金はかかんなくていいわな。暑いのがうげってところだが。 「結人」 「んー?」 渋谷公会堂方面に向けて歩き出した俺についてきながら一馬が呼ぶ。歩道の上は人、人、人。途切れる 「あのさ、……」 「んー」 「…………」
――だから、とめんなっての。さっさと続きを言ってくれ。
「なんだよ」 だめ。俺のほうがしびれてきちゃった。まだるっこしい。うざい。焦れる。なんなんださっさと言いたい 「……さっきの話なんだけど、……」 「お前もしつこいな。もういいって言ってるだろ」 立ち止まってまでして続ける話かよ。もういいっつうのに、なんなのこいつ。 「あーもうっ。わかったわかった。きいてやるよ、なに。とりあえずこっち、端っこの方に寄れ」 終わりにしようって言ってもきかないんならもう吐き出してもらいましょう。いつまでもこんなこと続け 「簡潔にわかりやすく言ってくれな」 大きなウインドウを背に、俺と一馬は立ち止まる。人の流れを眺めるように真正面を向いたものの適当に 前を通り過ぎて行く見知らぬ人たちの視線も時折俺たちを訝しげに眺めていく。そりゃそうだ。待ち合わ 見世物にでもなった気分、それがさらに俺を不機嫌にさす。けれどとうの一馬は相変わらず口つぐんだま 「……いつまでここに立ってりゃいいんだよ、は・や・く・言えっつうの」 「あの、さ……」 「うん」 「さっきが俺がバイバイって言葉好きじゃないって言ったのはさ、……」 「うん」 「……えっと、あー……その、あの女の人がさよならって言ったあとにさ、……考えたっていうかさ、 ……だめだ。やっぱり要領得ないよ。こいついったい何が言いたいわけよ。 「ていうか、絵がぱっと頭ん中に浮かんだんだ」 「かーずま、俺、わかりやすく言えって言ったよな? お前の言ってること全然わかんねえ」 「だから、……」 だからって言いたいのはこっちだ。なんで簡潔に言えねんだよ。なんの絵が浮かんだって? さよならっ 「……結人に言われてる絵」 「はぁ?」 「だから、俺がお前に言われてる絵、それが浮かんだんだよ」 つまり? だぶらせたと、そう言いたいわけ? そう目で問う俺に『そういうこと』と泣きそうな顔で一馬が頷いた。――だからなんで泣きそうな顔す 「……恥かしいやつだって、心ん中で思ってるだろ」 「だってお前、マジで恥かしいヤツじゃん」 前を通り過ぎて行く見知らぬ人たちの視線も時折俺たちを訝しげに眺めていく。そりゃそうだ。突っ立つ ――あれ? 「でもやっぱりバイバイには結びつかないじゃねえかよ」 気づいたこと、思うと同時に口にもしてた。 「バイバイって言ったんだよお前が」 へ? 結人が口にしたのって『バイバイ』だったんだよ。一馬の言葉に振り向いた俺と一瞬目が合ったヤツは 「お前、軽く言うんだもん。我に返った途端、なんか、すげイヤな気分だった……。実際でもお前言いそ 「帰り際に今度バイバイって言われたらどうしようとか思ったりしたんだろ一馬」 「そうだよっ……」 「……救いようがないほど恥かしいヤツだなお前って……」 俺もしゃがみこんでしまいたかった。でも一馬に先にやられちゃったからできなくて、しかたねえから 「……っそ、やっぱ言うんじゃなかった……」 喧騒にも消されずに届いた言葉。うん、俺がお前の立場だったらぜってぇに言わない。墓場まで持ってく 「ほら、立てよ一馬。歩こう」 腕を持って立たせた、真っ赤かな顔の一馬の肩を抱いて先へと促す。 「なっ! ちょっと結人!」 「まあまあ」 人が見てる恥かしいだろと暴れる一馬の気持ちを無視して、 「言わないって誓ってやるよ。熱〜い告白かましてくれた一馬の気持ちにこたえて今後絶対にバイバイは いやあ、甘い甘い。いっぺん死んでこいってなくらいにばか甘だよな。 「べつに誓ってなんかくれなくていいっ」 「嬉しいくせに」 「恥かしいだけだばかっ」 「お前がそれ言うかぁ?」 「うるさいっ! ああっもう! いい加減離れろ! 人が見てるだろ。それに暑いんだよ!」 「なにを今更。あそこに立ってた時点でもう何人もの人に見られてたって」 「あん時はあん時! 今は今! ちょっ、おい、こら! 人のはなしを聞けっての。くっつくなぁぁ!」 あのさ一馬、お前がわめくからほら、みんな見てくぜ? 俺の言葉にぴたりと動きが止まる。 お前ってさ泣きそうな顔すんの得意だよね。 恨めしそうな両の目につい、言っちゃった。 「お前、嫌い!」 一馬が真っ赤かになりながら怒ったような口調で言う。今はどんな顔されても可愛く見えちゃうくらい 「にやけてんなバカっ」 全然手加減なしの肘鉄が腹に飛び込んできてもそんな調子だからにやけた顔は崩れない。でも、まだしば
――墓場まで持って行かなきゃいけないものが俺にもある。一馬には秘密だけど。大丈夫、安心してていい
「結人」 ほらね。俺が追わないとあいつはああやって不安な顔をする。今あいつの心中は俺のことでいっぱいのは
歩き出した俺にほっとしたような表情を見せた一馬。 嬉しいじゃん。嬉しいじゃん。あいつの想いや気持ちが態度に出るとき俺は嬉しくなる。だって俺の想い 「で、これからどこへ行くんだ?」 「んー、どこでもいいんじゃん? なんだったらホテルでも行く?」 「ばっ……!」 「なーんてね。本気にとるなよ」 からかう言葉に隠した本音。どうか一生俺を好きでいて。けっして口にすることないけれどどうか、叶え 叶えて。叶えて。どうか叶えて。むくれる一馬に並んだ俺は、からかうことをやめずに何度もそう願った
若真、若真、ビバ若真。 有島にとって若真は郭真以上に一馬が愛されてるイメージ。 だから、郭真以上にバカップル。以上! |