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La・La・La・Love






 「俺、バイバイって言葉好きじゃない」

 はい? いきなしなんですか?

 「なんで?」

 ――日曜日。

 久し振りにっつうか二週間ぶりの逢瀬の席で、大きな窓ガラスの向こうの人、人、人でいっぱいの渋谷の
風景を眺めながら昨日放映された映画の話をしてる最中だった。でも今の一馬のセリフが出てくるような話
の流れになってたっけ? うーん……。

 『一馬ぁ、昨日のアレ、見た?』
 
 『見たよ』
 
 『くそ面白くなかったと思わねえ?』
 
 『ちょっと思った』
 
 『アレってさ、公開された当初めちゃ面白いってすげえ盛り上がってたやつじゃん? どこが? って
かんじじゃんなあ。俺たちも最初は観に行く予定だったけどさ、結局都合つかなくて観に行けなかったじゃ
んかよ、行かなくて良かったな。行ってたら俺、観終わると同時に金返せーって暴れてたと思う』
 
 『ああ、結人ってそうだよな……でもさ、かなりカットされてるらしいよ。評判と違ったからさ、俺、
観に行ったって言うクラスのやつに電話して聞いちゃったもん』
 
 『あーそうなの? でもさそれだけが原因じゃねえだろ? アレはどう観てもクソな内容だよ。出演して
る俳優人が豪華なのと監督のネームバリューで話題になったんだと思うね』
 
 『かもね』

 『あーでも俺さ、ひげのおっさんの奥さん役のひと、あのひとが一番記憶に残ったかも。めちゃ不気味じ
ゃなかった? 女ってこえーって思っちゃったよ。なんかさ、ああいうひとって実際にいそうじゃねえ?
あそこまで露骨でないにしてもスイッチはいったらあんな風に変貌しそうなひとっているよな』

 『なに結人、そういうタイプの女に出会ったことでもあるの?』

 『ないけどさ、ああいるいる、そういうひといるよって一馬は思わなかった?』

 『思わなかったよ。気味わりぃとは思ったけど』

 『ふーん。でもお前もぶっきぃとは思ったんだ。あのひとさ、ほかになんの映画に出てんのかね。あった
ら観てみたいな』

 『そんなに気にいっいっちゃったんだ』

 『気に入ったっていうかさ、気になるんだよ』

 『俺はあの女の人がラスト近くに言ったセリフが頭からはなれない』

 『え? そんな記憶に残るようなこと言ってたっけ? なんてセリフ?』

 『さよなら』

 『なんじゃそりゃ。なんてこたあないセリフじゃんよ。みんな普通に使ってるしよく耳にもするじゃん。
お前だって言うことあんだろ』

 『んー……そうなんだけど、……そのセリフ聞いたときなんか頭にビビビッてきたんだよ』

 『ビビビッて一馬……それもまたなんじゃそりゃってかんじだな』

 『そんなに笑うなよ』

 『だってお前ヘン。なんかずれてなくないか』

 ……てあれ? 一馬の言ってたさよならってバイバイとも言うっけ? あれ? なにげにつながってる?

 「俺さ、今までこんなこと思ったことないんだけど昨日のアレ観て思ったんだ。バイバイって言う響き
さ、なんか寂しくないか?」

 ……はい? またなんかヘンなこと言い始めたよ一馬のやつ……。なんなんだなんなんだ。要領得ないぞ
おい。さよならってセリフにびびびっときといてなんで、バイバイのハナシになるんだよ。そりゃあ類語で
はあると思うけどさ。話のもっていきかたが急すぎませんかい。わからん。わかりませんぜ。謎だ。解け
ん。つうか寂しいってあなた……急になに。なんかちょっと見るとあんた暗くない? なになになに、なん
なの、なにかあったんかい?

 「寂しいってどんな風にだよ……」

 「なんか本当にさよならって言われてる気分になるっていうかさ……」

 はい?

