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 「一馬、今年の誕生日はなにが欲しい?」

 「いらない」

 「なんで?」

 「お前から貰うとろくなこと起きないから」

 「ひどいっ」

 「英士、キャラクターかわってる……暑苦しいからやめなね……」

 

 

              八月の憂鬱

 

 

 夕飯を食べ終えて自室に戻ると携帯に着信ありのメッセージ。

 誰からだろと思い見てみると……結人からだった。

 「……」

 いつもならすぐに掛け直すんだけどこの時期はちょっと警戒してて躊躇いが生じてしまう。

 べつに結人を警戒してるわけじゃないんだけど無関係ってわけでもないからこの時期は出来れば関わ
りをあまり持ちたくないっていうのが本心だ。

 ……さてどうしようか?

 ほっといてもいいだろうか。出来ればそうしたい気持ち99%。だけど残り1%に面倒だけどほっと
くと厄介なヤツが呼んでもいないのに勝手に登場してくるだろうなという不安が湧いてくる。

 不安で終わればしめたもの。絶対そうなる確率の方が高いからげんなりとしてくる。

 ああ、ほんとにどうしよう……?

 乗り気ではない。本当にマジで乗り気ではない。

 と、そこへ携帯の方が自分から鳴り出した。

 「……」

 確認するまでもなくこのメロディーは結人専用のもの。

 ……っああもうっ。

 「……はい」

 「あー一馬? 俺」

 「うん、なに?」

 「お前さあちゃんと掛け直してこいよ。俺にとっても失礼だぜ?」

 「悩んでる途中だったんだよ」

 「悩むくらいだったら掛け直してから悩めよ」

 「……お前さりげなくこどいこと言うなよ……。俺を可哀相だとは思わないのかよ?」

 「思わない。つうか楽しい。だって俺関係ないもん」

 ……友情ってさ、薄情と背中合わせだよね。いつもはさ、うるさいけどちっとは頼りになる友達なの
にさ、毎年この時期になると薄情になるよね……。

 ああ俺は悲しい。切ない。泣けてくるよほんとに。

 「お前もさぁ、もう毎年のことなんだからもう諦めたら?」

 「……やだ。慣れないし自分のことまだカワイイしなにより人生こんなとこで踏み外したくない」

 「ははは。そりゃそうだよな。あーでもさ、一馬が自分をカワイイと思うよりもあいつの方が数倍も
暑く激しく深く一馬のことカワイイって思ってるんじゃないの?」

 ……笑うな……楽しげに言うんじやない……! いくら人事といえど小学生の頃から付き合ってる友
人に言っていいセリフではないぞ。人事だっと思ってお前は俺の貞操をなんだと思ってるんだ。100
年バラの花束贈ってよこされたって一日も欠かさず一年間『好きです』って書かれたラブレターもらっ
たって落ちるわけにはいかねんだよ!

 つうか結人お前は親友が二人ホモになってもいいのか!? えっいいのか!?

 「おーい黙るなよ一馬」

 「お前が血も涙もないようなことを言うからだろ……」

 「なーに言ってんだよこれでも俺は親友たちの行く末を案じてだな、こうして日夜影からこっそり眺
めて行く末を見つめてやってんじゃないか。いいかお前らにとってためになるアドバイス出来るやつな
んて俺のほかにはいねえぞ? なんたって付き合い長いし二人のこともよおーく知ってるしな」

 「……けっ。楽しんでのばればれなんだよ。なーにが案じてだ。引っ掻き回して遊んでるくせに。そ
れに二人のためになるだ? ウソをつくなウソを。お前は俺よりも英士寄りだろが。あわよくば俺を騙
して英士の張ったワナの中に背中押して突き落とす気だろうが。そんでもって『なるようになれだぞ一
馬。人間諦めが肝心とっとと諦めたやつが幸せになれるんだぞ』なんて言ってくれそうなんだよ」

 「一馬」

 やべっ。言い過ぎたか? 珍しく結人の声が硬く聞こえるぞ……。

 「んーまだ甘いな。押されたその自分の背に粗品進呈って書いた紙が貼ってあるかもしれないってこ
とぐらい考えつかないと」

 「ばか! アホ! 死ねっ」

 畜生。どうして俺はこんなやつらと友達になんかなったんだ!? 恵まれてなさすぎる! 不憫過ぎ
るぞ俺!

