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 「真田くん」

 ……誰だ?

 「あれ? わからない?」

 ……うーん、顔に見覚えはあるようなないような……。

 「関東選抜の須釜って言えば思い出してもらえるかな?」

 あ!

 「あはは。やっと思い出してもらえた。久し振りだね」

 

 

               八月のハプニング

 

 

 須釜寿樹。関東選抜の……ボランチ。はっきり言って俺の中でのこいつに対する認識はその程度のも
の。見覚えのある顔だとは思ったがすぐには名前も浮かんではこないこれまで特に会話をしたこともな
い相手だ。

 その男となぜか今、俺は渋谷の街を歩いている。

 出会ったのは偶然。今から5分だか10分だか前に駅前の交番のすぐそばで信号待ちしてるとこを向こ
うが見つけて声を掛けてきた。

 最初誰だかわからなかったけど名前を言われて思い出すと『ひとり?』と聞かれ『え、……うん』な
んて答えてしまったら『そう、ぼくもひとりなんだ』ってにっこりされて……あいつのあの笑顔はなん
ていうか、すげぇ心臓に悪いんだよ。なんだなんだどういう意味なんだと、ドキッとして須釜の真意を
図りかねてるとこをするりと『真田くん暇でしょ?』なんて突っ込まれてまたまた思わず『う、まあ』
なんて頷いちまった。

 『ぼくもです。暇人同士いっしょしませんか?』

 断る理由がなかった。用事がないのは知られてしまってたし。誰かと待ち合わせしてるわけでもなか
ったし。ただちょっと苦手に思うとこがあったけど『べつに……いいけど』と承諾した。

 なにより心臓に悪いにっこり顔で返事待たれてんの見てたら……その、なんでだかはいまだに謎なん
だけど断ったりしたら『いま暇って言いましたよ? あ、もしかしてぼく嫌われてる?』なんて見当違
いなことを理由にあげて詰め寄られそうな気がした。俺は言葉の使い方があまりうまくない。思ってい
ることの半分も伝えないで簡単に答えを出すくせがあると、英士や結人にも言われるくらい俺の会話は
途中省略されることが多い。だから人を不快にさせたり怒らせたりいらつかせたりすることが多く、人
と話をするとき俺はものすごく緊張するのだ。その態度がカンジ悪いヤツと受け取られてしまい話をす
るという行為はこの世で一番俺が苦手としていることだ。

 だから須釜のにっこり顔は……なんていうのかその、『俺のこういう喋り方や態度が全然気にならな
いんだ?』っていう驚きと『英士と結人もそうだったけどこいつもなんだ?』と、ちょっとなんていう
か興味が湧いた。

 「今日も暑い日だね」

 不意に須釜が言った。

 俺は……軽く空を仰いで『そうだな』と答えた。

 「のど、渇いてない?」

 「えっ?」

 「冷たいもの飲みたくない?」

 ……えっと……それってどういう意味なんだろうか? もしかしてどっかに入らないか? と誘われ
ているんだろうか……?

 繰り返すが俺は言葉の使い方があまりうまくない。こうやって頭で考えていることをちゃんと伝えれ
ばいいものをなんていうか真っ向から拒否してるんじゃないかと受け取られかねない答え方をしてしま
った。

 「なんで?」

 ……身についたくせなのだから仕方ないと思うけど……胸には後悔の文字が刻まれた。なんで俺って
こういう言い方しかできないんだろ……?

 「え、真田くんのど渇いてないの?」

 えっ……あ、いや、そんなことはなくって……えっと……。

 かなりびっくりだ。不快になるどころか俺とまだ会話を続けようとしている。英士と結人以外の人間
とは多分一生うまく付き合えない……対人関係のまずさを自慢してどうすんだと自分でも呆れるが常日
頃から俺はそう思ってきた。二人にはそろそろ一馬もオトナにならないとね、なんてよく言われてるけ
どムリ、言葉の少ないのは性格だし話し掛けてきた相手をつい睨んじゃうのはクセだしだから治せって
言われたからってそう簡単には治せないよ。

 それに……俺自身がもう手を上げちゃってるから。『これが俺なんだから仕方ねえじゃん』ってもう
あきらめてんだ……。

 けどね、けどさ、……だけどね……。

 なんかヘンなんだ。俺、須釜って苦手だった。まともに話したことなんてないのにさ、見た目の印象
とか見たカンジでこっちが勝手に想像して決め付けた性格とかで『絶対俺とは合わない』ってこれまた
勝手に決め付けててさ、ずっと避けてた。

 それなのにだよ? 最初苦手って思っていたその意識がだよ? なんか急に興味ある者へと移行しつ
つあるみたいなんだよ……。

 …………これって……どういうことなんだろ……?