 「一馬、いまなんか悩んでることでもあるのか?」

 「悩み事? ないよ? なんで?」

 「だってお前ヘン。さっきから言ってることが一馬らしくない」

 「へんって失礼なやつだな。それに俺らしくないってなんだよ」

 「だってほんとにヘンじゃん、急にそんなこと思っちゃうようなことでもあったっていうならともかく
なんにもなくて寂しく感じちゃうなんておよそお前らしくないよ」

 「ヘンで悪かったな。でもほんとになにもないよ。思っちゃったものは思ったんだからいいじゃんか」

 「悪い、なんて言ってないだろ。ヘンだって言ってんの」

 「だから、ヘンで悪かったなって言ってんの」

 「ばーかずま」

 ムキになりだした一馬に、もはや氷しか入っていないオレンジジュースのはいってたグラスから
ストローを抜き、そのふてたような顔めがけて雫を飛ばした。

 「なにすんだよ結人、つめてぇだろっ」

 「ムキんなるなよ。収拾つかなくなんだろ」

 「お前がヘンヘン言うからだろ」

 だーから、ムキんなるなって言ってんだろ。ったく、この単純おばかずまめ。ヘンヘン言われる
のはまじでヘンだからだろ、それぐらい自覚しろっつうの。

 なーにが寂しい気分になっちゃうだ(お前は乙女か)。別れ際に言う言葉なんだからお別れ気分
になるのは当たり前だっちゅーの。だいたいなんだよ、バイバイと言われて寂しくなっちゃうよーな
相手って誰だよ。俺は一度だってバイバイなんて言ったことないからな。さよならって言われたわけ
でもないのにそう言われた気分になるってなんだ、え、おい。ふつー、さよならって言われて悲し
かったとか別れ際に寂しくなるとか、そういうのって恋人同士の間でありってやつなんじゃないの? 

 ――ってちょっと待った。

 ……俺をさしおいて誰に寂しさを感じたって? え、よくよく考えりゃ聞き捨てならねえセリフ
じゃねえかよ、おい。

 「一馬、お前、浮気してんじゃねえだろうな」

 「はぁ!?」

 「誰に寂しくさせられたんだよ」

 「……結人、なに言ってんだ?」

 「だから、お前を寂しくさせたのは誰だってきいてんの」

 「ダレって、……べつに誰ってわけじゃ……」

 「はぁ? 誰かに言われてそれで寂しくなったっていう話じゃねえのかよ?」

 「誰がいつそんな話したよっ」

 「したじゃんかさっき。バイバイ言われたら寂しくなるってお前言ったよ。さよなら言われたような
悲しい気分にもなるって言った。特別な感情を持っているからそういう気分になるんだろ」

 「ちょっと待て、結人」

 「お前は隠し事が上手くないんだから下手にウソなんかつかないでここで白状しちまいな。誰なんだよ
そいつ。俺の知ってるヤツ? それとも俺のまったく知らないヤツ?」

 「だから待てって」

 「俺には聞く権利があると思うぞ一馬」

 「人のはなしを聞けっ」

 「……っ! ……」

 やってくれたじゃないの……。これってさっきの仕返しか? だとしても俺の方が被害、でかくない
かい?

 「……お前、加減しろよ……あーあ、あちこち濡れちゃったよ」

 一馬が投げつけたおしぼりは膝の上。ストローは足元へ。投げたおしぼりがあたって背の高いグラスから
外へとダイブしていったストロー。グラスこそ倒れはしなかったものの反動で、中の残り水が俺に降りかか
った。ま、季節は夏だから、冷たくてもすぐぬるまるからいいんですけどね。でもさ、しみが残るんだよ
ね。顔にもかかったし?

 「……お前が暴走するから……」

 あとさき考えずにやってしまったあとで、思いもしなかった結果目の当たりにしてから後悔しても遅いっ
て知ってる?

 そのくせ素直に『ごめん』が言えなくて人のこと責めるのってずるくないかい?

 「発端はお前の言葉じゃねえか。わけわかんねえこと言ったりするからだろ」

 そう、ことの始まりは一馬のあのセリフだ。誤解されても仕方のない内容だと思うんだけど。それなのに
暴走と言いますか。へえ、ほおー、ふーん。

 「わけわかんねえって、……俺はただ……」

 「いいよもう。映画の内容から飛び出したハナシだ。さほど重要なものじゃあない。もういいよ。この
ハナシはここで終わりにしよう」

 これ以上続けられても困るだけだし。だってほんとにマジで何が言いたいんだかさっぱりわからねんだも
んよ。

 「怒った……?」

 「笑っていられる心境じゃあないことだけはたしか」

 「まわりくどい言い方すんなよ。はっきり言えばいいだろ」

 「じゃあむかついたって言えば気は済むのかよ」

 ひとがせっかく最悪な事態になる前に手を打ってやろうというのに無神経なやつ。一馬らしいって言えば
それまでだけどむかつく。だいたいなんだ、その俺の言葉に傷つきました、どうしたらいんでしょう、
困りました、涙出てきそうですな被害者ヅラはよ。

 ――むかつく。ほんっとむかつく。最後こうやって俺に罪悪感持たせちまうお前の態度、ほんっとぉぉぉ
にムカツク!