 「冗談はまあそのヘンにしといてさ。本題に入ろうぜ」

 冗談? ウソだね。 お前らならやる! 絶対にやる。二人して密約交わして平然と俺のこと騙した
り売ったりするね。英士はキレタラなにするかわかんねえとこあるし、結人は自分に関わらなきゃ道徳
だとか正義だとか罪悪感とか友情とかそういうの平気で無視出来るヤツだもん。

 ……畜生……! 三人の中でまともなのは俺一人だけじゃんか。いざとなったら俺一人が割り食って
バカを見るんだ……。

 ……いいさいいさ。裏切るなら裏切れってんだ。おもちゃにしようっていうならとことんからかって
もてあそんでくれ。そのかわり恨んでやる。死んでもあの世でねちねち恨み続けてやる。口だってきい
てやらない。言うことだって俺からは絶対にきいてやらない。

 心まで支配出来ると思うなよクソバカヤローどもめ!
 
 「一馬さ、今年はまだ欲しいものなに一つリクエスト出してないんだって? あと一週間もないじゃ
ん。えんぴつでもノートでもいいからリクエスト出してやんなよ。かなーり悩んでたよ?」

 「今年は、じゃない。今年も、って正しく言え。リクエストしてないのは欲しいもんがないからだ。
ないからリクエストしないんだ」

 「でも結局それでいつもぎりぎりのぎりぎりでリクエストするはめになるじゃん。どっちにしても顔
合わさなきゃいけなくなるんだから早目になんでもいいから適当にリクエスト出せよ。じゃないとうざ
いんだよ。なにが欲しいのかな、欲しがってるものなにか知らない、聞いてない、もしあれだったらこ
っそり聞いてみてくれないって、もう毎日毎日しつこいんだよあいつ」

 「知るか」

 「なあ教えてよ。なんでただで貰えるってのにそんなに嫌がるんだよ?」

 「……」

 「なあ一馬」

 ……んだよ……。

 「俺にまで飛び火してくるとなると俺もそれ相応の手を打つたなきゃいけなくなってくんだけど?」

 なぜ疑問形なんだ? 俺にどう答えろと?
 
 「うざくて我慢出来ないっていうんなら早々にさはっきり言ってやれよ」

 「前から言ってる。なのにあいつが聞く耳もたないんだ」

 「違うでしょ」

 なにが。

 「お前は自分では言ったつもりなんだろうけど全然ダメ。本気っぽくないよ。もっとはっきり『うざ
い』『気色悪い』『二度と言うな。もし言ったら絶交。お前とは一生口きかない』ってさ。それぐらい
はっきり言わないと通じないよあいつにはね」

 ……。

 「言えないのはなんで?」

 「なんでって……べつにそこまでは思ったことないから……」

 「英士の『好き』は本気だよ。冗談で言ってるんじゃないからな」

 ……んなのわかってるよ……。

 「……だから困ってるんじゃないか」

 「好きって言われるのはそんなに苦痛じゃないけどやたらに迫られたりしつこく好き好き言われるの
が困るってか?」

 ……そうだよ。

 だってあいつしょっちゅう好き好きうるさいんだよ。本気なのはわかるけどさうざいんだよ。なんか
あんなに軽々しく言われるとお前の好きってその程度なのかって思っちゃってさ……ちょっとかなり複
雑なんだよ。

 俺だって英士のこと好きだよ。でも英士が口にする好きとは意味合いが違うんだ。英士が望むことは
してやれないんだよ。

 だけどうざいからって絶交する気はないし恋愛感情からきてるらしい好きって言葉を連発されても気
色悪いなんて思ったこともないし口では友達やめたいって言っちゃう時あるけど一瞬そう思うだけで本
気で考えたことなんてない。

 俺だってすっぱり言ってやった方がいいことくらいわかってるさ。だけどそうやって頭ではわかって
るのに言えないから一人でこっそり悩んでるんじゃないか。簡単に言ってくれるなよ。俺はMじゃねん
だ。言えりゃとっくに言ってるっての。