 「真田くん?」

 「えっ……?」

 「ぼくの顔になにかついてます?」

 「あ、ご、ごめんっ……その、ちょっと考え事してて……」

 「ああ、そうなんだ? でもだったら涼しいとこに入って落ち着いてから考えた方がいいよ?」

 「え? なんで……?」

 「炎天下の下で考え込んでも暑さで頭まわらないと思うけど?」

 たしかに。

 「というわけでこの近くにおいしいアイスクリームを売ってるお店があるんです。おごるから食べま
せんか? お店の前には座って食べられるようにイスも出てるんです。どう?」

 おごりと聞いてのどがごくりと鳴った。

 「ほんとにおごってくれんの?」

 「いいですよ?」

 「じゃあ行く」

 こっちですと言って須釜が案内して連れて行ってくれたのは狭い路地裏を入った一番奥の店。まわり
には雑貨や服を売っているらしい小洒落た店が並び、総レンガ造りのその店構えはちょっと目立つが女
の子が喜びそうな、カワイイカンジのする店だった。その店を最後に道は行き止まりになっていてここ
を抜けて先へと進む道はない……だからか、店の前にはベンチイスやパイプイスが遠慮なく多めに出さ
れている。

 「ちょっとしたオープンカェ気分が味わえますよ」

 須釜がこそっと耳元で教えてくれた。

 たしかにそんなカンジだ。

 「自由に移動できるんで結構人気があるんです。通りと違って人も通らないし車も入ってこない」

 なるほど……わかりやすく説明してくれた須釜に俺は頷き返した。

 カップルや友達同士らしき女の子のグループがそれぞれにテリトリーをつくり、楽しげにみなアイス
を口にしているが、普通に店に入ったら大勢だと席が離れてしまう可能性だってあるし、二人とかだっ
たら相席をお願いされるだろう。そういう煩わしさがないのは確かに女には受けるだろう。

 「ぼくらは一番奥がいいでしょうね」

 「あー……だな」

 奥には、ベンチタイプのイスが二箇所に置かれていたがカップルと女三人組にすでに使われていて、
『ここ、いいですか』なんてどっちにもたずねたくはない。

 ……どうするんだ?

 須釜の方を見て目でたずねると、

 「そういう時はこうするんです」

 返ってきたのは相変わらず人のいい笑顔。

 「……須釜、さん……?」

 須釜の動きはスムーズだった。空いているパイプイスを二つ手際よく見つけると手に持ち……ふいっ
と俺を振り返った。

 「真田くん」

 顎で『行きましょう』と奥へ誘い先に歩く須釜に、俺は黙って素直に従った。

 須釜が選んだのは先客たちからはちょっと外れた場所。壁を背にして座るようにイスを二つ並べると、

 「真田くんてたしかリンゴジュースが好きでしたよね?」

 いきなり聞かれてびっくりした。…………なんで……そんなこと知ってるんだ……? 

 「この間のトレセンでよく飲んでたよね。見掛けるたびに真田くん、あそこの自販機で買ったと思う
パックのジュース手に持ってたよ?」

 須釜の記憶力の良さに俺は赤面した。…………まさかそんなところを目撃されてたとは……。

 「ここのアップルシャーベットね、果肉入りなんですよ? 甘くなく酸っぱくもなく、さっぱりして
て美味しいんです。お薦めしますよ」

 「うー……」

 迷った。リンゴジュースは確かに好きだけど……アイスまでリンゴ味にこだわってるわけでなし、別
の味のものでも構わないという気持ちと、美味しいからと薦めるその味を試してみたい気持ちと、その
二つの考えが頭の中を行ったり来たり。んーっ、どうしよう!?

 「いいこと教えてあげます。ここに来る女の子の半分以上の子が一個目を食べたあとおかわりするん
です」

 「えっ、そうなの?」

 「カップとコーンのどちらかを選ぶんですけど、そんなに量も多くないし、どれもさっぱりしてるん
でくどくなくて結構食べれるんです。で、もしも真田くんもおかわり出来そうだったらいいですよ、そ
れもおごります。誘ったのはぼくですからね」

 なるほど。

 「じゃあそのお薦めのリンゴのアイス……でも、次もし食べるんだったらそれは自分で買うからいい
から……」

 「言ったでしょ、誘ったのはぼくですから。アイスくらい遠慮なく奢られてください。ね?」

 …………なんだろう…………?