 


 

「――はっきり言えって言ったくせに」

 

 

 

甘いな俺も。独り言に聞こえるように口にした言葉。ほんとはお前にはっきり言い返してやりたいけどそん
なことしたらよけいに泣かれそうな顔されるだけだってわかっちゃってるし、そういうの見ても気分良くな
いし。むかつくけどむかつくけどむかつくけど――。

 「出るぞ一馬」

 仕方ないって思っちゃうんだから、ま、仕方がない。

 「結人……」

 席を離れた俺のあとを泣きそうな顔のまま追ってきた一馬。やがてそれは不安そうなものへとかわってい
く。

 「言ったろ、このハナシはこれで終わり。気分転換に外行くんだよ。適当にぶらつこうぜ」

 ああ、ほんと、俺ってこいつに甘い。土壇場に来るといつもこうだ。どんなにむかついてたって腹立つこ
と山ほど積まれたって結局は冷たくあしらえなくなる。泣きそうなツラするから、不幸のどん底に落ちたよ
うな落ち込み方するから、ほおっておけなくなる。いつまでもむかついていられなくなる。ああ、ほんと、
俺も甘い。あの英士に負けてないくらい、甘い!

 「結人」

 「なに」

 無視でもしてやりたい気分だけどその心とはうらはらに口は動いてしまう。ああ、ほんと俺ってばか。

 「なに。途中でやめんなよ。なに」

 呼んだくせしてだんまり。ああ、いらつく。お前人ばかにすんのもいい加減にしとけよな。
つうか人の心を玩ばないでくれる?

 なんて侘しく心ん中で愚痴ってたら辿り着いちゃったよ、レジの前。しゃあねえなあ、ここは俺が出して
おきますか。

 「あ、俺の分……」

 「いいよ。俺がまとめて出す」

 「でも」

 「いいって言ってんだろ」

 レジの前に来て私が出します、いえ私が、ああそんな悪いわよ、ここは私が、なに言ってるのいつもご馳
走になってるのは私じゃない、だからここは私が、……よくいるじゃん、こういうこと言ってらちのあかな
い客。特におばさん連中。はたから見てるぶんには『だっせぇ』で済ませられるけど、うしろに控えてると
なると『邪魔だ! 誰が払ってもいいからとっとと払え!』と蹴飛ばしたくなるほどむかつくんだよね。あ
んな真似、したくないんだよね。かっこも悪いし。

 だからきつい口調で言ってやった。俺の機嫌が悪いと思い、逆らわないほうがいいと思わせるのが目的。
……罪悪感感じるんだけど、……まあ、でもそれは仕方がないってことで耐えろ俺、だな。

 

 

 


 「一馬、お前どっか寄りたいとこあるか?」

 精算済ませて店を出た俺は先に出ていた一馬にお伺いをたてる。出たはいいが向かう先がない。

 「結人、ないの?」

 ちっ。まかせたのにお前もないのかよ。

 「しょうがねえなあ、マジで適当にぶらつくか」

 ま、金はかかんなくていいわな。暑いのがうげってところだが。

 「結人」

 「んー?」

 渋谷公会堂方面に向けて歩き出した俺についてきながら一馬が呼ぶ。歩道の上は人、人、人。途切れる
ことなくやってくる人の波をぶつからないよう避けながら歩く俺にうしろを振り返る余裕はない。

 「あのさ、……」

 「んー」

 「…………」

 

 

 

 ――だから、とめんなっての。さっさと続きを言ってくれ。

 

 

 

 「なんだよ」

 だめ。俺のほうがしびれてきちゃった。まだるっこしい。うざい。焦れる。なんなんださっさと言いたい
こと言ってくれ。

 「……さっきの話なんだけど、……」

 「お前もしつこいな。もういいって言ってるだろ」

 立ち止まってまでして続ける話かよ。もういいっつうのに、なんなのこいつ。

 「あーもうっ。わかったわかった。きいてやるよ、なに。とりあえずこっち、端っこの方に寄れ」

 終わりにしようって言ってもきかないんならもう吐き出してもらいましょう。いつまでもこんなこと続け
んの時間がもったいない。つうか、とっとと片さないといつまでもうざい。

 「簡潔にわかりやすく言ってくれな」

 大きなウインドウを背に、俺と一馬は立ち止まる。人の流れを眺めるように真正面を向いたものの適当に
目にしながら見ているのは通りの反対側。そんな俺の横顔をちらちら一馬が見ているのは察知済み。でも、
向いてはやらない。

 前を通り過ぎて行く見知らぬ人たちの視線も時折俺たちを訝しげに眺めていく。そりゃそうだ。待ち合わ
せのポイントになってる場所でもないし、男二人突っ立ってるだけだ、怪しいっていうか目につくって。