 「一馬さ」

 「うん」

 「本気で突き放せないのはさ、それなりにお前も英士のことが好きだからなんじゃないの?」

 ……好きだよ。でも俺は英士に恋愛感情なんて持ってない。

 「あのさ」

 「うん」

 「お前がまだ気付いてないだけでほんとは恋愛感情隠れてんじゃないの?」

 ……怖いこと言うなよ。

 「考えたことないの?」

 ……。

 「あるんだろ? 認めたくないだけなんじゃないの?」

 ……。

 「まあこういうのは押し付けてもしょうがないんだけどね」

 「結人」

 「ん?」

 「正直に言うよ。俺はたしかに英士のこと好きだよ。でもそれは友達としてだと思ってる。そうであ
って欲しいと思ってる。英士の言う好きとは意味が違ってるって思ってる。同じだとは思えない。もし
かしたら思いたくないだけなのかもしれないけれどでも今は違うと思ってる。あいつが好き好き言うの
うざいんだけどでも気色悪いなんて思ったこと一回だってない。いつから言われ出したか忘れてるけど
最初に言われた時だって思わなかった。英士でなかったらきっと思ってる。英士だから平気なのかも。
でも素直に頷けない。キライになれないから困ってる。きっぱり言えって言う結人の考え、わからない
わけじゃない。その通りだと思うよ。でも出来ないんだ。……なあ、俺はどうしたらいい?」

 「……俺に聞くなよ」

 「だってお前がふった話じゃないか」

 「それはそうだけど」

 「なんとかしろってさっき言ったけど俺にはどうしていいのかわからねえよ。話ふった責任取ってア
ドバイスしろよ」

 「お前ねぇ……」

 「お前俺たち二人の親友だろ、二人ともに助けろよ」

 「いや、ムリだって……」

 「だったら黙って見守ってろよ、ヘンにつつくなよ……お前が被る被害なんて英士にうるさく相談さ
れるかこうやって俺にムリ言われるかのそんな程度のもんだろ。我慢しろよ。親友ならそれくらい我慢
しろ」

 「俺にあたるなよ。わかったよ。我慢してやるよ」

 ……うん、ごめん……サンキュ……。

 「で、毎年誕生日に特にごねるのはなんで? 我慢してやるんだから理由教えろよ」

 ……。

 「もしかして宝石贈ってよこしたり将来のマイホームなんてもの用意したりとかそういうことされん
の?」

 なんだそれは。

 「それとも『俺のこの愛もつけてあげよう』なんて言って迫ってくるとか?」

 「そこまではっきり意思表示してくれれば俺だってきっぱり『いらない』って言えるんだけどね」

 「なんだよ、もったいぶらずにとっとと吐けよ」

 「結人さ」

 「おう」

 「俺が欲しがってるものなにか知ってたら教えろって英士がうるさいってさっき言ったよね」

 「んー……言ったと思う」

 「今年に限らず毎年聞かれてるよね」

 「聞かれてるねえ」

 「なんでだと思う?」

 「そりゃお前が教えてやらねえからだろ」

 「そうなんだけどさ。俺、いつも不思議に思うんだよね。いちいち聞かなくたっていいのにさ、英士
が選んでくれればそれで気持ちはちゃんと伝わると思うんだけど。なんであいつは俺が欲しがるものを
贈りたがるんだろ」

 「その方がお前が嬉しがると思ってるからなんじゃないの?」

 「俺ね、英士のそのやり方がなんかムカツクんだ。だから言ってやらねえの。つうかさ、あいつ必死
じゃん。なんか重いんだよね。誠実に選んでくれるのがわかるから言いたくねえの」

 「なんかわかるようなわからねえような……つまりは教えてやらねえのはわざとってこと? でもっ
て一馬に聞かずにてめえで選んで買ってこいってことか?」

 「そ」

 「じゃあはっきりそう言えばいいじゃないか。べつに欲しいものなんてないとかいらないとかそうい
う言い方でなくてさ」

 「言ったってきっと『うーんでもやっぱり一馬が欲しがってるものをあげたいな。なんでもいいから
決めてよ』って言い返されるに決まってる」

 「んー……どうなんだろ?」

 そうに決まってるよ。

 「じゃあ今年もやっぱいらないって言って通す気なのか?」

 「うん」

 「そしたらまた今年も俺ら三人でどっか遊びに行くことになるってことか?」

 「多分ね」

 「ふーん。まあ昼とかジュースとか電車賃とかをおごって済むっていうのは安くあがるからいんだけ
どさ、一馬はそんなのでほんとにいいの? 毎回毎回それじゃ厭きない?」

 いんだよ。

 「言ったろ? 誠実過ぎて重いって。必死になるのわかってるから軽くリクエストなんて出せないよ。
ほんとに欲しいものが見つかったときはそん時はちゃんと言うから今はそういうものでいいの。それに
あきるほどあっちこっち連れて行ってもらってない。行きたいとこまだいっぱい残ってるよ。今年はど
こでもいいから遊園地行きたい」