 口調も穏やかだし顔もにこやかなのに有無言わせない絶対的な強引さを今、感じたぞ……? 自慢で
きる話ではないけどこの感覚はすごく馴染みのあるものだ。……英士に感じるソレと良く似ている。も
しかして……見た目は全然違うけど分類するとこの二人、同じタイプの人間か……?

 「真田くん」

 あっ。

 「……ど、どうも……」

 顔を上げるとアイスが差し出されてた。カップのそれを受け取りスプーンですくって口に入れると柔
らかな塊がじわーんと舌の上でゆっくり溶けていった。

 美味い! たしかに甘くもないし酸っぱくもないけどでも美味しいよ。さっぱりしてるんだけど味気
ないという感じはしないし、口の中のものがなくなると柔らかな甘さがちゃんと舌の上に残ってるし。
うん、これは美味い!

 「どう?」

 「え、あ、うん……美味しい……」

 「それはよかった」

 「須釜……さんは何にしたの?」

 「須釜でいいよ。ぼくはチョコミント。このチョコが絶妙な苦さでね、ここではいつもこれ食べてる
んです」

 「……いっこでも年上なんだから呼び捨てはまずいだろ……?」

 「あーぼくそういうの全然気にしませんから。あんまり『さん』づけで呼ばれたことないから須釜さ
んなんて言われると背中が痒くて……」

 困ったように須釜は笑うけど俺だってそんなこと言われると困るよ。年上を呼び捨てにして呼ぶのっ
て本人は気にしないって言うけど呼ぶこっちは躊躇いが出るって。やっぱ……呼び捨てはよくねえよ。
学校の気に食わねえ先輩にだって俺、ちゃんと『さん』づけで呼ぶし。………呼び捨てにしたら今度は
こっちの背中が痒くなるって…………。

 「そんなに難しいことかなぁ?」

 「……うー……俺にはちょっと……」

 「あ。じゃあこうしよう。ぼく『スガさん』ともよく呼ばれてるからそっちで呼んでみてよ。こっち
なら呼べるでしょ?」

 えっ!?

 「え、それもダメなの?」

 うっ……こ、困った……。『スガさん』ってそんな……俺、そんなに須釜と仲良くないし……なんか
親し過ぎないか……?

 「んー……困ったねぇ。でもぼく『須釜さん』てあんまり呼んで欲しくないんだよね。呼ばれ慣れて
ないからちょっと緊張しちゃうんだよ。真田くん申し訳ないんだけど『須釜』か『スガさん』、今後ど
っちで呼ぶか今ここで決めてくれないかな?」

 えっ!?

 「……ど、どっちって……そんな急に言われても……」

 「真田くん、早く決めないと……」

 にこり。…………なんだなんだナンダ!? 今凄く楽しそうに笑われたぞ!? 早く決めないとペ、
ペナルティでもあるのか……!?

 「やだなあ真田くん、そんなに怯えた目で見ないでくださいよ? べつになにもないですよ? ただ
ね、それ、この暑さだからすぐ溶けちゃいますよ? 早く食べちゃわないとね?」

 「えっ、あっ、……そ、そだね……」

 「そう。あ、でも決めてから食べてくださいね?」

 えっ。…………開けた口に一口分だけすくってカップから出たばかりのスプーンを持つこの手……ど
っちも動きが止まってフリーズしたまま……考えた。

 …………須釜、須釜、須釜……スガさん、スガさん、ス…………。

 「す、す、……」

 「うん、どっちにした?」

 「…………須釜……」

 「はい、よくできました。どうぞ?」

 顔が熱かった。きっと真っ赤になってるはずだ。たかが『須釜』けれど『須釜』……緊張と恥かしさ
で心臓がバクバク言っている。…………やばい……どうしちまったんだ俺……たかが呼び捨てにしただ
けでなぜこんなに熱くなる……?

 …………どうぞと言われて口にしたアイスは…………けれど残念なことに味なんて味わっていられな
かった。頭の中をどたばた駆け回る思考にもうどうしていいやら、隣に座る須釜が気になって気になっ
て…………居た堪れない気分だ……。

 「そういえば真田くん」

 「えっ、なに!?」

 びくんと、肩が大きく揺れた。不自然なまでに固まる体、見開かれてるだろう両の目……。きっと須
釜は俺が『おかしい』と気付くだろう。この男はきっと煮ても焼いても食えない……緊張する中俺は確
信した。

 こいつは間違いなく英士と同じ部類に入る人間だ。つまりは……触らぬ神に祟りなし……。俺はこい
つには勝てない。サラダ油でも塗ったかのように滑らかに動くあの口は間違いなく英士とタイマンが張
れる。考え方も英士と同じできっと隙がない。

 お、俺、選択間違ったかも……呼び捨ては危険を呼び込むかも……お、遅くなければ今からでも『ス
ガさん』にかえた方がいいか……な……?