 見世物にでもなった気分、それがさらに俺を不機嫌にさす。けれどとうの一馬は相変わらず口つぐんだま
まだし。呼んだのはお前だろっつうの。

 「……いつまでここに立ってりゃいいんだよ、は・や・く・言えっつうの」

 「あの、さ……」

 「うん」

 「さっきが俺がバイバイって言葉好きじゃないって言ったのはさ、……」

 「うん」

 「……えっと、あー……その、あの女の人がさよならって言ったあとにさ、……考えたっていうかさ、
ちょっとっていうか……想像してみたんだよ」

 ……だめだ。やっぱり要領得ないよ。こいついったい何が言いたいわけよ。

 「ていうか、絵がぱっと頭ん中に浮かんだんだ」

 「かーずま、俺、わかりやすく言えって言ったよな? お前の言ってること全然わかんねえ」

 「だから、……」

 だからって言いたいのはこっちだ。なんで簡潔に言えねんだよ。なんの絵が浮かんだって? さよならっ
て言葉になに想像したって? 経過は……なんとかわかったよ。だからあとはバイバイが嫌いって言った理
由を述べてくれ。理由がさっきから全然語られてないんだよ。

 「……結人に言われてる絵」

 「はぁ?」

 「だから、俺がお前に言われてる絵、それが浮かんだんだよ」

 つまり? だぶらせたと、そう言いたいわけ?

 そう目で問う俺に『そういうこと』と泣きそうな顔で一馬が頷いた。――だからなんで泣きそうな顔す
る? なんてずれた疑問持ち出すのはあれだ、一馬があまりにもバカだからで、その、恥かしいヤツ丸出し
だからで、あれだ、なんての、こっちの尻がむず痒くなってきたからだ。

 「……恥かしいやつだって、心ん中で思ってるだろ」

 「だってお前、マジで恥かしいヤツじゃん」
 
 大きなウインドウを背に、突っ立つ俺と一馬。人の流れを眺めるように真正面を向いたものの適当に目に
しながら見ているのは通りの反対側。でも、これは向いてやらないんじゃなくて向けないから。

 前を通り過ぎて行く見知らぬ人たちの視線も時折俺たちを訝しげに眺めていく。そりゃそうだ。突っ立つ
男二人、真っ赤になってるんだ。異様な光景だって。気にもなるだろうって。もしこんなヤツら見掛けたら
俺だって視線投げかけるって。

 ――あれ? 

 「でもやっぱりバイバイには結びつかないじゃねえかよ」

 気づいたこと、思うと同時に口にもしてた。

 「バイバイって言ったんだよお前が」

 へ?

 結人が口にしたのって『バイバイ』だったんだよ。一馬の言葉に振り向いた俺と一瞬目が合ったヤツは
そう言うと俺の視線から逃れるようにその場にしゃがみこんでしまった。

 「お前、軽く言うんだもん。我に返った途端、なんか、すげイヤな気分だった……。実際でもお前言いそ
うじゃん。だから――」

 「帰り際に今度バイバイって言われたらどうしようとか思ったりしたんだろ一馬」

 「そうだよっ……」 

 「……救いようがないほど恥かしいヤツだなお前って……」

 俺もしゃがみこんでしまいたかった。でも一馬に先にやられちゃったからできなくて、しかたねえから
突っ立ったままをキープ。いや、まいった。マジで暑い。なんての急に温度が上がったようって言うか、
体温が上昇したって言うか、暑い、です。

 「……っそ、やっぱ言うんじゃなかった……」

 喧騒にも消されずに届いた言葉。うん、俺がお前の立場だったらぜってぇに言わない。墓場まで持ってく
よ。けど悪いけどなんての、悪いハナシじゃあないよ。うん、こそばゆくもなるし暑くもなるんだけどいい
ハナシじゃん。うんうん、悪いハナシじゃあないよ。

 「ほら、立てよ一馬。歩こう」

 腕を持って立たせた、真っ赤かな顔の一馬の肩を抱いて先へと促す。

 「なっ! ちょっと結人!」

 「まあまあ」

 人が見てる恥かしいだろと暴れる一馬の気持ちを無視して、

 「言わないって誓ってやるよ。熱〜い告白かましてくれた一馬の気持ちにこたえて今後絶対にバイバイは
言わないって今ここで誓ってやるよ」

 いやあ、甘い甘い。いっぺん死んでこいってなくらいにばか甘だよな。

 「べつに誓ってなんかくれなくていいっ」

 「嬉しいくせに」

 「恥かしいだけだばかっ」

 「お前がそれ言うかぁ?」

 「うるさいっ! ああっもう! いい加減離れろ! 人が見てるだろ。それに暑いんだよ!」

 「なにを今更。あそこに立ってた時点でもう何人もの人に見られてたって」

 「あん時はあん時! 今は今! ちょっ、おい、こら! 人のはなしを聞けっての。くっつくなぁぁ!」

 あのさ一馬、お前がわめくからほら、みんな見てくぜ?