 「まあお前がいいって言うならいいけど……。今年は遊園地ですか。わかったよ。あとで英士に伝え
ておくよ」

 「うん頼むね」

 「あーきっとあいつあれこれ調べるんだろうなぁ……一馬が喜びそうなアトラクションがあるのはど
ことか今人気のスポットはどことか近くに寄れる別の遊び場があるとこはどこだとか……ある意味それ
もまた熱の入れ過ぎと言えるんじゃねえの?」

 「まあね。でもその場合は俺たち三人がちゃんと楽しめるんだから重荷にはならないよ。頑張っても
らおうじゃん。ね?」

 「ま、たしかに。じゃそれで決まりなんだな」

 「うん」

 「よし、じゃあ今から英士んとこに掛けてみますか」

 よろしくー。

 「なあ一馬?」

 「ん?」

 「なんだかんだ言っといて結局お前はもうあいつの手に落ちてるんじゃねえの?」

 はぁ!?

 「俺には両思いに思えるんだが……気のせいか?」

 恐ろしくなることをさらりと言うんじゃない……つうかどうして気のせいかどうかを俺にふる……。
俺はお前じゃないんだわかるか……。

 「一馬?」

 「……聞いてる……」

 「あのさ」

 なんだよ。またヘンなこと言うなよ?

 「俺らはまだ若いんだからさ、今ここで道外れたって修正はきくって。だからまあ、その、頑張れ、
な?」

 な、じゃねえよ『な』じゃ! 

 なにを血迷ったこと言ってるんだお前は! 修正はきいたってなぁ汚点は残るんだぞ! ていうかガ
ンバレってなんだ、なにを俺にガンバレって言うんだよ!? 

 やめろよせ! 俺を惑わすなぁぁぁ!

 「俺もこれから頑張るからお前もがんばれな。じゃーな」

 勝手に完結さして切るなよぉぉぉぉ!!!

 ……ばかやろぉ結人はやっぱ……薄情者だよぉ……畜生……! いいさいいさ、勝手に言ってればい
い、俺は絶対外さないからな。落ちてたまるかよ。絶対落ちねぇからな……! 


 くそっ。やっぱ八月ってろくな月じゃねえよ。毎年毎年この月になると憂鬱になる……。八月なんて
キライだ……。誕生日なんてこなければいい……。

 『お前もさぁ、もう毎年のことなんだからもう諦めたら?』

 諦めろってセリフはあいつの方に言ってよ……。

 『英士の『好き』は本気だよ。冗談で言ってるんじゃないからな』

 知ってるさ。

 『本気で突き放せないのはさ、それなりにお前も英士のことが好きだからなんじゃないの?』

 そうさ。でも俺の好きは英士の言う好きとは意味が違う。俺は友達として、好きなだけだ。

 『お前がまだ気付いてないだけでほんとは恋愛感情隠れてんじゃないの?』 
 
 …………なんで、八月になると自信がなくなるんだろ…………。

 『……認めたくないだけなんじゃないの?』

 …………うるさい…………。

 『俺には両思いに思えるんだが……気のせいか?』


 …………なあ、俺はどうしたらいい?

 『俺らはまだ若いんだからさ、今ここで道外れたって修正はきくって。だからまあ、その、頑張れ、
な?』

 …………ああほんと、八月って憂鬱だよ…………。

 

 

 

 

 

 

 

 








 

 

 






END

 


 

英士→一馬&結人。
CP成立してまへん。あと少しでしそうだけど。

うざがられる英士に強気な一馬目指してみました。

ていうか、『恋をせよ少年、悩んでおっきくなれ!』と
友人が家庭教師してる少年に有島が酔って言ったらしいのだが、
それを聞いたらそれが頭の中でぐるぐるしてどっかヘンなスイッチが
入ってしまったのよ。

で、上記のものができたわけっす。

(20020820真田一馬誕生日企画・その1)

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