 「やだなぁ……」

 こいつのこの笑顔が……心の底から怖いと、今は思う。このにっこり顔に俺はずっと調子を狂わされ
てきた。自分でも知らなかった新しい自分に気付かされるから……須釜という男に興味を持たされるか
ら……怖い。

 「皺、寄ってるよ?」

 不意にデコピンをされた。痛くはなかったけどびっくりしてつい、『いたっ』なんて声を上げてしま
った。

 「えっ、そんなに痛かった?」

 ギゃーーーーーーーーーーーーーーーっ。

 ごめんごめんって謝りながら額を撫で摩る須釜の手にびっくりして、俺はその手から逃げ出した。

 ……や、やべっ。顔が燃えてるよ……。視界がなんだかチカチカ瞬いてるし、……心臓も煩いし……。
落ち着け、落ち着け……くそっ……情けねぇ……なにやってんだよもうっ…………ぅあー…………なん
か泣きたくなってきた……。

 「……真田くん?」

 「や、あの、……へ、へーき、そんな痛くなかった……ちょ、ちょっとびっくりして……あ、……ア
イス、溶けちゃうよ? ……す、須釜もそれ、食べちゃいなよ……?」

 言って、俺は自分のアイスをぱくぱく食いまくった。味わってる余裕なんてない。とにかく食べきら
なきゃって思いに押されてぱくぱくぱくぱくぱくぱく……最後の方なんてどんぶりめしをかきこむよう
にして溶けた汁まで残さずに口の中に流し込んだ。

 「二個目、いく?」

 須釜が言った。……これ以上は心臓が持たない……俺はぶんぶん首を左右に振った。

 「そう?」

 「須釜食べたいんだったら行ってきなよ。俺のことは気にしなくていいからさ」

 「んー……どうしようかな? じゃあ……ちょっと行ってくるね? あっ。それ、貸して。捨ててく
るよ」

 「あ、悪ぃ」

 行きかけてた足を止めて戻ってきた須釜に、手にしてたカップを渡した俺は、190cmの長身の背
を目で追った。

 でけぇよなぁ……俺もあと6、7cmは欲しいなぁ。まあまだ成長期だから伸びていくとは思うけど
絶対175は超えたいよな……。須釜ってまだ伸びてんのかな……?

 「なに?」

 戻ってくる須釜を真正面から見据えて『身長まだ伸びてんの?』とたずねた。

 「伸びてますよ」

 「親も大きいのか?」

 「小さくはないですね。でも家族の中でぼくが一番大きいです」

 「ふーん。すでにそれだけあってまだ伸びてるなんてなんかずりーよ……」

 「真田くん、そんなに小さくはないでしょ? 羨まなくたってまだまだ大きくなりますよ。真田くん
だってまだ止まってないでしょ?」

 「そうだけどさ……ちゃんとでかくなるかなんてわかんねえじゃん……微妙なとこで止まっちゃうか
もしれないし」

 「どれくらい欲しいの?」

 「175は超えたい」

 「んー……絶対とは言えないけど大丈夫じゃないですか? きっと超えますよ」

 絶対とは言えないと言いながら須釜の口調は言い切っていた。

 「ほんとにそう思う?」

 「大丈夫、超えますよ。だって大きく成長した真田くんの姿、想像つきますから」

 んー……なんかちょっと……嬉しいかも。へへ、なんか俺も叶いそうな気がしてきたや。

 「須釜、それなに?」

 須釜の手の中のカップに入っていたアイスはチョコレートをうんと薄くしたような色をして、なんか
ぶつぶつしたものが混じっている。チョコかコーヒーか?