 俺の言葉にぴたりと動きが止まる。

 お前ってさ泣きそうな顔すんの得意だよね。

 恨めしそうな両の目につい、言っちゃった。

 「お前、嫌い!」

 一馬が真っ赤かになりながら怒ったような口調で言う。今はどんな顔されても可愛く見えちゃうくらい
俺は調子に乗ってる。一馬がどんなに怒りを表したとしてもダメ、全然効かない。可愛くて可愛くてますま
す調子に乗っちゃいそう。

 「にやけてんなバカっ」

 全然手加減なしの肘鉄が腹に飛び込んできてもそんな調子だからにやけた顔は崩れない。でも、まだしば
らくそうしていたかったのにとうとう愛しいそいつは逃げて行ってしまった。あー残念。

 

 

 

――墓場まで持って行かなきゃいけないものが俺にもある。一馬には秘密だけど。大丈夫、安心してていい
よ。お前がバイバイなんて言葉聞く日は来ない。絶対に。だって誓ったからね。ていうか、お前が俺に愛想
つくことはあっても俺がお前に愛想つかすことなんてないから。これも絶対。だってほら、お前可愛いから
、底なしに。そんなお前に俺、メロメロだから。お前を想う心は貪欲、底が見えないんだよ。想っても想っ
ても想っても、想う気持ち、枯れないんだ。そんな想う気持ちに押し潰されそうになって逃げ出したくなる
ときもあるけどはかりにかければ結局は想う気持ちの方が勝るんだぜ。俺が本気だってこと、一馬には絶対
言ってやらない。一生秘密にしてく。いい加減っぽく見せかけて、軽そうに見せかけて、本当の気持ちは一
生隠してくから。言わない。言ってやらない。秘密。恋は好きになった方が負けるってよく言うじゃん?だ
から俺が口にしなければ一馬にはわからないじゃん。わからなければあいつ不安なままでいられるじゃ
ん? 不安がよぎるうちはあいつ、俺のこと好きでいてくれそうじゃん。必死にだってなってくれるじゃ
ん。だから、俺の気持ちは一馬には言わない。一馬が一生そばにいてくれることを願って口を噤むんだ。
一馬に一生好きでいてもらいたいんだ。だからさ、絶対言ってやらないんだ。


 
 

 

 

「結人」

 ほらね。俺が追わないとあいつはああやって不安な顔をする。今あいつの心中は俺のことでいっぱいのは
ず。嬉しいじゃん。楽しいじゃん。


 

 

 歩き出した俺にほっとしたような表情を見せた一馬。

 嬉しいじゃん。嬉しいじゃん。あいつの想いや気持ちが態度に出るとき俺は嬉しくなる。だって俺の想い
が報われてるのがわかるじゃん。振り回される一馬もかわいそうだとは思うけど一馬に捨てられないよう一
生好きでいてもらえるよう願って、俺も必死なんだよ。こういう特典ぐらいないと俺かわいそうすぎるじゃ
ん。 

 「で、これからどこへ行くんだ?」

 「んー、どこでもいいんじゃん? なんだったらホテルでも行く?」

 「ばっ……!」

 「なーんてね。本気にとるなよ」

 からかう言葉に隠した本音。どうか一生俺を好きでいて。けっして口にすることないけれどどうか、叶え
て。

 叶えて。叶えて。どうか叶えて。むくれる一馬に並んだ俺は、からかうことをやめずに何度もそう願った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








 

 

 






END

 


 

若真、若真、ビバ若真。
ラブラブだーねぇ。若いっていいねぇ。
友人のサイトに送り出してたやつ、引き取ってきました。確か現役男子高校生がガキのように
たわむれてんの見て、ホモップルー、いやーん妄想大暴走、誰かとめて〜、ってとこから
『よし、それがテーマだ。書くぞ描くぞかけー』っなことから書いて送ったような……そんな記憶が
よみがえってきちゃうぶつでございます。

有島にとって若真は郭真以上に一馬が愛されてるイメージ。
あれで若真けっこうかなり一馬にズブズブのデロデロのメロメロだろってカンジなのです。

だから、郭真以上にバカップル。以上!

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