 「チョコチップクッキー。さくっとしたクッキーが細かく混じってておいしいですよ? 一口食べて
みます?」

 えっ、いいの? じゃあ遠慮なく一口。

 「どうです?」

 「……甘いけど苦い?」

 「クッキーが甘くてチョコがやや苦めなんですよ。こういうのはキライ?」

 「そんなことはないけどあんまり食べたことない味だね。ここってめずらしいもんばっか置いてなく
ないか?」

 「うーん、そうかもね。でもあんまりアイスでこういう味ってないからぼくはここ好きなんです。甘
いのばっかっていうのはちょっとね、女の子にはいいでしょうけど」

 たしかに。甘いもんばっかだと飽きてくるよね。

 「さて、真田くん、このあとどうします?」

 えっ!?

 「たしか予定はなしでしたよね?」

 うっ。

 「このままもう二人で時間潰ししません?」

 ……お、俺はいいけど……。

 「どうします?」

 「……や、べつにいいけど……おごってもらっちゃったわけだし」

 「やだなあそれはいいんですよ。ぼくが勝手におごっただけのはなしですから」

 「え、や、でも……」

 「気にしちゃいます?」

 そりゃそうだよ。結人や英士じゃないんだし。やっぱ年上なわけだし、それにそれほど親しくしてた
わけでもないし……。

 「真田くんて今月の20日が誕生日でしたよね?」

 「え、うん……」

 「じゃあ全然早いけどさっき食べたあのアイスは誕生日のプレゼントってことでどう?」

 …………は?

 「これならもう気にならないでしょ?」

 いや、それはちょっと突然な話で……え? ……マジで言ってるのか……?

 「なんか誕生日プレゼントをアイス一つで済ませるなんて申し訳ない話だよね」

 「や、そんなことはないって」

 にっこり穏やかに笑った顔はけれど言葉通り確かに申し訳なさそうで焦った。アイス一つだろうがな
んだろうがおごってもらった身だ、文句なんか言ったらバチが当たるよ。値段の安い高いは問題ない、
気持ちがこめられてればそれでもう充分だ。

 「あのさ、誕生日プレゼントってことでそれでいいから……」

 「ああ、ありがとう。でもなんかこれはこれで押し付けたみたいだよね……?」

 「そんなことないって」

 「ほんとうに?」

 ……う。

 「真田くんは優しいね……」

 「や、ち、違うって……あーもうっ、全然ほんとそれでかまわないからさ」

 「やっぱりぼく、押し付けてますね……」

 「……や、須釜があらためて念を押すから……収拾つかなくなるんだって……」

 「あ。じゃあこうしましょう」

 「な、なに……?」

 今度はどんな提案が飛び出してくるんだ……? 

 「今月の27日はぼくの誕生日なんですよ」

 えっ。そうなの?

 「もし、真田くんの都合が良ければその日また会いません? で、今度は真田くんがここのアイスで
もいいし自販機のジュースでもいいからぼくにおごってください。それでちゃらです。これなら問題な
いですよね?」

 …………まぁ……いいけど……。ちゃらになるっていうんなら…………俺的にも気が楽になるかな? 
うん、なるな。

 「わかった。そうしよう」

 「じゃあはなしがまとまったところで携帯の番号、教えますね」

 「え、あ、うん。ちょっとまってな……」

 俺は急いで携帯を取り出した。

 「ああ、真田くんもドコモなんですね」

 「え? あ、須釜も? っていうかまわり多いよね、ドコモにしてるヤツ」

 「そうですね」

 なんて会話しながら俺たちは教えあった番号をアドレスに入力していった。

 「―――― あのさ、須釜……」

 「はい?」

 須釜……どこのメンバーに入れるか一瞬だけど悩んだ。結局『友達』ってとこに入れたけど。

 「いや、やっぱなんでもない……」

 「なんですか?」

 「や、気にしないでくれ……」

 …………須釜は俺をどこに振り分けたんだろうか……? ちょっとだけそれが気になった。

 「じゃ、そろそろ移動しましょうか?」

 「ああ」


 

 

 

 

 

 須釜と別れたあと、結人から電話が入った。電車を降りてまだ家路へと向かっている最中のこと。

 『よお一馬、今日なにしてた?』

 「人と会ってた」

 『英士?』

 「違う。須釜と」

 『……………』

 「なにそこで黙るんだよ?」

 『や、びっくりして言葉出なかったんだよ。須釜ってあの須釜?』

 「結人が言う『あの』須釜がどの須釜か俺にはわかんねえけど会ってたのはあの関東選抜の須釜だよ」

 『や、俺が言いたい『あの須釜』もその須釜です。なんで?』

 「偶然会ってなんとなく一緒に過ごしてた」

 『……なんかされなかったか?』

 「なんかって?」

 『や、いろいろと……ま、それはいいや。なあ、なにして過ごしてたんだ?』

 「アイスおごってもらった」

 『一馬と須釜ってそんなに親しかった?』

 「……たまたまそういうことになっただけだよ」

 『……一馬さ、須釜になにか言われた?』

 「なにかって? いろいろと話はしたけど?」

 『や、なんつーの? あー早い話が……』

 「あ、そうだ。27日にまた会うかもしれない」

 『…………なんで?』

 「27日って須釜の誕生日なんだってさ。今日アイスおごってもらったんだけど、やっぱ悪いなあっ
て思ってたら、須釜20日が俺の誕生日だってこと知ってて早いけど誕生日のプレゼントてってこと言
われてさ、だけどそういう風にまとめた話が押し付けになってるねとなんとか言い出して結局27日が
須釜の誕生日だからその日空いてたら会って今度は俺が須釜におごるって話になったんだよ」

 『……バカ』

 「あ? なんだよばかって」

 『断れ。絶対会ったりなんかするな、いいな?』

 「なんでそういうこと言うんだよ。須釜、そんな悪いやつじゃないよ?」

 『一馬』

 「なんだよ」

 『夏は危険がいっぱいです、特に繁華街にはどんな危険なワナが落ちているかわかりません、充分気
をつけましょうって、夏休みに入る前に全校集会やHRで学校の先生に言われなかったのか? ワナだ。
危険だ。断れ』

 「あのな、会ってたのは須釜。あいつがどんなワナ張ってるって言うんだよ。バカ言ってんじゃねえ
よ。この暑さで結人の頭、沸いてんじゃねえの? 少し冷やせ。じゃーな」

 『待て一馬っ。それがあまっ――――』

 あーうるさい。『あま』なんだって? ばっかじゃねえの?

 携帯がまた鳴った。結人か? しつけぇな…………と思ったら違った。英士だ。

 「はい」

 『一馬!? 結人から聞いたよ!?』

 ……うるさい。そんなでかい声で喋らなくたって聞こえるっての。

 「結人がなんだって? あいつおかしいから真に受けない方がいいぞ」

 『なに言ってるの! 須釜と会ってたんだって!? しかも言いくるめられてるみたいじゃないか!
27日に会うってほんと!? だめだよ! 絶対ダメだからね!』

 「英士までなんなんだよ……お前ら二人ともヘンだぞ?」

 『一馬騙されちゃだめだって! それはワナだよ! き――――』

 付き合いきれないね。『き』なんだって? まったく二人してどうしたって言うんだよ。わけわかん
ねえよ。

 再び携帯が鳴った。英士か? 結人か? まったく勘弁してくれ…………と思ったら違った。

 須釜からだった。

 「はい」

 『あ、真田くん? 今、平気ですか?』

 「あーうん。平気」

 『もう家に着いてます?』

 「や、まだ。すぐ近くまでは来てるんだけどちょっと途中色々あって。須釜は?」

 『さっき着いたとこです』

 「あ、そうなんだ? そういえば須釜ってどこに住んでんの?」

 『知りたいですか?』

 「え、べつにそういうわけでは……で、なに?」

 『今日は楽しかったよ』

 「……それ言うためにわざわざ……?」

 『いえ、それはついでです。27日、楽しみにしてるから。それだけ伝えたくて。じゃ』

 …………はやっ。言うだけ言って切りやがったよ。なにが楽しみにしてるだよ。須釜って結構ガキく
さいとこあるのな。しょうがねえなぁ。27日は空けとくか。

 あ。それと会うことはあいつらには内緒にしとかねえと。

 またまた携帯が鳴った。英士からだった。

 

 

 キィキィ言われるのが目に見えたから無視した。

 

 

 

 

 








 

 

 






END

 


 

須真です。初の須真!
楽しかったです。須真っていいっ!一馬が可愛いよ。ナイス!理想の受け子ちゃんだよぉぉ。
ていうか、須真、もしかしなくてもめっちゃエロかも。
一馬がまんまとうまく転がされてます。
須釜がオヤジでエロくさくていい!

一馬騙されててもきっと気付かなさそう。
あーでもなんかそれが可愛い!いい!つぼにはまりました。
須真の一馬って可愛いけど薄幸そう。健気に頑張ってそう。(なにを? そりゃナニを)

ここで告白。
最初郭真で考えてたネタっすこれ。
それが気付いたら須真になってた。
須釜とからめてたら止まんなくなったっす。
ああ、でも幸せだからいい!ビバ!!自己満足!!

 

(20020820真田一馬誕生日企画・その2)

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